オレこれ
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「お!オレオ!いい朝だな!」
「天子ちゃんか。ぺったん!」
「ぺったん?」
「俺が考えた天子ちゃん専用の挨拶だぞ」
「おお専用!三倍だな!」
「三倍だ。まあない物は何を掛けてもないんだけどな」
「そうだオレオ!私は、アイドルに……なる!」
「うん……俺思うんだけど、もう天子ちゃんの存在自体が『脈絡』って言葉に失礼だよな」
1
「あらまし……朝天子ちゃんに挨拶したらアイドルになると言い出した」
「誰に言ってんだ?オレオ」
いかん。頭の中でモノローグしたつもりが、口に出ていたようだ。
「しかし天子ちゃん…なんでアイドルだ?」
「なんで…???」
天子ちゃんが首をかしげた。???はこっちの台詞だ。
「だからなオレオ。私はアイドルになるんだよ」
俺に言い聞かすかのように天子ちゃんが俺に話しかける。
おいちょっと待て。なんで視線に若干の哀れみが混ざってんだよ。
なんでわかんないの?みたいな目だよ。
「あの…………まあいいか。時間もったいない」
妥協した。こうして俺たちは、少しづつ大人になっていくんだな。
「そもそもアイドルって、どうやったらなれるんだろうな」
「友達が勝手に応募しちゃって……」
「落ち着け天子ちゃん。まだオーディション会場じゃない」
「つまり、友達が勝手に応募しちゃえば、アイドルになれるんじゃないかな?」
天子ちゃんがからからと笑う。
「そういうもんかね」
まあ、天子ちゃんは何があっても1ミリも喋らなければという条件付きで結構可愛い。
いや、あとできるだけ体の動きも制限して…あと表情も落ち着かせて…まあいろいろやれば可愛いと思わなくもない。
「で…天子ちゃんアイドルになってどうするんだ?キラッ☆ってやるのか?」
「そんなもんじゃねぇ!キィィィィルァァァァ☆ってやるぞ!アスランの物真似しながら」
結構似てた。
「というわけでオレオ、協力してくれ」
「御免蒙る」
「えーっ」
口を尖らせる天子ちゃん。
だって天子ちゃんがアイドルになっても、俺には何の得もないしな。
………いや待て。ちょっと待てよ?
天子ちゃんがアイドルになる
↓
俺がアイドルと知り合いになる
↓
俺とアイドルが二人一組で永夜事変(終わらない夜的な意味で)
……何です!?
「やろう天子ちゃん。今後俺のことはオレオPと呼べ」
「心変わり早いな!」
2
「何はなくとも形から……まずは可愛い服だ。ひらひらふりふりのがいい」
「なるほど可愛い服か!さすがPだな!」
早速俺と天子ちゃんは、学食に場所を移し作戦会議を開始した。
「天子ちゃんも一応、生物学的には女の子に分類される生物……可愛い服くらいは持っているだろう」
「ないぞ!」
「ああ。まずはそれをだな……なに?」
「先月小遣い使いすぎて、服とかすげえ売っちゃったよ!やっすいのな!」
ナハハ、と頭を掻きながら天子ちゃんが爆笑した。
早速胃が痛くなってきたよ。
「………。…まあ、文字どおり、ない袖は振れないというわけだな…」
「上手い!」
「うるせえ!泣くぞ!となると、どこからか調達する必要があるな」
「金はないぞ」
「俺だってない。……つまり、持ってそうな人に貰いにいこう」
「金をか?」
「くれるわけあるか!服だ。
…要するに、普段は真面目そうでカチッとした服装してて
自分には可愛い服なんか似合わないんだわーって思ってるんだけど、実はちょっとそういうぶりぶりの服に
憧れてたりでこっそり買ってきては一人鏡の前で着てみてくるっと回ってみちゃったりしてから
恥ずかしくなって結局人前には着ていけずに箪笥の肥やしにしてしまっている…そんな胸きゅんな人に」
天子ちゃんは聞きながらちょっとうとうとしていた。
俺が喋り終わるとハッと顔を上げ、
「せりふ長っ!…いるのか?そんなの」
と首をかしげた。
「うーん……そうだな……」
・
・
・
「というわけで服ください。いつもの先生」
「くれ!」
「……はい?」
職員室である。
先の俺の妄想にぴったり当てはまる人物といえば、やはりいつもの先生だ。
毛の先ほども根拠はないが、そうであって欲しいという思いだけ携えて、つい来ちゃいました。
「つまりですね。普段は真面目そうで…」
で、思いの丈をぶつけてみました。
命辛々逃げおおせた。
いつもの先生はなんか俺に厳しいと思う。
・
・
・
「ここは二手にわかれよう」
「そうだな!」
服を貰いに行ったのに、着ている服までぼろぼろにされた状態で作戦会議を始めた。
「俺はふまれさんを当たってみる。あの人は普通に持ってそうだ」
「よし、じゃあ私は生徒会つながりで副会長だな!」
天子ちゃんがとんでもないことをいいながらスッと立ち上がった。
「えっ」
「えーと、普段は真面目そうで……こっそり……よし覚えた!
行ってくる!そっちは頼んだぞオレオーーーー!!」
「天子ちゃーーーん!!行くなーーーーっ!!」
俺の制止も空しく、天子ちゃんは生徒会室の方へ走り去った。
億万が一貰えたとしても、ちょっと体のサイズが違いすぎるだろう…。
同じなのはトップとアンダーの差くらいだ。
「………」
……まあ……死にはしないだろう……。
気にせず行くことにした。下手に付いていったら、俺は殺されかねん。
3
「お、いたいた。おーいふまれさん、ふまれさんの服が欲しいんだけど」
「…え?な、なんで?ていうかオレオ、なんでそんなぼろぼろなの?ワイラー(※竜虎の拳外伝)みたいになってるよ」
「ああ、ちょっとワイルド路線で行こうかと思って。半裸の魔力の引き出し方を知りたければ、オレオを見な。
……いや、服を着る以外にどう使うっていうんだ」
「き、着るの…?」
「着らいでか。できるだけ可愛いやつがいい。フリルとか付いてるの。着古したやつでいいよ」
「………」
ふまれさんが難しい顔をして黙り込んだ。ふまれさんも売っちゃったのか?
「ないか」
「いや……あるにはあるけど……え?あれ?何かおかしくない?」
「?…おかしくはないと思うが…いや、強いてあげるなら天子ちゃんの頭はちょっとおかしいかもしれん」
「天子ちゃん?……天子ちゃんが着るの?」
挙動不審から一転、きょとんとするふまれさん。そういえば事情を説明してなかった。
「ああ。……いや、誰が着ると思っていたんだ?」
「オレオ」
即答である。
「ちょっとオブラートに包めよ!そもそもサイズ違うだろ!」
「それもそうだね。あはは」
あははて。これは名誉毀損で訴えたら勝てるんじゃないでしょうか。
「それはそうと、なんでオレオが天子ちゃんの服を探してるの?」
「よくぞ訊いた。今日天子ちゃんに挨拶したらだな……」
ふまれさんに事情を説明した。永夜事変の事は隠しつつな。
・
・
・
「なるほど。で、可愛い服をね……私もあるっていえばあるけど、本格的なのが欲しいんなら
やっぱりあそこに行くのがいいんじゃないかな」
「あそこ?」
「演劇部」
ふまれさんが指を立てて言う。
「なるほど…あそこなら、そういうのがあってもおかしくないな」
「うん。いろんな衣装があると思うよ……今年の新入生歓迎会の部活紹介ときの最高さんはすごかった。
ファイナルファンタジーのラスボスみたいだったよ」
「それ見て入った三人は、一体何を思ったんだろうな」
「うん……」
不思議だ。
と、その時である。
「私の噂かな!?」
「うわっ」
シュッ キュピーンと最高さんが唐突に登場した。
いや、最高さんというか……
「びっくりした!…というかなんだその格好は」
「これかい?」
最高さんがひらりと回転する。
アンテナの生えた鹿のような被り物、トレードマークのマフラーはそのままに、体はなんと水着生足だ。
こんな奇怪な生物は見たことがない。
「みればわかるだろう。最近話題の地デジk」
「部長っ!」
後ろから、えーと……ガチャピンが最高さんを止めた。
チャレンジ精神旺盛な恐竜だと思っていたが、ついにこの学園にも出たか。
「……地デジ力(ぢから)だ。我が演劇部のオリジナルキャラクター」
「セーフです!」
声から察するに、中身は演劇部のすっぽこちゃんらしい。
動きやすい制服であっても平地で転倒するというオーバースキルを持つすっぽこちゃんが
なぜこの様な格好をしているのだ。危険だぞ。
「あうっ」
ほら転んだ。
「今日は弱点強化の練習!」
最高さんが胸を張っていう。演劇部って練習とか真面目にやってたんだな。いやごめん、絶対真面目じゃないな。
「なるほど…つまり後ろの眼福もそういうアレですか」
登場した瞬間から周囲の視線を集めている演劇部だが、特に男子生徒は視線を最高さんの後ろにちらちらとやりながら通り過ぎていく。
それもそのはずだ。
「うん?…ああ、上海ちゃんはちょっと恥ずかしがりなところがあるからね。
度胸付けといった所だね。あと目立つから一石二鳥かな、いや、時折おひねりが飛んでくるからいっせきさんちょう」
「なにおー、マジ許す最高さん」
オーイ、とハイタッチを交わす。
ふまれさんがすごい睨んでるけど、俺は何も悪くない。
「あうあう」
上海ちゃんは顔を赤くして縮こまっている。
上海ちゃんの衣装は、某剣伝説の某アマゾネス軍団の隊長の某ースちゃんである。
この某ースちゃんのおかげでオレオの聖剣もウェアウルフで大地噴出剣。
そんな青春を送ったのは俺だけではあるまい。
こんな光景が日常的に拝めるならば、演劇部も悪くない……ん……?
「……」
「……」
詐欺夫と目が合った。
なんだあれは。
ダン……老師かな?老師のコスプレかな?
「ガンダムです」
「ガンダムか…」
よし、演劇部はやめておこう。
「しかし……こんな性的な目でしか見られない格好、よくアベサンが許したな」
最高さんに向き直って質問をした。これだけ目立っているのだから、嗅ぎつけてきてもおかしくなさそうなものだが。
「いや、許されなかったよ。しかして彼は今、あっちの方で撮影会を行おうとした新聞部の面々と絶賛交渉中」
「交渉ねぇ……」
あっちの方、と最高さんが指さした瞬間にそこの廊下の窓ガラスが吹き飛び、最近校内で時々みかける触手モンスターが空中へ投げ出され
そのまま校庭へ落下していった。
ズズーン、という重低音とともに軽く地面が揺れる。
……。
「決裂のようだね」
「心底残念だ」
4
「なるほど、そういうことなら任せなさい」
最高さんに事情を話したところ、「面白そうだ」と二つ返事で承諾を得た。
「で、肝心の天子ちゃんはどこにいるんですか?」
上海ちゃんがあたりを見回して言う。
「ああ、多分……」
・
・
・
「なるほど、これはひどい」
案の定というか、天子ちゃんは生徒会室の窓の真下の地面にスケキヨスタイルで突き刺さっていた。
「見事にぱんつが丸見えだけど、やっぱりオレオくんはこういうの嬉しいのかい?」
最高さんがにやにやしながら訊いてくる。心外も甚だしい。
「むしろこういう侘び寂びがわからないあたりに、最高さんも女性なんだなとちょっとキュンとくるね。
このパンモロはいただけない。この見せ方には詩(うた)がないよ。そうだろガンダム」
「全然ですね」
詐欺夫がモビルスーツのような無表情で天子ちゃんを見下ろしている。
「そういうものなの?オレオくんたちが特殊性癖とかじゃなくて?」
「そういうものです。例えば……」
と、あたりを見回すと、ちょうどちーすけが通りかかった。
「おお、ちーすけいい所に!この天子ちゃんのパンモロを見てくれ。こいつをどう思う?」
「ん?」
ちーすけは地面に刺さった天子ちゃんに一瞥をくれると、興味なさげに
「ダメだな。詩がない」
「だろうよ」
そのまま去っていった。
「男の世界か…厳しいな…」
最高さんが呟いてメモをとっている。役作りには真摯なのだろう。
「あのー……」
ガチャp……すっぽこちゃんがおずおずと挙手して発言した。
「ん……?ああ、ならばどのようなパンチラにグッとくるか、かい?そうだな……」
「いえ、あの…天子ちゃん、そろそろ助けてあげたほうがよくないですか?」
「………」
全員が顔を見合わせる。そういえば何しにここにいるんだ俺たちは。
「……そうか、そうだった。詐欺夫、ちょっとそっちの足持ってくれ」
「了解です……いきますよ。3・2・1」
「ガンッダァーム!」
息を合わせて一気に引っこ抜いた。
そのまま演劇部の部室へ輸送開始。
コスプレ少女たちを伴った半裸の男とガンダムが気絶した女学生を担いで走る様は大いに生徒達の注目を集めたが
演劇部一行だと知ると、「なんだいつもの事だ」とすぐにそれぞれの日常に戻っていった。
よし、演劇部はやめておこう。
5
「これなんかどうでしょう!」
「もうすこしあれかなー、露出かなー」
「オレオそればっかだな!」
「しかし一理あるね」
部室に着いて天子ちゃんに活を入れた後、衣装合わせが始まった。
人形収集が趣味だという上海ちゃんは着せ替えの段になると妙にイキイキしだし、あれこれと衣装を持ち出しては着替えさせてゆく。
気分は天子ちゃん等身大人形である。
「ではこれは?」
「桃のついた帽子と色鮮やかな菱形の物体のついたスカート……もの凄く似合ってはいるが、何故だろう、これはダメな気がする」
「うん、何故だろうね」
「不思議ですね」
・
・
・
「軍服なんか着せてみたりして」
「銀河の妖精も着てたからありじゃね?」
「致命的なのは似合ってないことだね」
「滲み出るへっぽこ感のせいですかね」
「一日元帥みたいな。ある意味アイドルっぽいですけどね」
「連邦も苦しいがジオンも苦しい」
「天子ちゃんは黙ってなさい。ていうかなんで今日ガンダムネタばっかりなの?」
・
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・
「腋巫女です!」
「腋いいね。腋マジで推してこう」
「意外と処理してるんすね、天子ちゃんは」
「??」
「体毛とか」
「体毛て!」
「はっはっは!体に毛なんか生えるわけないだろ!病気じゃあるまいし!」
「…………」
「オレオ先輩、そこで黙らないでください。キモいんで」
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・
「では……協議の結果、この衣装に決定します!どうでしょう?」
最終的には、少し近未来の風を取り入れたなんとかロイドみたいな感じになった。
なんか妙に似合ってたし、未来に生きてる感がよかったので満場一致というわけだ。
「じゃあ、前振の後に、天子ちゃんになんかアイドルっぽい一言もらおうか!オレオくん前振宜しく」
「ご存じ、ないのですか!彼女こそ、最弱王からスターの座を駆け上がっている超幻想シンデレラ……天子ちゃんです!」
「私、オレオ君と寝たの…」
全員からビンタが飛んだ。
6
翌日。
「お、オレオ!ぺったん!」
「……ぺったん。なんだろうこの罪悪感」
天子ちゃんは無闇に手を上げる癖があるので、強調されてなんだか切ない。
あいさつが済むと、天子ちゃんは突然「あ」と声を上げて
「オレオ、アイドルやめた!私、普通の女の子に、なります!!」
「そうか」
………。
…………。
「ちょっと待てよ!?」
「何です!?」
突然飽きる、という可能性に心当たりがないでもなかったが、おい、一日かよ。
ちょっ、えー。
―――こうして―――
永夜事変は、始まる前に、おれの制服をボロ布にだけして終わったのです。
「天子ちゃん、一言だけいいか」
「おう!」
「天子ちゃんが普通の女の子になるのは、アイドルになるより難しいと思う」
おわし