オレこれショートにしようと思ったら全然ショートじゃなかったこれ
1・僕はつい見えもしないものに頼って逃げる
違和感に気づいた。
「…ふまれさん」
「なに?」
「なんかあそこに薄らぼんやり人が見えね?」
「んー?」
ふまれさんが視線を横に送って眼を凝らす。見えていないようだ。
「半分透けて向こう側が見えているが、確かに人がいるんだ。
ロングヘアーでヘアバンドの女の人」
幽霊か?冗談じゃねえぞ。
特徴を告げるとふまれさんは納得いったようで、
「あー…いい眼してるねオレオ。それはたぶんnot先輩だよ。
華道部の部長さんで、なんでか一部の人以外には向こうから接触してこないと
ちゃんと見えないの。だから、通りすがりに見かけるなんて滅多にないんだけど…」
よかった、人間なのか。
「オレオも存在薄いし、共鳴したのかもね」
「泣くぞ」
笑顔で言葉のナイフを刺してきた。
「それより大変だ」
「何が?」
「そのnot先輩な…あれ多分二セ乳だぞ。
随分と精巧なパッドを使っているようだが、俺の目は誤魔化せない。
……許せんな。俺は断固巨乳派ではあるが、小さくたって本物のおっぱいがもつ輝きは」
ありのままに起こったことを話すぜ。
さっきまで遠くにぼんやりと見えていたnot先輩が、瞬きと同時にはっきりと実体化して目の前にいた。
何を言ってるのかわからねーと思うが
2・米さ米酒か
「にゃっはっはっは!おーとしあきぃ~!」
女の子の声が聞こえたが、どうやら俺を呼んでいるのではないらしい。としあきか。
くそっ、あの野郎本当にモテやがるな。
「なんだよぉ~無視すんなよぉ!」
がばっと後ろから抱きつかれた。なんだなんだ!
「一緒に呑もうじぇ~?」
俺の肩口からにゅっと顔が生え、しばし見つめあう。っていうか酒クサッ!
「ん………としあき、なんかショボくなったか?」
「……気のせいでしょう」
なにか聞き捨てならない台詞を聞いたが、どうやらこの娘さんは酩酊して俺ととしあきを間違えているようだ。
背に当たるおっぱいの幽かな感触。侘び寂びの境地である。
あいつ、いつもこんな目にあってやがるのか!まじ許す。
校内で酩酊している女生徒という圧倒的なダウトにはこの際目をつぶって、ここはとしあきになりすまし
この子と楽しいひと時を過ごすとしよう。俺にフラグが立つも良し、奴のフラグをへし折るも良しだ。ざまあみろ。
「おう、今日は呑み明かそうぜ!えーっと…誰だっけ」
「お!今日のとしあきはノリがいいなぁ?いつもなら『未成年だから!』とかいうのに!
ってさっそくボケかぁ!のまのまだよ!」
なんでやねん!とつっこみをいれるのまのまさん。
「ごゥ!」
その裏平手を喰らった瞬間に、肋骨がみしりと音を立てた。恐ろしい怪力の持ち主だ。
げほげほと咳き込む俺を見てにゃは!と笑い、
「屋上へ行こうぜ!」
そういうことになった。
屋上である。
別な話、最近俺はここで童貞を失いました。
初体験でアオカン逆レイプだコノヤロー。最高でした。死ぬかと思ったけど。
「にゃは、まあどうぞどうぞ」
「やーどうもどうも」
のまのまさんが敷物を広げて俺を招いたので、内履を脱いで敷物の上に胡坐をかいた。
「まあまあまあまあ」
「おっとっとっと」
お酌をしてもらうときに最初にこの掛け声を発したのって誰なんだろうな?
俺ものまのまさんにお酌を返し、あとは各自手酌で、ということになった。
のまのまさんは、日本酒の注がれたコップを幸せそうに眺めて笑うと
「にゃは~…ではかんぱい!」
「乾杯!」
こつっとコップをぶつけて、呑み始めた。
ふふふ…自慢ではないがこのオレオ、喧嘩は弱いがアルコールには結構強い。(※未成年の飲酒は法律で禁じられています)
すでに酩酊状態ののまのまさんとでは少々フェアではないが、ここは潰れてもらって
ちょっとだけ美味しいいたずらをさせてもらおうかな!ちょっとだけな!にゃっはっは。おっと伝染った。
(二時間経過)
空き瓶が無数に転がる屋上の床を両手で叩いて、俺は吼えた。
「つまりね!ふまれはんはもっと俺にやさしくするべきらろ!
やさしく抱きしめてれふね!……そして叱ってほしいんら」
「にゃはははは!わかるわかるよー!オレオー!まあ呑んで呑んで!」
ご覧の有様だよ!
猛烈なペースで呑んでいるにもかかわらず、のまのまさんの顔色は大きな変化を見せず、
そのペースにひっぱられた俺はもうグダグダになっていた。
としあきじゃないのもバレた。
曰く、「まあいいや、にゃはは!」とのこと。
しょぼい発言に対しての言及はできなかった。
「おお……おお~?のまのまさん、もう酒がないろ」
「本当だ!」
のまのまさんがどこからか調達した大量のボトルは、もはや一本も残すことなく空になっていた。
「と、思いきや…じゃーん!最後の一本!」
せ、背中から酒瓶が!うるァー!
「これなんらろ?」
「うん、もう手持ちがなかったからね…科学部から持ってきちゃいました!にゃははは!」
「かがくぶー?…ぶっ!!」
アルコール吹いた。
「工業用アルコールっちゃられ!」
「せいかーーーい!!にゃっはっはっは!」
「ぶわっはっはっは!」
二人で膝を叩いて爆笑した。
「いただきまーす!」
即座に瓶をラッパで呷ろうとするのまのまさん。俺の分は?
「じゃなくて、生き急ぐなーっ!のまのまさーん!!」
ヘッドスライディングで瓶を奪い取った。
「むーっ!独り占めかー!」
のまのまさんが俺から瓶を取り戻そうと手を伸ばす。
「落ち着いてのまのまさん!これは飲み物じゃないの!ウチに酔拳2の香港版DVDがあるから、それ観てから…うおっ」
「にゃにゃっ!」
もはやまったく平衡感覚を失っていた俺の体は、圧し掛かってきたのまのまさんの華奢な体も受け止めることができず
のまのまさんに押し倒されるかたちで後ろに倒れこんだ。
「……」
「……」
瓶は転がっていってしまった。
でもそれには目もくれず、目線が合う。
この体勢は非常に美味し…まずい。呑んでる途中の記憶が曖昧だったが、改めて見ると俺ものまのまさんも
服がはだけ放題であった。ぶっちゃけ非常にいい眺めである。でももうちょっと胸があればな。
「……知ってる」
のまのまさんが顔を高潮させておずおずと口を開く。
「酔拳2のラストバトルは最高だよね!にゃはは。香港版のオチはちょっと切ないけど」
「観た上で工業用アルコールを!?あれ切ないってレベルじゃねーぞ!」
よく考えたらのまのまさんの顔が高潮してなかった瞬間がなかった。アルコールのせいだったわ。
「にゃはは!だってお酒が足りなかったんだもん!宿直室の冷蔵庫、最近鍵ついてるんだもん!」
「おそらくは窃盗が相次いだせいだな」
絶賛マウントポジションのまま会話中である。
がおーっと襲い掛かってそのままにゃんにゃんしたいところだが、俺にそんな度胸はないのである。
一回にゃんにゃんしたからって、いきなり人間は変わらないのである。
心が童貞だから、誰にも救えないのである。
「……」
すると、突如無言になったのまのまさんがとろんとした目で俺を見る。
そして、ゆっくりと体ごと顔を近づけてきた。
な、なんだこの超展開は!人生で三度来るというチャンス、その二度目がもう来てしまったというのか?
近づくたびに、俺を拘束する力が段々と強まっていく。
あ、あれ?痛すぎるぞ?ちょ、ちょっとゆるめてくださーい。
そんな俺の願いも空しく、パワーはあがっていくばかり。12万…13万…ま、まだ上がる…!
そしてのまのまさんの顔も、もう俺の額に髪がかかる距離まで来ていた。
荒い息遣いもはっきりとわかる。
のまのまさんは「にゃは…」と妖しく微笑み―――
あっ、オチが読めたぞ。
「うっ」
予想通り、のまのまさんの頬がぷっくりと膨れ上がった。
同時に俺を押さえつける力が最大に達し、何かが折れる音を聞きながら俺は気を失った。
そのあとどうなったかは、知らないし知りたくない。
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その後、なべ先輩が「偶然にも、泥酔状態で折り重なって寝ている半裸の男女を発見した」らしく
保健室で目覚めた俺(なぜかジャージを着ていた)とのまのまさんは、そのままいつもの先生の説教フルコースを喰らった。
のまのまさんは笑いっぱなしで、俺は泣きっぱなしだった。
ふまれさんにもなんか一発ぶたれた上にごはん奢らされた。
ちょっとちーすけやめてくんない?
その、「なかなかやるじゃねぇか」って、「俺も負けてられねぇな」って目やめてくんない?
後日、のまのまさんと廊下ですれ違った。
「おーオレオー!また一緒に呑もうね!」
「………のまのまさん、未成年の飲酒はダメなんやな」
おわし