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Last-modified: 2009-11-18 (水) 00:03:56

1.

ちろ「ねー、本当にやるのー?」

PM7:00。緋想天学園校門前に集合した我らが心霊研究部の一員の一人、ちろさんが気だるそうに呟く

くたくた「…別に無理に付き合う必要は……。私が個人的にやりたいだけだし…」
ちろ「あー、うん…やりたくない訳じゃないんだけど……その……呼び出したのがすごい凶暴な怪物とかだったら怖いかなー、って思って…」

そう言ってバツが悪そうに目を逸らすちろさん。…まぁ、彼女の不安ももっともだ

圧殺「別に凶暴だろうがなんだろうが、いざとなったら引き裂いて潰せばいいだけよ」

横から圧殺さんが物騒なことを言ってのける。うん、この人はいつも通りだ
……まぁ、それはいいとして………

だぜだー「だぜだー!!!」

圧殺さんの隣で、小柄で可愛らしい少女が元気良く叫ぶ
……彼女は心霊研究部の一員では無い。こんなナリをしているが一応生徒会長という肩書きの持ち主だ

くたくた「……何で会長がここに居るの……?」
圧殺「…ゴメン、今日のこと話したら、『だぜだも一緒に行くんだぜー!』って言い出して……」

私の当然の疑問に、圧殺さんは済まなさそうに答える。件の会長は全く意に介して無いようだが

くたくた「……いいけどね、別に……。圧殺さんがちゃんと面倒見てくれるなら……」

そう。部外者の一人や二人、大した問題じゃない。当初の目的を果たすだけだ

くたくた「……それじゃあ行きましょうか。楽しい楽しい悪魔召喚の儀式の場へ……」

2.

唐突だがここで話は三日程前の昼に遡る
図書館で蔵書を漁っていたところ、「図書館の主」と称されるゆっくりフランさんに会った
周りには読み終わって積まれているのであろう幾つもの本が山となっていた。…図書館に住み着いているという話も、あながち嘘では無さそうだ

ゆフラン「……珍しいお客様ね……何かお探し…?」
くたくた「……えっ……まぁ……適当に……悪魔召喚の方法を記した魔道書でも無いかな、と……」

正直話しかけられるとは思ってなかったので、少し驚いた
それにしても何て適当なこと言っているんだろう、私…。幾ら何でも一学園の図書館にそんな魔道書とか在る訳……

ゆフラン「……あるわよ……そういうの……」
くたくた「……あるんだ……」
ゆフラン「…えぇ。……えーと……確かこの辺に……」

言いながらゆフランさんは山積みにされた本の中からやけに古びてボロボロになった一冊の本を取り出して私に渡してくれた

くたくた「……これが……そうなの……?」
ゆフラン「…うん……ただ……かなり古い物みたいで……虫食いやらページ抜けやらが酷い代物だけど……」

渡された本を流し読みしていくと、彼女の言う通り虫食いで所々読めなくなっていたり、肝心なページがごっそり抜け落ちていたりと酷い有様だった
辛うじて最初の十数ページが奇跡的に無事だった以外は、おおよそ読書という行為を行うに値しない内容へと変わり果てていた

くたくた「……これ……借りれるかしら……?」
ゆフラン「……別に構わないけれど……。まぁ……そんなボロボロな本の一つや二つ、いつの間にか無くなってても、誰も気にも留めないんじゃないかしら……」

それはつまりこの本を私が持ち逃げしても一向に構わないと…?流石にそういう訳にも行かないだろう……

くたくた「……後が怖いから、ちゃんと手続きをしてくるわ……」
ゆフラン「賢明な判断ね…」

それから件の本の貸し出し手続きをした私は、丸一日掛けて読める部分の解読を行った
解読した部分はどうも低級悪魔の召喚法のようだ。……と、なれば私も人の子、本当に召喚出来るかどうかを試してみたくなるというもの
そして、今夜がその決行日という訳だ

???「天子ちゃん!」
くたくた「………で、何で天子ちゃんが居るの……?」
ちろ「……さぁ……?」
天子ちゃん「ふはは!この私を差し置いて何か面白いことしようとしてるなー?そうはいかんぞー!」
ちろ「……だって」
くたくた「…………うざっ…………」

突然現れた天子ちゃんは空気を全く読まずにけたけたと笑う。…殴っていいですか?
ちろさんはやれやれといった感じで肩を竦めて呆れてるし、会長は天子ちゃんに合わせて「だぜだー!」って叫ぶし、圧殺さんは全く興味無さそうにそっぽ向いて気だるそうにしている。…うん、協調性皆無

だぜだー「…ところで、天子ちゃんはこんなところで何してるんだぜ?」

あぁ会長、よくぞ聞いてくれました。正直言ってどうでもいいんですけど、貴方くらいしかそんなこと聞いてくれそうに無いし、助かります

天子ちゃん「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました!聞いて驚けー、私は!今まで!いつもの先生の補習で居残りだったのだ!!!」

高らかに天子ちゃんがそう宣言すると、テンションMAXな天子ちゃんとは対照的に場は静寂に包まれ、シーンと静まり返った
…ですよねー。そんなことだろうと思った。別に期待していた訳じゃないけど…
いつもの先生も大変ですね、出来の悪い生徒を持つと
……いや、逆に考えてみよう。そうやっていつもの先生の気を引く作戦なのかもしれない
何その百合展開誰得だけど、そう考えたら天子ちゃんって意外と策士…?無いわー

ちろ「……いつもの先生も大変だなぁ……。あ、先生といえば、この前赴任して来た早苗ちゃん先生って、天子ちゃんのお姉さん?」

ちろさん上手いこと話題すり替えたなぁ。てか天子ちゃん何よその<○□○>な驚愕の表情……

天子ちゃん「何故ばれたし!?誰にも言ってないのに……」
ちろ「いや、だって……天子ちゃんにそっくりだし、やたらやかましいし、テンション高いし……そうなのかなぁ、って……」
天子ちゃん「なん……だと……?くっ……何という洞察力……」

天子ちゃん、一人で盛り上がってますがちろさんの言う通りモロバレなんで……解らない方が無理だろう。…ちょ、会長、そんな「驚愕の事実を知った!」みたいな顔しないで下さいよ

くたくた「……もう、いいかな……?こっちの用事を済ませたいんだけど……というか天子ちゃんも来る……の?」
天子ちゃん「モチのロンよ!だって何か面白そうだし!!!」
くたくた「……まぁ、いいけど……。じゃあ……行きましょう……」
天子ちゃん「おーけーおーけー。………ところで………」
くたくた「……何?」
天子ちゃん「これから何するのん?」

……解ってないのに参加する気だったのかコイツは……
まぁ、天子ちゃんらしいといえばらしいけど……

くたくた「……付いて来れば解るわ……」

取り合えずお茶を濁すことにした。まともに相手をすると疲れるし……
ただ、はぐらかしただけなのに「焦らしプレイか!?焦らしプレイなのかー!?」とか言って騒ぐのは止めて欲しい

3.

天子ちゃんという予期せぬゲストを不本意ながら迎えた私達は一路、体育館へとやって来た
最初はグラウンドでやろうと思ったのだけど、人目に付くとアレなので……

くたくた「……じゃあ準備するから待ってて……」
圧殺「それはいいけど、明かりは点けないの?」
くたくた「…当直の先生に見つかったりすると不味いし……それにまだ他に残ってる先生が居るかも……」
ちろ「確かに……いつもの先生とかまだ残ってそうだしね……」

言いながらチラリと天子ちゃんを見るちろさん
つられて私と圧殺さんも視線を天子ちゃんに移す。当の本人はいつも通りのふてぶてしい笑顔だ
……そもそも何で学校でやるのか、というのは疑問に思ってはいけない。だってここならスキマシステムとかで色々融通が利きそうだし……

だぜだー「でも暗くてよく見えないんだぜ……」
くたくた「……まぁ……こんなこともあろうかと……」

暗闇に不安を隠せない会長に、私はある物を渡す

だぜだー「………蝋燭なのかー」
圧殺「……無いよりはマシね……」
天子ちゃん「おっ、いいじゃんいいじゃん!何か雰囲気出るし!何するか知らないけど!」

そういえば天子ちゃんに何するのかまだ説明してなかったっけ…。まぁいいか、面倒だし。部外者だし。勝手に付いて来ただけだし
他の皆が幾つかの蝋燭に火を灯して明かりを確保している間に、私は召喚用の魔法陣を体育館の床に書き込んでいく

ちろ「おー、本格的だねー」

私の書く魔法陣を見て感嘆の声を上げる
程なくして魔方陣を書き終え、いよいよ召喚決行である。……柄にも無くちょっとドキドキしてきたぞ私

くたくた「……それじゃあ、始めましょうか……」
天子ちゃん「よっ!待ってましたー!」
だぜだー「何が出てくるのか、楽しみなんだぜー」

後ろでやいのやいのと騒ぐ会長と天子ちゃん。…何というか能天気な人達だなぁ
そんな能天気な人達はほっといて、私は改めて魔方陣の前に立つ

くたくた「……えーと………エロいのキボンヌ…エロいのキボンヌ……我は求め訴えたり!出でよ…!『※◇×□○※△』!!!」

意を決して召喚の呪文を唱える。……が、魔方陣には何の反応も無い
むぅ、失敗か……と思ったその時、魔方陣から淡い光が溢れ出す

天子ちゃん「おぉぉ!?キター!?」

光は徐々に輝きを増していき、魔方陣から異形のシルエットがその姿を顕わにする
幾つもの触手を持つ……というよりは大小様々な触手が花弁のように形作る『それ』は怪物と形容する他無かった

圧殺「…何この……シュ○ゴ○ス」
ちろ「いやいや、どっちかというとベ○ード様でしょ。このロリコンどもめ!」
だぜだー「ビ○ラ○テの第一形態みたいなんだぜ!」
天子ちゃん「すげー!すげー!」

その異様な姿に圧倒されながらも、皆口々に目の前の異形の感想を漏らす
……けれど、それがいけなかった。『それ』に気を取られるあまり、迫る危機に気づくのが遅れたのだ…

圧殺「…えっ!?」
ちろ「きゃあ!?」
くたくた「…ッ!?」

気付いた時にはもう遅かった。いつの間にか私達の足元に伸びていた異形の触手が、私とちろさんと圧殺さんを絡め取り、拘束する
…何ということだ……完全に油断していた……。だが、後悔先に立たずとはよく言ったもので。完全に自由を奪われた後では悔やんでも悔やみ切れない

だぜだー「あ、あっちゃーん!?!?!?」
天子ちゃん「うおおおお!?な、何かヤバくね!?」

残された会長と天子ちゃんが、拘束された私達を見てうろたえる
…失礼だが、この二人ではとても頼りにはならない……。どうにかしてこの拘束から抜け出して、状況を打開しなければ……

だぜだー「むむむ……ピンチなんだぜ!でも大丈夫!こんなこともあろうかと!秘密兵器を用意しておいたんだぜー!」
天子ちゃん「な、なんだってー!?そ、そいつは一体……?」
だぜだー「ふっふっふ……それは………これなんだぜー!!!」

四次元ポケットから取り出される未来道具よろしく、会長が取り出したのは奇妙な形をしたベルト。それを見て「おおー!」と大袈裟に驚く天子ちゃん
……どうにもこの二人のやり取りはコントに見えて仕方ない。……圧殺さん、「だぜだーカッコイイ!」的な眼差しを送ってる場合じゃないですよ?

天子ちゃん「…で、それは一体……?」
だぜだー「よくぞ聞いてくれたんだぜ!これこそは雛山財閥がスキマシステムを参考に、技術の粋を集めて作った……その名もWスキマドライバーなんだぜ!!!」

バーン!という煽り文が背後に見えそうな勢いでWスキマドライバーなるベルトを高々と掲げる会長。どうでもいいけど早く助けてくれませんかね?

だぜだー「KINGから強だ……ゲフンゲフン!……譲り受けたこのWスキマドライバーで皆を助けるんだぜー!」

そして意気揚々とベルトを腰に巻く会長。…ところで今強奪とか言いませんでした?
ベルトを着けた会長は、次に緑色と黒色のUSBメモリを取り出し、これ見よがしに見せ付ける
特撮物で言うところの変身アクションの最中ですね分かります

天子ちゃん「か、かいちょー!それは?」
だぜだー「これは幻○郷の記憶を封じ込めた『スキマメモリ』なんだぜ!これをベルトに……挿す!のぜ」

ヨウムゥ!!!>>>

マリサァ!!!>>>

会長の手で差し込まれたメモリから、電子音声が鳴り響く
そして一陣の風と共に、会長の右手に彼女の身の丈程もありそうな大太刀。左手には何故か箒が現れる

だぜだー「さぁ……お前の罪を数えるんだぜ!!!」

そして刀と箒を構えてビシッ!と決めポーズ。やったー、カッコいー!

圧殺「だぜだー…」

圧殺さんなんかこんな状況なのに会長の晴れ姿にうっとりしちゃってますよ?ラブラブですね
でも、これで助かるかと思いきや、そうは問屋が卸さなかった
一連の流れの中、沈黙を保っていた『それ』が「もう攻撃してもいいよね?」と言わんばかりに太い触手を鞭のようにしならせ、会長に叩きつける

だぜだー「ぶべっ!!!」

奇しくも不意打ちの形になったその一撃は、容赦無く会長を地に叩き伏せる
そのまま『それ』は、続けて何度も会長に触手を叩き付けた

だぜだー「ぐっ!ぎゃ!うぎゃ!」

叩き付けられる度に会長は悲痛な叫びを上げる

圧殺「も、もう止めて!だぜだーのライフはもうゼロよ!!!」

あまりの痛々しさに見ていられなくなった圧殺さんが止めてと叫ぶ
そんな圧殺さんの懇願を聞いて『それ』はピタリと動きを止めた
…会長の「変身」に空気を読んで付き合ったり、圧殺さんのお願いをすぐ聞き入れる辺り、コイツは見た目以上に知能があるようだ

だぜだー「……きゅう……」

滅多打ちにされた会長はそのまま気絶してしまったようだ。あぁ、唯一の希望が……

天子ちゃん「か、かいちょー!?うおー!よくもかいちょーをー!!!」

倒された会長に代わり、『それ』の前に踊り出る天子ちゃん。あぁ…天子ちゃんが頼もしく見える日が来るなんて……

天子ちゃん「ふもっふ!?」

だが私達の期待を余所に、天子ちゃんは薙ぎ払われた触手の一閃によって吹き飛ばされ、

天子ちゃん「ぐ、ぐふっ…!む、無念……」

会長と同じように、なす術無く倒されてしまった。ナンテコッタイ

ちろ「あぁぁ……天子ちゃんまで……。うぅ……私達……どうなっちゃうの……?」
くたくた「……それは……」

この絶望的な状況の中、最悪の結末が私の頭に浮かぶ
それはちろさんと圧殺さんも同じのようだ。一様にして青ざめた顔をしている

ちろ「……私達……食べられちゃうのかな……?」

ちろさんが、ぽつりとその最悪の結末を口にする
『それ』の中心部には鋭い牙を持った大きな口がある。人の一人や二人は楽に飲み込める大きさだ…
こんなことになってしまったのも、全て私の責任だ……。どうにかして皆を助けないと……。私の思考はその一点に集中していた
だが、現実は残酷である。考えが纏まらない内に………そもそもこんな四肢を拘束された状態でどうしろという思いの中、『それ』は次の行動を開始した
私達を拘束している物とは別の触手が、私達の全身を弄るように蠢く

くたくた「(………ッ!?な、何………?)」

見ればちろさんと圧殺さんも蠢く触手に体中を蹂躙されていた
その動きは……人間で例えるなら、いやらしい手つきで全身を撫で回されている、とでも言うのだろうか?

ちろ「…ひっ……やぁん……やだ……やめてぇ……」
圧殺「…んっ……あっ……こん…な……」

触手に嬲られる二人の声に、徐々に艶が混ざり始める。かく言う私も声を抑えるのに必死だ
しかしこの動き……コイツはもしや淫魔…淫獣の類なのだろうか……?
だとすればすぐに命をどうこうされることは無いとは思うけれど………事が済んだ後、命を奪われないという保障は無い
そうならない為に、やはり自力でこの状況を打破するより他無い

くたくた「………痛っ!?」

与えられる性的な刺激に必死で耐えながら考えを巡らせる私の首筋に、突然ちくり、と鋭い痛みが走る

ちろ「……いっ……な、何…?」
圧殺「……ッ!?」

ちろさんと圧殺さんも同じように痛みを訴えていた。その首筋には、先端に注射針のような針を付けた一際細い触手の姿があった

くたくた「(……何……?一体……何をした…の…?)」

『それ』の意図するモノが何なのか解らない不安が広がっていく。……まさか毒……とか?
溶解液を体に流し込んで内側から溶かすとか、そういうグロテスクな殺し方は勘弁してほしいところだ。…いや、殺されること自体ノーセンキューなんだけど……
そんな私の不安は全く違うベクトルの方向に裏切られる

くたくた「(…ッ!?な…に……?体が……熱…い……?)」

次第に表面化する私の体の変化…。全身が熱に浮かされるように火照り、それに呼応するかのように秘所から淫水が止め処なく溢れ始める
体の火照りが増す度に息は荒くなり、雌の本能が「ある物」を求め、欲しがる

くたくた「(……こ…れ……媚…薬……?……さっきの……針……で……?)」

思考が上手く纏まらない。触手の動きは先程までの嬲るような動きから直接的な快楽を与える激しい動きへと変わっていた
その動きは的確に、私の感じる所を攻め立てる。さっきまでのは、コイツにとっては「この女は何処が感じるのか」を探るための愛撫でしかなかったという訳だ

ちろ「…ひっ…あっ…ぁん…ダメ……そんな……あっ…あっ…あん…はぁん…!」
圧殺「あっ…うっ…ぅあ…んん……いやぁ……だぜだー…………あん…あっ…あっ…あぁん!」

ちろさんと圧殺さんも徐々に快楽に支配されつつある様子だ。……私も……これ以上はもう、抗えそうに…無い……

くたくた「…ふぁ……あっ…んっ……あぁ…ん……」

快楽が私の体を、思考を、侵食していく………キモチイイ………もう……何も……考えられ……ない……
最早されるがままの私。朦朧とする意識の中で見たのは、男根の形をした太い三本の触手が私の口と、ヴァギナと、アナルに近付いていこうとする所だった

……あぁ……私……アレで……犯されちゃうんだ……

まともに考えれば、とてもおぞましいことであろう。でも、すでに快楽に支配された私には、それはむしろ望むところだった
そして……男根触手が私の穴という穴を塞ぎきったその時―――

私の思考は、そこで完全に途切れた……

4.

七「あーん!ラン、チェン、そんなに急がないの!」

二匹の犬が、手綱を握る私の腕をグイグイと引っ張って足早に駆けていく
私の制止も聞かず、先へ先へと進もうとする。やんちゃな子達だ
元気なのは飼い主として非常に嬉しいのだが、犬の走行スピードに付き合っていては私が保たない
やれやれ、これではどっちが飼い主が分からないなぁ……

ラン「ウゥゥゥゥ……ワンワン!!!ワンワン!!!」

不意にランが足を止め、あらん限りの声を張り上げて鳴き始める
私を急かしているのかと思いきや、どうも違うようだ。向かいの雑木林に警戒心むき出しで鳴き続けている
チェンはランのように声を張り上げてはいないものの、低い声でずっと唸り声を上げている。こちらも警戒心むき出しだ

七「……どうしたの?ラン、チェン……。何か……あるの……?」

犬の危機察知能力は人間のそれに比べて遥かに優れている
普段大人しいこの子達がこれほどまでに警戒するなど、あまり無いことだ。私も自然と身構えてしまう
暫くして、茂みがガザガザと大きな音を立てて揺れる
い、一体何だというのか……?やはりこんな夜に犬の散歩など、止めておくべきだったろうか…?
そして……茂みを掻き分けて姿を現したのは、100人に聞いたら99人は間違いなく「怪物」と口を揃えて言うであろう異形の姿だった
な、何だろう……?この怪獣映画辺りからそのまま飛び出してきたような存在は……
緋想天学園の敷地から出てきたみたいだけど、学園の生徒ないし教師が関わってるんだろうか?
くるるさん辺りが作り出した生物兵器とか?い、いや。もしかしたら精巧に作られた演劇部の演劇用衣装かもしれない。次の演目は怪獣モノだろうか?
あぁでも、こんなこと考えてる暇があったら逃げるべきなんじゃないだろうか?私。もう色々遅い気がするけど

七「(むむむ……こ、こうなったらスキマドライバーで……)」

こんなこともあろうかと、スキマドライバーは常に携帯している私だ。…学園の敷地内でないと使えないけれど、ここも多分学園の敷地のハズ。うん、そうに違いない。さぁ来るならこい!
……が、予想に反して『それ』が私を襲ってくることは無かった
個性的な見た目に反して、大人しい子のようだ
………よく見れば何となく愛嬌があって可愛い気がする。ならば私は……100人の内のオンリーワンになる!

七「こ、こんばんは……?」

言葉が通じるかどうかは判らないが、取りあえず挨拶してみる
ぐるる……と低い唸り声をあげたものの、やはり襲ってくる気配は無い
これは…意思疎通が取れたと見なしていいのだろうか……?というか私UMAとコンタクト取ってるー!?
毒を喰らわば皿まで。こうなったらトコトンまでやってやろうではないか!

……『それ』にとって、目の前の人間の行動は予想外のものだった

鉢合わせた当初こそ警戒心を顕わにしていたのが、突如歩み寄ってきたのだから
自分を見ててっきり逃げ出すものだと思っていた『それ』は、大いに戸惑った
だからこそ、彼女の押しの強さに気圧され、導かれるままノコノコと付いて行ってしまった
その少女……七が『それ』を連れて行った先は、『それ』が楽々入れる程の大きさと広さを持った飼育小屋
七は『それ』に「ここは空き部屋だし、日中は殆ど誰も来ないからここに居てもいいよ」と笑顔で告げる
『それ』は彼女の意図するものが全く解らなかった。何故なら、彼女が『それ』を恐れることはあっても優しく接する理由など無かったから
取りあえず『それ』は、彼女の言うことに従うことにした

後に『それ』は彼女からYUKA-RINという名前を付けられ、(一応)ペットということになるのだが、それはまた別のお話……

5.

ちろ「……はぁ……しかし昨日はトンでもない目にあった……」

翌日、校門で偶然鉢合わせたちろさんが溜息混じりに呟く

くたくた「……ごめんなさい……私のせいで……」
ちろ「あー、いや、くたちゃんを責めてる訳じゃないからね?私も…一応納得済みで参加した訳だし、ね」
くたくた「……ちろさん……」
ちろ「あーでも圧殺さんとはちゃんと話した方がいいと思うなぁ。あの人根に持つタイプだし……
   だぜだーダシにして緩衝材代わりにすれば多分大丈夫。あの人だぜだーには甘いから」
くたくた「……うん……そうだね……」

昨日あんなことがあったというのにちろさんはそのことでアレコレ言うつもりは無いらしい
…私としても……その方が幾分が気が楽になるというものだ

ちろ「でも……アイツ、何処行っちゃったのかしらね…?」
くたくた「……分からない……学園の外に出て行ったのかも……」
ちろ「その割には新聞とかニュースとかでなーんにも無いのよねぇ……」
くたくた「…………」

あの晩、私達を散々犯しつくしたあの異形は、気付けばその姿を消していた
私達はあの後体育館で起こった事の後始末に追われて、それどころでは無かったけれど……
…一体、あの怪物は何処へ消えたのだろう……?

ちろ「案外、まだ学園の敷地内に居たりしてね」
くたくた「……仮にそうだとして……何処に……?」
ちろ「そこまでは分からないわよ。でも……この学園って無駄に広いし、そういう場所があってもおかしくないかなーって」
くたくた「…………」
ちろ「ま、まぁ…この話はもうやめましょ。何処に居るのか分からないのに、そんな気にしてもしょうがないじゃない」
くたくた「……うん……そう……だね……」

昨夜の忌まわしい出来事を振り払うように、私達はその話題を打ち切る

……けれど……やはり自分で撒いた種なのだから、気にならないハズも無くて……
このしこりのように残る気がかりに、いつか決着を付ける日が……来るのだろうか……?

取りあえず確かなのは、もう悪魔召喚とかはこりごりだ―――ということだ……