ネルガル【1】
| 「私はまた、ここに来てしまった。こんなにも疎まれているというのに」 ネルガルは地上に降り立った自分を冷静に見つめなおし、人知れず嘲笑を浮かべた。ネルガルは黄泉の国の神。彼女が訪れると、地上は覆すことのできない絶対的な冬の寒気に包まれる。 |
ネルガル【2】
| 「天上の神々が、また私のうわさをしているのか」 神殿で陰口をたたく神々の声が、ネルガルの耳には聞こえる。彼らに言わせればネルガルは悪神なのだという。だが、ネルガルとて好きで嫌われる役回りを演じているわけではない。こういう役回りをこなすために生まれてしまっただけなのだ。 |
ネルガル【3】
| 「すがるがいい、貴様らのためには何をも為さぬ神にな」 ネルガルが地上に姿をあらわすと、人間たちは祈りをささげ始めた。彼らの信仰の対象は、天上でネルガルの陰口をたたく神々だ。神々の多くは、ろくに己の役目を果たしていない。それなのに、人間たちからはあがめられ、ネルガルを見下しているのだ。 |
ネルガル【4】
| 「私が鼻つまみ者なのは、やはり変えようのない事実なのだ」 冬は世界に必要だ。冬は疲れ果てた大地を休ませ、死せる生き物を糧に豊かな土壌を育む。しかし、ネルガルは憎まれる。感謝などされず、悪神として憎しみを一身に集めている。ネルガルが去った場所には春が訪れるが、ネルガルの世界は永遠に冬なのだ。 |



