みどんげ「……む?」
夕方、いつものように花壇の花々に水をやりにいくと、傍らに見知らぬ女性が座り込んでいた。
みどんげ「そこの方、いかがなされましたかな?」
にんっ「あ、ごめんなさい。ちょっと花を見ていたんです」
みどんげ「ほぅ……学内の女性は花になど興味を示さぬ方ばかりなので……いささか驚きましたな」
この学園の女性は豪傑ばかりだ。
そこらの男が束になってかかっても、返り討ちにして、あろうことか貞操を平気で奪うようなものばかりと聞く。
にんっ「ふふ、そんなことありませんよ。皆草木は大好きなはずです。ただちょっと、回りに目をやることを忘れているだけ……そうでしょ?」
みどんげ「……そうかもしれませんな。もう少し学園の女傑もおとなしくなってくれたら……少しは花々を慈しんでくれるのでしょうか?」
にんっ「こんなに綺麗な花々ですもの。見てくれる人は皆見てくれていますよ」
そう言って微笑む女性に、自分の体温が上昇したのを感じ取る。
心拍数にも異常が見られ、動悸も激しい。
……だが判断力に低下はみられない。
水をやる程度ならば問題なく行える。
にんっ「ところでその如雨露……もしかしてあなたがここの花壇を?」
みどんげ「…はっ? あ、申し送れました。私はみどんのすけといいます。学内の花壇の手入れをさせていただいております」
このような可憐な女性に自己紹介することがあろうとは。
人生というものは分からぬものだ。
にんっ「あ、これはどうも。私はにんっじんっといいます。みどんのすけさんは……」
みどんげ「あ、みどんげ、で結構ですよ。」
にんっ「みどんげさんは一人で学内の花壇を? 大変ではありませんか?」
みどんげ「ふむ……確かに大変ではありますが……その分やりがいはあるし、しっかりと花を咲かせてくれた時などはとても嬉しいものですよ」
にんっ「そうですか……凄いですね。尊敬します」
まるで天使のような笑顔に私の心が癒されていくのを感じる。
この女性の言葉だけでも、今まで緑化委員としてやってきた意味があるというものだ。
にんっ「あ、申し送れました。私はにんっじんっと申します。にんっと読んでいただいて結構ですよ」
みどんげ「そうですか。にんっさんですね。今後ともよろしくお願いします」
にんっ「こちらこそ。また花壇を見せていただいても構いませんか?」
にんっじんっといえば悪魔のような狡猾さで男性だろうが女性だろうが誑かし、あまつさえ貞操を奪うまさに淫魔のごとき女性と聞く。
だが目の前の女性にはそのような影は微塵も見られぬ。
きっと全くの別人か、根も葉も無い噂だったという事か。
みどんげ「もちろん、あなたのような……その、可憐な女性が見に来てくれるとあらば、花々も喜ぶでしょう」
にんっ「まぁ、可憐だなんて……うふふ」
みどんげ「は、はは……ははは……」
西日がきつくなってきた。
木漏れ日がまるで私達を祝福するように降り注いでいる。
このような事が私の身に起こったことを神に感謝した。
にんっ「それではそろそろ、私は帰りますね」
みどんげ「あ、校門までお送りしましょうか?」
にんっ「あ、いえ、それには及びませんわ。これ以上お仕事の邪魔をしてはいけませんし……」
にんっさんはそういうと足早に去っていった。
どうして無理矢理にでもついていかなかったのか、後になって悔やまれる。
としあきやオレオのような言い方をするなら、僅かな時間を共に過ごすフラグを折ってしまったようだ。
みどんげ「にんっさん……いや、また来てくれますよね……」
彼女が消えた校門の方を見つめてつぶやいた。
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にんっ「彼、私のこと知らないのかしら?」
みどんげさん……か
ちょっと変わった人だったわね
にんっ「まあ、いずれじっくりと可愛がってあげるとしますか」
あの堅物そうな顔がどう変わってしまうのか、今からちょっと楽しみだった。