ヌト【1】
「いやいや、それにしても世界ってのは広いモンだねぇ」 空を司る神であるヌトは上空から世界を見下ろす。彼女の仕事は天が落ちないように支えること。彼女はその仕事をしながら、下界をいつも見下ろしていた。 |
ヌト【2】
「人というのは、どれだけ見てても飽きないねぇ」 ヌトは今日も人の営みを眺める。笑い、怒り、悲しみ、驚き。時に愚かに、時に賢い彼らは本当に面白い存在だった。彼らと、彼らが住む世界のために、ヌトは今日も空を支えるのだ。 |
ヌト【3】
「まったく、本当に争いの好きな生き物だよ」 天にまで届く黒煙。血の匂いと断末魔の悲鳴。時として人はお互いを傷つけあう。ヌトは自分が何を守るために空を支えているのか、分からなくなることがあった。いっそ、このまますべてを空が押しつぶしてしまったほうが、みんな幸せになるのではないか。そんな考えすら浮かぶのだ。 |
ヌト【4】
「空を支えるのって、休みはないし、疲れるし、誰にも感謝されないし……だけど、やっぱり人間を見捨てられないかな」 多くの争いを見てきたヌト。しかし、彼女は戦争以上の数の人の美しさを見てきた。人には可能性がある。そう信じるからこそ、ヌトは天の支柱であり続けるのだ。 |