主人公になれなかったオレオくんと
メインヒロインになりきれない彼女たちのあれこれ
0
「オレオくん!」
「オレオくんは転校生だから、部活はまだ決まってないんだよね?」
「ああ……」
「入らないの?」
「どうしようか悩んでるんだ。どんな部活があるのかも知らないし…」
「なら丁度よかった!私がこの学園内でも珍しい部活に案内してあげるよ!」
「なんで珍しい縛りなんだよ…スタンダードなので行こうよ」
「いいからいいから!あ、ちなみにこの学園じゃあ私のほうが先輩なんだから、ふまれさんって
呼ぶように」
「…ふまれさん」
「よろしい!じゃあいってみよう!」
1
「まずはここだよ!」
ふまれさんが、部室棟にある大部屋の一つの前で立ち止まった。
「バトル将棋部…?」
「うん。これは新しいよー…失礼しまーす」
ガチャリとドアを開けた。
「ではこう…」
「む……そうきたか……」
だだっぴろい部屋の隅っこで、二人の少女が将棋をさしている。
ひとりは、白黒色のアレンジされた制服を着た少女…胸がすごい大きい。あの色は牛を表しているのだろうか?
けしからんな。
もうひとりは肩までの髪をピンで留めた、眼つきの鋭い…
「あ、委員長」
「ああ、オレオか。見学だっけ?」
うちのクラスの委員長、おぜうだ。部活やってたんだな。
「将棋できるのか?」
おぜうが目線は盤に据えたまま問う。
「いや、俺は連れてこられただけで…ルールくらいはわかるけど」
「そうか…じゃあまあ、見ていて面白いものでもないかもしれんが、ゆっくりしてってくれ…っと」
ぱちり、とおぜうが駒を進める。
「ふむ……」
牛の子が、顎に手をやって考え込む。
「ところで二人とも、こんな広い部屋なのに、どうしてそんな端っこで将棋してるんだ?」
「ああ、それはな…」
おぜうが口をひらいた瞬間。
チリリーン!
鐘の音が響き渡った。
「!」
途端、机で将棋をさしていた二人が、教室の中央に向かって走った。
そして……
「とぉっ!」
牛の子が委員長に飛び蹴りを見舞った。
「むっ…」
おぜうが俊敏な動きでその下を潜って、その勢いで上に跳ね上がる。
牛の子が両手を地面につけ、反動で飛び上がって追う。
おぜうが上からカカトを落とす。
牛の子が足の裏でそれを受け、勢いで器用に半回転して向かい合った。
なんでか二人は空中で足しか使わずに蹴りあっていた。
ややあって……
チリリーン!
またも鐘の音が響いた。
ほぼ同時に着地した二人は、気だるげな動きで机に戻っていく。
「やれやれだわ…このルール考えたの誰よ…」
おぜうがぼやきながら席について、考え始める。
「さあ?先代からの伝統だからねえ……よっ」
「なんでも混ぜればいいってもんでもないわよね…そら」
チリリーン!
ドゴーン!
チリリーン!
ぱちり。
チリリーン!
ドゥックー
チリリーン!
カチャ…
チリリーン!
「はあ…はあ…そろそろ…決着つきそうね…」
おぜうが息も絶え絶えに呟く。
「あは…はぁ…どっちの…?」
牛の子も息を切らせながらもおっとりと笑う。
「どっちも…よっ!」
おぜうが走り出す…が、あしが縺れてバランスが崩れる。
「しまっ…!」
「今!」
牛の子が駆け出して委員長の顎を蹴り上げようと足を振り上げた瞬間―――
「……かかったね」
おぜうの体から、紅い光が溢れる。
「……っっ!」
牛の子も、それを見て何か紙のようなものを地面に叩き付けた。
紅と白の光が膨れて……衝撃。
……
チリリーン!
音で目が覚めた。
体を起こすと、ゆらゆらと揺れながら将棋盤に向かって二人が歩いているのが見えた。
将棋盤は何故か無傷で残っている。どうなってんだ。
寄りかかるように席に着き、牛の子が駒を持ち上げる。
「これで…王手…」
ぱちり。
……ドワシャーン!
最後の一手を打った瞬間に机につっぷした。
「…なかった…セーフ」
おぜうも呟いてからのけぞって倒れた。
「…どうすんのさ、これ…」
隣のふまれさんを見ながら言ったつもりだったが、そこにふまれさんはいなかった
後方で瓦礫の山から顔だけ出したふまれさんが、青筋を立てて叫んだ。
「さすがの私も瓦礫に踏まれたのは初めてだよ…やかんと水!」
そんなラグビー部な。
……30分後。
「紹介するね。こっちは知ってるよね?同じクラスのおぜうと、こっちの人は大パンダさん。
クラスは違うけど、一年生だよ」
「よろしくね~」
パンダだったのか!おっぱいでかいから牛だと思ってた!間違っても口には出せんが!
「……牛だと思ってた……って思ってる……」
あらぬ方向から声がかかった。
「ウェ!?」
ドキリとして振り向くと、二人組みの少女がドアからこっちを覗いていた。
「さ、サイテーね!転校生が男だって言うから見に来ておいて正解だわ……!
さとりん、アレには近づいちゃダメよ」
「うん」
それだけ言い残して、二人は消えていった。
…何者なんです?
くるりと部屋の中に視線を戻すと、ふまれさんとおぜうの視線が俺に突き刺さっていた。
「牛だと思った…か…何故だろうねふーちゃん」
「なんでだろうね…どうみてもパンダでしょ…」
「牛さんも可愛いですよね~」
本人はよくわかっていないようだ。
「そ、そういえば!バトル将棋部だっけ?どんな活動をしているのかなっと!」
俺は強引に話題を変えにかかった。俺は見学に来たんだ。俺は見学に来たんだ。
「そういえば説明まだだったね」
パンダ先輩がやおら立ち上がり、叫んだ。
「バトルショォ~ギ!」
超エキサイティング!
「まあ、見ていてわかったと思うけど、ラウンドごとに将棋とケンカで争うゲームだよ。
先に相手を投了させるか、KOした方の勝ち。さっきはいいところまで行ったんだけど、KOされたから私の負けだねー」
パンダ先輩がほわほわと笑う。
「まあ、あと1分粘られてたら、私の負けでしたけどね…」
おぜうが補足する。
「ね、新しいでしょ?こんなの見たことないでしょ?」
ふまれさんが興奮気味に話しかけてくる。
「いや…あるぞ、似たようなの。チェスボクシングだかなんだか」
「ええ~~っ!?」
「あるね」
「ありますよー」
おぜうとぱんださんも同意する。
「わー…世っ広だわー…」
「オチもついたところで、次に行きますか…お邪魔しました、二人とも」
「はいはーい」
「まあ、暇ならまた来るといいよ」
部室を後にした。
2
「次はここだね」
ふまれさんが小さな道場のドアを指差した。
「やりぶ……?」
ドアには「やりぶ」と書かれた紙が貼り付けてあり、その下にベンチに座った男性から
「槍(や)らないか」と吹き出しが出ているイラストが描かれていた。
「そ、槍部。…まあ、ここも見たほうが早いよ」
ふまれさんは道場のドアに手をかけて
「失礼しまーす」
言うと同時にドアを開けた。
カカカカッ!
「ひっ!?」
瞬間、何か棒状の物体が飛来し、ふまれさんと俺の間に突き刺さった。
……道場の中には二人の人間がいた。
ツナギを着た小柄な少女が空中を走るように飛びながら
両手いっぱいに持った小さな矢のようなものを、もう一人に向かって投げつけている。
先ほど飛んできたのは恐らくあれであろう。
もう一人の長身の女性が、手にした大きな槍で飛来する矢をあるいは弾き、あるいはかわしながら
ツナギの少女に追い縋る。
「…!」
一瞬の隙を衝いて長身がツナギに肉薄し、槍を一閃する。
「うわっ」
突然ツナギの手にもどこからともなく巨大な槍が出現した。
その槍でもって一撃を受けたが、ウェイトの差か、つけた勢いか、大きく弾き飛ばされる。
飛ばされた先には、当然のようにふまれさんがいた。
「むぎゅっ!」
壁とふまれさんの顔面を踏み台にして、ツナギがロケットのように跳ね返る。
「ッせぇい!!」
その加速に乗せて、ツナギの少女が巨大な槍を地面に叩きつけるように投げた。
「シッ!」
地面を踏み鳴らし、長身の少女も上空に槍を投げる。
二本の槍は図ったように同じラインを走り、空中で激突し、空気の破裂するような音とともに床に落ちた。
二人の少女は動きを止めると一礼して、ようやくおおきく息を吐くと
「ふーッ……やー危なかった!殺されるかと思ったね!」
ツナギの少女がからからと笑った。
「殺されると思ったのはこっちですよぉーーーーーーーっ!!」
BAKOOON!と音を立ててふまれさんがめりこんだ壁から飛び出してきた。
それを見たツナギの人が軽く手を上げ
「おー、ふまちゃんいたんだ!もぉ、一体いつになったらヤらせてくれるのさ!」
「未来永劫ヤらせません!…まったく、玄関開けたら即槍って、どんだけ物騒なんですか…」
と、俺のほうに向き直り
「紹介するよ…このちっこい方がアベサン先輩…背の高いほうが紅い人先輩。二人とも二年生だよ」
ツナギの人…アベサン先輩というらしい…は、ふまれさんを軽く睨んだ後、俺を見てにまっと笑った
「ちっこい方言うな!…君がウワサの転校生だね!…ちんちん勃ってるぅ?」
「んなっ」
「なに言ってるんですか!」
俺が叫びだすより早く、ふまれさんがアベサン先輩に叫ぶ。顔が真っ赤だ。
「ちんこが勃てばなんでもできる」
「聞いてないよ!」
「……気をつけてね、この人は30秒に一回セクハラしてくるから」
「なんて人だよ!」
「すまん、私がもっとしっかり制していればいいのだが…」
長身の女性…紅い人先輩といったか…が、かるくこちらに頭を下げる。
こちらはアベサン先輩と対照的で、いかにも武士といった佇まいの落ち着いた女性だ。
「あ、いや…そう改まられると…平気ですから」
「そういってくれると助かる」
「おやおやぁ…?紅は年下が好みですかにゃ?あーいつはあいつはかわいい~っ♪とs」
づどん、と打撃音がして、アベサン先輩が地面に叩きつけられたと思うと、ブンブンと回転しながら
バウンドして浮いた。
今ならついげきのグランドヴァイパーでダメージはさらに加速する。
「さて…部活見学だったか?」
何事もなかったかのように紅い人先輩がこちらに向き直り訊いた。
「……ハイ」
この人は怒らせないようにしよう。
紅い人先輩が説明を始めた。
「槍部。
先ほど私たちがが行っていた試合が示すとおり、活動内容は基本自分の槍を手に持って戦う術を磨く事だが
槍の複数所持、及びそれの投擲が認められている…というより、推奨されているという点で通常の槍術とは一線を画す
つまり、槍術と槍投げ競技を組み合わせた全く新しい…」
「ウオオオオオォォオオーッ!!!」
説明の途中で復活したアベサン先輩が、何故か槍を掲げて絶叫したので最後の方が聞こえなかった。
「概要はわかりました…しかしさっきの戦いをみて思ったんですけど、ずっと槍を持ってた紅い人先輩はともかく
アベサン先輩は明らかに槍が出たり消えたりしてましたよね…あれは一体どうなってるんですか?」
尋ねると、アベサン先輩は妖しく微笑み
「んふ………見たい?」
と、突然僕の見ている目の前で、ツナギのホックをはずしはじめたのだ…!
づどん、と打撃音がして、アベサン先輩が地面に叩きつけられたと思うと、そのまま地面にめり込んで
びくんと一度はねた後、ぴくりとも動かなくなった。亡くなってしまったのだろうか。
「失礼した」
「……いや、こちらこそ、しつれいしました……」
ふまれさんとふたりで頭を下げて、道場を後にした。
最後に一度だけ振り返ると、アベサン先輩が地面にめり込んだまま血文字で「マタネ」と書いていた。
生きてるってそれだけで素晴らしい事なんだなって感動した。
3
「つぎはここだよー」
「タフだよねふまれさんも」
次にふまれさんが嬉しそうに指し示したのは、体育館のドアである。
よく見ると木製の立派な看板が掲げられていて、達筆な字でなにか書いてある
「どれどれ…?『べえ流・世紀末バスケットボール部』…………ちょっと待てよ!」
「何です!?」
「……帰っていいかな……」
「ダメだよ!なんでここまで来て!」
「もう名前から嫌な予感しかしないじゃん!この先にはときめきもメモリアルも感じねえんだよ!」
「名前でものを判断しちゃダメっ!ここのバスケ部はすごいんだよ?全国制覇も狙えちゃうんだから!
見よっ!」
がららーん!とドアを開け放つふまれさん。なんでテンションだだ上がりなんだこの人。
そんな外界のけたたましさをよそに、体育館の中は静謐な空気で満たされていた。
コートの中央で、ボールを挟むように目を閉じた二人の女性が向かい合って正座をしている。
ひとりは眼鏡をかけた髪の長い少女、もう一人は短めの髪に触覚のような毛束がふたつ、ぴょこっと前に出ている少女だ。
「…」
「……」
「………」
「…………」
誰も声を発しない。俺も思わず息を殺していた。
どうでもいいが、どうして彼女らの体操着はあんなに袖が長いんだ。普通バスケはビブスとかでやるだろ。
……………
………………くわっ!
同時に眼をかっぴらいた両者が、ボールを無視して相手に飛び掛った。
体育館が揺れた。
落雷かと思った。
触覚の少女より若干高く舞い上がった眼鏡の女性がその長い袖を叩きつけ、まさに電光の勢いで
コートのゴール前あたりまで吹き飛ばしたのだ。
何が起こってるんだ。すげえ、なんであの人落ちながら正座してるんだ。ボールはスタート位置から動いてないけどいいのか。
様々な疑問が頭の中を渦巻いたが、答えるものはだれもいない。
ふまれさんは試合の行方を固唾を呑んで見守っていて、とてもルールを尋ねられる状況じゃない。
そのまま空中で姿勢を持ち直した触覚の少女が、やはり空中で正座したまま袖を飛ばす。
それを眼鏡の少女が捌く、打つ、捌く、打つ
それはさながら袖の結界。二人の少女はほぼ空中に静止したまま、暴風を起こす嵐と化していた。
ややあって二人が同時に着地、そして同時に右手の人差し指を天高く掲げ、左手を腰に添えた。
…………
がくり、と触覚の少女が方膝を付く。
「…さすがはシショー…先取点を許してしまいました…70000点」
E(え)~~ッッッ!
わからない。もう何がわからないのかもわからない。
「まだまだですね、しかねえ」
眼鏡の女性が優雅に居住まいを正す。
「ボールがスタート位置から動いていませんよ?」
あんたがそれツッコむのかよ!
「これではバスケットボールとは呼べません」
おィィ?わかってんだよ!わかってんのかよ!
「そこに気づくとは大したシショー……まさに世紀末バスケですね……」
世も末だよ!全然うまくねーよ!
ふまれさんを見ると、感極まったようで涙を流していた。
俺だって泣きたいよ。
「素晴らしい試合だったね…紹介するよ?三年のいくべえ先輩と、二年のしかねえ先輩」
「イク…イクぅ…」
「イクさんではございませぬ、彼は当流の門を叩きし者」
「いや、叩いてませんけど」
もう帰りたい。
「さて、部活見学でしたね…先の立会いにて、おおよそは理解できたかと思いますが…」
「いや正直全然。まさか見る前より謎が深まるとは思いませんでした」
眼鏡の…いくべえ先輩が、得たりといった顔でうなずいた。
「その通りです。実は私たちもあまり理解していないのです」
「なん…だと…?」
「考えるな!感じるんだ!」
触角の…しかねえ先輩がサッとポーズをとって言った
やったーかっこいいー!
「まあでも…強いて言うなら正座かしら」
べえ先輩が首をかしげながら言う。
「ですね」
しかねえ先輩が頷く。
「あ、それはなんとなく見て取れました」
俺が膝をぽんと打つ。
「眼の付け所がいいね!」
ふまれさんが親指を立てる。
不思議だ。わからないことだらけすぎて、こんな些細な理解でこの一体感。
「正座を極めることにより精神を統一し、己をひとつ上の段階へと導く…それがべえ流なのです…」
「えーと…世紀末とバスケットボールの意味は……?」
「……」
「………」
べえ先輩としかねえ先輩が顔を見合わせる。
次第に空気が電気を帯びてきた気がする。
うん、これはまずい。これはまずいな。
一秒後には「そ、それはその……キィ~死ね」となっておかしくない。
電子レンジに入れられたダイナマイトの気分だ。
「そ、そうだ!用事を思い出したんで、この辺で退散させてもらおうかな!な!ふまれさん!」
「え、そ、そうなの…?最初暇そうにしてたじゃない…」
「今思い出したんだよダラズ!いいから帰るぞ!」
「それは非常に残念です…今から世紀末の意味についての説明が始まるところだったのですが…」
折衷案が出た。生きて帰れるようだ。
「じゃあ、この辺で失礼しますー…ぅわぁっ!」
体育館を出ようとしたふまれさんが、いつのまにやら転がってきたボールにつまづいて転んだ。
…………
とりあえず踏んでおいた。
4
「う~~~ん……今日はこれくらいかなー」
ふまれさんが大きく伸びをする。
「なあ…ふまれさん?」
「なに?オレオくん」
「今日周った部活動の人たちさ…いろいろやりながら、結局みんな戦ってたよな…なんでだ?」
ふまれさんは、心底意外だと言った顔でこちらを見ている
「当たり前だよ。ここではね、友達も、恋人も、敵も味方も…大切なものは、みんな戦って手に入れるんだ。
私たちは、戦って出会う。戦って分かり合う。戦って絆を深める。戦って戦って……」
ふまれさんがまっすぐにこちらを見る。
「だから、私たちだって…ね?」
ゆっくりと構える。
そうか。あの人たちを見たとき、呆れながらも目を離せない理由が、それだったんだ。
「ふん、踏まれ足りないと見えるね」
俺も応える。
全力以上で戦える、そんな誰かと出会うために。
「いくぜ……ふまれさん」
「ふまれでいいよ……私に勝てたらね!」
「……上等ッ!!」
俺があいつに向かって走る。
あいつが俺に向かって走る。
そして――――
おわり
お粗末さまでした