くたくた「はぁ…はぁ…っく」
うかつだった。
昼休みに調子に乗って飲みすぎた…
でも私は悪くないわ。いちごジュースの甘い誘惑が強烈なのが悪いのよ。
みやびん「――だから、この――利用して…」
先生の話を気にする余裕もない
今はただ早く時間が過ぎていくことを願うばかり。
みやびん「じゃ、ここをくたくた。」
くたくた「は、はい!?」
びくりとする。
どうしよう。全く話を聞いていなかった。
みやびん「あぁん?もしかして聞いてなかったのか?」
くたくた「す、す、すいません……」
みやびん「ん?何だ?具合悪いの?」
くたくた「は、はい…ちょ、ちょっと……」
うっ……
もうあまり我慢できそうもない。
きゅるきゅるとお腹まで苦しくなってきた。
みやびん「じゃあしかたないな。保健室に……次はもっと早く言うんだよ。」
くたくた「す、すいません…」
みやびん先生は怒らせなければ優しい。
女性なのにスーツを着ると世の中の男連中より数段かっこいいと思う。
みやびん「おい、誰かくたくたを連れて行ってくれないか。」
くたくた「だ、大丈夫…です。一人で行けます……」
みやびん「ん?そうか。ま、あまり無理しないようにな。じゃあ続けるぞ。」
ゆっくりと席を立ち廊下に出る。
一応保健室にも行くけれどその前にトイレを……
もう少し……あと少し……
――はー。どっこい
くたくた「っ……!」
こんな時に…
本当になんてタイミングが悪いの……!
――あれ?くたくたさん。俺と同じで仮病サボり……ってわけじゃなさそうだね。
くたくた「っ……はぁ、ちょ、ちょっと……」
いつもならつい顔が緩んでしまう相手。
でも今はその優しさが逆に憎らしい。
――大丈夫?どうせ俺も保健室だし一緒に行こう?
私の気も知らないで変なところで気を使ってくれる。
私はブルブル震えながらドレスの裾を握り締めて襲い来る尿意に耐える。
――ほら。一緒に……
くたくた「んっ…!」
震える私の手を握る。
ひんやりとした冷たい手が触れて、それが引き金になった。
くたくた「あっ!」
――ん?
くたくた「…だ、ダメ! み、見な……見ないで!」
我慢しようとしてももう無理だった。
ダムが決壊するように、抑えきれなくなったおしっこが布ごしに太股をつたい、靴下を濡らし、廊下に水溜りを作っていく。
――あ、あぁ……ご、ごめん……
くたくた「あ……あぁ……み、みな……見ないでよぉ……ばかぁ……」
情けなくて、恥ずかしくて。
それを私の中でもそれなりに大きな存在になっている男の人が見ているのが余計にその感情を大きくして。
私の一つしか外に出していない目が涙でにじんだ。
くたくた「や、やだよぉ……と、止まらないよぉ……」
一人どうすることも出来ずにとしあきの目の前で放尿を続けてしまう。
それをやっぱりどうすることも出来ずにとしあきも見ていた。
やがて全て出してしまうと、虚無感と絶望感に立っていることも出来なくなる。
そのまま撒き散らしてしまった私のおしっこの上にぺたんと座り込む。
もう何がなんだか分からなかったし、どうでもよくなった。
――……ごめん。
くたくた「ひっ……だっ……みっ……見ないでっていっ……いったのに……」
――トイレに行きたかっただけ…なんだよね?具合が悪かったわけじゃ……
くたくた「うっ…うっ…そ、そうよ!そ、それだけ……だったのに! と、としあきの……せいっ……でっ」
違う。こんなことを言いたいんじゃない。
私が自己管理をしっかりしていなかったのが悪いんだ。
――わかった
一言だけつぶやくととしあきはどこかへ行ってしまった。
一人残された私はさらなる孤独感と絶望感に打ちひしがれそうになる。
くたくた「なっ何なのよぉ! ば、ばか!」
涙でくしゃくしゃになった顔を伏せて、自分のしてしまったことに絶望する。
そして、全ての授業の終了を告げる金がなった。
にわかに周囲が騒がしくなってきた。
私はもうおしまいだと思った。
――くたくたさん
ふと顔を上げると前にとしあきが立っていた。
どこから持ってきたのか二つのバケツをもって。
――ごめん
そしてそれを私の頭に思いっきりぶちまけた。
くたくた「きゃ!?」
座り込む私の全身に水が飛び散る。
あまりの寒さに凍えてしまいそうになるけれど、私にはそれがとても嬉しく感じた。
くたくた「……」
――大丈夫? ごめんね。
あたり一面水浸しになる。
水音と廊下の惨状を見たのか、辺りに人が集まってきた。
最低「お、おいおい!何やってんだ!?」
天子ちゃん「な、何これ!? とっしー! 何やってんの!?」
DX上海「先輩!……とくたくたさん?」
もみもみ「としあきさん!せ、説明を!説明をお願いします!」
平M「そ、そのバケツ…せ、先輩が…?」
ゆっくりフラン「…………何?何の騒ぎ?」
私ととしあきの周りに人だかりができてきた。
これだけの騒ぎになったら私はともかく、としあきはただじゃすまないと思う。
それにしてもとしあき、1年生の間でも結構有名人だったんだ。
ちょっとだけ、うらやましく感じてしまう。
くたくた「……としあ」
――くたくたさんは何も言わなくていい。
もう一つ残ったバケツに満たされた水を私の頭からもう一度ぶっかけた。
再び私の体が冷たい水が駆け巡る。
下着はもちろん、髪もドレスも肌に張り付いて言いようもない不快さを感じる。
廊下はもう一面水浸しで、消してしまいたかった痕跡がすっかり消えてしまった。
ギャラリーからも悲鳴が上がったり、怒号が聞こえたり、生徒会や先生達がやってきてたちまちとしあきは取り囲まれた。
私も何か言おうと思ったけれど、結局言葉が出てこなかった。
だから最後に、普段声を張り上げたりしない私にとっては精一杯の勇気をもって
くたくた「ありがとう!」
聞こえるはずがなかったと思う。
それほど周囲の喧騒はすさまじく、もう誰が何を言っているのか分からない一種のパニック状態だった。
それでも私の声に応えるようにとしあきは片手をあげた。
私はそれが本当に嬉しかった。
……結局
としあきは何も言わなかったらしい。
私はその後すぐに家に帰されて、その後としあきと先生達が謝りにきた。
その場で私は全てを話し、それでも騒ぎが大きくなった責任を、と言うことで停学処分となってしまった。
くたくた「…ごめん…なさい…私のせいで…」
――んー?いいさ、ちょうど纏まった休みが欲しかったから。
くたくた「……」
周りから見たらどういう風に見えるだろう?
学生がこんな昼間から公園に二人っきりだなんて不純だろうか?
それでも……私は
くたくた「としあき」
――ん?
唇を重ねる。
本当に触れるだけ。子供っぽいと言われても仕方のない感謝の気持ち。
それでも私にとって精一杯の大人びた行為。
――……
くたくた「……お礼」
――ははっ。ありがと。
くたくた「初めて……なんだから……大事にしなさいよ……?」
喋るのも恥ずかしい。
そんな真っ赤になった私の顔をとしあきは無遠慮に覗き込む。
くたくた「…こ、こら! 見ちゃダメ!」
――おっと。失礼しました。お嬢様。
おどけて言うとしあきに、私は本当に顔から火が出そうだった。
恥ずかしくて、でもあの時とは違って、とても嬉しい。
くたくた「……かえる」
――ああ、俺も…あまり一緒に居て噂になると恥ずかしいしな。
くたくた「私は……噂になってもいいよ。としあきなら……嬉しい…」
――え?
くたくた「さ、さよなら!」
私は走り出す。
まだ……今はこれでいい。
学生の私達に急な変化は必要ない。
これからゆっくりと仲を深めていけばいい……
終わり