???「………としあき、遅い。早くしないと無くなっちゃう………」
――そんなに急がなくてもアイスは無くなりませんよ、くたくたさん
くたくた「………甘い。としあきは『限定』の二文字を甘く見すぎ………。だから急いで………」
――へいへーい
先を歩いて俺を急かすくたくたさん。普段は緩やかな歩みの彼女だが、今日だけは事情が違った
駅前のアーケード街。そこにあるアイス専門店「レティ・ホワイトロック」――通称白岩屋へと急行するためだ
白岩屋には水曜日限定で、店一番の美味さと評判の「⑨印のパーフェクトフリーズ」なるアイスが存在するらしい
その美味さたるや、思わず「あたいってば最強ね!」と叫んでしまう程だとか。どんな味なのかまるで想像がつかねぇ
それ以外のアイスも軒並み評判で、テレビ取材を受けたこともあるとか。連日リピーターや噂を聞きつけてやって来た客で大賑わいなんだとか…
そして今日は水曜日。普段は何を考えてるか読み取ることが難しいくたくたさんも、やはり年頃の女の子ということなのだろう。「白岩屋で評判のアイスを食べに行く」とだけ告げられて、俺はそのまま拉致られた
そんな何時に無く強引なくたくたさんと路地裏を歩く。何でもここが近道らしい。大丈夫だろうか?この辺はガラの悪い連中の溜まり場だと聞くけど……
薄暗い路地裏には今のところ人影は無い。くたくたさんの機嫌を損ねないためにも、何も起きないでほしいものだ…
???「ちょーと待ちなぁ」
……なんて思っている時に限って厄介事というのは諸手を挙げてやってくるモノだ。あぁ煩わしい
俺達を呼び止めたのは三人の男。学生服を着ているので学生だろう。……てか、したらば高校の生徒じゃないか。うわ、よく見たら何あのリーゼントに長ラン。前時代的と言うか絶滅危惧種を間近で見たと言うか……
くたくた「………邪魔………」
そんなコテコテの不良を、邪魔の一言で切り捨てるくたくたさん。道を塞いでいるのにも構わず押し通ろうとする
不良A「おっと、待てって言ってるだろ?」
だが大柄な不良達と小柄で可愛らしいくたくたさんでは体格の差を押しのけて通るというのは困難だ。がっちりと肩を掴まれてしまう
くたくた「ッ!!!………離して!」
不良B「つれない事言うなよお嬢ちゃん」
不良C「そうそう。俺達とイイことしようぜぇ?」
物凄い典型的な不良っぽい台詞を吐いてくたくたさんを囲む男達。流石にこれを黙って見過ごす訳にはいかないな!
――おい止めろ!嫌がってるだろ!!
不良A「あ…?何お前?この子の彼氏?」
――そ、そうじゃあないが……でも友達だ!
不良A「へぇそうかい。じゃあすっこんで…な!!!」
突然左頬に何かがぶつかった様な衝撃が走った。――殴られたのだ。まさかいきなり殴りかかってくるとは……。
くたくた「ッ!としあき!!!」
殴られた俺を見て心配そうに叫ぶくたくたさん。あぁ、そんな顔しないで下さいよ……。大丈夫ですから…
不良B「彼氏でも何でもないんならすっこんでな!」
不良C「そうそう。痛い目に合いたくないだろ?」
リーダー格と思しきリーゼントの取り巻き二人がそう言ってニヤニヤと笑う。――舐められたモンだ。こちとらお前らより数段厄介な人達を毎日相手にしてるっての
例え彼氏じゃなくても、譲れない物がある!意地があるんだよ!男の子には!
俺は決意を胸に三人と向かい合う。さっさと片付けてくたくたさんと白岩屋に行こう――
だが……。そんな一触即発な空気の中、くたくたさんが不良達に向かって静かに口を開いた
くたくた「………お前達、私の目を見ろ………」
不良A「…は?目?何言って………な、何だ…こりゃ…?」
不良B「か、体が…動かねぇ…?」
不良C「な、何だ?どどどうなって……」
くたくたさんの目を、不良達が見つめた途端、まるで金縛りにでもあったように不良達は動かなくなった。いや、懸命の動こうと体を捩ったりしている辺り、動けなくなったと言う方が正しいのだろう。…心なしかくたくたさんの目が紅く輝いているように見える
くたくた「………我、くたくたの名においてお前達に命ずる………。そこで裸踊りでもしていろ…!」
強い命令口調と共に紅く輝いていたくたくたさんの目がより一層紅く光る。何が起こったのかよく解らなかったが、くたくたさんが彼等に何かしたのだろう。その変化はすぐに現れた
不良A・B・C「イエス!ユアハイネス!!!」
不良達は三人揃ってそう叫ぶと、おもむろに服を脱ぎ始め、全裸になると同時にそのまま踊り始めた。超スピードとかそんなチャチなモノじゃない光景が、瞬時に広がった
くたくた「………大丈夫?としあき………」
――え、ええ。一発殴られただけですから……。あのぅくたくたさん、あいつ等一体…?
くたくた「………これが………私の能力………」
――えっ………?
くたくた「………生まれつき、この紅い瞳と目を合わせ、命令した相手を絶対に従わせる………ルナティックレッドアイズ。………私の狂気の瞳………」
――く、くたくたさんにそんな能力が………
くたくた「………怖いでしょう?としあき………私が………」
――な、何で…?
くたくた「………皆そうだった。私のこの力を知ったら、誰も私と目を合わそうとしなくなった…。私のことを見ようともしなくなった!………皆、私から離れていった………」
――くたくたさん……
ぽつぽつと自分の過去を語るくたくたさん。そういえば話す時とか、何時も視線を逸らしてした…。あれは…そういうことだったのか…
何時も他人を寄せ付けなかったのも、能力のことを知られたくなかったから…。そして、不意に「命令」して、その相手を支配してしまうことを恐れていたのかもしれない……
現に、あの力を使ってから……いや、それよりもっと前から、彼女は決して視線を合わそうとしなかった。今までも…ずっとそうしてきたのだろう。孤独であろうとしたのだろう……。そう思った瞬間、俺は居ても立ってもいられなくなって、くたくたさんの両肩をガッと掴んだ
くたくた「…ッ!?な、何するのとしあき…?」
――くたくたさん、俺に命令して下さい
くたくた「な、何言って………」
――命令して下さい。俺が……くたくたさんを裏切らないように。俺が、ずっと傍に居ますから
くたくた「………バカなこと言わないで………。そんなこと………出来るハズないじゃない………」
――どうしてですか?
くたくた「………ずっと、としあきを縛りつけることになる………。私という呪縛から……。もしかしたら、その気持ちすら、私に植え付けられたモノかもしれないのよ………?」
――別に構いません。それならそれで
くたくた「………どうして………そこまで言えるの………?」
――……簡単ですよ……。俺が、くたくたさんのことを好きだからです
くたくた「………ッ!!!!!!」
…言った。言ってしまった……。もう後には引けない。引くつもりも無い
俺の告白を聞いて、くたくたさんはそれっきり俯いて黙ってしまった。うぅ、やっぱ不味かったか…?
くたくた「………肩………」
――えっ…?
くたくた「………肩、手離して。………痛い」
――あ……す、すみません……
言われて、無意識の内に肩を掴む手に力を入れていたことに気付き、慌てて手を離す
肩から手を離すと同時にくたくたさんはそっぽ向いてしまった。…やはり怒らせてしまっただろうか…?
――あ、あの…くたくたさん…?
くたくた「………としあきは………物好きね………。私なんかを………」
――え……?今、何か言いました?
くたくた「………何でも無い………。………無駄な時間を取られたわ………。行くわよ………」
――あ……ま、待って下さいよ、くたくたさん!
何事かを呟いて足早に歩き出すくたくたさん。そう、アクシデントはあったが目的は変わらないのだ
――(……まぁ、いいか。一応一歩前進ってことで)
さっさと先を進むくたくたさんの小さな背中を見つめながら、俺は自分をそう納得させた
目的地である白岩屋に辿り着くと、長蛇の列が俺達を待ち受けていた。くたくたさん曰く、「これでも少ない方」だと言う。恐るべし、白岩さん!
限定、とは言え店側も十分な量を用意していたのか、列に並ぶこと30分。直前で「売り切れましたー」などと言われることも無く、俺とくたくたさんは目的の「⑨印のパーフェクトフリーズ」にありつく事が出来た
可愛らしいがちょっとバカっぽい少女を模った容器に、水色のアイスが盛られている、一見すると何の変哲も無いアイスに見えるそれを一口口にしたその時、
――あたいったら最強ね!!!
筆舌にし尽くしがたい美味さに、俺は思わずそう叫んでいた