ss82269

Last-modified: 2009-05-26 (火) 17:24:20

(下校中)
 
??「ワン」
 
犬だった…
他に「ワン」と鳴くものがあったら別だが
もしそう鳴いている人がいたらどうかと思う
鳴く方も鳴かせる方も…
 
――「でも何でこんなところに子犬が?」
 
学生の通り道で人目はそこそこあるだろうけど、悲しいかな俺たちは学生だ
いわば養われる身であるのに、自分たちで別のものを養う余裕がある者は多くはないだろう
……例外はあるだろうけど
俺だって自分の生活で手一杯だ、すまない名も無き犬よ、誰かいい人に拾われるんだぞっ
そう祈りながらダッシュでその場を後にした
 
 
(翌日)
 
――「あれは昨日の犬…」
 
まだ拾われてなかったのか
だが明らかに昨日と違っている点があった
よくあるダンボールスタイル(ダンボールに入っているだけとも言う)から
……なぜか、石で出来た家の中にいた
いや、あれは要石? だっけか?
住んでる風に見えなくもないけど、脇に拾ってくださいと書いてある紙はそのままだった
なんだか犬も少し満足げな表情だ
いや、ダメだろ落ち着いてちゃ…
 
――「なんだかずさんな作りだなぁ…」
 
石をただ積み上げただけなようにも見える
しかし下手に手を出したら今にも崩れそうだし…
ここは俺がでしゃばるよりも玄人の出現を待とう
大丈夫、放って置いてもきっといい人が拾ってくれるさ
俺はそっと昼飯の残りを置いてその場を立ち去った
 
 
(その翌日)
 
何故か苦い顔の圧殺さんとすれ違った…
「いつか潰れるようにしたのに…」とかブツブツ言っている
怖いよ、言動が
そしてまたそこに犬はいた
 
――「なんでまだいるんだよ……」
 
しかも家(?)のグレードが上がってるし
要石でできてた家は、ただの積み上げられた石から、変なモニュメントが追加された石の家へと変貌していた
昨日とは違い安定感が増している、コレなら安心だ
犬もなんだか誇らしげだ
 
――「だからなんでお前は拾ってオーラ出さないんだよっ!」
 
つい突っ込んでしまう
流石にここまでしてもらえるなら明日には拾ってもらえるだろう
俺は家からもってきた缶詰を開けるとその場に置いて帰路に着いた
 
 
(そのまた翌日)
 
先客がいた、あの騒がしさは……大体分かる
巻き込まれないように遠巻きに見ていよう
 
地子「だからっ、何度言えば分かりますの、犬にそれはいけませんわよっ!」
天子「だいじょーぶ、私だってこれで育ったようなもんだ、いけるいけるって!!」
乳茶「……まったく…人の話を聞かない方ですね、困りますわ…地子ちゃんここは私たちで何とかしましょう」
地子「そうですわね、天子ちゃんさんに任せてたらチョコやら玉ねぎやらをもってきそうで怖いですわね」
 
そこに通りかかる趣味の悪いリムジン
さすがにあれは光りすぎだよな…金色のリムジンを見ながらそう思う
あの輝きは100年は持つ車だとか製作者の意思のあらわれなのだろうか…
まっとうな趣味をしてたらそんな車には乗らないだろう
しかし、乗る人はいるようだ
 
りドる「オーッホッホッホ! お困りのようね、さしづめそこな犬な畜生に餌を与えることができないといったところかしら?」
地子「くっ…物言いはなんだか許せない気もしますがその通りで悔しいですわ」
天子「おー、誰だかわかんないけど趣味の悪い人、なんかあるのか?」
 
あのヤロウ(野郎じゃないけど)タブー中のタブーに触れやがった
しかし動じないというか、無視してるというか、人の話を聞かないと言うのかドリルヘアーは言葉を続けていた
凄いな、俺だったら暫く凹んでいるところだぜ
 
りドる「下々のものと違って、私のようなセレブは、常に、周到に、万全を期しているものよっ!」
 
そういって懐を探りはじめるりドる、結構あれこれ探っているようだけど
あれが用意していると豪語していい姿なのだろうか
ようやく何かを見つけたらしく、満面の笑みを浮かべながら細い棒状のものを後輩たちの前に差し出す
直後、自分でそれが何かを確認すると一変して表情が曇る
 
りドる「ち、ちくわしかねぇですわっ!」
 
なんで懐にちくわなんだよっ!!
天子ちゃん達も苦笑いを浮かべながら場を取り繕おうとしているように見える
 
地子「ま、まぁ、食物には変わりありませんし…その、助かりますわ」
乳茶「我々の手持ちが飲み物しかないのでありがたくご好意に甘えさせてもらいます先輩」
天子「私はなんもないからせめて名付け親(ゴッドファーザー)になってやろう、そうだなメキシコに吹く風、サンt――」
りドる「ホーッホッホッホッホ! 分かればいいんですわ、分かれば」
 
なんとか場がおさまり(?)各々の下校を再開させていく
 
――「ちくわと紅茶と毒々しいドリンク…流石にこれは……」
 
しかし犬は結構ご満悦の様子で口をつけ始めてた
いや、そこは拾ってオーラをアッピルしていけよ
俺は持ってきた牛乳をどう処理しようか考えながら家に帰ることにした
久々に紅茶でも入れるかな…
 
 
(またまた翌日)
 
雨が振ってきた…天気予報では晴れだったはずなのに、午後になって降るとは
流石にあのモニュメントじゃ風はしのげても雨は凌げまい
ちょっと気にしつつ犬のいる場所へ早足で向かう
そこには傘を二つにコンビニの袋を持った、少し長めのスカートをはいた女性が立っていた
めかぶさんだ
様子を見ているとこちらに気づく
 
めかぶ「久しいな、少年」
――「どうも、こんにちは…こんなところで何を?」
めかぶ「通りがかっただけだ。そしたら変なものを見つけてな、少し眺めていたところで少年が来た」
――「ああ、これ確かに変な形してますものね」
めかぶ「しかし、主は留守のようだな」
――「え?」
 
言われて覗き込むといつも誇らしげに居座っていた犬がいなくなっていた
朝にはいたはずだけど…
この下校時間と言うゴールデンタイムにわざわざ外に出かけたとか考えにくい
てか繋がれてるわけじゃないんだからどこにでもいけたろうに
今までそこにいたのが不思議だとも言えるけど
そう考えていると声をかけられる
 
めかぶ「ではあたしは行くぞ、少年も濡れ鼠になる前に家に着くんだぞ」
――「めかぶさんは誰かのお迎えですか?」
めかぶ「ん? …ああ、そんなところだな、しかし徒労だったようだ」
――「??」
めかぶ「こっちの話だ。でだ、少年、おねーさんの好意に甘えろ、これをくれてやる」
 
傘一本と袋から出したつまみっぽい食べ物を有無も言わさず押し付けられる
…ビーフジャーキー?
まぁ、めかぶさんなら酒くらい普通か…
…いつも酔っ払っている女子生徒を思い浮かべた
待てよ、あれは普通…なのか?
 
めかぶ「では、あたしは行くぞ。少年はそれ以上濡れずに帰るんだぞ」
――「はい、ありがとうございます」
 
そう言うなりめかぶさんは行ってしまった
後ろ姿を見ていると、めかぶさんは振り返らずに傘を少し持ち上げる
挨拶なのかな…
少し男前だと思ってしまった
 
??「散りゆくも 朽ちず飛びゆく 綿帽子」
 
いきなり後ろで声が聞こえた
 
――「何奴っ!?」
 
振り返りながら、何故か構えてしまう
 
りドる「ホーッホッホッホ、ワタクシをご存じないようですから名乗って差し上げますわ、光栄に思いなさいワタクシこそ…」
――「ごめん、なんか変なノリに付き合わせた」
りドる「って、もうお終いですの!? これからがいいところでしたのに」
――「ところでさっきのは…俳句?」
りドる「5・7・5なら俳句とは少し短絡的ですが、ダンディライオンが季語と言えなくはないから大体あっているですわ」
――「ここの犬とは関係…ないか、ライオンは猫科だしな」
りドる「咲いた花は散りそこには何もなくなりましたが、その種はきちんと飛んいき人の心に植えつけられましたわ。
    人のもつ優しさという花はもう一度の春を待つこともなく咲きほこることでしょう」
 
ボケたつもりだったんだけど、スルーされて少し悲しみに包まれた
そしてりドるの言葉の意味を理解しようとしてみる
 
――「犬が優しさを思い出させてくれたと?」
りドる「あの犬な畜生は他者への思いやりができる場を提供させてくれたのですわね」
――「そしてその役目を終えたから消えたのか…」
りドる「いえ、ただ拾われていっただけですわ」
――「拾われたのかよっ! 」
 
いや、いいことだけどさ
胸を撫で下ろす
誰が拾ったか気になるところだったけど
 
りドる「誰にでも優しい心はあるものですね……そう、誰にでも」
 
そう呟くと、りドるはさっき俺が向いていた方向を目を細めて見ていた
 
 
 
(一旦のおしまい)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(学園内:某所)
 
……鼻に生温かいものを感じ取り私は夢の世界から引き戻される
 
さとり「ダメよ、くるるん……こんな時間に…」
 
悪戯の主を咎めようと瞼を持ち上げ非難の声を続け―――
 
さとり「っっ!?」
 
目の前にいたのはいつも一緒にいる天真爛漫な娘ではなく
顔、いや体中を毛で包んだ小さく丸いモノだった
 
??「ワン」
 
…犬?
 
くるる「あれー、さとりん起きた?」
 
私の声と一匹の鳴き声に気づいたのか遠くからパタパタと足音を立ててこの館の同居人がこちらに向かってくる
 
さとり「コレは…何?」
くるる「可愛いでしょ~」
さとり「何で犬がいるの…」
くるる「拾った!」
 
手段や方法じゃなくて理由を聞いているのに…
 
くるる「さとりんを守るナイトの2号の登場だ、これで私がいない間も寂しくないよね?」
さとり「私のために?」
くるる「ここんところラボが忙しくってあんま会えないからさ、代わりといっては不足だけど番犬として雇用したの」
さとり「三食昼寝つきの高待遇ね」
くるる「そそ、名前は…私の2号だからくるる2号だ! きっと力も強いぞ」
 
嬉しそうに語るくるるんを見て思い出す
そういえば犬飼いたいって前から言ってたっけ…
 
さとり「それじゃあ色々よろしくね、くるりん」
くるる「2号じゃないのー?」
さとり「くるる2号だから愛称で“くるりん”」
くるる「くるりんか~、う~ん、かわかわ」
 
言いながらくるるんは子犬の頭を撫でる、とても頬が緩んでる
…まったく、素直じゃないんだから
でも私のためってのも嘘じゃないことは分かってるつもり
くるるんが研究のためにここによる時間が減っているのは事実だし
私が夢に落ちている時間も少し延びてきていた
それでもいいと思ってたけど、彼女はそう感じてなかったらしい
 
さとり「くるるん、ありがとう」
くるる「どういたしまして、今日は新しい同居人の歓迎会でもしようかな、なら早速準備準備っと」
 
足早にキッチンの方向へ行ってしまう
私のためじゃないことに少し寂しい感じもしたけど、逆に嬉しかった
家族が増えるってこんな感じなのかな…
「ワン」と一声鳴き、その子犬は私の足元にじゃれ付いてくる
 
さとり「これからよろしくね、私の可愛いもう一人の騎士さん」
 
そう言って私は新たなナイトさんとくるるんの料理の到着を待つことにした
きっとこんばんはご馳走ね…
向こうからもれてくるくるるんの鼻歌を聞いて、今日だけはダイエットをお休みしようと心に決めた
 
 
 
(おしまい)