ss98694

Last-modified: 2010-01-18 (月) 20:37:02

1.

――さて、今日の昼飯はどうしようかな…。学食でパンでも買って……うぅ、ひもじぃ…

お昼休み、財布の中身とにらめっこしながら何を食べるかを考える
…もっとも、持ち合わせが心もとないので選択肢は限られてくるのだが。ちなみに193円しか無いということは無い

雛「とっしー!一緒にお昼食べよー!!!」
――ん…?あぁ、雛ちゃん……別にいいけど……

足取り重く学食へ向かおうとしたところに雛ちゃんが声を掛けてきたが、答えを渋ってしまう俺。…流石に後輩に集るような真似はしたく無い

雛「おっけーなのね?じゃあ早く行こー!」
――あー、いや待って雛ちゃん
雛「何?」
――俺、先に学食行ってパンでも買ってこようかと思ってたところでさ…
雛「あ、そういうことかー。大丈夫!お昼の心配する必要は無いよ。カモン!よっちゃん!」
幼体「…ハイ、お嬢様」
――へっ……?うおぉ!?

雛ちゃんがパチン、と指を鳴らすと、いつの間に居たのか雛ちゃん専属メイドのゴゴゴさんを若干幼くした風貌の少女が、重箱でも入っていそうな包をもって俺の背後に立っていた

――び、びっくりした……。雛ちゃん、この子は…?
雛「その子はメイドロイド幼体ちゃんっていって、新しくウチで働くことになったメイドなの。私はよっちゃんって呼んでるわ。ホラ、挨拶して」
幼体「こんにちは、としあき様。ご紹介に預かりましたメイドロイド幼体という者です。どうぞお見知り置きを……」

そう言ってペコリとお辞儀をして挨拶する幼体ちゃん。うぅむ、ホントにミニゴゴゴさんといった感じの子だ…

幼体「こんなこともあろうかととしあき様の分の昼食もご用意させていただきました。是非お嬢様の願いを聞き届けて頂きたい所存であります」
――えっ……マジで?…でもホントにいいの?
幼体「構いません。…本当のことを言うと作りすぎてしまったので誰かに処分を手伝ってもらいたいのです」
――あぁ……成程、そういうことか……

だがまぁ、どんな形にせよ昼飯代が浮くのは事実だ
……しかし半端な量じゃなさそうだが……大丈夫かな、俺の胃袋……

雛「話は纏まったわね!じゃあ早速行きましょう!屋上とかいいかもね。今日はいい天気だし」

そんなこんなで、俺達は屋上で昼食を取ることになった

2.

無害「欝だ死のう」

意気揚々と屋上に辿り着いた俺達を待ち受けていたのは、そう呟いて今にも飛び降り自殺をしようとしている無害先生だった

――ちょっと待てえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

一歩踏み出せば即奈落。そんな状態の無害先生を止めるため俺は駆け寄る

無害「ん?何だ、としあきじゃないか。邪魔しないでくれ、今いい所なんだ」
――言ってる意味がさっぱり分かりません。何ナチュラルに飛び降りようとしてるんですか…
無害「飛べねぇ豚は無害な豚だ」
――知りませんよそんなこと。……何でそんなバンジージャンプでもしようみたいなノリなんですか!?
無害「HAHAHA。何言ってるんだとしあき。バンジーはバンジーでもノーロープバンジーだよ?」

駄目だこの教師、早く何とかしないと……。これからランチタイムだってのに目の前で飛び降り自殺なんてされたら食事どころではなくなる

――とにかくですね……馬鹿な真似は止めて……あぁ!雛ちゃん達も何か言ってやってよ!
雛「えー、メドい。よっちゃん、早く御座敷いてー。私お腹ぺこぺこ…」
幼体「了解しました。今暫くお待ち下さい」

今正に地上に向けてダイブしようとしている無害先生を全く無視して昼食の準備にかかる二人
…流石にそれは人としてどうかと思うんだが……

雛「…大体、無害先生が自殺しようとするのは今に始まったことじゃないし、とっしーもほっときなよー」
――……え、そうなの…?いやいやいや、そうじゃなくて…!
無害「大丈夫だよ、としあきクン」
――………何がですか?
無害「僕はこれから盛大に飛び込むが、何故か木に引っかかって、それで落下の勢いが若干相殺されて、全身擦り傷と打撲でイタタタだけど命に別状は無いんだ。…あぁ、足の一本くらいはヤッちゃうかもね
   で、そこにたまたまいつもの先生辺りが通りかかって、僕は一命を取り留める……って感じになると思うんだよねー」
――…根拠は?
無害「長年の勘」

その時……俺と無害先生との間にとても寒々とした一陣の風が吹いた
そして暫しの沈黙の後、

無害「という訳でグッバイこの世!!!」
――えっ…?あぁ…!!!

やけに軽い別れの言葉と共に無害先生はコンクリートの地面へ向けて飛び込んだ
そして……無害先生は校舎脇の木に吸い込まれるように落下していき、枝で幾つもの擦り傷を作りながら地面へと叩きつけられた

いつもの「キャァァァァ!!!む、無害先生!大丈夫ですか!?」

そこにまるで示し合わせたかのようにいつもの先生が通りがかり、無害先生の元へといつもの先生が駆け寄る
……何これ、無害先生の言った通りの展開になってるじゃないか……。エスパーか何かか?あの人…

69「何だ無害、また自殺か?お前も飽きんな」

横たわる無害先生を一瞥しながら、いつもの先生の傍らに居た69先生が呆れた様子で呟く、

いつもの「ななな何呑気なこと言ってるんですか、69先生!あぁ、どうしましょう…ひ、ひとまず保健室に……い、いえ!救急車を呼ぶべきですよね!?」
69「まぁまぁいつもの先生、落ち着いて下さい。コイツにとっては、こんなこと日常茶飯事ですから」

おろおろするいつもの先生の肩を軽く叩き、宥める69先生。…パニック状態のいつもの先生とか、新鮮だなぁ
てか自殺が日常茶飯事って……どう考えても異常ですから!

69「まぁ、コイツのことは私に任せておいて下さい。お昼、ご一緒出来なくてすみません」
いつもの「い、いえ…それは構いませんが……本当に任せてしまってよいのですか?」
69「それが仕事ですからねぇ。……オラ無害、さっさと行くよ!」

そう言いながら69先生は横たわる無害先生を軽く蹴り飛ばした後、そのまま無害先生の両足を無造作に掴み、引き釣り始める

無害「…痛いじゃないか、69先生。怪我人なんだからもっと丁寧に扱ってほしいね」
69「お前がその自殺癖を矯正する気があるなら考えてやるよ」
無害「うん、それ無理」
69「じゃあ私も無理だな。……全く、余計な仕事を増やして……」
無害「あー、痛い。擦れて痛いってば~」
69「うるさい、黙れ」

引き摺られ、連れて行かれる無害先生。その光景を目撃したいつもの先生や生徒は、皆引きつった笑いと共に仰天していた
そら引くわ。あんな市中引き回しの刑見たら

雛「とっしー、何してるのー!早く食べよー」

階下の光景にあっけにとられていると、背後から雛ちゃんに呼ばれた
振り向けば、幼体ちゃんの手によって既に食事の準備は万端、といったところだった

――あー……うん、すぐ行くよ…

見なかったこと……にするのは無理そうだが、大事無さそうなので取り敢えず気にしないことにした

3.

こんにちは皆さん、私はメイドロイド幼体。Kingお嬢様の身の回りのお世話及び護衛を任されたメイドロボです
…えっ?誰に挨拶してるんだって?………細かいことはいいのですよ
本日はお日柄も良く、ついついお嬢様のお弁当を作るのにもルンルン気分で、正直作りすぎてしまいました。重箱五段は自分でもやりすぎだなぁ、と反省している次第です
そんな今日この頃なお昼休み。お嬢様が唐突に、

雛「よし!今日はとっしーと一緒にお昼食べよう!」

と高らかに宣言なされました。とっしー……いつもお嬢様が話題になさる『としあき』様のことでしょうか…?

雛「よっちゃんはとっしーと会うの初めてだよね?いい機会だし紹介しとこうっと」

そう言って軽やかなスキップで廊下を駆けて行くお嬢様
お嬢様はとしあき様のこととなるといつもこんな調子です
…そして現在、ちょっとしたハプニングは有りましたが漸く昼食タイムとなりました

――おぉ…すごいなぁ。これ、全部幼体ちゃんが?

御座に所狭しと並べた重箱の中身を見て、としあき様が感嘆の声を上げます

幼体「はい。お嬢様のためにいつも頑張って作らせて頂いております」
雛「頑張りすぎだけどね。こんなに食べられないっていつも言ってるじゃない。毎度毎度友達にお裾分けという名の残飯処理頼むのは私なんだから」
幼体「ごめんね、また一緒に遊ぼうね?」
雛「またそれか。…誰に吹き込まれたか知らないけど、それ謝る態度じゃないからね」
幼体「…そうなのですか?オレオ様にご指導頂いて更に完璧に近づいたハズなのですが…」
雛「いや、そういう意味じゃないから。……てかオレオの奴何仕込んでんのよ……。今度〆とかないと…」

怒られてしまいました。…あれから鏡の前で何度も修練を重ねたのですが、お嬢様はお気に召されないご様子です

――ははは。幼体ちゃん、それじゃダメだよ。悪いと思ったらちゃんと『ごめんなさい』って言わなきゃ
幼体「あ、やっぱりアレはダメですか?」
――うん、まぁ…普通の人はバカにされてるかと思うかもしれないしね…
幼体「…むぅ、難しいですね……」
雛「アンタこの間いつもの先生にも『貴方は少し、一般常識に欠ける』って言われたばっかりじゃない」
幼体「……そうでした。精進致します」

…私自身はゴゴゴ様のご指導や自分の経験を踏まえ、完璧なメイドロボへと近づいていると思っていたのですが、どうもそうでは無い模様
そいえばゴゴゴ様も、『真のメイドへの道は果てしなく遠いもの』とおっしゃっていました。ちょっと自惚れがすぎたようです。反省

雛「さ、そんなことよりお昼食べましょ!………はい、とっしー!あーん♪」

不意に、お嬢様が玉子巻きをとしあき様の口に近づけ、食べるように促します
……私には、何の意味があるのか理解しかねます。が、お嬢様はとても嬉しそう

――あ、いや、雛ちゃん…そんなことしなくても俺食べれるから……
雛「えー!いいじゃない。ホラ、食べて食べてー」

対してとしあき様は拒否の意思を示しますが、お嬢様はお構い無しといった様子
むぅ、ここはとしあき様を助けるべきなのでしょうか?
しかし一日モニターの時のオレオ様と違い、今のとしあき様は私の護衛対象には該当しません。…ここは様子を見るべきですね

――わ、分かった。…しょうがないなぁ、雛ちゃんは。………んぐんぐ……
雛「どう?どう?美味しい?」
――う、うん。美味しいよ
雛「イェーイ!やったー!じゃ、今度はこっち食べてー」

暫くして、観念したのかお嬢様が差し出すおかずを頬張るとしあき様
それに気を良くしたお嬢様はすかさず次のおかずをとしあき様に差し出します
……まぁ、お嬢様が楽しそうなので放っておくことにしましょう。その方がいいような気がします

――あー…いや、雛ちゃん。幼体ちゃんも見てるし……

ふと、としあき様が私に目配せしてそう言います
私は別に気にしないのですが、若干としあき様の目が「助けてくれ」と訴えている気がしないでも無いです

雛「んー…?何、よっちゃんもやってみたい?しょうがないなぁ、一回だけよ?この役目が私の物なんだからね!」

何をどう勘違いしたらそうなるのかは解りませんが、お嬢様は私が先程の「あーん」をとしあき様に実践することを望んでいらっしゃるご様子
……ならば、従者として期待に応えねばなりません。メイドの辛いところです

幼体「…はぁ。では失礼して……」

適当に唐揚げを一つ箸で摘み、先程のお嬢様と同じようにとしあき様に差し出します

雛「はい、そこで『あーん』って言う!悩ましい声出しちゃダメよ?」
幼体「えー……。あー…ん?」
雛「何で疑問系なのよ!?」

それは私がこの行為の意味に疑問を感じているからに他ならないのですが、そんなことはお嬢様の前では言えません
そして差し出されたおかずに、としあき様は『やっぱ食べなきゃダメだよね』的な視線を向けてきます
そうですね、食べて頂かないと私がお嬢様に怒られてしまいます

――あ、あーん………。もぐもぐ……
雛「はい、よっちゃん!そこですかさず美味しいか聞く!」
幼体「えっ、あ、はい。お、美味しいですか?としあき様」
――んぐんぐ……うん、美味しいよ

頬張った唐揚げを飲み込んだ後、笑顔でそう答えてくれるとしあき様
……その笑顔を見た瞬間、私の中で何と言うか……そう、「電流が走った」とでも言うのでしょうか?未知の感覚が神経系回路を駆け巡りました
そして全身の駆動系の稼働率が25%程アップし、感情・記憶回路によく分からない「何か」が込み上げてきます
更に頬の…いえ、顔全体の温度調節機能にもバグが発生している模様
……これは一体どうしたことでしょうか……?もしかして私、壊れてしまったのですか…?

――ん?幼体ちゃん、どうかした?

私の様子がおかしいことに気づいたとしあき様が、私の顔を心配そうに覗き込みます。…中々目ざといお方ですね

幼体「い、いえ。何でもありません…」

とは言いながらも、としあき様の顔を直視出来ないのですが……

――そう?何か顔赤いけど……?
幼体「だ、大丈夫です。ハイ」
――…ならいいけど……具合悪かったりしたら、無理しない方がいいよ

そう言ってまた私に笑顔を向けるとしあき様
……この笑顔は……危険です。私が私で無くなってしまうような……そんな気がします

雛「えへへー。じゃあ今度は私の番ね!はいとっしー!あーん♪」

そんな私ととしあき様のやり取りに、お嬢様が割って入り込みました
苦笑いしながらも、お嬢様の行為をとしあき様は享受されていらっしゃるご様子
……二人のやり取りを見ながら、人の感情についてもっと多くのことを学ばなければならないなぁ、と痛感しました

4.

雛「はー、食べた食べた。もーお腹いっぱいだわー」

食事を終えて、パンパンに膨らんだお腹を摩りながら雛ちゃんが呟く
俺も食べ過ぎて死ねる。流石にあの量はキツいわ…

――お、俺ももう食えん。ごっつぁんです…
幼体「お粗末様です」

グロッキー状態の俺と雛ちゃんに三つ指を立ててお辞儀をする幼体ちゃん
てか、彼女も結構な量を食べたハズなのに平然としてるのはすごいとしか言いようが無い

幼体「しかし……申し訳ございませんでした、お二人共。次からはもっと分量を考えてお作り致します」
――そ、そうだね……。そうしてくれると助かる
雛「…大体重箱五段の弁当とか、学校に持ってくる弁当の量じゃないからね」
幼体「……面目次第もありません」

俺と雛ちゃんの言葉に、済まなさそうに肩を落とす幼体ちゃん
そんな彼女の頭を、そっと撫でてあげた

――いや、別に責めてる訳じゃないんだ。幼体ちゃんもメイドを初めて日が浅いみたいだし、これから気をつければいいんだよ
幼体「あっ……。はい、ありがとうございます…」

撫でられた所為か、それとも労いの言葉を貰えたからか、幼体ちゃんは頬を赤く染めてはにかんだ笑みを見せる

幼体「あ、あの……手……」
――ん?嫌だった…?
幼体「い、いえ……その……もっと撫でてほしいです……」
――そ、そう?

そういうことなら、と俺は幼体ちゃんの頭を優しく撫で続ける
撫でる度に何だか気持ち良さそうに頬を綻ばせていく彼女は結構可愛かった

――(…何か犬みたいだ)
幼体「はにゃ~…………………はっ!?も、申し訳ありません!少し自分を見失っていました…」

嬉しそうに頭を撫でられていた幼体ちゃんだったが、不意に正気に戻り、さっと俺と間合いを取る

――あーいや、別に謝らなくても。可愛かったし
幼体「か、可愛い……?わ、私がですか?」
――うん。仕事のこともあるだろうけど、学校に居る間くらいはもっと笑ってもいいと思うよ?
幼体「えっ…あっ…そ、その……わ、私は………し、失礼します!!!」

急にしどろもどろになった幼体ちゃんは、突然脱兎の如く駆けていき、あっという間に校内へと帰っていった
…空になった重箱はそのままで

――あ、あれ…?俺、何か変なこと言った?
雛「……別に。変なことは言ってないんじゃない?」

うん、変なことは言ってないな。率直な意見を言ったまでで。…同意を求めた雛ちゃんが若干むくれているのもよく分からないけど…

――ところでこの重箱……
雛「よっちゃんが逃げちゃったのとっしーの所為だから、とっしー片付けてね(はぁと)」

ですよねー
まぁ……食後の運動とでも思えばいいかな

――でも幼体ちゃんって、本当にゴゴゴさんそっくりだよね
雛「あー、アレね……。私もゴゴゴが連れてきた時びっくりしたわよ。ゴゴゴに隠し子が居たのかと思ったもの」
――隠し子って……

本人に聞かれたら殺されそうだ

雛「そんなことよりホラとっしー!さっさと片付けて!昼休み終わっちゃう!」
――へいへーい

雛ちゃんに催促されて、俺はさっさと重箱と御座を片付けることにした

おまけ

幼体「……あ、重箱と御座………」

咄嗟に逃げ出してしまったので、片付けも何もせずに来てしまった
…仕事を放棄して逃げ出してしまうなんて、メイドロボ失格です……
でも……としあき様に可愛いと言われて……記憶回路が一瞬…ほんの一瞬真っ白になってしまったのは何故なのでしょう……?

幼体「……原因不明……。対処法、検索…………。………ダメですね、やっぱり分かりません………」

どれだけメモリー内の情報を検索・統合しても、私の望む答えは出てきません

幼体「……このモヤモヤした物が何なのか分かれば、私はもっとメイドロボとして完成に近づけるのでしょうか…?」

分からない。こんなことは初めてだ……。取り敢えずこのことを考えるのは保留にしよう

…取り敢えず、咄嗟に録画したとしあき様の笑顔は、私のメモリーの一番大事なところに保存しておこうと思う