ss84993

Last-modified: 2009-07-05 (日) 11:50:23

(教室)
 
「はーい、では宿題は忘れずにやってくるんですよ。忘れた生徒にはそろそろ成績に白黒つけますからね」 
その言葉とともに、いつもの先生の授業が終わった
一日の授業も終わりあとは適当に帰路につくだけ
今日も平和だ…
「鮭はパンダさんに骨まで食べられたし、ちーすけはとうとう塀の中、二人ともあっちじゃ元気にしてるかなぁ…」 
「オイィ、勝手に殺すなっ!」
「誰がワイセツ物チン列罪ならびに婦女暴行の現行犯かっ!」
「「もう、お前しかレイプしない!!」」
呟いた言葉に二人の反応が返ってくる
ただの希望を口にしただけなのに…最後は丁寧にハモってやがる
大したヤツらだ…
「お前らこれから帰りか?」
一応帰りの予定を聞いておいてやるか、情報を得ることで回避できる危険もあるはず
事件や事故に巻き込まれるのは、もうごめんだからな
俺は平和に生きたいんだ、安心を得ることこそが幸福だってどこかの犯罪者も言ってたし
「俺はひと泳ぎしてくる、としあきも一緒にどうだ?」
「俺はひとレイプしてくる、としあきも一緒にどうだ?」
二人からいつも通りの返答が返ってくる
「いいえ、私は遠慮しておきます」
我ながら無難な返答だったと思う、この答えなら、いざ変な缶詰を食わされそうになっても回避できるはずだ
「ひと泳ぎならわかるけど、ひとレイプってなんなんだよっ!?」
やっと突っ込むことに成功した
最近まっとうな思考が遅れてきている…この学園に来ていろいろと変なことに慣れすぎたようだ
「なんなんだって…人を一人づつレイプしていくから、ひとレイプ、だろ」
「誰上…って、一人じゃなくて一人づつかよ!」
「うむ、マイハニーが一人で満足するわけがない、しかし紳士ゆえに相手は常にひとり、当然そうなるな」
「いや、紳士はそもそもレイプなんてしないし変態じゃないだろ!」
「その答えは無粋だな」
「ああ、無粋だ」
マイノリティの意見が消えるのはいつだって世の常か…畜生
いつか俺はクラレッタのスカートを直す存在になりたい…

 
 

変態二人に別れを告げ、何をしようかと考えていると後ろから声をかけられる
「としちゃん、宿題を忘れちゃダメですからね。ここのところ忙しいからって学業を疎かにしてちゃ、私もしかるべき手段にでますからね」
「いつもの先生、まだいたんですか!?」
「警告してたのにとしちゃんが普段と変わらない顔だったから注意に来たんです。としちゃんは白より黒に近い成績の生徒筆頭なんですからね…そもそも最近のとしちゃんときたら……」
お説教モード突入か、このままだと単発大当たりで終わりそうにないな
ここは奥の手である三十六計を使わせてもらおう
それは…“逃げる”だ!
「なんだかきゅうに べんがくに はげみたくなったぞー、せんせーさよーならー」
言うが早いかその場を後にする、我ながら凄い棒読みだ
後ろで「お話はまだ終わってませんよー」と聞こえてる気がするけどきっと幻術だ

 
 
 

(渡り廊下) 

 
 

いつもの先生から逃げることには成功したけど、ここはまだ校舎内、また先生と鉢合わせしないとも限らない
先生が職員室に戻った頃に帰ればいいか
それまで俺は普段使わないルートを歩いて時間を潰すことにした
「そういえば放課後にこの辺を歩くことって少なかったな」
校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩きながら感慨に耽っていると前方から3人組(?)が走ってくる
おいおい、廊下は歩きなさいってどこかに書いて…なかったな
自由すぎるだろこの学園
ジェットストリームアタックのように縦一列に並び近づいてくる
いや、先頭の女性とを追いかけるように続いているだけみたいだ
なら踏み台にはされないだろう、ほっと胸をなでおろす
「だから私達の関係はもうお終いにしましょうって~」
「そんなこと言われても納得できません、だから私の愛を受け取ってください!」
「あるじ様から離れるのだ! この悪い虫め!!」
脇に避けてやり過ごすとそんな会話をしていた
「楽しそうだなぁ」
本人たちはどう思っているか分からないけど
3人が通り過ぎた先をボーっとみていると、突然頭部に衝撃が走り、急に側面から大地が近づいてくる
それが自分が倒れているだということに気づいたのは、俺は意識を失う直前だった

 
 

「…う~ん」
頭がズキズキと痛む…
患部を触ろうと手を伸ばすがなにか弾力性のあるものに阻まれる
「きゃぅ!」
高い声が上がる
「?」
目を開けるとそこにはこちらを覗きこんでいる女の子がいた
どうやら膝枕されている女の子のに太ももを触ってしまったようだ
痛みで感覚が麻痺しているせいで気付かなかった
役得なはずなのに頭が痛いから感触が楽しめない…って、何を考えてるんだ俺は
「ごめん」
とっさに謝罪の言葉が出てしまう
「よかったぁ、目を覚ましてくれて…死んじゃってたらどうしようかと思いましたぁ…」
半泣きの顔で言われた
「大丈夫だ、この俺は今までの人生で、まだ一度も死んだことはない」
親指をグッと立てながら女の子を安心させようとする
膝枕された状態でこのポーズ、逆にこれ死亡フラグじゃね? という考えが頭をよぎった
…忘れることにしよう
「ありがとう、えっと、キミはたしか…」
「イトミです…どこかでお会いしてましたっけ?」
此処ではない何処かで、今ではない何時かであったような気もするけど、一応挨拶しておこう
「俺はとしあき。イトミちゃん、俺はなんでこんなうれしい状況になっているのか説明できるかな?」
状況の確認をしておこう
「ごめんなさい、ごめんなさい、ボクのせいで…」
…?
「このボールをぶつけたの……ボクなんです」
言ってソフトボールを見せてくれる
さっきの衝撃はこのボールのせいらしい
血痕などは見当たらないから、そこまで酷いことにはなってないようだ
流石にずっとこの格好も悪いので勢いよく上半身を起こす
ズキリと頭が痛む、まだ衝撃を与えるのはよくなかったらしい
「今、先生を呼んでもらってるからもう少し休んでてください」
頭を押さえているとイトミちゃんが気をつかってくれる
「じゃあ俺はここで休んで待ってるから、イトミちゃんはもう気にしなくていいよ、命に別状はないだろうし」
「でも……」
罪悪感からかその場から動こうとしないイトミちゃん
なんだかこっちが申し訳なくなってくる
「ところでイトミちゃんはここで何を?」
仕方ないから安心させるために何か話でもしておこうと話題を探す
「壁当てです」
うわぁ…なんだろ、聞いちゃいけないこと聞いてしまった気がする
キャッチボールならまだしも、一人でボール当てって部活動じゃないよな
「あ、勘違いしないでくださいね、秘密特訓なんですよ、一人寂しくってわけじゃないんですから」
顔に出てたらしい…体は正直とはよく言ったもんだ、嬉しくないことに
「もう少しで何かつかめそうなんです」
「じゃあ俺は次はイトミちゃんの投げたボールをつかめるようにしておくよ」
…ちょっと意地悪だったかな
でも、これだけの軽口を叩いておけば呆れるか、もう大丈夫だって分かるだろう
ちらりとイトミちゃんの顔を見る
「ご、ごべんなざ…」
大泣き寸前だった
「や、ちがっ、ごめん、冗談! だから泣かないでっ!!」
こんな少女を泣かせたとあったとしったら、いくらの雷影様だって黙ってはいませんね
……あの人マジ許しそうだけど
「なんっ……だ、冗談………でも……心配、だったんで、すっ…よ」
涙を抑えながら訴えてくる
なんなんだろう、この反応、すごくやりにくい
「ボール投げてるところをみると、イトミちゃんはピッチャーか何かかな」
話を逸らそう、このとしあきの処世術のみせどころだ
言っておいて、補欠だからとか外野手だったりしたら目も当てられないなぁと思う
きっと大丈夫と信じたい
「よく分かりましたね、ボク、伝説のピッチャーに憧れて始めたんですよ」
よかった、地雷は踏んでない
「伝説…?」
そこで不思議な単語を耳にしたことに気づく
有名なピッチャーは数多くいても、あのICHIROほどに伝説を残すピッチャーなんていただろうか…
「126対0を一人でひっくり返した人です」
そんな不屈の闘志を持った人がいるのか…世界は広いな
「もう少しでその人の使った魔球を真似た乙女球が完成できそうだったんですけど、さっき投げた瞬間に一瞬意識が飛んでしまって…」
暴投して俺にデッドボール、か
「投げた球が、あそことあそことあそことあそこに跳ね返ってとしあきさんの頭に当たってしまったようなんです、本当にごめんなさい」
イトミちゃんが指さした先には枝の折れた木、凹んだ鉄骨、穴のあいたコンクリートの床、頭のもげた理事長の像があった
直撃だったら即死レベルじゃね、ソフトボールの威力じゃないだろこれ
知らぬ間に冷や汗をかいていた
あの、保健の先生は…まだですか?
「大丈夫さ、大丈夫…きっと大丈夫だから、そんなにアヤマラナクテいいよ」
俺は少女に大丈夫だと言い続けていた
まるで自分に言い聞かせるように…

 

(おしまい)