・・・最近の学園は慌しい雰囲気に包まれている。皆学園祭の準備でてんやわんやだからだ
だが俺のように暇を持て余している者も居る。自分のクラスの出し物の準備はすでに完了しているのだから
???「お、としあき。ちょーどいいところに!」
帰ろうかな、などど考えていると俺を呼び止める元気のいい声。振り向くと天子ちゃんが俺を指差して立っていた
――なんだ天子ちゃんか。何か用かい?
天子「いやーもうね、ホントちょうどよかった!今は一分一秒でも惜しいんだよねー。だからハイ、としあき。これ宜しく!」
そう言って手渡されたのは百円玉三枚と五十円玉一枚、十円玉が一枚。計三百六十円の現金だ。正直、これを渡されるだけでは何が目的なのか解らない。少なくとも俺にくれる訳ではないだろう
――いや、宜しくって言われても…。どうすんのさ、コレ
天子「それで何か飲み物買って来てほしいの!三人分!私ウーロン茶ね。あっきゅんとあるる先輩は何でもいいって言ってたから、缶コーヒーとかでいいんじゃないかな?」
――…成る程、俺はパシリか
天子「そういうこと。どうせ暇なんでしょ?としあきは。じゃあ私達講堂の裏で練習してるから、マッハで買って来てよね!」
言うが早いか天子ちゃんは踵を返して走り去ってしまった。…俺がこの金を持ち逃げするって可能性は考慮してなさそうだ。……一応、信頼されていると取っていいんだろうか?
しかしあるる先輩はともかく、あっきゅんって誰だ?何か一度見たモノは絶対忘れない的な人か?
………考えてもしょうがない。天子ちゃんやあっきゅんという人はともかく、あるる先輩の逆鱗に触れようものなら俺がただじゃすまない。ここは大人しくパシられることにしよう
俺はすぐさま自販機へ向かい、缶コーヒー二本とウーロン茶を持って天子ちゃんが「練習」しているという講堂裏へと向かった
……練習って、何の練習だ…?一抹の不安を抱くが考えても仕方ないな、と割り切った
講堂裏ではあるる先輩、天子ちゃん、圧殺さんの三人が小冊子を片手に身振り手振りをつけて何やら台詞らしき言葉を読み上げていた。てか、あっきゅんって圧殺さんのことかよ
その光景は…そう、舞台稽古とでも言えばいいのだろうか?真剣な様子の三人に、声を掛けるのも忘れてしばし見入ってしまった
天子「おっ?としあきやっと来たー!おーそーいー。はーやーくこーいー」
やがてその「練習」が一段落着いた時、俺の姿を見た天子ちゃんが手招きしながら声を上げた
あるる「……あら、としあき。パシリご苦労様。随分時間掛かったのね」
振り向き様にトゲトゲしい言葉で出迎えるあるる先輩。表情からは呆れの色が見て取れる
――いや、皆真剣そうなんで邪魔しちゃ悪いかなーって思いまして……
あるる「ふぅん?としあきにしちゃあ気が利くじゃない」
――恐縮です。あ、これ、差し入れです
出来るだけ物腰は低く、缶コーヒーとウーロン茶をあるる先輩に渡す。天子ちゃんが「お金出したの私だぞー」っと不満気に言っていたが気にしないことにした
あるる「ありがと。…ちょうど喉渇いてたところなのよねぇ」
天子「あー、先輩、私も私も!ウーロン茶!ウーロン茶!」
あるる「……さっきまでヘタってた癖に元気ね…」
圧殺「…じゃあ私も頂く…」
それぞれが差し入れの飲み物(代金天子ちゃん)を思い思いに味わい始める。…しまった、自腹切って俺も何か買えば良かった……。歩ツンと取り残された感じがして寂しいぞ
――……ところでここで一体何を……?
あるる「ん?見て解らない?学園祭でやる演劇の練習してたのよ。進行オしてるからねー、こうして合間合間の時間を有効活用してるのよ」
――はぁ、演劇……
あるる「何よ、文句でもあるの?」
――いえ、文句と言うか………何で皆さんが……?別に演劇部でも無いのに……
あるる「今度の舞台は生徒会主演で、私達の日々の活動の一部を元に構成されているの。半ドキュメンタリーって形でね。これがその台本」
――はぁ……
そう言ってあるる先輩から手渡された台本の表紙には『超時空生徒会戦記 閃光のだぜだー!』と書かれていた。ハッキリ言ってこのタイトルだけではどんな内容なのかまるで想像がつかない
――成る程。あるるさんは生徒会役員だから否応無しに出演が決定してる訳だ。………ん?じゃあ天子ちゃんと圧殺さんは何で…?」
天子「あれー?言ってなかったっけ?」
圧殺「…私達、演劇部も掛け持ちしてるのよ」
小首を傾げる俺に、二人がそう言った。初耳だ
あるる「ちなみに私も演劇部掛け持ちよ」
――そーなのかー
今明かされるあんまり衝撃でもない事実。いや、驚いたけど
あるる「さて、と。一服したら部室に戻って他の皆と一度通しで練習してみましょうか」
天子「合点承知だー!うおーやったるでー」
圧殺「…問題無い」
――……じゃあもう用無しな俺は帰りますねー
あるる「……ちょっと待ちなさい……」
そそくさと帰ろうとした俺に、あるる先輩がドスの効いた声で俺を引き止める。やべぇ嫌な予感しかしない
――な、なんスカ?あるる先輩……
あるる「アンタどうせ暇なんでしょう?だったら準備手伝いなさい」
――い、いや、俺演劇とか無理ですし……
あるる「誰もアンタにそんなこと期待してないわよ。裏方の手が足りないから、アンタに手伝ってほしいの。……もっと解りやすく言った方がいいかしら?生徒会と演劇部のパシリになれって言ってるの」
――ストレートすぎる!……ちなみに拒否した場合、俺はどうなるんでしょう…?
あるる「バラす」
圧殺「ツブしてエグる」
天子「カッさばく!」
――死亡確定!?
あるる「チッ、ラチが明かないわ。二人共、やっちまいな!!!」
天子「合点でい!」
圧殺「りょーかい」
あるる先輩がパチンと指を鳴らすと同時に、天子ちゃんと圧殺さんがおろおろしている俺に襲い掛かった
圧殺「悪いわね、としあき。まぁ、コレも運命」
逃げる間も無く圧殺さんに後ろから羽交い絞めにされ、
天子「あるる先輩に逆らうと後が怖いのよねー。ゴメンねーとしあき」
天子ちゃんには両足を持ち上げられる
――や、止めろお前等!HA☆NA☆SE!!!
天子「うん、それ無理」
圧殺「としあき、往生際が悪い…」
あるる「はい、としあきお持ち帰りー。じゃ、部室戻りましょうか」
――や、止めろー!離せー!だ、誰か助けてー!!!
悲痛な叫びも空しく、俺は演劇部部室へとお持ち帰りされた
後日、俺と同じく暇そうにしていたちーすけと鮭を道連れにした。スマン、