ss76620

Last-modified: 2009-03-15 (日) 21:08:39

オレこれ

「オレオはさ、どうするの?」
「どうするって何が」
「ほら、緋想天ファイトの新システム。説明受けたでしょ?」
「ああ…つまりあれだ。今後は副会長でも後ろから突然襲えば押し倒せるようになったってことだろ?」
「……いや、そういう話じゃないし、それは無理だと思うよ。スキマシステムは、あくまで補助強化システム。
 例外はいるけど、緋想天ファイトで強い人は基本生身でも強いから」
「そーなのかー……世知辛い世の中だよ。夢もキボーもないな。
 ……ん?でもセクハラ>即爆発オチはなくなるな。素晴らしいことだ」
「グーが飛ぶけどね。……そうじゃなくて、ファイトスタイル。オレオまだ決まってないでしょ?」
「ああ…でも15種類もあるんだろ?なかなか決まらなくて」
「まあ基本15だけど、そのなかでも戦法の広がりは多彩だよ。別に固定ではないから、片端から試してみると
 いいんじゃないかな。部活に入るって手もあるし」
「なるほどね…できればあんまり動き回らなくて済むのがいいよ。野蛮なのは俺の趣味じゃないし」
「ふーん。中遠距離戦かな?男の子じゃ珍しいね。…じゃあ、今日はあそこ行ってみようか」
「どこさ」
「うん。図書館。…オレオは本とか読む方?」
「本?ああ、もうさして面白いと思ってないのに、ジャンプだけは幾つになってもやめらんないよな」
「……だろうね」


図書館にて

「ここが図書館だよ」
「へえ……でかいな」
普通に校舎を行き来すると通らない場所にあるため、図書館の存在を知ってはいたが
この目で見るのは初めてだ。思ったより大きい建物だった。館みたいだ。
「こんにちはー」
ふまれさんがドアを開けて挨拶をする。
「………おお、ふまれか!久しいの。調べものか?」
カウンターの席に座っていた少女が、しばしの間をおいて返事を返した。
しかしおばあさんみたいな喋り方する人だな。
「お久しぶりです老師。今日はちょっと転校生の校内案内で…オレオ」
と、俺の方を見る。自己紹介しろということかな?
「あ、俺の名前は――」
「よい」
喋りだそうとした俺を制して、老師と呼ばれた女性は目を閉じる。
…なんかキュイーンって鳴ってるけど平気か?
「…2年の転校生で、名前はオレオ。部活は未所属。しかし…ふふ、この間の大会では大活躍だったそうじゃな?」
「なんだ、知ってたんですね」
ふふふ、俺も売れてきたというわけだ。
「いや、知らんかった。今調べたのじゃ」
「調べた…?」
「うむ。わしはPNG。この図書館を司る図書委員長……のサポートロボじゃ。老師と呼ぶものもおるな。
 この学園の上空に浮く衛星の力で、この図書館の蔵書はもちろん、明日の天気から気になるあの子の好感度まで
 わしにわからんことはない。なんでも訊くとよいぞ」
ロボね……ロボ!?
人間にしか見えないが…いや、よく見ると目のところにロボ線がある。
しかし、わからないことはないとは大見得を切った。失礼ではあるが、ちょっと試してみるか。
「じゃあ、今日のふまれさんのぱんつの色で」
「お安い御用じゃ」
「ちょっ…!」
ふまれさんが老師をとめようと近寄っていく。
が、そうはさせないぜ。俺はふまれさんに羽交い絞めにして叫んだ。
「老師!俺が抑えているうちに早く!早く検索を!」
「ぐぬぬ……!離しなさいオレオ!」
「なんじゃなんじゃふまれ、下着の色くらいケチケチするな。
 思春期の男からおなごの乳と下着を奪ってしもうたら……骨と皮しか残らんじゃろうが」
いいながら老師が目を閉じる。蓋し名言である。
「ムッ…?……ははあ、いつまでも小娘じゃと思っておったが、どうしてどうして。
 ふまれもいつのまにやら少女から女へと羽化したのじゃな…」
老師が感慨深げにうんうんと頷く。
「イヤーーーっ!!」
ふまれさんの抵抗が一層激しくなる。
なんだなんだこの反応!白ではあるまい…すこし大人の青か!?も、もしや、く、く、くr…
ふわり、と俺の体が宙に浮いた。
かと思うと猛烈な勢いで地面に叩きつけられた。
気づいたときにはふまれさんは老師に飛びついており、彼女の首の後ろに手を回していた。
かちりと音がして
「ふあっ」
と老師が色っぽい声を出したと思うと、かくんと首を落として動かなくなった。
「…………」
「…………」
キュイーン……

「……む、おお、ふまれか!久しいの。調べものか?」

ないわー。

「せっかく来たんだし、委員長にも挨拶しておきたいんですけど…」
「naviか?二階の委員室で休憩中じゃ。ちょっと顔出してゆくか?」
「休憩中なら…あれだったら出直しますよ」
ふまれさんがそういうと老師は苦笑いしながら
「一人ずつ会いに二度もここまでくるのは骨じゃろう。構わんよ」
というとカウンターから「よっこらせ」と掛け声を発して立ち上がった。
……若々しいなぁ。

老師に連れられ階段を昇ると、見覚えのある人物がうろうろしていた。
およそ図書館という空間が似つかわしくない派手派手しいあの姿、
あれは確か…演劇部部長の最高さんだ。
最高さんはこちらに気づくと、にこにこしながらこちらに接近し、俺の手をがっし掴むと
「入部だね?」
「違います」
相変わらず飛ばしている。
「ああ、もう知り合いなんだ。…オレオも私の知らないところでいろいろやってるねえ」
ふまれさんが子の成長を見る親のように頷いた。
「やあふまれ!…会計に部費上げろって言っておいてよ!今の予算じゃ予定の半分しか買えないよ!火薬!」
「前にそれで体育館の屋根ふっとばしたの忘れたの?西武警察だってあんなに火薬使わないよ」
半眼で答えるふまれさんに、最高さんは頭を掻きながら、
「いやー、あれ本来は体育館ごとふっとばす予定だったんだけどねー」
「したら廃部だったね…助かったよ…ところで図書館でなにしてるの?なんか似合わない」
ふまれさんもそう思うか。
すると最高さんは、珍しく恥ずかしげに
「いや、最近脚本も自分で書くようにしててね…naviさんにちょくちょくチェックしてもらってるんだ。
 で、今探してるんだけど見つからないんだよね」
なるほど、目的は同じというわけだ。それにしても…
「最高さんが脚本か…どんなの書いてるんだ?意外とラブストーリーとか?」
「いや、今書いてるのは、地球に落下する隕石を破壊するために選ばれたスペシャリスト達が乗るスペースシャトルが
 テロリストにジャックされるんだけど、そこのコックとして乗り込んでいた男が実は」
「やっぱいいや」
そのテロリストたちの目的が少し気になったが、まあ碌なものではなかろう。
「ところで、navi先輩なら今から会いに行くところだけど、一緒に来る?」
ふまれさんが口を尖らせている最高さんに喋らせまいと提案する。
「あ、そーなの?ちょうどいいや。いくいく!」
そういうことになった。
「そういえば委員長さんはどういう人なんだ?やっぱり変わり者なのか?」
ふまれさんに尋ねる。
「ううん、大人し目の人だよ。ザ・図書委員!って感じ」
「素晴らしい。それだよ、視聴者の求めているものは」

「ここが委員室じゃな。普段は関係者以外立ち入り禁止じゃが、まあわしがいるから問題なかろ」
老師がそのままがちゃりとドアをあけると、なにやら音楽が鳴り響いていた。
休憩中に音楽鑑賞とは、図書委員だけあっていかにも文化的だ。
しかしその音楽を聴きながら老師がなぜがにやにやと笑い出し、人差し指を口元に当てて囁いた。
「面白い物が見れるかもしれん…静かについてこい」
言われるままにこっそりとついていった。
隠密行動が苦手そうなあの最高さんも、面白いものが見れるとあっては黙っているようだ。
やがて音源らしき一角につくと、なにやら髪の長い女の子がテレビの前で動いている。
いや、あの足元に敷かれたマット、テレビの画面……DDRだ。
彼女は音楽にあわせて軽やかにステップを踏んでいるのだった。
彼女が大人し目の図書委員さんだろうか。少しイメージが違うな。
しかし……上手い。
ゲーセンにはよく行くほうだが、あれだけ踊れる人間は見たことがない。
記号を正確に踏んでいるのは当然として、手にまで振りをつけて踊っている。
曲がクライマックスに差し掛かり、フィニッシュとばかりに彼女はくるりとターン。
……当然、背後にいる俺たちと目が合うわけで。
あれっ?という表情のまま一回転して、彼女が再び画面に向うと同時に、じゃん!と曲が終わった。
パーフェクト。
…………。
スコア表示も終わったが、彼女は微かに震えながら振り向かない。
俺たちもまんじりともしない。
ダメだ。俺この空気ダメ!
俺はふまれさんの袖をくいくいと引っ張った。
ふまれさんも頷く。
……密かな趣味を見られたと思ったが、振り向いたら誰もいない。
ああなんだ、私は幻をみたんだわ……それでいいじゃないか。
そうしてその場を後にしようとした瞬間
「ブラボオオオオオオオォォォオ!!!」
と絶叫して最高さんが壮大な拍手を始めた。
「いやーnavi先輩にこんな才能があったとは!そうだ、次の演目はミュージカルにしよう!」
「いやはやまったく、上達したのうnavi」
老師もくつくつと笑いながら拍手をした。この人たちは……。
後ろをむいたままのnavi先輩の長い髪からちらりとのぞくうなじが、だんだん赤く染まっていく。
「わーーーーーっ!!」
やがて爆発した。叫んで俺達の横を通り過ぎ、部屋の外に消えてしまった。
………。
「お二人……人の心がないのですか」
俺とふまれさんが二人を呆れた目で見る。
「いやー、わしロボットじゃから。マシーンじゃから」
「優れた芸に賞賛を送らず黙っているなんて、私の役者魂が許さないわ」
毛ほども反省してない。
「とりあえず追いかけないと…どこにいったんだろ」
ふまれさんが慌てながら言う。
「どこかで練習再開してるのかな」
最高さんが笑顔で言う。あなた以外の人間は、全員あなたじゃないんだよ!
「俺なら屋上から飛んでるね」
「さすがにそれはやりすぎだよオレオ」
「オレオ君は大げさだな!」
「……最高さんにだけは言われたくなかったよ」
「ハハハ、こやつめハハハ」
老師が笑いながら検索を開始する。

「うおっ」と呟いて老師が青い顔になったのを見て、全員が同時に階段に向って走り出した。

「うっうっ……」
「………」
今まさに飛翔せんとしていたnavi先輩を全員で説得して、なんとか委員室までひっぱってきた。
navi先輩はテーブルに突っ伏して泣き崩れており、俺たちは誰からともなく並んで地べたに正座していた。
「な、navi…わしらが悪かったからその…げんきだせ…な?」
「いやでもすごかったよ!特に最後のターンときたら、まるで妖精が」
最高さんが喋るのを両サイドの老師とふまれさんが拳骨で制した。
あれがいつもの俺のポジションか……気をつけるようにしよう……。
「あのー…なにか俺らにできる事があったら…」
ちょっと日ごろの行いを反省したので、そんな事を言ってみた。
するとnavi先輩、少し考え込むような沈黙を置いて
「…………やきにく…………」
と呟いた。
YAKINIKU?
「やきにくたべたい…藤原苑で……」
…………。
全員で顔を見合わせて、navi先輩のほうにふまれさんが手で「T」の字を作って見せたあと、俺たちは円陣を組んだ。
「オレオ」
「いやいやいや、あの場はああ言うしかないだろ。誰かが言うべきだったのを、俺が言っただけだ」
「しかし藤原苑とは…」
「ああ。さすがに俺も知ってる。一駅先の高級焼肉店…不死鳥の火で焼き上げられるという肉は、まさに幻想の味わいだという…
 俺もよくスーパーで売ってるタレをご飯にかけて食う……そこでなぜ涙ぐむふまれさん」
「ごめん」
「そしてなぜ謝る」
「うむ、問題はその値段じゃ…わしのデータによると、かの店で食事をすれば安く見積もっても一人頭…」
老師の手に数字が浮かび上がる。最高さんが「ホオオ」と息を吐いた。
「私、百九十三円しか持ってないんだけど」
「少なっ!俺は……なんだと?二十円しかねえ」
「わしは金など必要ないからな…どうにもならんな」
「………」
ふまれさんが汗をだらだらと流しながらそっぽを向いている。
「ふまれさん……あるんですね?必殺の策が」
「いや…ないよ?ないの」
うそをつけない人である。
「老師、最高さん、確保」
「合点!」
「うむ」
二人が両サイドからふまれさんを抱える。
「きゃーっ!…なんか今日私羽交い絞められてばっかりじゃない?」
「そういう星なんだろ…とりあえず財布かな?お体に触りますよ…ふまれさんのお体に触りますよ…」
ポケットを探る。かわいらしい財布ではあるが、厚みはないな。
人道とか後先は、この際考えない。
「こっ、こらーっ!」
「オレオ探索中…ワーオ、コンドーム発見」
「ほほう、感心じゃな」
「さすがだね!」
「う、うそ!入ってない!入ってないから!…オレオ…あと覚えてなさいよ…!」
睨んではる。めっさ睨んではるで。
「…えー、冗談でした。誤情報、誤情報、本部どうぞー」
「本部了解、本部了解。引き続き探索を続けられたし」
最高さんと無線ごっこをしながら財布の中を探っていく。
すると、財布の中にあきらかにオーラを放つ紙を発見した。
「こ、これは…お食事券!ペアお食事券であります!」
「であえー、生徒会に汚職事件発覚なの?」
突然なべ先輩が出現したが、もう別段驚かない。
「違います」
「残念」
いなくなった。せわしい人だな。
「気を取り直して…ふまれさん、これはなんですかー?」
目の前で券をひらひらさせる。
「こ、この前商店街の福引で当たって……あの、あるる先輩と一緒に行こうと……」
「それはめでたい。おめでとうふまれさん。……そして残念でした」
「うう…私今回何もしてないのに…」
ふまれさんががくりとうなだれる。
「さて、これはペア券なわけですが…ひとりはnavi先輩として、もう一人は如何するか……」
俺は全員をぐるりと見渡す。
「ちょっ、ちょっと待って!そこはさすがに私にしておこうよ!」
ふまれさんが憤慨する。もっともな意見だ。しかし…
「俺だってたまには肉が食いたい」
「知らないよ!」
「肉屋に灯油はなかろうしな…わしは辞退しておこう」
「辞退っていうか!」
「まあまあ、ここは緋学らしく勝負で決めようじゃないか」
「…あれぇー…?」
全員に突っ込みを入れて息を切らすふまれさんに最高さんが提案する。
「とはいえここで緋想天ファイトじゃ物が壊れる…緋学名物、死戻迩消魂(シモニケタ)にしようぜ…」
それを聞いた老師が思わず目を見開き、
「ぬぅっ!死戻迩消魂じゃと――――!?」
「知っているのか老師ーーー!!」

死戻迩消魂

時は中世
ローマの女剣闘士シモーヌとケイトが、己の強さの証明として
互いの体に刻まれた傷の数を競ったことに端を発する決闘法である
味方同士で争うことなく優劣を決することのできるこの決闘法は瞬く間に国中に広がり
創始者である両者の名前を冠し、「シモーヌケイト」と呼ばれることになった
それが秦の武将たちに伝わった際に発音が濁り「死戻迩消魂(シモニケタ)」と名前を変えて
戦士たちの間で語り継がれたという
なお、このシモーヌケイトが現代の緋スレで行われる画像下二桁勝負の源流であることは、もはや言うまでもない

AQ書房刊・「世界の珍決闘百選」より抜粋

「ここでは、さすがに傷の数で競うわけにはいかんからの…生徒証はもっておるな」
「まあ、一応」
「そこにあるIDナンバーは、そのケースから取り出すたびにランダムに変化する仕組みになっておる。
 その数字の尻尾の二つの数字の大小で勝負を決するのじゃ」
言われたとおりにカードを取り出してみると、なるほどその度に数字が変わる。
わかりやすいし、なにより痛くないのがいいな。
「この勝負は後腐れを作ってはならんのがルールじゃ。…各々よいな?」
「おう」
「オッケー!」
「……まあ、勝てばいいのよね……」
ふまれさんは本当に前向きだよ。俺なら窓割って脱出してるよ。
「ではまず私のターン!ドロー!」
最高さんが妙な動きで学生証を抜き出す。
「あ、あれはL字ドロー!!」
「老師ーーっ!!」
「ケースから学生証を抜き出す際に、まず横に半分抜いてから縦に引き出す技法じゃ…
 あれによって数値が高くなるような気がするし、何よりちょっとかっこいいのじゃ」
「気がするだけですか」
「うむ」
でも確かにちょっとかっこよかった。
「どうだ!?」
全員の視線が、最高さんのIDに集まる。
93。
「うっ…」
ふまれさんの膝が一瞬かくっと落ちかけたが、なんとか気力で持ち直したようだ。
しかし顔色はよくない。
「つまりこれは、少なくとも93から99までを出さないと負けってことか」
「うむ。いい数値を出してきたのう」
俺の独り言に、老師が相槌を打つ。
「これは勝つにはホネだな」
「お主は勝つつもりでおるのか…?運がよいようには見えぬが」
さすが老師は見る目が御ありだ。しかし俺には勝算があった。
「俺はオチ担当なんで……恐らくこれからふまれさんが97くらいをだすんですけど、最後に俺が空気読まずに99とか出して、
 でも爆発オチは使えないんで、ふまれさんが『もーっ、オレオったら!』っつって追いかけてきて、俺がわーって逃げて、
 みんながわっはっはと笑って〆ですよ」
「……いやに具体的な……未来視か?意外な才能じゃのう」
「いえ、経験則です。…見ててください」
ふまれさんに視線を戻すと、今まさにカードを引き抜こうとしているところだった。
「ふよっ」
ふまれさんがぶんと手を振ると、ケースからカードがぴょーんと飛び出した。
「あ、あれは魔技、真空じゃーっ!」
「老師ーーっ!!」
「なんとカードに手を触れず、ケースの振りの反動のみで引き出す古の技…よもや遣い手が現存しておろうとはな…」
「いざっ!」
ふまれさんはそのまま空中でカードをキャッチ。俺たちの前にカードを差し出す。
97。
「ぐわーーーーっ!」
最高さんが卒倒した。
「……大した奴じゃ……」
老師が驚いた様子でカードをまじまじと見た。
「でしょう!これでいただきね!」
ふまれさんが喜んでいるが、老師が驚いたのは高い数字を出したふまれさんにではない。
それをピタリと当てて見せた俺に対してだ。
「つまりこの先も?」
「はい。残念ですが、ふまれさんの未来はサックサクです」
全員の視線が俺に集まる。
俺が勝つにはもう、98か99しかない。誰も俺が勝つとは思っていないだろう。
しかしどうだ、全員の視線は一瞬後には俺への羨望のまなざしへと変わるのだ!えいっ!
「…………」
場が凍りつく。
「すげーーーーーっ!」
「う、うそ……なにこれ……」
最高さんは絶叫し、ふまれさんは驚愕を隠せない。どうだどうだ!
……ん?
違和感を覚えて自分のカードを見てみる。
「……え?」
IDのナンバーは全部で13桁。
その全てが、0で統一されていた。
「エ、エンドレスゼロじゃと――――!?」
「ろ、老師ーーーっ!?」
「緋想学設立以来、過去に三人しか出した記録がないという伝説のナンバーじゃ…
 出した人間はその場で負けなのは当然じゃが、不思議なのはその後…エンドレスゼロを出した人間は
 例外なく三年以内に壮絶な死を遂げておる……。
 少なくとも、原型の残るような死に方をしたものは一人もいないそうな」
悲痛な表情で老師が語る。
「………マジです?」
「………マジじゃ」
ウソだ!みんなで俺を騙してる!
「まあその…ご愁傷様オレオ。とりあえず私の勝ちね。はい」
「あ、ああ……」
すごい笑顔でふまれさんが手を差し出してきたので、言われるままに券を手渡そうとする。血も涙もないな。
が、ぶるぶると手が震えていて、開けた窓からふいに吹き込んだ風が俺の手から券をさらい、窓の外へ飛ばしてしまった。
「あーっ!」
思わず窓の外を見下ろすと、券は風に舞いながらゆっくりと落下していく。
ちょうど落下地点に竹刀らしきものを背負った小柄な少女がいたので、声をかけて拾ってらおうと思った瞬間
ふっとその少女が背負った竹刀を振ったかと思うと、お食事券は瞬きの間に細切れになり、ふたたび竹刀を背負いなおす動きで
風を起こし、紙片をゴミ箱にきれいにシュートした。
少女はすっとこちらを見上げると口を開く。これだけの距離で、囁くような声にもかかわらず、はっきりと聴こえた。
「ポイ捨てはよくないのだ」
すたすたと歩いて行った。
…誰だか知らないが、竹刀で斬ったぞ。すげえな。人間技じゃない。
……いや、問題はそこじゃないよな。わかってるよ。
背中がやけにひりひりする。
あーあ、振り向きたくねえなー。エンドレスゼロの呪い、早かったなー。
「ファイナルアタックライドゥ」
「ファイナルアタックライドゥ」
「ファイナルアタックライドゥ」
「ファイナルアタックライドゥ」
後ろから電子音声がきっちり4つ聴こえてきた。
なんだよ、爆発オチできねえって言ったの誰だよ。俺か。俺だな。
舐めてたな。抜かりねえなスキマシステム。
普通に考えると、攻撃するほど俺が憎いのはふまれさんとnavi先輩の二人でだけなはずだが、
まあ、あとの二人はノリだな。わかるわかる。俺でもそうする。
背中に感じる熱がだんだんと強くなる。
うん。とりあえず万が一ここで生き残ったなら……

……アルバイト始めなきゃな。

振り向く。笑顔の四人と視線が合う。俺も笑顔で応えた。

幸い、原型はちゃんと残った。

おわし