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Last-modified: 2009-07-05 (日) 12:48:54
 

1.

 

――ぎゃー!やられたぁ!
雛「ふっふーん。まだまだだねぇとっしー」
――くそぅ……後ちょっとだったのに……

ゲームセンター『KO-RINDO-』そこで俺と雛ちゃんはいつも通り格闘ゲームで対戦していた
……まぁ、連敗記録を絶賛更新中な訳だが

雛「でも結構腕上げたよね、とっしー。ヒヤヒヤした場面が何度かあったよ」
――……うーん、いいところまで行くんだけどなぁ……後ちょっとが届かない……
雛「まぁ、私もそう簡単に負ける気なんてないけどね。…でもうかうかしてられないかなぁ」
――くっそー、いつか必ず連敗記録を破ってみせるぜ……
雛「その意気、その意気。……お、乱入だ」

俺と雑談しながらも適当にCPUをボコっていた雛ちゃんに、2P側から乱入者が来た模様
……一体誰だろう、と思いつつそっと2P側を覗いてみた。そこに居たのは……

――アレ?ボム先生……何してるんですか?

女性にしてはやけに大柄でいい体つきをした、如何にも体育教師といった風貌でありながらも音楽教師のボム先生だった

ボム「おー、としあきじゃないかー。お前さんこそ何してるんだー?」
――あー、俺は雛ちゃんと一緒に……
ボム「雛……?あぁ、KINGのことか。私もたまにここでKINGと対戦するんだ」
――そーなのかー
雛「せんせー、手加減しませんよー?」
ボム「こっちこそなー」

程なくして、二人の対戦が始まる。てか、教師なのに堂々とゲーセン来ていいものなのか……?
しかし手持ちぶたさになってしまった……。今の内に休憩しておくかな。ちょうど喉も渇いたし……
早速白熱している二人の対戦を尻目に、俺は自販機へと向かった

 
 

2.

 

自販機で変なジュース買ってる地子ちゃんにでも会うかと思ったら、そんなことは無かったので普通にコーラを買った
さて、雛ちゃんのところに戻ろうか、と思った矢先に圧殺さんと会長の姿を見つけた
……あぁ、そういえばAIBO-関係になったんだっけ……あの二人
何してるのかと様子を窺うと、どうやら圧殺さんがパンチングマシーンに挑んでいるようだ。会長は笑顔で応援してる
数値は……60と58。女性としてはまずまずでは無いのだろうか?
だが圧殺さんは何となく不満気のご様子で眉を顰めている
ラスト一回というところで、圧殺さんはおもむろにグローブを外す。……止めるのか?

だぜだー「あっちゃん、グローブ着けないと危ないのぜ?」
圧殺「うん……分かってるけど……ちょっと本気でやるのに邪魔だから…」

…今までは全力じゃなかったのか……。どうでもいいが、『やる』が『殺る』に聞こえてしまうのは俺の気の所為か
何て思っていると圧殺さんはパンチングマシーンからどんどん離れていく。……何をする気なんだ……?
そして、大体7、8メートルくらいの距離を開けたところで、歩みを止める

圧殺「……これくらいかな……?」

言いながら振り向き、再びパンチングマシーンと相対した圧殺さん
そして、少しだけ腰を落とし、まるで滑るかのように助走を始める
ダッシュした先にあるのは当然パンチングマシーン
弾丸のように突っ込んだ圧殺さんはその速度そのままに―――

圧殺「……しっ!!!」

痛烈な張り手を、マシーンのミットバックに叩きつけた
……ちょ、今台揺れたぞ……。固定されてるハズなのに、数センチ動いたような錯覚すら覚える……
こえー、圧殺さんの張り手こえー。……気になる数値は……?

圧殺「……180、か……。結構イケたかな……」

三倍っすか、マジぱねぇっす。どこぞの赤い彗星じゃあるまいし……

だぜだー「あっちゃん、すごいんだぜ!」

そしてその数値を見て、まるで自分のことのように喜ぶ会長
圧殺さんも褒められて悪い気はしないのだろう、「そ、それほどでもない」と恥ずかしそうに頬を朱に染めてはにかんだ

圧殺「…つ、次は……どうしようか……?」
だぜだー「折角だから二人で出来るゲームがいいんだぜ!」
圧殺「……二人で……そうね……アレとか、どうかしら……?」

そう言って圧殺さんが指差した先にあったのは、迫り来るゾンビを撃って撃って撃ちまくる、定番のガンシューティングがあった

だぜだー「おー、面白そうなんだぜー!じゃあ、あっちゃん!一緒にやるんだぜ!」

子供のようにはしゃぎながら、会長は圧殺さんの手を引き、件のゲーム台まで移動する

――お熱いことで……

そんな二人の光景に少しぱるぱるしながらも、俺はその場を後にした

………もしかしたら、他にもウチの学校の生徒が来てるかもしれないな……ちょっと見て回ってみるか……

 
 

3.

 

天子ちゃん「うがー!また獲れなかったー!」

適当に店内をブラついていると、何処からともなく悔しそうな叫び声が上がる
声の主の元へと足を運んでみると、UFOキャッチャーの前で、天子ちゃんが「獲れねー!これマジ獲れねー!」と喚いていた

天子ちゃん「くっそー!地子ちゃん!これ両替してきて!こうなったら獲れるまでやったるでー!」
地子「……別に構いませんけど……もうお止めになったら?すで二千円もつぎ込んでますわよ?」
天子ちゃん「ここで引き下がったら女が廃る!欲しがりません勝つまでは!」
地子「……はぁ……何を言っても無駄みたいですわねぇ」

心底呆れた様子で地子ちゃんは呟き、渡された千円札を片手に両替機へと向かう

乳茶「うふふ……天子ちゃんさん、頑張って下さいね」
天子ちゃん「おー!任せといてー!……えーと、緑茶ちゃん!」
乳茶「ミルクティーですわ」

意気揚々と再びUFOキャッチャーに挑む天子ちゃんに声援を送るミルクティーちゃん
……何というか、意外な組み合わせだ
しかし天子ちゃんが挑んでいるこの店のUFOキャッチャー、確かアームの保持力が弱めに設定されていて、余程の玄人でもない限り易々と獲れない台なんだが……
でもあんなにやる気になってる天子ちゃんに水を差すのも悪いよなぁ……

地子「両替、してきましたわよ!…幾ら他人事とはいえこれで最後にして下さいまし!」
天子ちゃん「分かってるってー。何かもう少しで獲れそうな気がするんだよねー」
乳茶「ふぁいとですわ!天子ちゃんさん!」
天子ちゃん「合点だぜ!烏龍茶ちゃん!」
乳茶「ミルクティーです」

……何この天然コント……
ともあれ、天子ちゃんの挑戦は続く
だが、無情にも天子ちゃんの持ち弾はあれよあれよと言う間にUFOキャッチャーへと飲み込まれていく
そしてラストチャンス!というところで、天子ちゃんの頑張りが実ったのか、あるいは奇跡か。天子ちゃんのお目当ての人形が無事取り出し口へと続くポケットへと落ちて行く

天子ちゃん「うおぉぉぉぉぉぉ!!?や、やったぁぁぁぁ!?」
地子「や、やりましたわね!天子ちゃんさん!」
乳茶「執念が実りましたねー。ぱちぱちー」
天子ちゃん「やった…!やったよー!地子ちゃん!十六茶ちゃん!」
乳茶「ミルクティーです」

寄り添い、がしっと抱き合って喜びを分かち合う三人
そして喜びの余韻そのままに、天子ちゃんは取り出し口からゲットした戦利品を手に取る

天子ちゃん「ゆっくりてんこ、ゲットだぜー!」

手にした生首に良く似た人形を高らかに持ち上げて宣言する天子ちゃん
……正直、あんまり可愛い人形とは思えないけど……
その後、天子ちゃんはランラン気分で店を後にし、地子ちゃんとミルクティーちゃんもそれに続いて帰っていった

……よし、次行こう……

 
 

3.

 

店内の奥まったスペースにひっそりと鎮座し続けている音ゲー関連の台
その一角……DDRのスペースで軽快なダンスを披露している女学生……確かNavi先輩だっけ……?面識無いけど…
正確に踏まれていく記号は勿論全てパーフェクト。振り付けもバッチリのその可憐な姿はまるで水面で戯れる妖精のようだ
そしてフィニッシュターンと同時にビッと人差し指を立て、同時にじゃん!と曲が終了する。やったー!カッコイイー!

PNG「相変わらず上手いのぅNaviは」
ゆフラン「……うん……カッコイイ……」
Navi「…お、煽てても何も出ませんよ?」

付き添いであろう二人の女生徒に賞賛を送られ、少し照れくさそうに台から降りるNavi先輩

PNG「では次はワシが踊ろうかのぅ」
ゆフラン「……老師、ガンバ……」

Navi先輩と入れ替わりに、老師と呼ばれたお団子頭の中華風少女が台に乗る
…何故老師なのかは知らないが……そう呼ばれるくらいだからNavi先輩並みの腕前を誇るんだろうか……?
程なくして老師のダンスが始まる。……だが、俺の期待していたモノとは、かなり違った

PNG「ほっ!はっ!ぬわぁ!!!」

そこには、奇声を上げながら拙い盆踊りのようなへろへろダンスを披露する少女が居た。……正直ガッカリです

Navi「あははー老師ったらおかしいー」

だがNavi先輩にはツボだったようで、老師のダンスを見ながら腹を抱えて笑っている

PNG「……むぅ……Naviのようにはいかんのぅ……」

渾身のダンスを一笑され、落ち込む老師。……まぁ、アレは確かに笑えるが……

ゆフラン「……老師、Naviちゃんの動きをスキャンしちゃえばいいんじゃない……?」
PNG「……むぅ……その手があったか!よしNaviよ、もう一度踊ってくれんかのぅ?」
Navi「いいですよー」

言いながら再び老師と入れ替わるNavi先輩。……スキャンって……何のことだ……?
そうこうしている内に、またNavi先輩が踊り始める

PNG「ほあぁぁぁぁぁ!」

そしてその踊りを、奇声を上げつつ食い入るように見つめる老師。………心なしか目が光っているように見えるのは気のせいか……?

PNG「うむ!スキャン完了じゃ!」

そのままNavi先輩が踊り終わると同時に、老師は満足気にそう宣言する。……結局何をしたんだろう…?

Navi「お役に立てたみたいで何より」
ゆフラン「二人ともお疲れ様……。じゃ老師、早速試してみたら?」
PNG「そうするかのぅ。よーし、二人共見ておれよ」
Navi「キャー!老師ー!頑張ってー!」

Navi先輩の声援を受けつつ、老師が再び台へと上がる
……大丈夫なのか……?ただNavi先輩が踊ってるのを見てただけじゃないか……
だが、俺の疑念はすぐ驚きへと変わる
老師が、先程の盆踊りとは比べ物にならないくらい軽やかに、スピーディに、そして美しく舞ったからだ
まるでNavi先輩の動きを寸分違わずトレースしたかのような動きに、俺は息を呑むばかりだ
やがて曲がクライマックスに差し掛かり、Navi先輩と同じくフィニッシュターンを決めて見事に踊り終える老師
自然と他の二人から賞賛の拍手が鳴った。…俺も覗き見勢でないなら一緒に賞賛を送りたいところだ

Navi「すごいすごい!あそこまで完璧に私の動きをトレース出来るなんて、くるるさんの技術力には舌を巻くわぁ」
ゆフラン「……でも動きをトレースしただけ……。ここからの応用が肝心……」
PNG「……ゆフランの言う通りじゃのう。幾つかパターンをスキャンすれば、そこからワシ独自の動きを構築することも可能じゃが……」
Navi「じゃ続きは私の家でやろっか?」
PNG「そうするかのぅ」
Navi「ゆフランちゃんはどうする?一緒に来る?」
ゆフラン「……私は……運動は苦手だから……」
Navi「そう……残念。でも、気が向いたらいつでも言ってね?」
ゆフラン「……うん……」

その後店を出た三人は軽く挨拶を済ませ、二手に分かれて帰路に付いた
……何だか家族みたいに微笑ましい人達だったなぁ……

むぅ……何だか観察するのが楽しくなってきたぞ?
次、行ってみるか

 
 

4.

 

今度はレースゲームコーナーでカーチェイスによるデッドヒート(勿論ゲームの話だ)を繰り広げているくたくたさんとしかねぇさんを見つけた

しかねぇ「恥知らずなクソ兎はさっさと事故ってそのままリタイアするがいいっスよ」
くたくた「……実際の車ならいざ知らず、ゲームで事故ってリタイアとか……ある訳無いじゃん……バカじゃない……?」
しかねぇ「フン!それくらいの心意気で派手に負けろって意味ッスよ」
くたくた「……そっちこそ……周回遅れで屈辱的な敗北を味わう前に帰ったら……?」
しかねぇ「……ぐぐぐ……相変わらずムカつくヤツッスね……」
くたくた「……フン……」

…相変わらずこの二人はいがみ合ってるんだな……
喧嘩する程仲がいいとは良く言うけど

くたくた「……どうでもいいけどこれで最後にしてよね……?私、忙しいの……」
しかねぇ「ハッ!忙しいと言いつつゲーセンに寄り道ッスか?語るに落ちたッスね!」
くたくた「……訂正するわ……。バカの相手をしてる暇無いから、これで最後にしてね……」
しかねぇ「負け惜しみなら後でたっぷり聞いてやるッスよー」
くたくた「…………」

ふふん、と鼻で笑うしかねぇさんを一瞥し、くたくたさんは再び画面に視線を戻す
そして始まる二人の対決。互いのテクニックを駆使し、一進一退のチェイスは続く
最後までいい勝負だったが、すんでのところでくたくたさんが先にゴールした。競馬で言うところの鼻差での勝利だ

しかねぇ「……くぅ……もうちょっとだったのに…ッス……」
くたくた「……惜しかったわね……まぁ、それなりに楽しませてもらったわ……」
しかねぇ「…フン!そいつは良かったッスね!……あー!もう帰るッス!!!」

憤慨しながら地団駄を踏み、これ以上ここに居たくないと言わんばかりにさっさと店を後にするしかねぇさん
そんな彼女の様子に溜め息を吐きながら、くたくたさんもまた店を後にした

……まぁ、言う程仲悪く……無いよね、あの二人……

 
 

5.

 

先程買ったコーラも飲み干して、空き缶をゴミ箱に捨てたところで、俺は奇妙な物を見つけた
黒帽子に黒マントをつけた、如何にも怪しげな風貌の人物。…体格から見て俺と同世代くらいの女の子のようだ
その彼女(彼?)は、何やらタイピングゲームに興じているご様子
提示された文章をローマ字入力し、それをクリアしていく……そんなゲームだ
目の前のキーボードを淡々と打ち込み、課題をクリアしていく黒マント
……正直、俺には何が楽しいのかよく解らない
ほどなくして全ての工程を終えた黒マントはスコアネームを入力した後、立ち去るのかと思いきや再び百円をゲーム大に投入。まだプレイするようである
何の躊躇いも無く最高難易度を選択し、先程と同じように淡々とキー入力を繰り返す
もう一度終えたところでまた百円を投入。それを何度か繰り返す
……あんなゲームを何度もやるなんて、余程好きなんだろうなぁ……理解出来んが
まぁ、その光景をボーっと見つめてる俺も相当アレな感じではある
何度かプレイした後、黒マントはやっと満足したのか、そそくさと帰っていった。……格好の所為もあって完全に不審者にしか見えない
その後、何となく気になったのでスコアネームを見たら、見事に一つの名前でぎっしり埋まっていた

exe.と

…それが彼女の名前なのか、他の何かを示すモノなのかは……当人しか知り得ない……

 
 

6.

 

そろそろ雛ちゃんのところに戻ろうかな、と思った矢先に、ゲーセンで会うことは無いだろうと思っていた人物を見かけた。いつもの先生だ!

――先生、何してるんですか……?
いつもの「…えっ?あら、としちゃん。何って……見ての通りですよー」

見ての通り、と言ったいつもの先生が興じていたのはオセロゲーム
相手は将棋部のパンダさんだ。相変わらずのナイスバディですね!

パンダ「……今、邪な思念を感じた気が……」
いつもの「………としあき君?またえっちなことを……」
――えっ……ちょ!ち、違います!考えてません!

心を読まれた!?……それとも顔に出やすいのか?俺……
そんな俺を嗜めるようにジト目で俺を見るいつもの先生。うおぉ!そんな目で俺を見ないでくれ!

いつもの「……まぁ、いいでしょう……。今パンダさんと勝負中なんですから、無粋な真似はしないように。いいですね?」
――は、はい…

怒られてしまった……。説教がこなかっただけマシか……
そして視線を画面に戻し、顎に手を掛けて何やら考え始めるいつもの先生
…オセロって、そんな長考するようなゲームだっけ……?
まぁ、こうして何手も先の手を考えて、その読み合いをしているんだろうなぁ……
そんな長考の末、漸くいつもの先生が動く
先生の黒の石が、パンダさんの白石を黒く染める。……って言うと何となくエロス
いつもの先生が勢力を広げた盤面を見て、今度はパンダさんが長考に入る
……そういばオセロって覚えるのに一分、極めるのに一生。とかいうキャッチフレーズがあったっけ……
単純な物程奥が深い、ということか……

なのか「パンダちゃん、頑張るのだー」
パンダ「ふふ…ありがと、そーなのかちゃん」

思考を巡らすパンダさんに、リボンの少女……そーなのかーちゃんが声援を送る。てか、居たのか

――じゃあ、俺はこれで……

この張り詰めた空気……耐えられそうも無いので、さっさと退散することにしよう

いつもの「さようなら、としちゃん。あまり寄り道しないで気をつけて帰るのよ?」
パンダ「ばいばーい、としあき君」
なのか「帰るのかー」

…先生だって寄り道してるじゃないですかー、と言いたかったが、余計なことを言うと後が怖いので止めておいた

 
 

7.

 

???「あれー、としあきじゃん」

いい加減雛ちゃんのところに戻ろうとしたところで突然声を掛けられた。にんっさんだ

――あ、にんっさん……珍しいですね、ゲーセンで会うなんて…
にん「そういえばそうね。私はあんまりこういう所来ないしねー」
――…で、何か用ですか……?犯罪には加担しませんよ……?
にん「やだなー。まるで私がいつも犯罪紛いのことしてるみたいじゃない」

……犯罪紛いというか、裏で色々やってそうなイメージが強すぎるのが原因なんだけどね…

――そんなつもりで言ってませんよ
にん「ふぅん…どうかしら…?暇ならちょっと付き合わない?これからアベサンと人勝負するから」
――…はぁ

うーん、どうしよう……?ちょっとくらいならいいかな……。俺が何かする訳じゃないし……

――まぁ、ちょっとだけなら……
にん「よし、決まりー。付いて来てー」

言われるままににんっさんに付いて行った先は、二階にあるビリヤード場
そこには、キューを片手に待ちぼうけを喰らっているアベサンと、その相方である上海ちゃんが居た

にん「お待たせー」
アベサン「遅いぞー。全く……待ちくたびれたよ」
にん「いやー、ゴメンゴメン。じゃ、始めようか……」
アベサン「あぁ…」
にん「折角だし何か賭けようか?私が勝ったら一日上海ちゃんを好きに出来―――」
アベサン「却下。俺のマイハニーを一日お前と過ごさせたら、淫乱でエロエロな子になっちまう」
にん「えー、別にいいじゃない、それくらい……」
アベサン「バカ言え。俺のマイハニーは慎ましくて愛らしいからいいんだよ」
上海「アベサン……」

アベサンとにんっさんのやり取りに頬を赤く染めてうっとりする上海ちゃん
……俺はわざわざのろけを見せられに来たのか…?

にん「じゃあ3Pでいいよ」
アベサン「エロ方面でしかモノを考えられないのか…」
にん「……しょうがないなぁ……じゃ、勝った方が先に野菜さんを壊す権利を行使出来る、でどう?」
アベサン「……それならいいな。乗った」
にん「じゃナインボールの1セット勝負で」

いいのかよ!?てか何だよ野菜さんを壊す権利って……。野菜さん逃げてー
そんなやり取りをしながらも二人はバンキングで先攻を決め、先攻はアベサンに決まった
そしてブレイクショット。この一突きで4番と6番がポケットに落ちていった
その後も1番、2番と快調にボールをポケットしていくアベサン

にん「中々やるわね」
アベサン「まぁな。このまま頂かせてもらう…!」
にん「出来るかしらね?勝負は最後の一手まで分からないものよ?」
アベサン「ごもっとも」

言いながらも3番ボールを冷静にポケットするアベサン
だがナインボールは最終的に9番のボールをポケットに落とした方が勝ちである
だから今優勢だと言っても、最後の最後までどうなるかは分からない
しかし勢いはそのままで5番ボールもポケットし、アベサンの快進撃は止まらない
そして、徐々ににんっさんの表情に陰りが見え始める
このままアベサンが順調に落としていけば、もしかするとにんっさんは一突きもしないまま勝負がついてしまう可能性もあるからだ

アベサン「……むっ……?」

だが、ここでにんっさんにもチャンスが巡ってくる
続けて7番を狙ったアベサンだったが、ボールはレールに当たってポケットに落ちることなく残ってしまう

アベサン「……しまったなぁ………」

あのままの勢いで勝ちたかったであろうアベサンにとっては痛いミスだ

にん「よーし、漸く私の番ね……。一突きも出来ずに終わらせられんじゃないかと、ヒヤヒヤしたわよ」

言いながらにんっさんはキューを持ち、手球を7番へと向けて狙いを定める
……どうでもいいがにんっさんはスカートだ……
ショットフォーム中のにんっさんの後ろに回ったら……ぱ、パンツ丸見えなのでは……?ゴクリ

にん「としあきー、見たいなら見てもいいわよー?」

そんな俺の心を見透かしたかのように、にんっさんはニヤニヤと俺を見る

――べ、別に見ません!

……くそぅ……俺ってそんなに分かりやすいんだろうか……?
なんてやり取りをしながらもにんっさんはアベサンがポケットしそこなった7番を確実に落とす

にん「ふっふー、これは私の勝利確定かなー?」
アベサン「ふっ……そういう慢心でラストショットをミスするプレイヤーを、俺は何人も見てきた…」
上海「そうです!最後の最後まで、勝負は分かりません!」
にん「……そうねぇ……肝に銘じておくわ」

そうは言っても、残るは8番と9番のみ。にんっさんがミスをしない限り、このまま勝負は決まってしまうだろう
そしてにんっさんはアベサンに負けず劣らずの集中力で8番ボールも落とす。これで残りは9番のみ

にん「…これで……頂くわ…!」

残った9番に向けて、にんっさんの手球が走る
……これがラストショットかと思われたその時―――
9番は僅かにポケットへの角度を逸れ、レールに当たって止まってしまう

にん「…ちょ…!嘘でしょ…!?」
アベサン「ほぅ……どうやら俺はまだ、勝利の女神から見放されてなかったらしい……」
上海「頑張って!アベサン!」
アベサン「……あぁ」

思いがけず巡ってきたチャンスに、アベサンはキッと表情を引き締め(紙袋被ってるけど)9番へと狙いを定める
にんっさんは、といえば、何やら「外れろ~外れろ~」とアベサンに向けて邪念を送っていた
……プレイヤーの気を引くような行為はマナー違反なんだが……
そんなにんっさんの邪念など物ともせず、アベサンはラストショットを放つ
手球に弾かれた9番はそのままポケットへと一直線で向かい………
ガコン、と音を立てて吸い込まれていった

アベサン「……よし…!」
上海「やったー!流石私の相棒!
にん「うわー……やられたわー……」

グッと拳を握り、静かに勝利を噛み締めるアベサン
そのアベサンに抱きつき、勝利の喜びを分かち合う上海ちゃん
二人とは対照的にガックリと肩を落とすにんっさん
その後アベサンとにんっさんは握手を交わし、互いの健闘を称え合う
………アレ?にんっさんが関わってるのにクリーンに終わったぞ……?何だこれ……

…まぁいいか……。そう思いつつ、俺は三人に別れを告げて雛ちゃんの元へ戻ることにした

 
 

8.

 

雛「あー、もうとっしーってば何処行ってたのよー!」

雛ちゃんの所に戻ると、ボム先生との対戦はすでに終わっていて、二人で談笑し合っていた

――いや、休憩がてら店内をうろついてた。ゴメン
雛「ふーん……ま、いいけどね……。じゃ、今日はそろそろ帰ろっか?」
――ん…そうだね……
雛「じゃボム先生、私達はこれで」
ボム「おー、気をつけて帰るんだぞー。後、としあきー、送り狼になるなよー?」
――し、しませんよ…そんなこと……
雛「………して……くれないんだ………とっしーなら、私別に………」
――えっ?何か言った?雛ちゃん
雛「な、何でもない!か、帰ろ!」
――……?う、うん……

 

こうして俺達はゲーセンを後にし、帰路に付いた