朝、保健室の鍵を開け、中に入る
カーテンが閉められて、日光が遮られている部屋内は薄暗い
すぐにカーテンを開け、日の光を部屋の中に取り込む。ついでに窓も開けて空気の入れ替え
そして私は一人呟く
69「戦が始まる……なんつて……」
ツッコミも何も返って来ないので、ちょっと寂しかった
―――ある日の保健室の、特に何でも無い一日
保健室というのは怪我人や病人が出ない限り基本的に暇である
いやまぁ、目を通さないといけない書類とか、PC内の生徒のデータ管理とか、細々とやることはあるけれど
だから悩める生徒の相談に乗ったりすることもある。主に私の暇つぶしのために
とはいえ、予鈴が鳴るまでは特に生徒が来ることも無いので、コーヒーブレイクタイム。朝の一杯は堪らない
途中職員室に顔を出しておく。同僚の先生方に挨拶をするためだ
69「おはようございます、いつもの先生」
いつもの「あ、おはようございます、69先生。……服、ヨレヨレですよ…?昨日、当直でしたっけ……?」
69「ん…いえね、帰るのメンドクサイんで、山札先生と当直代わってもらったんですよー」
いつもの「ダメじゃないですか……。そんな風では生徒に示しがつきませんよ!」
いつもの先生はとても真面目な方だ。白黒はっきりつけるし、服なんかも皺一つ無い
でも、もうちょっと肩の力抜いた方がいいと思うんだけどなぁ。……私がいい加減なだけか……
いつもの「せめてシャツだけでも代えて下さい。予備が無いなら私の貸しますから」
69「あー、いえ、大丈夫です。着替えはちゃんと常備してますから。後で着替えますよ」
いつもの「……そうですか……それならいいんですが……。と、すみません。また口煩く言ってしまって……」
69「いえ、お気になさらず。むしろ助かります」
そうそう。相手が誰でも、ちゃんといけない、と指摘するのは実は難しいことだ
性格もあるんだろうけど、そんないつもの先生はとても頼りになる方だ
69「じゃ、着替えてくるんで、また後で……」
いつもの「あ、はい。分かりました。では後でまた」
そう言って職員室を後にする私。その足で職員更衣室へと向かう
着替えて、他の先生方に挨拶をしている内に予鈴がなった。今日一日が、本格的には始まる合図だ
1.
69「…って言っても別段やることは無し、と」
保健室のデスクのPCを弄りながら、キィキィと椅子を鳴らす
緋想天ファイトで生徒の生傷が絶えないとはいえ、怪我しろー仕事くれー、と念じる訳にもいかない
保健室とか病院が忙しいのってマズイと思うんですよ
ほら、怪我人や病人がひっきり無しに訪れる光景とか、あんまり見たくないよー私
何てことを考えながらペンをくるくる回して遊んでいると、ドタドタと廊下から走る足音が聞こえてきた
足音の主はそのまま保健室のドアを勢いよく開け、
???「うわーん!69せんせー!!!」
と、ドラえもんに泣きつくのび太君みたいに私に泣きついてきた
69「……どうしたの?ZIPちゃん……」
泣きついてきたこの生徒はZIPちゃん。二年生で、ショートヘアとぱっちりした目が愛らしい少女だ
ZIP「どうしたら……どうしたら⑨まだ先輩は私に振り向いてくれるでしょうかー!?」
うるうると私を見上げながら、ZIPちゃんは言う
……またか、とちょっと思ってしまったのは内緒だ
というのも、彼女が思いを寄せる⑨はまだですか、という生徒には、れっきとしたパートナーがすでに居る
この時点で諦めればいいのに、彼女は諦め切れないようで、時々こうして私に相談に来る
……実際は相談というよりは延々愚痴を聞かされるだけなのだが
69「はいはい、まずは落ち着いてね、ZIPちゃん。コーヒーでもどう?」
ZIP「……頂きます……。それで先生……私、どうしたらいいでしょう……?」
コーヒーカップを受け取って、がっくりと肩を落とすZIPちゃん
ちなみに「もう諦めなさい」は30回くらい言っているのだが、未だに効果が実ったことは無い
諦める気が無いなら仕方ない。本人の気が済むまでやらせよう、というのが最近の方針だ
69「うーん……あのね、ZIPちゃん。貴方、本丸にいきなり攻め込みすぎなのよ」
ZIP「は、はぁ……」
69「まずは外堀を埋めることから始めなきゃ」
ZIP「……外堀……つまりテケ流の方々と、まずは親密になれ、と!あわよくば私もテケ流入り!」
それは貴方が白黒魔法使いのバトルスタイルな限り無理だと思う、というのは言わない
69「……まぁ、そんなところね……」
ZIP「そうか……そうですよね!先輩と親しい人と親睦を深めれば、自然と先輩とお近づきになれますもんね!
あぁぁぁ!何でこんなことに気がつかなかったのかしら!!!」
多分、貴方が⑨まださんしか見てないから、とい(ry
ZIP「ありがとうございます、69先生!私、頑張ります!」
そう言ってまだ熱いであろうコーヒーを一気に飲み干すと、ZIPちゃんは猛ダッシュで保健室から出て行った。忙しない子だ
69「……まぁ、頑張りなさい……」
疾風の如く去っていったZIPちゃんに、最早聞こえないであろうエールを送る
後、ドアはちゃんと閉めていきなさいよ、全く……
???「失礼するのだ」
開けっ放しにされたドアを閉めに行こうと立ち上がったその時、ZIPちゃんと入れ違いで入ってくる一人の女生徒が居た
69「あら、いらっしゃいテケちゃん。どうしたの?まさか怪我でもした?」
彼女はテケちゃん。緋想天学園でもトップクラスの実力を持つ、剣道部員の少女だ
とはいえ彼女も人間。怪我の一つもすることはある。のだが、見た感じ別に怪我の類での用事ではなさそうだ
私の問いかけに、テケちゃんはふるふると首を振って「違うのだ」と短く答える
テケ「こんにちわなのだ69先生。……ちょっと相談したいことがあるのだ」
69「あら……珍しいこともあるわねぇ……。何何?恋話?」
テケ「……?違うのだ。最近、あるじ様にやたらちょっかいを掛ける輩が居て、困っているのだ」
言いながらパイプ椅子に座るテケちゃん
……彼女の言うあるじ様とは⑨まださんのこと。何でそう呼んでるのかは知らない
69「あら、それは大変ね……。でもテケちゃんなら、そんな人簡単に追い返せるんじゃない?」
テケ「……ボクの居ない時を見計らったかのようにあるじ様にちょっかい出してるみたいなのだ。卑怯なのだ」
成る程。流石に見えざる敵には自慢の剣も振るえない、か
テケ「それに……ボクと一緒の時も、何だか後ろからねっとりした視線を感じるのだ。………あれはきっとストーカーというヤツなのだ」
69「ははぁ……ストーカーねぇ……」
……というか、もしかしてそれって……ZIPちゃん……?
テケ「見つけたら即切り捨て御免なのだ」
69「……うーん、でもストーカーと決め付けるのは早計じゃない?……もしかしたらテケ流に入門したのかも…?」
テケ「テケ流は厳しいのだ。生半可な覚悟で入ってほしくないのだ。それにそうならそうと、ちゃんと言えばいいのだ」
69「……も、もしかしたら話を切り出すタイミングが掴めないのかも…。テケちゃんも警戒ばかりじゃなくて、その子と話してみたら?」
テケ「……先生の言うことももっともなのだ……。解ったのだ。あるじ様も交えて、一度話してみるのだ」
69「そ、そうね……。それがいいと思うわ、うん」
テケ「では失礼するのだ。先生、ありがとうなのだ」
相談に乗ってもらったことで満足したのか、テケちゃんは立ち上がって足早に保健室を退室した
あわてんぼうなZIPちゃんと違ってテケちゃんはちゃんとドアを閉めてくれた
それはさて置き、取り合えずお膳立ては済ませた。テケちゃんの言ってる人物はほぼ間違いなくZIPちゃんだろう
後は彼女次第だ。健闘を祈っておこう……
???「失礼致しますわ」
ZIPちゃんとテケちゃんが去ってから暫くして、また別の生徒が此処を訪れた
69「おや、地子ちゃんじゃない。どうしたの?」
地子「………あ、あのですね……69先生に相談に乗ってもらいたいことがありまして……」
69「ふぅん…。まぁ、掛けなさい」
地子「は、はい!ですわ」
地子ちゃんをパイプ椅子に座るよう促す。何やらしきりにそわそわしている
69「で、相談って?」
地子「は、はい!……じ、実は私……その……す、好きな殿方が居まして……」
69「ほぅほぅ……としあき君かなー?」
地子「ッ!!!?なななな何をバカなことをおっしゃってるんですの!?わわわ私がとしあきさんのことをす、好きな訳ないじゃないですか!」
……あれ?適当にカマかけただけだったんだけど……この反応を見る限り……成る程。ニヨニヨ
69「あー、はいはい、分かったわ。失言だったわね。で、その思い人がどうしたって?」
地子「……あ、え…っとですね……その彼と、もっと親密になりたいんですが……ど、どうしたらよいでしょう……?」
モジモジと、頬を紅潮させながら言う地子ちゃん。いいね、その表情。恋する乙女って感じで!
それよ、それ。視聴者が求めてるモノは!
69「そうねぇ……手っ取り早く押し倒しちゃえばいいんじゃない?あ、避妊はちゃんとしなさいよ?」
地子「!?!?!?!?な、何をおバカなこと言ってらっしゃるんですの!?き、教師がその……せ、性行為による男女交渉を推奨するなんて、ナンセンスですわ!!!」
……軽い冗談のつもりで言ったんだけど、地子ちゃんは烈火の如く怒り出してしまった
今時珍しいくらい純情な娘さんだこと……
69「そうは言うけどねー大佐。一番手っ取り早いと思うんだけどなー。既成事実作っちゃえば、ライバルが居ても一歩リード出来るじゃない」
地子「誰が大佐ですか!……だ、だから性行為を助長するような発言は止してくださいまし!」
69「……んー、何?地子ちゃんは交際は交換日記から始めるタイプ?古い!ダメだわ、それ。私が相手の男なら耐えられない」
地子「……さ、流石に交換日記はしませんが……。だ、ダメでしょうか?私……」
69「うん、ダメ。ぜーんぜんなって無い。まぁ、いきなりハメハメしろってのは言いすぎかもだけど、ダメだわ地子ちゃん。いつもの先生風に言うなら、貴方には少し大胆さが足りない!」
地子「……!?だ、大胆さ……ですの?」
69「そう。清く正しい交際、大いに結構。……けどね、思春期真っ只中の健全男子はね、女の子に興味津々なワケよ。分かる?」
地子「は、はぁ……」
69「例えば、地子ちゃんが念願叶ってその思い人君と付き合うことになったと過程する」
地子「……わ、私がとしあ……ゲフンゲフン。か、彼と……」
69「そう。で、お付き合いするようになれば、当然手とか繋いじゃったりするわねぇ」
地子「そ、そうですわね…」
69「愛し合ってる訳だからハグとか何気なくしちゃったり」
地子「……そ、そんな抱きつくなんて……」
69「気持ちが高まればちゅっちゅっの一つや二つもするでしょう。舌と舌を絡めたりして濃厚なヤツをぶちゅーっと」
地子「……ふ、不潔ですわ……!そ、そんな……こと……」
きっと地子ちゃんの脳内では今私が言ったシチュエーションが鮮明に妄想されているに違いない
何だかんだ言いながらも行為自体に興味はあるようで、自身の妄想に悶えていらっしゃる。あぁ、耳年間なタイプねーこの子
69「……とまぁ結局行き着くところは一緒な訳よ。それとも地子ちゃん、結婚するまで頑なに貞操を守ったりしちゃうの?うん?」
地子「そ、それは……」
69「純情さは大事だけど、時には大胆に迫ってみて、普段とは違う自分をアッピルしていくことも大事よ?」
地子「……そ、そうでしょうか……?」
私の助言に、うーんと顎に指を当てて考え込む地子ちゃん
……私の経験則から言わせてもらえば、地子ちゃんみたいな子がそういう「いつもと違う行動でアピール作戦」をやれば、大抵失敗するだろうけど…
69「……もしかしたら彼も待ってたりしてね……。地子ちゃんが大胆に迫ってくるのを」
失敗するだろうとは思うけど、取り合えず発破を掛けておく。間違ったことは言ってないのだから。たぶん
地子「……う……ぐ……わ、分かりましたわ……。か、考えてみますの……」
理解はしても納得はしていないのだろう。歯切れの悪い返事をして、地子ちゃんは立ち上がった
地子「で、では私はこれで……。相談に乗って頂き、ありがとうございますわ、先生」
69「おー、またいつでもおいでー。経過報告とか聞かせてくれると私が喜ぶ」
地子「…お、お断りですわ!!!」
ぷい、っとそっぽを向いて、「ぷんぷん」という擬音が聞こえてきそうな雰囲気をかもし出して地子ちゃんは退室する
しきりに「……大胆に……」とか「……積極的に……」などと呟きながら
???「……失礼します……」
地子ちゃんが去ってからまた暫くして、また別の生徒が此処を訪れた。…今日は先客万来ねぇ……
69「いらっしゃい、キーちゃん。……どうしたの?顔色悪いけど……」
入ってきたのはキーボード万歳さんだった。キーちゃんとか万歳とか万博と呼ばれている子だ
何やら顔色が悪いので、病人かと思いきや、キーちゃんはいきなり目に涙を浮かべ、静かに嗚咽を漏らし始める
69「……!?ちょ、どうしたのよ、一体……」
万歳「……うぅ……先生……私……私……」
69「と、取り合えず落ち着こう。ね?ほ、ホラ、コーヒーでも飲んで……」
正直いきなり泣き出されてはこっちは堪ったものではない。ここだけ見たら、まるで私がキーちゃんを泣かしたみたいじゃないか
ぐすぐすと涙を流すキーちゃんを必死でなだめ、落ち着いたところで漸く本題に入ることが出来た
万歳「……最近ゆむ先輩が素っ気無いんです……。全然緋想天ファイトしてくれないし、そもそもまともにお話すらしてくれません……」
69「え……あー……うーん……」
重い。正直場の空気が重いです
恋愛相談の次は痴情のもつれですか。別の意味で忙しないわ
万歳「……私……先輩が何を考えてるのか解りません……。私に悪いところがあるなら、言ってほしい……うっ……うぅ……」
言いながらまたぽろぽろと涙をこぼすキーちゃん。…そういえば副会長とキーちゃんはパートナー同士だったっけ…
69「……うーん……ほ、ホラ、副会長は生徒会の仕事もあるし……きっと忙しいのよ、きっと……」
万歳「……仕事の合間に緋想天ファイトしたり、他の方と話たりしてるのに……ですか?全く時間が無いって訳でもないのに、私…避けられてるみたいで……」
69「えっ……あ……そ、それは………」
あー、ヤバイ。一番苦手だわこういうの
出来れば力になってあげたいけど、こういうのは当人同士の問題だしなぁ……
69「……もうさ、三行半でも突きつけちゃえば?」
率直な意見を言ったつもりだった
良好な関係を保てず、ずるずるとその状態を引きずってしまうくらいならいっそ壊してしまった方がいいこともある
だが、そんな心無い私の発言は、キーちゃんの怒りを買うのには十分だった
万歳「……ッ!!!そんな……そんな簡単に言わないで下さい!!!先輩は……先輩は私の憧れなんです!
だから……だから……パートナーになれた時、すごく嬉しくて……!先輩と肩を並べられるくらいの強さを持ちたいって思って……私……」
すぐにでも小一時間くらい問い詰められそうな剣幕で怒りを露にするキーちゃん
けど、その感情の爆発は一瞬で、すぐにまた泣き崩れてしまう
……ちょっと無遠慮すぎたなぁ……
69「あう……ご、ゴメンねキーちゃん……。いくらなんでも不躾すぎたね……」
万歳「い、いえ……。私こそ取り乱してしまって……」
69「……三行半は飛躍しすぎだけど……無理矢理でもいいから一度副会長とキチンと話し合った方がいいよ?」
万歳「……解ってはいるんです。このままじゃいけない、って。……やっぱりちゃんと話し合わないとダメですよね……」
69「……キーちゃん……」
万歳「……私、心のどこかでゆむ先輩に甘えてたんですね……
ありがとうございます、先生……。私、先輩と……キチンと話してみますね……」
目の下に涙の後を残しながら、それでもどこか吹っ切れた表情でキーちゃんは言う
69「い、いやぁ……私は別に……何もしてないし……」
万歳「それでも、話を聞いて下さってありがとうございます。……じゃあ私、行きますね……」
そう言ってキーちゃんは保健室を後にする。その足取りは入ってきた時とは違い軽々としている
69「月並みな台詞だけど……頑張ってね、キーちゃん」
万歳「…はい!」
本当に月並みな台詞を捧げる私に、キーちゃんは振り返って元気良く応えた
……どうか流血沙汰にはなりませんように……
かーなーしーみーのー
むーこーうーへーとー
とかいうBGMを聞くのは……嫌よ?
ちーすけ「うぅ……先生……持病のレイプしたい病が……」
69「それ、いつものことじゃないですか?」
オレオ「うっ……先生!持病のオナカイタイ病が……」
69「仮病の生徒に貸すベッドはありません。おととい来やがって下さい」
鮭「……先生、何か腹がスースーするんですが……」
69「でしょうねぇ……片腹無いですよ?鮭君……」
2.
千客万来な午前と違い、午後は極めて穏やかだった
69「今日はこのまま平穏に終わりかしらねぇ……」
コーヒーを啜りながら呟く
まぁ生徒の相談に乗るのも悪くは無いけど、やっぱりこうやって穏やかに日々を過ごしたいものだ
…しかし、なんて思ってる時に限って何かあるもので……
???「…み、充さん!私、自分で歩けるから…!」
充「いいからいいから。それにもう着いたし……。失礼します!」
???「ふぇ?」
アルト声を響かせて勢いよくドアを開ける一人の生徒。……いや、正確には一人じゃないんだけど
てか、もう一人の言動からおんぶでもされているのかと思ったらお姫様抱っこときたよ。何かぱるぱる
お姫様だっこされて担がれてきたのは圧殺さんだった。怪我でもしたのかな…?まぁこの学園じゃ怪我なんて日常茶飯事だけど
……しかしいつも思うんだけど、何故に充氏は男の制服を着ているのかしらね……?あれか、男装の麗人ってやつかしら
69「あらあら、何だかパルパルスィ。……で、どうしたの?」
充「はい、緋想天ファイト中に圧殺さんが足を挫いたみたいなので……」
圧殺「……これくらい……大したこと無いのに……」
充「ダメだよ。もしかしたら骨を痛めてるかもしれないし、一応診てもらわなきゃ」
圧殺「……あぅ……」
充「と、いう訳でお願いします」
69「はいはい。…やっと保健室らしいことが出来そうねぇ」
充「……えっ?」
69「ううん、こっちの話。じゃ圧殺さん、靴脱いで、そこ座ってー」
圧殺「は、はい……」
パイプ椅子に座り、素足を晒す圧殺さん。うふふ、生足生足……
……ではなく、差し出された足を触診し、圧殺さんの反応を診る。時々、触った箇所によって彼女は苦痛に顔を歪める
69「……うーん、折れてはいないみたいねぇ……。軽い捻挫ってところね。湿布を出しておくわ」
薬品棚から湿布を出し、圧殺さんの足に貼り付ける
69「はい、これでよし。じゃ後は激しい動きとかはしないように、安静にね。緋想天ファイトとか、もっての他よ?」
圧殺「……はい」
充「大したこと無くて良かったね」
圧殺「……だから言ったのに……」
充「ははっ、そうだね。…それじゃあ私は行くね。また宜しくね、圧殺さん」
圧殺「……あ……う、うん……。また、よろりー……」
圧殺さん無事を確認し、挨拶をして去っていく充氏。それにしても……
69「またよろりー、ねぇ……ニヨニヨ」
圧殺「……な、何ですか先生……ニヤニヤして……」
69「んー、別にー?圧殺さんも可愛いところあるなぁーって思っただけよー?」
圧殺「……ッ!し、失礼します!」
ニヤニヤの止まらない私の目から逃れるため、圧殺さんは片足を庇いながら、しかし足早に保健室を去っていく
69「うふふ……眼福眼福」
こうやって生徒の意外な一面を知れるのもこの仕事の魅力だ。いいぞもっとやれ。主に私のために
そんなこんなで保健室の一日は過ぎていく
そんな、保健室の特に何でも無い一日――――
了