『ちょっとお願いしたい事があるから、明日うちに来てくれない?』
くるるんから誘われたのなんて初めてだった。
おまけに女の子からのお誘いなんて久しぶりだ。
二つ返事で俺はOKを出した。
休みの日に女の子からのお誘いって言ったら…
やっぱりデートだよな?
邪な事を考えつつも、その歩みは軽やかに
一路、くるるんの家へと向かった。
―「と、ここか。」
結構良い家だなぁ、とため息をもらした。
豪邸とまでは行かないまでも、そこそこ裕福である事は窺える佇まい。
中の上と言った家庭だろうか。
前に立って少し緊張しつつも、呼び鈴を鳴らした。
『あ、いらっしゃい。ちょっと待っててねー。』
インターホン越しにくるるんが迎えてくれた。
少し経った後、くるるんが玄関の鍵を開けに来た。
く「いらっしゃい。ありがとうね、急に呼び立てちゃって。」
―「いいよ、別に俺も暇だったしさ。」
これが嘘ではなく真実である辺り俺も悲しい所だった。
―「それで、今日はなんでまた俺を?」
く「うん?あぁ、それはね…としあきにしか頼めなくて。」
お、俺にしか!?
や、やっぱあれか、これはその、デ…デートとか言うやつか!?
―「で、デートのお誘いだったらいつでも受け付けるぜ。」
少し淀みながら言ってみた。
く「ごめんね、そういうのは間に合ってるんだー。」
―「ご入り用になりましたらいつでもご連絡を。」
玉砕。
まぁ、俺らしいよな、うん。
く「っと、こっちこっち。」
―「…地下?」
く「そ。ほら、あまり大きな音とか立てるとご近所さんに迷惑でしょ?
だから趣味とかはもっぱら地下でやってるんだ。」
―「地下室がある家なんて滅多にないでしょ?」
く「最近の家はそうでもないよー。防災とかでシェルター付きの家も多いよ。」
―「へぇー…。俺には無縁っぽいな。年中金欠病だし。」
く「あはは、それはまだまだ先の事だよ。としあきが家を持つ事になってからだね。」
と下らない雑談をしているうちに、地下の一番下、
地下室への扉の前まで着いてしまった。
―「んで、ここで俺に手伝って欲しい事ってのは?」
く「あ、そっか。まだ言ってなかったね。実はね―」
くるるんは笑顔だった。
けど俺は、その笑顔に寒気がした。
何でだろうか。
…理由はすぐにわかった。
く「ちょっとうちのペットの躾を手伝ってほしくてさ。
私の言う事全然聞いてくれないんだもん。」
くるるんの言葉と共に、扉が開かれた。
俺は絶句した。
―そこには
鎖とベルトに雁字搦めにされ、口にはギャグボールを噛ませられた
さとりんの姿があった。
―「…え?」
く「どうしたの?」
―「…え、だって…え?これ、さとり…え?ちょっと待って?」
く「そう、さとりんだよ?私のペット。」
―「ペ…ット………?」
わけがわからなかった。
いや、わかりたくなかった。
さとりんの身体には鞭で打たれたような跡や、青痣の類、擦り傷や火傷の跡まで見えた。
目は虚ろで既に焦点も定まっていない。
意識があるのか無いのかすら、定かでは無かった。
く「すごいでしょー?誰も持ってない、私だけのペット。」
自分の宝物を見せる子供のように
くるるんは満面の笑みを見せていた。
く「でもね~、最近言う事聞いてくれないんだー。
だからお仕置きしたの。そうしたらもっと言う事聞かないし。」
おしおきってなんだ?
く「犬は主人の言い付けは守るもんでしょ?だから思い切って躾し直そうと思ってね。」
シツケ?
く「そこでとしあきにも手伝ってもらおうと思ったの。
ほら、一人より二人の方が効率良いでしょ?」
―「………けんな。」
く「うん?」
―「…ふざけんな…ふざけんなよ!?」
く「な、何!?いきなり大きな声出さないでよ…?」
―「さとりんがペット?躾?何言ってんだよあんた!?」
く「はぁ?」
何言ってんのあんた?みたいな顔をされた。
どういう事だよ、俺は間違ってないだろう?
く「あのねぇ…さとりんを愛して良いのは私だけ。
さとりんを壊して良いのは私だけ。
さとりんは私のもの。だったら、持ち物の主は、それ相応に責任を持つものでしょう?」
―「だからってさとりんはモノじゃないだろ!」
く「ん~、言ってもわからないかぁ。それじゃあ―」
くるっと回れ右をして、くるるんはさとりんの方を向いた。
く「本人に聞いてみようか?」
徐に鞭を取り出すくるるん。
何をする気だ…やめろ…。
パァァァァァン!!
肌の裂ける音がした。
一瞬、さとりんの体が仰け反った。
さ「…っっっ!?ふぐっ…んん゙…っ!?」
く「おはよー、さとりん。もうお昼だよー?」
さ「ふぁ…あァうぁ…あが…。」
明らかに怯えている。
怯えと恐怖と絶望、それらが入り混じった目。
最早涙すら出ないのだろう。
くるるんを直視出来ないその目は、揺れ動きながらくるるんではない何かを見ていた。
く「さ、さとりん。あなたのご主人さまは誰かな?」
…狂ってる、こんなの絶対間違ってる。
く「どうしたのかな?言えない?」
鞭を構えなおすくるるん。
さ「んんーっ!ん゙ぐ…んァ…っっ!」
必死に首を横に振る、が意味は成さなかった。
二度目の破裂音が聞こえた。
く「駄目な子ね。主人の名前も言えないなんて。」
さ「ふぐ…うっ…うぐ……。」
これくらいで人間は死なないとは思う。
けれど、さとりんは傍目から見ると虫の息だった。
しばしの思慮の後、くるるんは何か閃いたようだった。
く「あ、そっか。口にそんな物咥えてたら喋れないよね♪」
そう言ってさとりんの口からくるるんはギャグボールを外した。
さ「…はぁ…はぁ…ひぐっ!?」
く「さぁ、これなら言えるわよね?あなたのご主人さまはだぁれ?」
さ「い、いや…いひゃあ…やだぁ…もうやだ…な…んで…?」
く「うんー?」
さ「な、んでわたしこんな目…に合わな、きゃいけ…ないの…?」
尤もな質問だと思う。
く「えー?今更言うの?」
くるるんはやれやれ、と言う風なジェスチャーを取った。
く「良い?言ったでしょ。あなたは私のもの。
さとりんを愛するも壊すも、私だけ。例えば、そう―」
両手で何かの形を作る。
あれは、影絵の狐?
そうしてその狐の両の口を合わせた。
く「例えば、さとりんがどこかの男の子と恋に落ちたとしまーす。」
なぜなにくるるん、はっじまるよー♪
と言ったような雰囲気を醸し出しながら軽快に語り出す。
く「二人は恋に落ちました。相思相愛です。恋のABCよろしく?
関係が深まれば当然肉体関係へも発展するでしょー。」
くるり、と身を翻し何かを手に取るくるるん。
銀色の光が反射するのは見えた。
く「でもねー、私はね?どこの馬の骨ともわからない男に、
さとりんのこの―」
ギュッ、と何かが肉へ刺さる鈍い音がした。
さ「なっ…あ…っあ……?」
くるるんの手に持ったソレが、さとりんの右胸に突き刺さっていた。
く「可愛い胸や、この綺麗な肌が貪られるのが大変嫌なの♪」
くるるんはそう言って刺した個所をグリグリと執拗に虐める。
さ「あぁあぁあッぁぁああ!や、ひゃめ…いだ!?アアぁぁあぁあぁ!?」
ガクガクとさとりんが痙攣を起こしていた。
く「煩いなぁ、当たり構わず騒ぐのは駄犬よ?
そんなに喧しいなら、声なんて出せないようにしようか。
ズル…とナイフを引き抜く嫌な音が聞こえた。
とても耳障りだな、と場違いな事を思った。
そしてそのナイフをさとりんの舌へと持っていった。
―「や、ちょ、いい加減にっ…!!」
こちらを向いたくるるんの顔に気押され、そこで言葉を飲んだ。
く「だから私が壊す。誰かに汚される前に。」
既にさとりんは意識を手放していた。
だめだこいつはやくなんとかしないと。
―「…狂ってる。」
く「狂わない愛なんてあるの?」
―「え…?」
く「人を好きになるって、どこかおかしくなることじゃない。
人生にせよ、生活にせよ。違うかな?」
―「それは…。で、でも、くるるんがやってる事は絶対間違ってる!!」
く「ふぅん…そっか。」
はぁ、とくるるんが溜息を付いた。
く「あーあ。協力してくれると思ったのに。」
―「…俺を、どうする気だよ?」
大丈夫、扉は俺の方が近い。
それに男女の差だ…力だって俺の方が上なはず。
いざとなったら逃げれば良いんだ。
く「どうするって…想像はついてるんでしょ?
さすがにこれが外に漏れるわけにはいかないしね。」
―「…ちっ…。」
短い舌打ちをしつつ、扉との距離を確認した。
く「あ、言ってなかったっけ?うちって大体の扉がオートロックなってるんだ。」
な、何ィィィィィィィィィィィィィ!?
く「ざんねん♪」
―グッバイ人生。
―「…ん……。あ、あれ…?生きてる?」
不意に意識を取り戻した。
確か、逃げられなくて俺は…どうした?
視界がブラックアウトした事は覚えている。
その後何があった?
てっきり殺されると思ってたが…。
それともこれがあの世ってやつなのか。
五感がおぼろげでここがどこかわからない。
ん…誰か、居るのか…?
「…き……あき?………たの?」
誰、だ…?
「…しあき?起…たの?」
く「としあき、おはよー?」
くるるんだった。
一気に意識が覚醒すると共に、俺の体は
心は凍り付いた。
く「殺されると思った?」
あの状況なら普通そうだろう。
にっこりと笑顔を浮かべ、くるるんは言った。
く「そんな酷い事はしないよ、私だって人殺しはしたくないし。
だからその代わり、としあきには私のペット2号になってもらいます。」
―「…え?」
く「これからもよろしくね?としあき?」