1.
ZIP「うふふー、どれ着てこうかなー?」
鼻歌を歌いながら、何着もの服をクローゼットから物色し、じっくりと吟味する
明日は⑨まだ先輩とデート……。だから目一杯おめかしして行くのだ
ZIP「…⑨まだ先輩はどんな服着てくるのかなぁ……?」
明日の⑨まだ先輩に思いを馳せるだけでとても幸せな気分になれる……恋って素晴らしい
ZIP「はぁ……⑨まだ先輩……」
気付けば私は自分のアソコに指を伸ばしていた
⑨まだ先輩を思いながら、この指を彼女の指と思って自慰に耽る
ZIP「……あぁん……あっ……あっ……⑨まだせんぱぁい……」
情事に夢中になりすぎて、致した後そのまま眠ってしまった為、次の日待ち合わせの時間の直前まで服を選ぶ羽目になってしまったのはここだけの秘密
2.
予定した起床時間より若干遅れて起きてしまった私は急いで朝食を摂り、身支度を済ませて待ち合わせ場所に向かった
時間には間に合ったものの、私が着いた時にはもう⑨まだ先輩は待ち合わせ場所に来ていた
…先に到着してキチンとしたところをアッピルする予定だったのに……情欲を抑え切れなかった結果がこれよ!
なんて歯痒い思いを噛み締めていると、私に気付いた⑨まだ先輩が手を振って私を呼んだ
……過ぎたことは仕方ない。気持ちを切り替えて行かなきゃ……
ZIP「お、おはようございます、⑨まだ先輩!お待たせしてすみません!」
⑨まだ「おはよう、ZIPちゃん。ふふ、時間通りなんだから、気にすること無いわ」
ZIP「は、はい…すみません……」
⑨まだ「ホラ、そういう顔しない。折角なんだから、楽しく行きましょう。ね?」
ZIP「あ…はい!そうですね!」
⑨まだ「それじゃあ行きましょうか?」
ZIP「はい!お供します!……そ、それと……先輩……お願いが……」
⑨まだ「…ん?何かしら?」
ZIP「…て、て、て……手を……繋いでも……よろしいでしょうか?」
⑨まだ「手?いいわよー。はい」
そう言ってスッと手を差し出す⑨まだ先輩
私はその手を、恐る恐る握る
………⑨まだ先輩の温もりが、手を通して伝わる……。これだけで私の心は有頂天だ
ZIP「あ、あ、あ…ありがとう…ございます……」
⑨まだ「ふふ……それじゃあ行きましょうか……」
⑨まだ先輩に手を引かれ、歩き出す私
先輩……私……幸せです………
3.
それから私達は一緒に公園を散歩したり、ショッピングをしたり、映画を観たり、食事をしたりして過ごした
楽しい時間程あっという間に過ぎていく…。気付けば空が紅く染まる時間になっていた
ZIP「(……そろそろこのデートも終わりかぁ……魔法が解けそうになった時のシンデレラもこんな気持ちだったのかな…?)」
朱に染まる空を見ながら、今日一日を振り返る。……⑨まだ先輩は、私と一緒に居て楽しんでくれただろうか…?
名残惜しいけど……仕方ないよね……。またいつか……こんな時間を過ごせたらなぁ……
⑨まだ「ZIPちゃん」
ZIP「…へっ……?は、はい!」
物思いに耽っていたら、⑨まだ先輩に突然声を掛けられた。…う、変な顔とかしてなかったかしら…私
⑨まだ「今日はありがとう。楽しかったわ」
ZIP「……!!!わ、私も楽しかったです!!!」
ニコニコ微笑みながらそう言う⑨まだ先輩
……よかった、詰まらなかったとか言われたらどうしようかと思っちゃった……
⑨まだ「…ふふ、ZIPちゃんは元気ね…。じゃあ、今日最後の寄り道をしましょうか…?」
ZIP「……?は、はい…」
優しい女神のような微笑みから一転、艶やかな笑みを浮かべた⑨まだ先輩は、再び私の手を引いて歩き出す
そうして私が連れられたのは、とある歓楽街の一角……辺りには風俗店の呼び込みやカップルがごった返していた
ZIP「せ、先輩……あの……」
辺りを見回して先輩に呼びかけてみるものの、先輩は応えない
不安を感じながらも私が連れられた先は、とあるラブホテルだった
⑨まだ「…ここにしましょうか……」
ZIP「えっ……あっ……えっ……?せ、先輩……ここ……ラブホテル……ですよ?」
⑨まだ「そうね。…ZIPちゃん、入るの初めて?…大丈夫、私も初めてだから。……ふふ……何だかドキドキするわね…」
ZIP「へっ……あ、あの……?」
何だろう?状況に頭が付いていかない。こ、ここに入るっていうことは、その……あの……
⑨まだ「『一日』デートなんでしょう?なら……まだ終わりじゃないわよね……?」
言いながらくすくすと笑う⑨まだ先輩。……つまりは、こ、これから……
ZIP「せ、先輩……」
⑨まだ「嫌……かしら?別に強要する気は無いのよ?」
ZIP「…い、嫌じゃ……無いです…!」
むしろウェルカムだ。ま、まさか⑨まだ先輩の方からお誘いが来るなんて……
⑨まだ「決まりね。じゃあ…行きましょう……」
ZIP「は、はい!」
そうして私達はラブホテル内へと入っていく
…これからの情事を考えるだけで、自分の体が熱く火照っていくのが解った
4.
……夢のような一時だった
何度も何度も唇を、肌を、性器を重ねあった
全てが終わる頃には日付はとっくに変わっていて、もっとも闇が深い時間に私達はラブホテルを後にした
⑨まだ「ふふ……ZIPちゃんってば意外と激しいのね……」
ZIP「それは……⑨まだ先輩だって……」
外に出て、改めて先程までの情事を振り返る
まだ、夢の中に居るような……そんな気分だった
⑨まだ「……さ、もうこんなに遅くなっちゃったし、帰りましょうか…」
ZIP「…あっ……はい、そうですね……」
今度こそ本当に夢の時間は終わり。シンデレラに掛けられた魔法が解ける時が来たのだ
⑨まだ「……あ、それと……ZIPちゃんに大事なお話があるの……」
ZIP「……?何ですか?」
突然神妙な面持ちで話しを切り出す先輩。……一体何だろう……?
⑨まだ「…言いにくいことなんだけど……もう私に付きまとうのは止めてほしいの」
…………今、何て、言った?
ツキマトワナイデホシイ。そう、言った……?
⑨まだ「…あ、えっと……付きまとわないで、っいうのは適切じゃなかったわね…
あのね、ZIPちゃんが私を慕ってくれるのは分かるしすごく嬉しいわ
…けど……私はもうテケちゃんっていうパートナーが居る身だし……この関係を解消する気も無いから……だから……」
バツが悪そうな顔で、更に続ける⑨まだ先輩
さっきまでの幸福感は、一気に粉々に砕かれてしまった
⑨まだ「……何て……言うのかな……もう、これっきりにしましょう?
これからは……お友達ってことで……ね?」
困ったように、済まなさそうに、そう言う⑨まだ先輩
……これっきりも何も……まだ始まってすらいないじゃないですか……
……でも……本当は解っていた……私がどんなに足掻いても、彼女は決して私のモノになんてならない、と……
それでも……彼女を好きだった
……貴方の傍に……居たかった………。なのに………
気付けば私は駆け出していた
がむしゃらに、ただひたすらに走り続けた
途中何人もの人を突き飛ばしてしまったけど、そんなこと気にしてる余裕は無かった
……そして――――
ZIP「あうっ…!」
走って、走って、走り続けて………派手に転倒して、ようやく私は止まった
ZIP「……うぅ……うぐ……ひっく………」
そして、自然と涙が溢れてきた。転んだ痛みもあったが、何よりも……⑨まだ先輩の言葉が私の心を抉った
……結局、私はただのピエロに過ぎなかったのだ
ただ、そのことに気付こうともしなかっただけ……
惨めだった。悔しかった。……何故、私じゃないんだろう……そんな思いばかりが募った
???「ちょっと貴方、大丈夫…なの?」
地面に這いつくばっている私に、突然誰かが声を掛けてきた
見上げると、新聞部部長のからすなべ先輩がそこに居た
なべ「……ものすごい盛大にすっ転んでたけど……大丈夫…?」
ZIP「……え、えぇ……ありがとうございます、からすなべ先輩……」
なべ「…?私を知ってるってことは……緋学の生徒……なの?」
ZIP「……はい。二年の…ZIPです」
なべ「ZIPちゃん……。あぁ、⑨まだちゃんに熱烈なアプローチを掛けてる子なの」
ZIP「……よくご存知で……。まぁ、ついさっき振られたんですけどね……」
なべ「むむ…事件の匂いがするの!で、出来れば詳しく!なの」
ZIP「……いいですけど……詰まらない話ですよ…?」
記者としての性なのだろう……なべ先輩は私の無様なエピソードに食いついてきた
……ヤケになっていた私は事の経緯を彼女に話した
熱心にメモを取り、事あるごとに質問もしてきた。……あぁ、明日の学園新聞にでも載せられるのかな、くらいにしか思わなかったが
なべ「……成る程……ありがとうなの」
ZIP「……記事に……するんですか……?」
なべ「勿論。……と、言いたいところだけど、傷心の貴方をこれ以上傷つけるつもりはないの」
ZIP「……えっ?」
なべ「単純に個人的な好奇心だったの。このことは…絶対口外しないの。約束なの」
ZIP「な、なべ先輩………」
なべ「……⑨まだちゃんのことは残念だと思うけど、元気出すの。泣いてたら可愛い顔が台無しなの」
ZIP「……うっ…うぅ……は、はい……」
なべ「…じゃあ、私は行くの。また学園で、なの。であえー」
手を振りながら、なべ先輩はまるで風のように去っていった
その後ろ姿を見送りながら、私は涙を拭った
ZIP「……なべ先輩……」
話に聞く彼女は、新聞最優先、スクープの為なら何処へでも、プライバシー?何それ美味しいの?という感じの人だった
……でも……そんなことは無かった。噂なんて、当てにならないものだ
ZIP「……そんな風に優しくされたら……私……貴方のこと……」
好きになっちゃいますよ?……いいですよね?
例え、尻軽だと罵られようとも……
恋は、何がなんでも実らせるもの、だから………
了