12月26日 [彩華津]
眠れなかった。あの出来事が頭から離れない・空間の歪み?というかなんというかあの
気色の悪いものも誰も見ていないようだし、強い光も誰も見ていないと言う。
もともと平凡な毎日にあきれ果てている俺の頭はこの新しい衝撃を受けて一気に活性化したらしい・
彩華津「全然眠くねぇ・・気味が悪いほどに・・」
こんな時は学校に行って適当に過ごしていれば大体は忘れられるのだがこんな時に限って
昨日の振り替え休日だ。いつもなら喜ぶところだが
何もすることがないというのはそれだけで気持ちを堕としていく
今の時間は12時過ぎ、眠れない眠れないと言いつつ本を読んでいたらこんな時間だ。
彩華津「とりあえず、学校行ってみるか」
学校は好きではない。好きなやつは少ないだろう。でも何もしないよりはましだった。
今時の学生が休日に部活動もないのに学校に散歩ってのはどうかと思うが、
金がないのだ。しかたあるまい。
私服で入ると日直の教師にとやかく言われるので制服に着替えてから行くことにした。
同時刻 女子寮 [霊花]
眠れなかった。どうしても昨日の事が頭から離れない。
突然光った空のことも、窓の外が歪んでいたのも、誰も知らなかった・・
その時は同室の夜空は部屋の外にいたから確認はできない。が、ほかの友人は皆しらないと言う。
でも、どうしても見間違えだとは思えない。
霊花「ふぅ・。外の空気すってこよっかなぁ」
悩んでいるときになにもしないのは逆に悩みを深めてしまうことが多い
っとそのとき
???「あれ、、霊花?早いね~ どうしたの?」
同室の夜空が起きたようだ
霊花「あ、おはよ~。って早いってどういうことよ~。もうお昼よ?」
ちなみにフルネームは新庄 夜空だ
夜空「だって霊花は起こさないと夜まで寝てるから~ お兄さんのこと言えないよねw」
霊花「うw/// でも兄さんほどひどくはないもの!」
夜空「そんなことないと僕は思うよ?だって兄弟だもの~寝好き兄弟~(笑)」
霊花「もう!夜空のいじわる!」
夜空「ごめんごめんw で、どうしてこんなに早く起きてるの?正直に言ってみて?」
霊花「そ、それは・」
夜空「あ、そっかwごめんねw 霊花がこんなに早くから起きてるなんて
一つしかなかったよねw」
霊花「な、なにを言って!」
夜空「昨日寝むれなかったんでしょ~?」
霊花「!?」
夜空「だよね~だって寝息聞こえなかったもんw僕の数少ない楽しみを取るなんてえげつないね~」
霊花「な、そんな楽しみ早く捨てちゃってよ! まあ、眠りはしなかったけど・」
夜空「ふむ。もしかして昨日の事?光がなんたらとか外がおかしいとか」
霊花「うん・・見間違いだと思ってるんだけど、なんか気になっちゃって」
夜空「霊花は目、いいもんね~ 見間違いなんてそうそうないし
じゃ、確かめにいこっか」
霊花「え?でもどこから光が出たとかそんなのわかんないよ?」
夜空「わかるよ~僕には見えなかったけど部屋が完全に照らされたんでしょ?
だったらこの部屋の窓は一箇所、東向きのこの一枚だけ、そして
この部屋が完全に照らされたって事は影になるものが無かった。つまり高いところから
照らされたってことでしょ?この寮から東にあって周りの家より高い建物
つまり その光の発生源は我らが深奥大学付属高校です!それも三階より上だね~
ここら辺で三階立ての家はないはずだし~、ここ、三階だし」
霊花「す、すごい・・夜空って頭いいのね・・・」
夜空「いや~そんなことはないと思うよ?」
夜空はそう言いながら着替え始める
霊花「じゃあこれから学校ね。校門開いてるかな」
夜空「いや~先に食堂にいこ~お腹すいちゃったし~、それに校門だったら鍵もってるからOKさ」
霊花「ちょ、どうして夜空が鍵もってるのよ!」
夜空「うん?前に借りたときから返すの忘れててねwうっかりだよ~今思い出したんだ~」
霊花「前言撤回」
夜空「漸減鉄火意って書くと必殺技みたいだよね~(笑)」
笑いながら窓に指で書いている。・・・確かにちょっとカッコイイかもしれない。
霊花「・・・いいわ。はやくいきましょう」
夜空「ちょ、ちょっとまってよ~ う ぉ わあ~ぁ」
ドッタン バッタン 脱ぎかけのズボンに足を取られて転んだらしい
たまにあるので気にせずに私は食堂に向かった。
[彩華津]
外に歩き出して少しは活性化していた脳ががほぐれたようで校門前まできて少し眠くなってきた。
彩華津「・・っ ふぁ~ぁ・・ 今更だぜ・ちくしょう。。あと1km前でこいよ・」
軽く独り言をもらしながら校門をよじ登り、乗り越えた。自分でも開いているか確認もしないで
いきなりよじ登るのはどうかと思ったが気にしないことにする。
彩華津「振り替え休日ってのは部活も休みになるんだっけか」
学校の敷地内に入ったのにもかかわらず本当に静かだ。昨夜のことがあるから少し、気味悪く感じる。
彩華津「っと コレ軽く不法侵入だけど、誰かに会ったら忘れ物を取りに来ましたとでも
言えばいいよな。」
足向きは迷わず三階。自分の教室は四階だが、
彩華津「とりあえず、俺の部屋の三階よりは上だよな。学校よりも高い家なんかないし。」
学校に来たのはなんとなくこの辺りから光が出ていたように思えたからだ。
なんとなくそう考えながら歩いていると下駄箱あたりに差し掛かり
彩華津「あ?」
ガラス戸が開かない。それもそうだろう文系の部活動も今日は休みだろうし、なぜ気づかなかったのか
彩華津「めんどくせぇ・・ でも消化不良みたいに気持ち悪いしな。 上行くか」
壁から生えているどこぞの配線や、電気機器などを踏みつけながら上に上っていく
四階の教室まで行けば入れる
彩華津「助かるけどよ。いい加減窓付けてほしいよな、寒いし」
窓ガラスはクラス内での喧嘩で以前割れてから外されたままだ。
今は冬。特別にこの教室内ではジャンパー他を着ることを許されているものの寒いことに変わりはない。
彩華津「よっと」
進入に成功。 なんだかスネーク気分でその気になってきた。
彩華津「壁なんか上ってたか?まあいいか」
三階まで階段で降りる。
彩華津「なんだこれ・・」
三階が深く抉り取られていた
彩華津「ちょっと待てよ。ありえねえだろ。なんでこんな廊下で爆弾が爆発したみたいに
なってんだよ・・。っ まさか」
動機が早くなってくるのがわかる。普通ならびびる所だろうが今までなかったこの事態に心なしか興奮する。
四階からの階段を下りてすぐのところが荒々しく削られている。それも教室3個分くらい大きくだ
今にも崩れそうな、、そんな感じがしないでもない。
彩華津「コレが昨日のやつの正体か?見間違えじゃなかったんだな。いや、まだ関係あるとは断定できないけど、
無関係じゃないよな」
俺は、調べることにした。
隅々までよく見ていく。隅のほうに溜まっている埃やゴミが焦げてたり溶けてたりしている。
よく見ると天井も浅く融解している。
そして、あるものを見つけた。
彩華津「ん?なんだこれ」
なにかとても頑丈そうな入れ物が壊れて中物が飛び出ている。心なしかその周囲が一番深く抉られている気がする。
彩華津「これ・・ナイフ・なのか?」
それは真っ黒な漆黒色のナイフだった。よくわからないがいつか本で見た黒曜石とか言うやつに似ているかも
しれない。刃の部分だけでなく持つところまで全部が一つの物質でできている。
ふと気になって触れてみようとすると
彩華津「あ、? 」
体がおかしい。 重さが感じられない。 重力がないように。 全ての束縛から解かれたような、
体が羽にでもなったかのような異常な軽さを覚えた。
彩華津「なん、だこれ・・ このナイフのせいなのか?」
心なしか薄く黒い光を帯びているように見える。
っとそのとき
彩華津「う、あ な、なんだよこれ!?」
ナイフが溶けて手に纏わりついてきた。
蛇にでも絡まれているかのようなそんな冷たい感触が体を襲う
彩華津「な、なにを 」
ナイフの溶けた黒い液体(固体ではないと思う・・)は皮膚に、体に吸い込まれていく
彩華津「っ・・っが」
冷たい。まるで冷水を注射されているかのよな錯覚。
あっという間に完全に浸み込んでしまい、跡形もなくなってしまった。
彩華津「な、なんだったんだ? なんか気持ちわりいな・・」
気づくと体の軽さはなくなっている。
でも、あの物体は確かに体の中にある。何かがあるのを感じ取れる。
彩華津「なんか違和感があるな・・。ん?これは・」
ナイフの入っていた入れ物の中に資料の束のようなものが入っていた。
彩華津「なんだこれ・全然読めねえ」
英語の筆記態とも違う見たことのない文字が連なっている。
読めるわけがない。なのに、読めないけど意味が頭に、視える。
彩華津「さっきの黒いののせいか?まあいいや、なになに
魔導・力?強化、、現象を・世界・・・だー!」
意味が頭に入ってくるのはいい。だが断片的に、数節ずつ入ってくるのはどういうことだ。
彩華津「それも順番ばらばらじゃねえか・・意味わかんねえ・・頭いてぇし・」
どうやらこれを読む?のは疲れるものらしい
彩華津「あー、水でも飲むか・・って水道管も無事じゃねえよな・・二階まで降りるか・」
階段に(階段の残骸?)に向かって歩き始めようとして立ち上がったその時、
「キャーー・・・」
どこからか悲鳴が聞こえた。
彩華津「!? 誰かいたのか! ともかく、どこからだ!」
あたりを見回しても何も見えない。だがすぐ下のほうからどたどたと慌しい物音が聞こえてくる。
いそいで二階に下りる。途中ひび割れに足を挟んだりして制服の裾が破れるがそれどころではない。
彩華津「おーい!誰かいるのかー!」
とりあえず呼びかけてみる。っとそのとき
ドゴーーーン
そばの壁が粉々に吹き飛んだ。
反射的に頭を守る。
彩華津「くっ いかれてやがるぞ! どこのどいつだ!」
事実、未だ現実感がなく、夢でも見ているような気分だが、叫ばずにはやってられない。
ググウウゥウ
そのとき、崩れた壁のあたりから獣の唸り声のようなものが聞こえる。
彩華津「あ?」
塵の煙がまだ晴れないうちにソレは飛び掛ってきた
彩華津「うぉ!? な、な、」
思わず言葉を失う。ソレは犬ではなく、狼でもなく、なんと言えばいいのか、例えるならばRPGなどにでてくる
「ケルベロス」とかそんな感じの猛獣だった。しかも
彩華津「でけぇ・・・」
グオオォオォオォ
その巨体にはこちらの足掻きなどまったく通用せず、すぐに張り倒されてしまう。
彩華津「が、あ、この ふざけやがって!」
小柄な牛ほどもあるその猛獣が体の上に乗りかかり、牙を向いてくる。
左腕の感覚がなく、かすかに濡れているような感触があることから使い物にならないことがわかる。
とりあえずはついているようだが・・・
彩華津「こっのおおおおおお!!」
なんとかこん身の力(ほぼキレ気味)で巨体の下から這い出す。
このまま背中を向けて逃げても無理だ。すぐに追いつかれて、次は殺される。
冷静に分析する。頭からも血が出ているようで、さほど痛みはないがとても冷えている。
こいつが頭のたらねえただの犬っころなら背中なんぞ見せたらこっちが弱いと判断して
飛び掛ってくるはずだ。だったら無意味でも構えて対峙してるほうが威嚇にはなるし、時間は稼げる。
そう判断した。
喧嘩は、自分で言うのはなんだが強い。負けた事はない。けれどそれは人間に対してだ。
俺は亜千維法という総戦術を心得ている。家に伝わる格闘術で、霊花を入れて世界中に二人しか
使い手のない格闘術だ。それは「殺す」という観念を元に作られた生粋の殺人術。
だが、まったく役に立たないことは目に見えている。五体満足ならまだしも、手負いの状態で、
こんなのわけのわからない物を素手で倒せる程じゃない。
とりあえず、いつでも動けるようにかかとを浮かして、左半身を前に出す。
わざわざ怪我している左を前に出すのは相手を誘うため。見るからに肉食そうだから血のにおいを
嗅がせて、怪我を見せればかならず左にかかってくる。はずだ。
彩華津「そしたら、右腕を振って右半身出して飛び掛ってきた相手の首を穿つ」
剛毛で首が見えないが頭の下を狙えば問題ない。
はなから殺すことは無理だとわかっている。だったら頚動脈を圧迫して落として逃げるしかない
本格的に
グウウゥウゥウゥ
相手は少し下がる。こちらが身構えたことに対して多少の警戒を持ったようだ。
よし、周囲の状況を観察できる時間ができた。
視線は相手からはずさずに瞳だけを左右に動かして周りを見る。
なにか使えそうなものは・
っとその時
霊花「兄さん!大丈夫!」
どうやらさっきの悲鳴は霊花のものだったようだ。だが、タイミングは最悪だ
グ・・・
獣は向こうに目を向ける。霊花のがうまそうに見えたのだろうか・・そりゃそうだろうが
彩華津「霊花!走ってここから出ろ!」
霊花もようやく煙の中にアレがいることに気がついたのかおびえの表情を出す。
霊花「で、でも兄さんが」
夜空「とりあえず逃げよう!霊花!お兄さんもまともにやりあおうとは思ってないはずだよ!」
あれは・・霊花と同室の新庄か?
だが新庄の呼びかけにも霊花は足が震えて動かない様子だ。
ちっ
彩華津「新庄夜空! 霊花を連れて早く逃げろ! 俺はこいつをひきつける!」
ガラにもないことを言ってしまった。言って1秒もしないうちに後悔する。
夜空「、 霊花!行くよ!」
新庄夜空はこちらに一瞬視線を向けるとすぐに霊花を引っ張って行く。
良き友をもったな妹よ
彩華津「おらぁ!このクソ犬が!怪我した人っ子一人捕まえられねえのか!」
言葉がわかるとは思わないがとりあえず大声で叫びわざと左腕を振って血を飛ばす
グルルルルル
こっちに向かってきた
全速力で逃げる。とりあえず上だ。状況を確認していない一階などはかえって危険な場合もある。
ドスン ドスン
っと向こうも走っているようだ。
こちらは障害物を避けて走らねばならないが向こうは直線だ。全てを弾き飛ばして向かってくる。
あきらかに・速度が足りない。
彩華津「くっ」
頭が痛い。 改めて気づくと結構な血が出ている。
っとその時
彩華津「っしゃああ! 消火器食らえ!」
落ちていた消火器のピンを一息に引き抜くと思いっきりトリガーを引く
ボシューー
ウグゴオォォォ
彩華津「顔面ヒット! ついでだ食っとけ!」
空になった缶も投げつけすぐに走る
数瞬の後向こうも走り出す。あきらかにさっきより早い。もしかして逆効果か?
追いつかれる。いや、本当ならもう追いつかれているはずだがかなり速く走れてる。
ふと気づくと頭の痛みも弱くなっている。体が軽い。そして体の感覚がほぼない。
彩華津「アレか?血が出過ぎましたってか?ふざけんな!」
その前にこの学校の廊下なんかそんなに走っていられるほどの距離は当然ない。
階段を駆け上がる。
三階、
このまま上に上にと逃げていくと五階の屋上で終わりだ。
彩華津「終わりが最初で最後の反撃のチャンスだ!」
全速力で階段を駆け上がっていく
五階、ここは階段の上に屋上への入り口があり、その先に決して広くはない屋上がある。
勢いよく扉にぶつかり強引に鍵ごとふっとばす。
屋上に転がり出た。
向こうはここが行き止まりとは知らずに駆けてくる。
彩華津「こっちだこっちー! オラ!」
屋上のフェンスを乗り越え外に飛ぶ。
あいつも後ろから迫ってくる。
このまま落ちようとしたその時
彩華津「っと!」
屋上の縁につかまる。当然右腕だけだからかなりきつい
しかし
ガガグォオォオォオオォォォォォ・・・
全速力で飛び出していったアレと比べればましだ。
彩華津「はっ。ゴールだ」
屋上に上がり、ねっころがる
心臓がおかしい。体の感覚もない。
しかし、走り終えた後の脱力感はない。
それどころか、
彩華津「息がきれてねえ・・・」
おかしい。あきらかにおかしい。
走りは速いほうだ。持久走も苦手じゃない。
だけどこんな全力疾走で息が切れないはずがない。
彩華津「あ?」
今気づいた。体から薄く、黒い光が漏れている。
彩華津「っは、これのおかげか・・ほんとにいみわかんねえ」
確かにこれだけ血がでていながらあんなに走れるのはおかしい。
血も今は止まってきている。
彩華津「あ~、よくわかんねえけど、便利な力だな」
意識して使おうとしているわけではないが勝手に出ている。
そして、さっき読んだ資料の一説が頭に浮かぶ。
さっきはわからなかった部分だ。
彩華津「断絶・・強化・・・集中・想像・・力の・具現?」
イメージが頭にぼんやりと浮かんでくる。体に溶けてしまったナイフのようだ。
どうやらなんでも切れる・・ということなのか
彩華津「改めて視ると、コレ、やっぱり普通じゃないよな」
頭に浮かんでいる映像ではこのナイフを持った人?が刃を向けるだけで物を切断している。
形状は「切れる」ということの主張で実際に切るのに刃に当てる必要はないのか?
とりあえず集中してみる。
心臓の音ともう一つ。脈動がずれているのがある。
コレを外に持ち出す感覚・・・
忘れないうちに頭に浮かんでいることをやっていく
右手を前に差し出し、唱える。魔法の呪文とかそんなのじゃない。
ただ、今頭に浮かんでいるイメージを言葉に表す。
彩華津「無切 現象断絶 」
すごい脱力感に襲われる。
どんどん体の黒い光が強くなっていく。
彩華津「あ、 」
またあの冷たい感触だ。
ふと、右手の中にとりわけつめたいものがある。
彩華津「 これ・・・あの、ナイフ・」
あの漆黒のナイフが手の中にあった。
ためしに近くのコンクリに刃を立ててみる。なんでも切れるってのは本当か?
彩華津「うお。すげえ・・・」
なんの抵抗もなくスルリと切れた。否、なにもないようにすり抜けた。
だがそれだけで体が更に重くなった気がする
彩華津「念じると出てくる刃物・・か。なんなんだよこれ、まじめにおかしくなりそうだ」
・・・脱力感が強くなってきた。
切断した部分は切れ目を触ってもわからない程だ。血のついた手でなぞると線が浮かんでくる。
彩華津「あ、やべ・・」
体から光が消える。その瞬間体が今まで蓄積してきたものが一気に流れてきた。
そう。例えるなら、ブレーカーが落ちるように、意識が落ちた。
[霊花]
夜空「霊花?霊花? 大丈夫?」
夜空が私の顔を覗き込んでいる。返事をしようにも声がでない。
さっきまでの出来事がこんがらがっているのもそうだが
霊花「はぁはぁはぁ。 夜空が、速すぎるから・・・」
兄さんに叫ばれてから夜空は私の手首を握って全力疾走。男女隔てなくダントツで一番速い夜空と
真ん中より少し上くらいの私では次元が違う・・・
普段無害そうにぼんやりとしていても、何気に色々な武道を修めていたりと割と万能なのが夜空だ。
夜空「あ、ゴメン(汗)でも、非常事態だしさ。大目にみようよ~」
霊花「そうね・。ありがとね 夜空。ひっぱってくれて」
夜空「いえいえ。どういたしまして。 ふだんとは違う状況だと違う興奮が・・」
もしかして手を握っていた事のことを言っているのであろうか。
なぜか夜空は登下校ともにいつも手を握ろうと迫ってくる。さすがにおかしいと思い
いつも退けているのだが、、時折負けてしまう。
霊花「本当にそっちの気があるんじゃないのかしら・・・」
夜空「へ?なんか言った?」
しかし今はそんな事を言っている暇ではない。
霊花「!? そうだわ! ねえ夜空!兄さんを助けに行かないと!」
少し考えれば勝ち目のないことなど一目瞭然だがそんなことで見捨てられるほど縁は浅くない。
夜空「お兄さんなら大丈夫・のはずだよ。どうしてかわからないけど、あの光は・・」
霊花「え?光? ごめん。最後のほうよく聞き取れなかったわ」
夜空は少しあわてて
夜空「あ、ごめん 気にしないで。 気のせいかもしれないし・ね
それよりさっき走ってる途中に屋上からなにか大きいのが落ちたように見えたから
お兄さん、あの怪物に勝っちゃったんじゃない?」
霊花「本当!? でも怪我してるみたいだったから、早く戻ろう!」
夜空「ちょっとまった。ひとまず警察と病院に連絡入れなきゃ。
お兄さん。肩から肘にかけてちょっと深く切っちゃってたみたいだし。」
霊花「え? どうしてどこを怪我してるかわかったの?結構離れてたのに。私だって見えなかったわ」
夜空「あ、えっと・ 動きとか、からだよ! いろいろやってるとわかるようになるんだよ~」
霊花「そっか。なにしろ夜空先生だもんね。なら早く電話を・・」
思うとカバンもなにもない。逃げるときに夢中で捨ててきてしまったのか・
夜空「電話するより僕が走ったほうがいいよ。」
夜空は学校の方を見ると
夜空「うん。もうなにもいないみたいだしね。お兄さんは屋上にいると思うから。行ってあげて」
霊花「う、うんわかった。それじゃあ気をつけてね」
夜空「了解」
しゅたっと敬礼をするとすごい速さで走っていく。
霊花「ほんとに夜空先生だわ・・・。とにかく、兄さんのところへ!」
私も走り出す。
階段などはあの化け物が駆け回ったのがすぐにわかるほどにぼろぼろで少し大変だったけど
なんとか屋上にたどり着いた。
すると、
霊花「兄さん!」
車の正面衝突を食らったかのようなフェンスの脇の壁に血に濡れた兄がもたれかかっている。
霊花「兄さん!兄さん!」
すぐに駆け寄る。
ゆすってみようと思ったけど大怪我をしているときは動かさないのが大事とテレビでやっていた。
ドラマとかの真似で手首に手を当ててみる。
トクン・・・トクン
霊花「、 よかったぁ。」
こうして近づくとかすかに呼吸も聞こえる。だがとても弱弱しい。
兄の生存を確認しての安心感が体を襲う。視界がゆがむほどに涙が溢れてくる。
慌てて服の袖で拭く。
霊花「兄さん。がらにもないことしちゃって」
いつも私が困っていてもなにもしてくれないくせに・・・
こういうときは体をはって助けてくれる。以前、車に轢かれそうになった時も身を挺して助けてくれた。
霊花「もう。 なんだかかっこよく見えるわ、きっと今だけだけどね」
ぽたり。ぽたり。
ふと気づくと兄の腕から血がしたたり落ちている。
霊花「あ、いけない」
もうすっかりとまっているものと楽観視していた自分が情けない。急いで自分の制服をちぎると
強く縛る。
そして怪我している左手を心臓の辺りまで持ち上げておく。
肩の怪我は縛っておくしかないけど、腕の傷ならこうしておけば少しは違う・・・かもしれない。
保険体育の授業って大切なんだなあ・・・。
初めてそう思い、今度からもっと真面目に取り組もうとひそかに決意した。
それから10分程で夜空がたくさんの大人を連れてきた。病院の人らしき人が「ヘリを呼べ!」
などと叫んでいる。
兄が担架に乗せられ応急処置を施される。
夜空が私になにか話しかけてくるけど、よくわからない。
一日がハードすぎて、疲れてしまったようだ。
たくさんの人が来てくれて、完全に緊張の糸が切れてしまったようだ。
そう、例えるならブレーカーのように、意識が落ちていく。