オレこれ
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「……モニター?」
「左様でございます。雛山財閥で秘密裏に開発された、試作型奉仕兼護衛用メイドロボ。
仮名称、『メイドロイド幼体』…ご挨拶なさい」
「初めまして、メイドロイド幼体と申します!未だ試作段階ゆえ、至らぬところもあるでしょうが…
今日一日、よろしくお願いします!」
「あ、ああ…よろしく。…モニターはいいんだけど、そんな大事な試作品のテストをどうして俺が?」
「はい。やはり最終テストとして実地訓練が必要であるとの判断に至りました。
そして、お嬢様の護衛を任せる以上、どんな災厄にも対応できねばなりません。
雛山財閥の技術の粋を用いて作られた運命測定器によると、本日この学園で最も危険に見舞われるのは
オレオ様であるという測定結果が出た為です。
因みに、明日もオレオ様、明後日もオレオ様でございます」
「うへえ」
1
「ということだけど…一体俺はどうすればいいの?」
ゴゴゴさんがその場を去り、俺とメイドロイド幼体ちゃん…長いな。幼体ちゃんでいいか。が残された。
「何も。普段と同じように、日常生活を送っていただいて結構です。
自然発生したトラブルに対応しなければ、意味がありませんから」
「なるほど…じゃあとりあえず飯食いに行こうかな」
「いいですね」
俺が歩き出すとにこにこしながら幼体ちゃんがついてくる。
「……ん?幼体ちゃんはあれ?飯とか食うの?」
「はい。エネルギー補給は皆様と同じように、食事で行います」
「灯油とかじゃなくて?」
と尋ねると幼体ちゃんは「むっ」という顔をして
「はい。私は雛山財閥の、ひいては世界最高峰の技術を用いて作られていますので…
おなじ家電といえど、ストーブなどと一緒にされては困ります。
これだけの動作が石油動力で成されるなら、それはもう逆に非科学的です」
と、腰に手を当てて不本意そうに述べた。
「…ああ…うん。そうだよね。普通灯油じゃ動かないよね」
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食堂である。
今日の日替わり定食はハンバーグだったので、それにした。
幼体ちゃんはカレーうどんを注文したようだ。
「……いただきます」
というかすげーな最新鋭のロボット、カレーうどんの滴を全く飛ばさずに食べている。
どんな超技術が使われているのだろうか。
「あ、オレオ」
「おう、ふまれさん」
ふまれさんと俺との食堂での遭遇率は異常である。
と言っても、俺は大体入口近くの定位置に座っているため、食堂に入る人間の大半の視界には入ることになるのだが。
まあそんな感じで一緒に飯を食うことになった。
「…さっきから気になってたんだけど、その娘は?」
ふまれさんが幼体ちゃんを手のひらで指して訊いた。
あれ?新製品のモニターっていうのは隠したほうがいいのか?極秘裏に開発とか言ってたし。
幼体ちゃんの方をちらりと見たが、無表情でうどんを喰っている。どうしたものかなこれは。
「えっと…ああ、この娘は俺の……なんだ。妹メイド、みたいな?」
「妹メイド!?」
ふまれさんがすっとんきょうな声を上げるが、無理もないと思う。
なんだよ妹メイドって。どっちかにしろよ。
「なんて業の深い響きなの……」
「全くだな」
とふたりしてウムムと唸っていると、幼体ちゃんはピタリと箸を止め
「その情報は誤りです。私は、雛山財閥の秘密研究所にて製作された試作型奉仕兼護衛用メイドロボ、メイドロイド幼体…で、あります。
厳正なる審査の結果、オレオ様に一日モニターをして頂く事になりました。よろしくお見知りおきを」
と自己紹介をした。
「ばらしていいなら早くいえ馬鹿野郎!」
「いえ、極秘事項なのでくれぐれも内密にお願いします。…できればオレオ様の主張で通したかったのですが
私の存在を『オレオ様の妹メイドである』と定義することによる神経系へのストレスダメージが耐久限界値を大幅にオーバーしたため
かかる処置を致しました」
「つまりキモいってことだね」
泣きそうだ。アシモフ博士は人間への精神攻撃も原則にて禁止させるべきだった。
「しかし幼体ちゃんも大変だねえ。よりによってオレオのお世話だなんて」
といいながらポテトサラダを口に含む。因みにふまれさんはパスタを頼んだのでサラダはついていない。
「ふまれさん、なぜ君はいつもナチュラルに俺のおかずを摘まんでいくのか?」
「あるる先輩はいつもお弁当わけてくれるよ?……ハンバーグもおいしそうだね」
「それ交換こだろ!パスタじゃ取れないだろ!いや、ハンバーグはメインだからね。これ取っちゃったらごはん食べられないからね」
「うん。じゃあ一口」
言うが早いが、ふまれさんの箸が俺のハンバーグを両断してゆく。おい、パスタでなぜ箸を持っている。確信犯か。
「マイ箸」
「ロハスな事だな!」
よく見ると半分くらい取られとる。
「じゃあいただきまー…あれ?」
「でけえ!一口でけえ!…ん?」
今まさにふまれさんの口に吸い込まれんとしていたハンバーグが寸前で?っ攫われる。
よく見ると、ハンバーグにどこからか取り出した幼体ちゃんの投げたナイフが刺さり、それが弧を描いて飛んでいるのがわかる。
ひゅんひゅんと飛んだハンバーグ付きナイフは、ブーメランのように幼体ちゃんの手元に戻る。
「オレオ様のピンチと判断し、護衛行動に移りました」
「おお…すごいぞ幼体ちゃん。食事中に物を飛ばすのは感心せんが」
そしてそのハンバーグをおもむろに自分口へと運びほれがわらひの機能のひろふ、ふろへりングひるばーれふ」
「だめだよ幼体ちゃん、もの食べながら喋ったら」
「ていうかなんで食うんだよ!取り返した意味がない!」
俺が泣きながら抗議すると、幼体ちゃんはもぐもぐごくんとハンバーグを嚥下し、無表情にこちらを向き一言。
「エヘッ、ゴメンネ、マタ一緒ニ遊ボウネ」
「一ミリも謝意が感じられない!?」
「む、おかしいですね。開発主任からは『クライアントが怒ったらこれやっとけ』と言われたのですが」
「おかしいのはその主任の頭だな。……しかしまあ言い方次第では許せるかもしれん。
もっとこう『ごめんね』のあたりは上目遣いで目を潤ませつつ、『また一緒に遊ぼうね』の所で
ちょっとはにかみながら首を傾げるように…ちょっとふまれさん、手本見せてやって」
突然話を振られて、俺の残り半分のハンバーグに視線をやっていたふまれさんがびくっと振り向く。
「な、なんで私?」
「俺がやっても気持ち悪いだろ」
「…え?いや…そ、それもそうね」
俺の理にかなった説明に、ふまれさんも渋々納得。こういうまっすぐなところがふまれさんのいいとこだと思います。
「幼体ちゃんによくみえるようにな」
「なんか騙されてる気がするけど……じゃあ、えっと、こうかな?……ご、ごめんね…?また一緒に遊ぼうね?」
と、俺が言ったとおりに上目遣いでふまれさんが小首を傾げる。
ピローン
「録画完了しました」
「よくやった」
「恐悦至極にございます」
「にぇ!?」
俺は残りのハンバーグをひょいぱくと食べ、ご飯をかっ込み味噌汁で流し込み、食器を持って席を立つ。
「ご馳走様でした。二重の意味で」
「失礼します」
幼体ちゃんが深々と頭を下げて俺の後に続く。
「ちょ、待って…待ちなさいオレオー!」
放心していたふまれさんが慌てて追おうと席を立つが、手が滑って食器を取り落としたりしている間に振り切った。
こういうどじっ娘なとこもふまれさんのいいとこだと思います。
1・5
「い、一球だけ!一球だけなら……大丈夫だよね」
みなさんこんにちは!ソフトボール部のイトミといいます!
今わたしが何をしているかといいますと、投球練習です。
メンバーが足りずに、いつも助っ人に頼って試合をしている現状だからこそ、みんなに迷惑をかけない様に
日々努力しています!
ですが、ただいま絶賛葛藤中です。
顧問のいつもの先生には、危険なので練習にスキマの力を使ってはいけないと言われているのですが、
もしスキマシステムを投球に使ったら、憧れの!そう憧れの「魔球」が投げられるんじゃないか?そう思うんですよね。
それで、冒頭の独り言になるわけです。
一球だけなら大丈夫、そう自分に言い聞かせて、わたしはぐるりと腕を一回転させ、アンダースローでボールを投げ放ちました。
「いっけぇえ!わたしの、26(トゥエンティシックス)ソニック・オン・ファイヤー!!」
なぜ26かというと、憧れのヒーローである仮面ライダーV3の体に隠された秘密が26個だからです。
私の手から放たれたボールは、少しの距離を普通に飛んだ後、炎を纏って急加速しました。感動です。
「おお~~…あっ!?」
火球は段々と加速ゆき、ボールを受け止めるために置いておいた壁を粉砕して飛んでいきました。
そして、その向こうに……人が!
「よ、避けてくださ~~~~~い!!!」
2
「熱源接近。9時の方向です」
「へ?」
俺の後ろを歩いていた幼体ちゃんが、突然何かを呟いた。
「9時…9時っていうと…こっちか?」
と、左を向くと、なにやら火の玉が俺に向かって高速で飛来していた。
「え?何これ!?」
その背後で女の子が何かを叫んでいるが、聴こえない。
「野球ボールのようです」
「そんなバカな。なんで野球ボールがこんな。というかもうぶつかる一秒前くらいなんだけどなんで普通に会話してるのかな俺たち」
「スポーツ漫画ではよくある事です。……ご安心ください。こんな事態のために私がいるのです」
言って幼体ちゃんが自分の腰を叩く。
「おお?」
瞬間、ボールが急停止した。
いや、その表現は正確でない。未だじりじりと俺に向かって進んでいる。
つまりは、スローモーションになっているのだ。
「これは…どうなってる?」
「はい。私の機能の一つ…プライベートスクウェアです。原理は省きますが、効果は時間操作による身体の高速化。
感覚も加速しているため、周囲の物体はスローモーションに見えます。上手くおかわし下さい」
「なるほど。俺も巻き込んで発動できるんだな」
「はい。未だ試作段階なので問題も多いですが」
と言ってる間にもボールが俺に近づいてくる。ていうか熱い。すげー熱いぞ。
「つまり、スローモーションに見えてはいるが、体が全く動かないというこの状況も、問題の一つと言うわけだ」
ボールが軽く頬にめり込んだ。これはマジでヤバイ。痛熱い。
「それは由々しき事態ですね。報告事項に入れておきます」
「宜しく頼む。というか助けて下さい。痛みが!痛みがゆっくり襲ってくるッ!グアアアア」
「これは気付きませんで…あ、時間切れのようです」
「え?俺はどうすればいいの?」
幼体ちゃんは、顎に手をあて、うーんと唸った後
「歯をお食いしばり下さい」
「役立たず!」
世界が加速した。
・
・
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「……」
目を覚ますと、幼体ちゃんと知らない女の子が、俺の顔を覗き込んでいた。
「お目覚めですね」
「よ、良かったぁ…あ、危うく殺人者になるところでした…!ごめんなさぁ~い!」
女の子が俺の胸にすがり付いて号泣した。
泣きながら事情を話してくれたが、なるほど。魔球じゃしょうがないな。誰だってそうする。俺だってそうする。
「しかし、あれを受けて俺もよく無事でいられたものだ」
「はい。火球がオレオ様に直撃したすぐ後に、芯であるボールが摩擦熱によって燃え尽きたため、
頬に多少の火傷を負ったに留まった様です。ご無事でなにより」
幼体ちゃんがもぐもぐと口を動かしながら説明する。
「お前はもうちょっと慌てろよ!というか何食べてるんだ?」
「飴玉です。プライベートスクウェアは大技ですので、体力を大幅に使います。
ですので、使用の後は糖分補給を心がけています」
「その大技は、俺に苦痛をじっくり味あわせる効果しかなかったけどな」
「ごめんね…?また一緒に遊ぼうね?」
「くそっ、完璧じゃねえか。許す」
「学習しました」
「あ、あの……」
俺らがショートコントに興じている間に、泣き止んだ女の子…一年生で、イトミちゃんと言うそうだ。が俺を見上げる。
「あ、いいよいいよ。わざとじゃないんだろ?こう見えてもこういうアクシデントには慣れてて……
むしろ、この程度で済んだのは初めてかもしれないな」
幼体ちゃんがサッと背筋を正し、
「それほどでも」
「褒めてねーよ!…だから、気にせず練習戻っていいよ。いつもの先生には内緒にするから、今度投げ方教えてくれよな。魔球」
「は、はい!すいませんでしたぁっ!失礼します!」
一礼して去っていくイトミちゃん。今時珍しい素直な子だ。
「よっと。さて、俺は部活もないし帰るかな」
立ち上がって服の埃を払った。
「オレオ様」
「何?…ってうわ!ゴゴゴさんいつの間に」
幼体ちゃんに呼ばれたのかと思って振り向くと、そこにゴゴゴさんがいた。
「今日一日ありがとうございます。ご使用いただいてどうでしたか」
そういえば、一日モニターだっけか。忘れてた。
「正直あんまり役に立ちませんでした」
「そうですか」
ゴゴゴさんがちらりと幼体ちゃんを見る。
「ドンマイです」
「お前が言うのかよ。ただ…」
「ただ?」
「まあ一緒にいてそこそこ楽しかった…っていうのはありますね。完璧にKINGの護衛としてよりは
普通に学校に通わせて、友達みたいに。で、それとなく守る、っていう方がいいのかなという感じはしましたね。
お宝映像も手に入ったし」
ゴゴゴさんが手元のノートにいろいろと書き込む。
「なるほど。参考にさせて頂きます。…お宝?」
「こっちの話で」
「はあ。では、改めてありがとうございました。…ご挨拶を」
ゴゴゴさんに促されて、幼体ちゃんがちょこんと頭を下げる。
「ありがとうございました。…今後校内で会うこともあると思いますが…その時はよしなに」
「あいよ」
二人に背を向けて、家路についた。
3
翌日、廊下でKINGと出くわした。
「オレオ、あたし今日すごいのよ」
「ようKING。…なんでみんな先輩って呼んでくれないんだ?」
「そんなのどうでもいいじゃん」
「なんかそれ前にも誰かに言われたな……で、何がすごいって?」
俺が話に乗るとKINGは目を輝かせて
「そうそう。今朝は徒歩の気分だったから、歩いて学校来たんだけど、早速トラックに轢かれそうになったのね」
「ゴゴゴさんも苦労が絶えないよな」
「うっさいわね。で、あ、こりゃ死んだと思って目を閉じたら全く衝撃がなかったの。
おかしいと思って目を開けたら、同じポーズのまま道を渡りきってたわ」
「そりゃ凄い。死の直前でタイムリープに目覚めたんだな」
「やっぱりそう思う?で、とっしーは未来人で、自転車に二人乗りしながら告白してくれるの。どう?」
「実にハッピーエンドだな」
「…なんかリアクションがあっさり気味ね。まあいいわ。人に言っちゃダメよ」
そしてKINGは去っていった。じゃあ何で俺に言うんだよ。
「…何にせよ、うまくやってるみたいじゃないか」
ポケットから飴玉を取り出し、KINGの後頭部めがけて投げる。
軽い眩暈を感じると同時に、飴玉が空中で掻き消えたのを見て、妙な満足感とともに俺もKINGに背を向ける。
「そこの人ー!あ、危なーい!」
その声に振り向くと、どういう経緯なのか巨大な中華鍋が俺の顔面めがけて飛来していた。
「なぜだ!?空飛ぶ中華鍋」
現在の心境をアクマイザー3風に表現…している場合ではない。
ぶつかる、と思った瞬間、かつんと鍋にナイフが刺さって、軌道のそれた中華鍋は俺にぶつからずに後ろへ飛んでいった。
「残業代は頂きましたので」
いつの間にか目の前に現れた幼体ちゃんは、そういうと飴玉を口に放り込み、KINGの後を追って行った。
「ほんとに上手くやってるなあ」
二人の後姿をぼんやりと眺めてから、改めて背中を向けた。
すると、廊下の先の曲がり角で頭に小さなたんこぶをつけためかぶ先輩が鍋を持って立っていた。
にこにことわらっているが、なんだろう。背筋が…冷たい、ぞ?
「ふふ…最近は白昼堂々私に挑んでくる奴もめっきり減ったからねぇ。こういう洒落た挑戦状は大歓迎さ。受けたよ、この勝負。
……表へ出な」
「あ…?あ…?」
あわててきょろきょろと周りを見渡すが、KINGも幼体ちゃんも、鍋を飛ばした連中も消えていた。これはどうしたことだ。
(雛山財閥の技術の粋を用いて作られた運命測定器によると、本日この学園で最も危険に見舞われるのは
オレオ様であるという測定結果が出た為です。
因みに、明日もオレオ様、明後日もオレオ様でございます)
ゆっくりとこちらへ歩いてくるめかぶ先輩を見ながら、俺は昨日のゴゴゴさんの言葉を思い出していた。
なるほど、よく当たるんだなあ。つまり、明日もこんな事態が俺を待っているんだなあ。
まあ、俺に明日が来ればの話なんだが。
今こそ時間よ止まれと強く願ったが、まあ、タイムウェイツフォーノーワンってことでね。
めかぶ先輩の歩みは止まらない。
それじゃ、お後が宜しいようで。
おわし