ss77682

Last-modified: 2009-03-28 (土) 16:40:14

――うー、むにゃむにゃ……ハッ……!?

昼食後、暖かな日差しに誘われて中庭で日向ぼっこをしつつうたた寝していたら、つい寝すぎてしまったようだ…とっくに午後の授業が始まっている時間だ

――……しまったな……。どうしよう……いっそこのまま緋想天ファイトの相手を探すフリしてサボるか……

今日の午後の授業は確か古文と英語だ……。うん、決まり。サボろう
そうと決まったらなるべく人目のつかない所に移動して、まずは寝直すか……屋上がいいかな……

――……ん……?

善は急げ、と中庭を後にしようとした時、風に乗って何やら音楽が聴こえてきた
明るく、アップテンポな曲で、緩急の付き方の所為でとても派手に聞こえる曲だ

――何だこれ………こっちの方から……

誘われるように音の発生源へと向かっていくと、一人の少女が何処から持って来たのか、中庭には無いハズのテーブルと椅子、更にティーセット完備で優雅にお茶の時間を過ごしていた
そして少女は俺の姿をちらり、と目配せした後、優しく微笑んで、

???「ごきげんよう――」

と、歌うように言った
か細いながらもしっかりと通る声とその微笑みに、俺は一瞬どきり、としてしまう

――……あー、えーと……ごきげんよう……?

取り合えず彼女に合わせて挨拶を仕返してみると、彼女はそんな俺を見てくすくすと笑う
その気品溢れる佇まいは、良家のお嬢様を彷彿させた。――いや、もしかすると本物のお嬢様なのかもしれない

???「どうぞ、お掛けになって下さいな」

ボケーっとしている俺に、彼女はすっ、と向かいの椅子へと誘導する
…まぁ、立ち話も何だし、ということなんだろう……

――……じゃあ、お言葉に甘えて……

誘われるまま座ると、彼女はすぐにティーカップに紅茶を淹れ、俺に差し出してくれた
紅茶のことはよく解らないが、花のような香りが俺の鼻腔をくすぐる

???「どうぞ…。お砂糖は要りますか?角砂糖ですが」
――あ、うん、ありがとう。じゃあ一個お願い
???「かしこまりました」

そっと入れられた角砂糖が、紅茶の熱で溶け、それをかき混ぜる
…ちょっと飲んでみた。………美味い。あんまり紅茶って飲まないけど、中々いいモノだなぁ……

???「……としあきさんでいらっしゃいますよね?」

ちびちびと紅茶を飲んでいると、彼女はそう聞いてきた
……はて、こんな美少女と何時知り合っただろう……?記憶の糸を手繰ってみるが、思い出せない

――……そうだけど……。何で俺のこと知ってるの……?
???「ふふ……。としあきさんのことはマイパートナー地子ちゃんからよく聞いていますから……。
    あ、申し遅れました。私、ミルクティーといいます」

言いながら、ペコリと頭を下げるミルクティーちゃん

――地子ちゃんの友達か。なら俺のこと知ってても不思議じゃないな
乳茶「えぇ……。まぁ、それ以外でとしあきさんはちょっとした有名人ですけれど……」
――……どうせロクでも無い噂なんだろうなぁ……
乳茶「そうですわね……何人もの女性と関係を持っているとか、そういった類の……
   けれど、私はそのような俗な噂に踊らされる程愚かではありません
   ですから、地子ちゃんの言うとしあきさんがどんな方なのか、一度お話してみたいと思っていたのですよ?」
――そうなのかー
乳茶「……そして……より深く相手を知るためには、緋想天ファイトが不可欠だと思いますの」
――………は?

ちょ、いきなり何言い出しますかねこの娘さんは
何その「拳と拳を交えれば分かり合える」的な考え。野蛮じゃないっすか?
てかそういうのはバトル漫画のお約束的なモノであればこそであって、実際に適用するのは色々マズイと思うんだ、うん
あー、でもこの子が次に言う台詞はきっと決まってる。で、俺はボコボコにされるんだよ、そういうお約束なんだよ

乳茶「……という訳でとしあきさん、是非手合わせ願えないでしょうか?」

ほら見ろ、やっぱりだ。この学園はこんなのばっかりか。どうせ強制イベントなんだろう?……クソ、何て時代だ!

――……別に構わないけど、最初に言っておく。俺はかーなーり、弱い!
乳茶「強い弱いは問題ではありません。全力を出すか出さないか、ですわ」

成る程、もっともだ。……問題は全力出しても勝てそうに無い相手がこの学園には大勢居るってことなんだが

――……分かった。その前に一つ聞かせてくれ。この何か派手な曲は一体何ていう曲なんだい?
乳茶「…ワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガー、第一幕への前奏曲ですわ」
――そうか、クラッシックか……。生憎俺はアニソンとか特撮ソングくらいしか聴かないんだ!
乳茶「……あにそん……?とくさ……えっ?何でしょうか、それ……?」

やっぱりな!畜生!この子生粋のお嬢様だよ!俺みたいな庶民と全然違うよ!

――いや、こっちの話し。……じゃあ始めようか。緋想天ファイト……!
乳茶「レディ……ゴー!です!」

???「―――――さん」
――ん……?うっ……
???「としあきさん!」
――えっ……?んっ……うわ!?
???「きゃ!?だ、大丈夫ですの?としあきさん……」
――うーん、その声……地子ちゃんか……?
地子「はい、私ですわ。……ミルクティーさんにここでとしあきさんが倒れていらっしゃると聞いたのですが……大丈夫ですの?」
――あー、うん。一応生きてるし、大丈夫かな…。って、今何時……?
地子「もう午後の授業は全て終わってしまいましたわ。今は下校時間ですの」
――……そっか……

まぁ午後の授業はサボるつもりだったから別にいいんだけど

地子「さ、としあきさん。立ってくださいまし」

そう言って地子ちゃんは俺に手を差し出し、その手に引かれて俺は立ち上がる
…全身に痛みが残っているが、全く動けないほどでは無い

――ありがとう、地子ちゃん
地子「べ、別にお礼を言われる程のことではありませんわ!」

言いながらぷい、っとそっぽを向く地子ちゃん。心なしか顔が少し赤い
…この子もくたくたさんや圧殺さん程じゃないけど、よく解らないところがあるんだよなぁ。まぁいいけど

――……授業終わってるなら帰るか……。地子ちゃんも一緒に帰るかい?
地子「…ッ!!!よ、よろしいんですの?」
――うん。地子ちゃんさえよかったら、だけど
地子「こ、断る理由なんてありませんわ!」
――そう?じゃあ一緒に帰ろうか。……あー、鞄持ってこないと……。ちょっと待ってて、地子ちゃん
地子「あ……わ、私もお供致しますわ!」
――えっ……でも、鞄取りに行くだけだし……
地子「い、いいんですの!私が……行きたいんですの!」
――……?まぁ、いいや。じゃ早く行こう
地子「………そ、それに女房は夫の三歩後ろを歩いて付いて行くものですもの……って、な、何を言ってるんでしょう……私」
――え?何か言った?地子ちゃん
地子「ッ!!!いいいいえ!ななななんでもありませんわ!」

例の如く地子ちゃんが何かブツブツと言っていたみたいだが、いつものことなので気にしない
そして俺達は一緒に帰るべく、その場を後にした

オマケ

乳茶「ふふ……。成功ですわ……」

としあきさんと共に歩いていく地子ちゃんを木陰から見守りながら、私は一人呟く

乳茶「……でも解りませんわ……。あんな冴えない殿方の何処がいいのか……」

地子ちゃんはあのとしあきという殿方に好意を寄せていらっしゃるみたいですけど、私にはよく解りません……
何処にでもいる平々凡々な殿方……。としあきさんには悪いですが、それが私の第一印象でした

乳茶「彼、女性の交友関係も以外と多いみたいですし……。理屈では無いのでしょうね……」

何故かは解りませんが、地子ちゃんも含め何人かの女性があのとしあきさんに好意を寄せているのが私の調査で解っています
ですが私のすべきことは一つ――
友人として地子ちゃんの思いが成就するよう、後押ししていくことです

乳茶「(地子ちゃん、頑張って……)」

二人の後ろ姿を見送りながら、私は心の中で地子ちゃんにエールを送ります
彼女の恋が実るよう、祈りながら………