回想
確かあれは中学校の時だっただろうか・・・。
職業などを指す夢ではなく、ただ本当の望みとして在るこの想いをいだいたのは。
中学。さすがにこの年代になると親がとたんにうるさくなるものである。
「なるもの」などといいつつ誰に聞いたものでもなく、ただ自分がそうだったと言うだけなのだが・
たぶん自分だけではないだろう。学校で真面目に勉強しろと言うのはわかる。すくなくとも理由を理解はしている。
それだけなら別にそこまで思い悩むことではない。家で勉強しろと言うのも・・・一応理解している。
だが、理解しているだけだ。わかってはいない。その事で一時期おおいに悩んだことがある。実を言うと今もだが・・・
勉強して、進学して、就職して、金を稼いで、食べていく。それが人間のいわゆる「当たり前」
人は皆これを当たり前という。しかし、肝心な部分が抜けていると思わないのか?
そう 「勉強」ってのはその先の事柄、つまり「生きていくため」の物事を成すための基盤だ。
つまり、「生きる」という目的の元に成されている当たり前のことだ。
だが自分は「生きる」という目的を持ってはいない。別に特別死になくもないけど、無理して生きようとも思っていない。
つまり、なんで生きたくもないのに生きる為の事を嫌々なさねばならないのか。これが疑問だ。
自分がこんな疑問を抱いているとは誰も気づかず、周りは当然のように勉強勉強。。
最初はそんなに思っていなくても、これが反抗期と言うもので勉強勉強言われるたびにこの疑問が強くなっていった。
そして親に夢を持てと言われた時に、自分の夢を考えたのだ。
自由になりたい
なんの隔ても無く、制限的な自由ではなく、欲望から解き放たれたい。周りに縛られたくない。常識に、当たり前に
囚われたくない。生にも縛られず、死にゆくという運命からも解き放たれたい。
世界という檻からも解き放たれて、ありとあらゆる法則から解き放たれたい。
思い気ままに歩み行き、思い気ままに扉を開けて、思い気ままに選び歩む。進むも戻るもすべてが自由。
ある人は言った。自由ほどの不自由はない、と。でもそうは思わない。その人の言う自由とは限定的な自由であり、
完全な自由ではないのだから。
この思考を人に話すと強欲といわれるだろう。しかし考えてみると、強欲とは響きが多少よくないだけで
言い方を変えれば自由を望んでいる。自由思考。ただそれだけではないのか?
アレが欲しい。コレが欲しい。イコール、アレを自分が手に入れるのを邪魔している法律などから解き放たれたい。
ということではないだろうか。=自由。
こんな事を言っちゃうと全ての事柄が自由で肯定されてしまうだろう。でも、この自由を否定されない。
つまり否定という思いで悪に束縛されない。というのもまた自由。
なにがいいたいかと言うと、自由になりたいってことだ。でもそれは皆が皆自由になってしまうと
それはそれで大変になってしまう。だから昔の人は法律を作ったんだろう。
その法律に適用されない。つまりそれは特別な存在である。
自分が思うに全ての束縛に縛られていない本物の自由者は神様だけではないだろうか。
もちろん自分で自分を律しているということもあるかもしれないけれど
それはあくまで仮定の話で、それが確認しようのない今
神様は存在しているという常識にも囚われていない。(いないかも?)っという完全な自由者である。
神様とは自由を求める人々が作り出した、完全な自由者の想像なのだろうか。
だとしたら自分の夢は、大それたことにも、神になりたいと言うことなのかもしれない。
「彩華津」 12月27日
最初に視界に入ってきたのは見覚えの無い天井だった。
次に天井から垂れ下がっている大きな布。数瞬の後にこれがカーテンであることを認識する。
たいして考えようとも思わないことだが仕事を求めている脳はそれの認識をやめない。
カーテンとは光をさえぎるものだ。なぜ人間は闇を怖がるのに光を遮るものなど作ったのか。
本当に矛盾した生き物である。
カーテンは天井に付いているレールに下がっている。レールとはスライド式のクリップのとりついた主にカーテンを設置するために
使われる。設置後の使用にも使われている。
次に視界に入るのは窓だ。そこから光が降り注いでいる。
・・・このままいらぬ事を考え続けていたらいつになっても終わらない。脳が意見を認識した。
彩華津「ぁあ~・・・ 眩しい」
いつもなら目覚まし時計を止めるのに使う手を使ってカーテンを引き日光を弱める。
ぐぐぅ~~
気のない音がなる。
近くにあった時計を見ると今は16時。おいおい夕方かよ。
妙に口が渇いているし腹が減った。ろくに頭のはたらかないこんな時でも腹が鳴るというのは
人間の、動物の最大の欲望は食欲ということか
改めて認識しする。
体が重いがこのまま横になっているわけにはいかない。体を起こそうとする。
彩華津「ん・・!!っが」
上半身を起こしかけたその時、全身を我慢のならない痛みが襲う。
ガララっとドアの開く音がした。
と同時に
???「あ、兄さん! 駄目よ、兄さん!まだ起きちゃ駄目!」
聞きなれた声がする。
彩華津「あ、ああ 霊花?っつぅ」
霊花「ほら、慌てないでゆっくり体を横にして・・・そう、そのまま」
おとなしく体を横にする。
改めて見てみると目に付くとこほとんどが包帯ぐるぐるだ。服の中も変わりないということが痛みからわかる。
彩華津「霊花?ここはどこなんだ。俺はなにして・・・」
霊花「ここは病院よ。あの後夜空が人を呼んできてくれて運んでくれたの。大丈夫?」
あの後?
少し悩んだ後に思い出す。
休日に学校に行ったこと。学校がひどくぼろぼろだったこと。不思議な黒塗りのナイフを拾って体に溶け込んでしまった
こと、でかい獣に襲われたこと。
彩華津「っ!? 」
いきなりいろいろ思い出したせいで体が驚き一瞬跳ねてしまう。
彩華津「っが、、つぅ~~」
霊花「だ、大丈夫?兄さん。あまり動かないほうがいいわ。浅い怪我じゃないんだもの・」
彩華津「あ、ああ。それより話をしてくれないか」
霊花にその後のことを聞く。
あの後夜空が人を呼んできてくれて俺がヘリコプターでここまで運ばれたこと。
筋肉繊維や、神経が痛んでいたものの命に別状はなく、肩の傷も二週間ほどで治るということ。
学校が壊れているのを誰も知らなかったこと。(日直の先生は急用で来ていなかったらしい)
屋上から落ちたはずの獣の体は無かったという事。
そして俺がなぜ霊花が新庄と共に学校に来ていたかを聞くと俺と同じで光が見えたかららしい。
霊花の友人達も昴と同じで知らなかったらしいということ。
彩華津「あんな強い光が俺たち二人にしか見えなかったって?兄弟そろっておかしくなったとは思えないし
光の出たと思う学校はあんなだしなあ・・・わからないぜ」
霊花「誰も見えてないって言うのがね・・・。私たちは他の人となにか違うのかしら。」
彩華津「霊感が強いとか?いやまて。うちの寮は集団墓地がすぐ近くにあるがそんなもん見たことがないぜ?
なんか違うっつったら~どこも違わねえなあ。」
霊花「そうよね。違うって言ったら血液型くらいかしら。毎度毎度血液検査で血液型がわからないって言われる
わよね?私たち」
彩華津「そんなもんぜってえ関係ないって。そもそも血液型のわかりにくい人間なんてほかにもいるだろう。」
霊花「う~ん。」
彩華津「自分たちじゃわからないものってのもあるのかもな。そうだ。あの時学校に一緒にいた新庄に聞いて
みればいいんじゃないか?少なくとも新庄はアレを見ていただろう?」
霊花「そうね。夜空なら一緒にここまで来て売店でなにか買ってくるって言ってたからもうすぐ来るはずよ」
それから数分待っても来ないので病室に置いてあったトランプ(今の病室ってのはこんなの置いてあんのか・・)
で適当に遊んでみる。
霊花「今度こそどう!?ストレートよ!」
彩華津「残念だ。フラッシュ」
霊花「~~~」
10戦中俺10勝
霊花「そ、そんな・・・いかさまよ!」
彩華津「俺のフェアプレー精神なめんなよ?おまえの運がないだけだ」
霊花「う~」
がららっ
夜空「おまたせ~ お、お兄さんお目覚め?調子どう?」
新庄が売店の袋を下げてやってきた。
彩華津「おう。体中痛いが、問題はねえな」
はい、と新庄が飲み物をくれる。おう、わりいな
夜空「よかった~ 屋上に皆連れて着いた時にはもう血まみれで壁に寄りかかってるし、霊花は泣いてるし
焦っちゃったよ~。よかったよかった。ってなんで霊花へこんでるの?」
霊花「聞かないで・・・」
彩華津「ポーカー十連敗だ」
夜空「それはそれは・・・素でそれは結構難しいかもね~どれ位の確立だろう」
霊花「~~~」
彩華津「だよなあ。そうそうできねえよ」
霊花「兄さんこそ素でツー、ストレート、フォー、ストレート、スリー、フルハウス、ワン、ワン、ツー、スリー
フラッシュなんて・・・ブタがないってどういうことよ。尋常じゃないわ・・・」
夜空「お兄さんgood。へこんでる霊花もわんわん言ってる霊花も普段じゃ見られない光景だよかわいい」
更に霊花はぐだ~となる。フィニッシュは夜空に取られたな
夜空「さて、お兄さん。話は霊花に聞いたかな?」
彩華津「ああ。あるていどは」
夜空「あの時のこと、ちゃんと覚えてる?」
彩華津「改めて言われるとだいぶ靄がかかったみたいだけど、覚えてるっちゃ覚えてるな」
霊花が心配そうに顔を覗き込んでくるが記憶障害とかそんなのじゃないから心配ないと手を振る。
夜空「そっか。でもこんな辺境の世界で適応者が見つかるなんて・・。それにこの世界からは
ウィザードはほとんど見つかってないのに・・・」
彩華津「? なんのことだ?」
夜空「あ、うん。ちょっとね。」
そう口をにごらせると新庄はふと霊花を見る。
夜空「ちょっとごめんね。」
霊花「え?」
驚いている霊花をよそに新庄は霊花の額に手をかざす。かすかに新庄の左手が淡い緑の光を帯びて・・・
すると
霊花「あ・・・」
いきなり霊花が倒れた。ベッドに上半身をもたれかける形となる。
彩華津「な!? 霊花!?」
すぐにゆすってみるも反応がない。
急いで壁に取り付けられているナースコールを押そうと試みるも
夜空「待って。人は呼ばないでくれる?」
ふと振り向く
彩華津「な、なにのんきなこと・・・」
言葉が続かなかった。なぜなら新庄はいつもどうり軽い笑顔を振りまいているものの、その目は強い
力を帯びていた。
威圧される。
彩華津「な、」
夜空「驚かせてゴメンね。大丈夫。知らない仲じゃないから、眠らせる以上のことはしないよ。」
背中にぞくりとくる。ふいに学校であの化け物に襲われたときの事を思い出す。
アレは荒々しく乱れた威圧感というか、そんな感触だったが、今の新庄からはキレイにまとまっていながらも
普通じゃない威圧感がある。
そう、一言で言うならば、この世のものではないような感覚。例えようのない感覚だ。
彩華津「誰だお前。」
夜空「お兄さんの妹さんの同室の親友だよ。」
彩華津「足りねえ。じゃあ聞かせてもらう。お前、人間か?」
夜空「な」
新庄は大いに驚いた顔をしている。
夜空「へぇ。僕が人間じゃないように見えるんだ。その根拠は?妹さんの親友として中学から
一緒にいさせてもらってるのに、今更な気がするよ?それなりの理由でもないと不愉快だね」
彩華津「前提が間違ってる。今まで霊花と一緒にいた新庄夜空と今俺の目の前にいるお前が
同一人物だとは限らない。それに、お前からはあの化け物と似た感覚がするんだよ」
新庄の顔は驚きから更に驚いた顔に。そして感心するように表情を変化させた。
夜空「感覚がわかるってことは。もうなじんでるんだね。」
その瞬間。こちらがその冷たい声に身構えると、新庄の表情が崩れた。
夜空「にゃはは~。ごめんごめん。謝るからそんな怖い顔しないで?ほら、このとーり!」
いきなり新庄は手を合わせてわびてきた
彩華津「な? いったいなんのつもりなんだ?そしてもう一度問うけど、何者だ。」
さっきとは打って変わっていつもどうりの対応をする新庄をおかしく思うも構えは解かない。
夜空「うん。答えるよ。だからまずは力を抜こう?これから長くて退屈な話が始まるんだから
最初からそれじゃ、もたないよ?」
それは構えを解けば答えると言っていた。
しかたなく肩の力を徐々に抜いていく。
コレも感だが。情けない話。新庄には、まったく歯が立たない気がする。
夜空「うん。懸命だね。もし襲ってくるようだったら、ちょっと強引に抑えることも考えてたんだけどなあ~」
彩華津「今の俺はお前には敵わないさ。なんでかわかんないけど、そう思うんだ。」
新庄はまた感心している。
夜空「すごいすごい。そこまでわかっちゃうんだ。それならまずはその感覚について話そうか。」
彩華津「まて、その前にコレだけは聞かせてくれ。お前は今まで霊花と一緒にいた新庄夜空自身なのか?」
夜空「そうだよ。僕は以前からお兄さんも知る新庄夜空そのもの。」
彩華津「だけど、今までも何度か顔を合わせてるけど・・・その時はこんな感覚はなかったんだ。」
夜空「それはお兄さんが魔法使いになったから、なんていうかな~他の魔法使いの力を感知できるように
なったんだよ~」
俺は呆然としてしまう。
は? なに? 魔法使い?
彩華津「ま、魔法使い?それは、その箒に乗って空を飛ぶと言うか、黒猫が使い魔とか、そういうの?」
夜空「わ~それはそれはすごい例えだね・・・。まあ、空は飛ぼうと思えば飛べるけど箒はあんまり使わないし
使い魔も、猫じゃないけど大体はそんな感じかなぁ」
彩華津「で、でも俺はそんな怪しげなものになった覚えはないぞ?」
夜空「コレ、読める?」
新庄は手持ちのカバンから資料の束をよこす。
彩華津「って、コレはあの箱に入ってた!」
そう。その資料はあのナイフと共に箱に入っていた。解るけど読めない資料だった。
夜空「やっぱり拾ったのはお兄さんだったんだね~。 で、どう?読める?」
彩華津「ああ。一応、読めはしないけど意味は解る・・・と思う。」
夜空「読んでみて?」
資料に視線を落とすと、気づいたことが一つ。以前よりも内容が解るようになっていたってことだ。
声に出して呼んでみる。
彩華津「発見場所:旧アルケイディス帝国帝都 旧アルケイディス移住第一区画
劣化状況:外部にさらけ出されているにもかかわらず劣化はなく、保存状態はほぼ完全
作成者:不明 発見場所、魔力波長より101始星のうちの誰かと推定
付加能力:計測不可能 あらゆる魔力反応実験に関して拒絶反応を確認
魔法属性:推定 形状より切断系統と思われる ?
なんだこれ・・・」
夜空「前より解る範囲が多い?」
彩華津「ああ。前はほとんど単語ごとで意味がわかんなかったんだけど・・・」
夜空「力を使っていきなり実戦をしたから体がなじんだんだね。そのまま読んでみて」
新庄に促されて先を読む。
彩華津「実験: ありとあらゆる物理系等においてのダメージは見られず
ありとあらゆる魔法系統においてもダメージは見られない。
また、BランクからSランクまでのウィザード接触不可能 強大な拒絶反応あり 魔法属性
推定不可能
結果:この古の魔導機具は意思を持ち、自らが主人にふさわしいものでない限り触れることも
ままならないという推定 また、形状が刀剣状なため初期段階付加効果は
極度の肉体強化、そして魔力干渉の簡易化、そして切断と思われる。以上調査報告
報告班:第一王位推薦派研究部責任者クラッド・リアスより 」
夜空「合一から2日目でこれなら、相当な器だね・・・。 ちょっとやけちゃうかも」
彩華津「なぁ。いい加減説明してくれよ。なんなんだよ魔法って!それと俺が拾ったナイフについて
なんか知ってるなら教えてくれ!」
一瞬の間が開く。 しかしこの一瞬の間すらも惜しくなって拳を握ってしまう。
夜空「うん。それじゃあ、魔法の基礎から話すね。この世界で生まれ育ったお兄さんにとっては
突拍子もない話しになるけど、茶化さないで真剣に聞いて欲しいんだ。」
彩華津「わかった。茶化すも何もないさ。今までの俺なら笑っちまうだろうが自分の体に関することだ。
真剣に聞かせてもらう。」
うん。と夜空は満足そうにうなずくと話を始めた。
夜空「まず、簡単に説明すると、魔法って言うのはここじゃない、別の世界の法則のことなんだ。
ほとんどの世界に大昔からあるんだけど、この世界みたいに極端に魔力反応の少ない世界も
少ないけどある。つまり・・・なんていうのかなぁ。異世界の概念とでも言わせてもらおうかな。ここまでは
いい?」
彩華津「ああ。先に進めてくれ。」
まったく理解できないがとりあえずうなずく
夜空「異世界って言うのは、まあ言葉の通りなんだけどここじゃない別の世界のことなんだ。
普通はある場所に空気中の魔力、つまりマナが一定に集まってそこに自然と門ができて
特定の世界の特定の場所に繋がってるんだけどね。あとはそれを人為的に作って調節して、
世界同士を行き来する扉としてるんだ。」
彩華津「でもこの世界にそんなもんがあるなんて聞いたことないぞ?もしあったとしたら今頃見つかってるんじゃ
ないのか?」
夜空「この世界には門がないんだよ。空気中のマナが大量に集まって凝縮されると門ができるんだ。
ここには一個の門ができるだけのマナもない。まったくないわけじゃないんだよ?
もしまったくなかったら他の世界から門をつなげることはできない。つまりあんな魔獣もこれない
からね。マナって言うのは魂の力。
精神力って言うのなんだ。だから生きてる限り無意識のうちに体内に蓄積されていく。
外から星星の生成したマナを取り込み、体内でもマナを作り出して、どんどんたまっていくんだ。
魂の力だから、使っても時間がたてば回復はするけど一気に使いすぎると意識を失ったりする。
命を失うこともあるんだ。魔法は体内で生成された魔力を使って回路を組み、そこに星のマナを
流して、力を満たし、現象とする。魂の力っていうだけあってある程度ためれば物理法則も曲げられる。
そういうものなんだ。でも例外的にこの世界の星みたいにマナを作らない星もある。そこで生まれ育つと
マナを体が知らないから生成のしようもなくて魔法も使えない。そういうこと。
だからこの世界には魔法使い、ウィザードが少ないんだ。まあ、いないわけじゃないんだけど
数人しか見つかってない」
彩華津「でも俺は今まで超能力なんてものも一切なかったんだ。いきなりこんなことになったのはあのナイフの
せいなんだろう?あのナイフは一体なんなんだ?」
夜空「いや、お兄さんもかなり薄いけどマナを持ってたんだ。霊花もね。だから門が一瞬だけ生成された時の
空間歪曲を光として見たんだよ。もう知ってると思うけど普通は見えないし、感じないからね。
そして、お兄さんが学校で拾ってしまったナイフ。アレはさっきお兄さんが読み上げてくれた資料にも
書いてあったと思うけど魔導機具って言うものなんだ。それも分類で言うとルーツ。今ある魔道機具の
原型の一つなんだ。」
彩華津「魔導機具・・・。これも魔法なんだろう?」
夜空「厳密には魔法じゃない。人工生命体とでも言っておこうか。」
彩華津「人工生命体!? じゃあ、俺の中にはいっちまったナイフは生きてるのか?」
夜空「そうだよ。いや、生きてるというか、意志を持ってる。大昔に、あ、時間はどの世界でも並行してるからね?
地域によって元となってる時間の計測地が違うから違うように思われるけど、時間は全世界共通なんだ。
で、大昔、だいたい2千年くらい前かな。そのころに旧アルケイディスって言うマナの最も濃い世界で
101人の賢者がそれぞれ自分に合った形の武器を作ったんだ。その頃は別世界との交流もほとんど
なくて、門も自然に在るもの以外はなかった。だから力は中に溜まりっぱなしだったんだ。
世界が壊れることもいとわずにその莫大な力を全て注ぎ込みながら武器を作って、
一つの世界の人口が2千人にも満たなかったと言われてる旧アルケイディスだから、
自らが唯一無二の友として、武器に意思を宿して、生物と、星と同じようにマナを生成できる。
完全な人工生命体。いや、死という概念がないから、人口思念体とでも言おうかな。
そのうちの一つが君の拾ったナイフ。今ある全てのナイフ形の魔導機具の原型とも言えるものなんだ。」
彩華津「っは。そんなにやばいもんなのかよ・・・。でもそんな物を俺みたいな普通の人間が使えていいのか?」
夜空「今までかなりの有望なウィザードの手を渡ってきたと思うよ?そのナイフは。でもそれには意思がある。
つまり、他の誰でもない、お兄さんを主人に選んだ。つまり気に入られたんだよ。たぶん搬送されてた途中に
いきなり門が開いたりして落としちゃったんじゃないかな。第一王位の人たちが、ね。幸運だったよ」
彩華津「そう・・・か。悪い気はしねえな」
夜空「本当はある程度魔法を使えるようになってから自分に合った魔導機具を作ってもらうんだけど、
お兄さんの場合はこれから魔法を覚えていくんだ。逆だね」
彩華津「魔法を覚えるって、どういうことだ?」
ふと、新庄の表情に影がさした。
夜空「今はね。戦争中なんだ。全ての世界を巻き込んでの、二分しての戦い。第一王位推薦派と第二王位推薦派
の二つが争ってるんだ。ここに魔獣が来たのは戦いでマナが集まって勝手に門が開いて、たまたま魔獣が
落ちてきただけ。でも、物資は少しでも多いほうがいい。本来ならマナの少ないこの世界は見つからない
はずだったけれど、門が開いたことによって観測されてしまったはず。ここも、遠くない未来、戦争に
巻き込まれる」
彩華津「な、 戦争だと!?」
夜空「アルケイディス王位継承戦。と呼ばれてるよ」
彩華津「アルケイディス?旧アルケイディスって言うところか?」
夜空「ううん。違う。101の賢者、101始星が101のルーツを作って旧アルケイディスは崩壊してしまった。
そこから生き延びた賢者が集まって新たなアルケイディスとして作ったのが今あるアルケイディス帝国。
建国より約千七百年。旧アルケイディスはマナが以上に濃かったから賢者達はほぼ年を取らないんだ。
今でも生き残ってる人もいる。それで、アルケイディス帝国の前帝王、
ネルス・アーテイクルド・アルケイディスが3年程前にある魔法実験の事故で亡くなったんだ。
それで、王位継承の問題になったんだけど、帝王の次に権力を持つ、101の賢者
101始星の生き残り7人を筆頭とする60賢人会議は今でも確認されているほぼ全世界を掌握しているのに
更に欲をかいて、全ての世界をアルケイディスに従わせようと、好戦的な第一王子、
クロノトロイド・アーテイクルド・アルケイディス王子を王座に就けようとしてるんだ。でも他の世界からの反発はとても
強くて、世界の掌握がままならなくなった。だから、賢人会議は道の通ってる全世界にアルケイディスの支配下に
入らぬ場合は反攻勢力とみなして武力的に制圧するって公言したんだ。それからほぼどこでも戦争戦争。
あ、ちなみに、アルケイディスって言うのは旧アルケイディスを治めてた101始星の一人の血族なんだ
101始星は、ほぼ全員が最強だったから誰が上とかはないんだけどね。ちなみにアーテイクルドって
言うのは、101の中の番号みたいなものかな。13番だっけ。これも大きくても小さくてもどっちが強いとかはなかった
らしいよ。」
彩華津「ひでぇ話だな。それで?」
夜空「アルケイディスに反攻する世界は同盟を組んで、あくまで戦争、侵略に反対して監禁されていた
第二王位継承者のソニア・アーテイクルド・アルケイディス姫を誘拐。本人の許可も得て
第二王位推薦派と名乗って今も戦ってるんだ。」
彩華津「つまり、この世界も第一王位推薦派とやらに狙われてるって事か・・・。ふざけてやがる」
夜空「それで・・・。」
新庄は表情を引き締めこう言ってきた。
夜空「お兄さんも101あるルーツの一つと合一した。つまり大きな力を持っている。参考に聞くけど、お兄さんは
自分の欲望のために他の世界を侵略する方に加担するか、それともふざけた第一王位推薦派
から世界を守ろうと戦っている第二王位推薦派。どちらに心を傾ける?」
彩華津「どちらにも・・・干渉しないっていうのは」
夜空「戦いに参加するしないはお兄さんの意思。それもいいと思うよ。第二王位推薦派は全体的な戦力で
圧倒的に劣ってる。ここも守ろうとするけど、たぶん守りきれないと思う。」
彩華津「俺一人立ち上がったところでここを守れるか?」
夜空「働きによるね」
はっ 思わず笑ってしまう。何しろ今俺は全世界を二分する戦いの中でどちらに加担するかを聞かれている。
人っ子一人増えただけでこの世界を守れるのか、 結果は見えないが 答えなんかわかりきってる。
彩華津「お前の名前は?」
夜空「第二王位推薦派特務隊副隊長、新庄夜空。ウィザードランクはSS。」
彩華津「なら俺はここに宣言してやる。今はまだ頭が追いついてねえけどよ・・・。
俺の生まれた、俺の育った、俺の住むこの世界を、どこの誰とも知れねえ馬の骨なんぞに踏みにじられて
たまるか。全力を持ってここを守るために戦ってやるさ!」
新庄は今までの重い表情を崩してとたんに笑顔になる
夜空「お兄さんならそう言ってくれると思ってたよ。もし、向こうに付くって言ってたら、残念だけど
仕留めるつもりでいたから。ほんとよかった~」
彩華津「物騒なやつだな・・・。でもよ、勘違いするなよ?俺はここを守るって言ったんだ。他の世界までは
守ろうなんて言ってないぜ?」
夜空「かまわないよ。それにお兄さんならたぶん、手伝ってくれるって思うから」
彩華津「買いかぶられたもんだなあ。さて、立つと決めたからには色々教えてもらうぜ?新庄夜空副隊長?」
夜空「夜空でいいよ~wそんな改まんなくていいって。それじゃあここに霧生彩華津を暫定特務隊員とします。
わかってると思うけど、ここの生活を捨てることになるよ?本格的に戦い始めたらね。」
彩華津「壊されなければ、守り抜けば、いつだって帰ってこられるさ。それにここを守るんだったらまだここに
いるんだろ? 他の世界はどうするかまだわかんないけどよ。たぶんお前の思うとおりだぜ」
夜空「まあ、今すぐじゃないからゆっくり悩んだほうがいいよ。慌ててもあとで後悔したら意味ないからね。」
彩華津「ああ。せいぜいない頭で考えるさ」
夜空「ふふっ。あ、それと、兄妹だからかな。霊花からもマナを感じるんだ。」
彩華津「霊花も誘うのか?あいつに話したら無条件で付いてくるだろうよ。」
夜空「力の発現はしてないみたいだからまだ話さないよ。むやみにお兄さんも話さないでね。周りが混乱するのは
よくないから。」
彩華津「わかってる。それと、一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」
夜空「なに?」
彩華津「特務隊ってなんなんだ?」
夜空「特務隊は~えっと、一応エリート部隊ってことになってるけど、エリートは少ないよ。
ただ、個人能力の高い人間を詰め込んでるだけなんだ~。いつも隊員はばらばらだし、
ほんとに書類上だけみたいなもの。一般兵よりは権力もあるけど、ほぼつかわないし、
組織の大本がまだまとまってないからあんまりねw。何でも屋って所かなw」
彩華津「へ~いいじゃねえか。あんまり縛られるのは好きじゃないからな」
夜空「そうだね。それじゃあそろそろ僕はおいとまするよ。霊花も持ってくね~」
彩華津「持ってくっておいおい。送ろうか?」
夜空「ううん大丈夫。もうすぐ起きると思うし、何よりお兄さん今包帯グルグルじゃないか~。忘れちゃダメだよ?」
あ、言われるまで忘れていた。うぅ思い出したら痛みが・・・
彩華津「ああ、それじゃあ、またな」
夜空「明日、一人で来るから、その時に魔法の使い方とか魔導機具についてとか話すね~。それじゃ」
病室を新庄と抱えられた夜空が出て行った。
あれも魔法なのだろうか。軽々と持ってきやがった。
彩華津「っつう。話してる間は楽だったのになあ・・・。いてぇ。もう寝るか」
ふと壁の時計を見ると17時30分を過ぎたところだった。ベッドの横には予定表がついており、食事は19時に
ここに運ばれてくるらしい。いくら病人だからってさすがに寝すぎだと思う。
着替えなどは霊花が持ってきてくれたのか備え付けのタンスに入っているようだ。・・・服の裾がはさまっている。
長く話しすぎたな。未だ頭が話を理解できてない。例えるなら、そう。英語の授業で眠くなるあの感覚。
あぁ、飯まで寝るか。 睡眠ってのは情報の整理の時間でもあるらしいしな。今整理しなかったら
いつ整理するってんだ。
[夜空]
今お兄さんと別れたところだ。用事はないのでこのまま家に直帰する予定。
それにしてもここのところは驚いてばっかりだ。
一昨日に自分の登校している学校内部に門がいきなり生成されて、魔物と古のルーツがこの世界に
現れた。基地に連絡したところその日にちょうど戦闘があったらしくその最中にたまたま大気中の
マナが凝縮。門が生成されてしまい、その位置にあった魔物と魔道機具がこちらの世界に飛ばされたの
だろうとの事だ。確かに、大きな戦闘ともなればこのような事がたまにある。が、それも天文学的確立だ。
うちの軍が所有してるルーツは4つしかない。(お兄さんのを入れると5つ)
一つは僕の魔道機具、緑神弓
二つ目は特務隊隊長レイド・マテリアルの始光銃
三つ目は第二王位推薦派大総統指令リーブス・レイブンのグラスレイピア
四つ目は大総統補佐セラ・ドートレットの癒法水晶
そしてお兄さんの手に入れた魔道機具で四つ目。
推定では敵の所有している魔道機具は11個。一つで世界を滅ぼせるほどの力を持つ魔道機具
なのだからここまで数が違うと泣けてくるけど・・・合一に成功しているのは8つほどらしいから
まだなんとかなる。かもしれない。
それが一つ増えたのだからかなりいい結果だ。
現在量産されている魔道機具は全て101始星の作った101のルーツの偽者だ。
(生き残っている101始星の人間が作るにしても旧アルケイディス世界が101個の生成で崩れたのだから
今確認されている世界のマナを使って作るには1つのために何十個もの世界を犠牲にしなくてはならない)
しかし実際は偽者ともいえないできだ。なにしろただの機械なのだ。意思を持っているわけではないし、
魔力の生成もできない。ただの機械。
例えるならば銃だ。魔法は自身の持つ魔力で好きな回路を組み、そこに大気中のマナを満たして
力を発動する。回路が銃身でマナが弾だ。
現代の魔道機具は固定化された回路だ。通常、一般兵のもつ魔道機具は7つの回路しかもっていない。
つまり回路をいちいち作らずに、7つの魔法だけを使うことが出来る。
稼動のために自身の魔力を流すことで魔道機具が周囲のマナを勝手に集め、自分の意思で
魔法を発動できる。
これによって安定した魔法を燃費よく即座に発動できるのだ。
また、実弾を装填して実銃として扱いながら魔法の弾も撃ったりということができる。
だが所詮は機械。魔法という超常の力を発動する回路を付けられるのは現代の技術では
最高でも7個が限界。基本的なものとして「肉体強化」「砲撃魔法」「近接攻撃魔法」「捕縛魔法」
「支援魔法」「防御魔法」「移動魔法」
無論、つけようとすればいくらでも付けられる。しかし、もともと魔力的に生成する回路を物理と
して固定しているのだから使えば使うだけ精度も威力も落ちる。つまり戦闘中でも戦闘後でも
すぐに作りかえるなり、整備するなり、いろいろしなければならないのだ。
コストがかかりすぎる。それに本当に基本的なものしか使えない。
性能を安定させた上で、コスト面もぎりぎり抑えた上で運用できるのは7つが限界なのだ。
技術が進歩していけばなんとか出来ていけるかもしれないが、ここ200年ほどは進歩が見られない。
それに対してルーツの魔道機具は無限である。
それはもちろん制限がないわけではない。風の属性を主体とするルーツなら風の魔法しか使えない。
いや、これは普通だ。なにしろウィザードだって自分にあう属性というものがある。
水の属性のウィザードに火を熾せといえば、出来ないことはないが小規模で多くの魔力を消耗する。
向き不向きの問題だ。
ルーツは魔法に関してはほぼ人間と同等である。いや、人間以上だ。
そのルーツの属性に合う魔法ならば無限に回路を作り出せる。そして意思を持ってるから
持ち主に危険が迫れば自動的に防御魔法を張ってくれるし、命令しておけば寸分たがわずに
実行してくれる。離れた場所にいても呼べば飛んでくる。まさに万能だ。
もちろんデメリットもある。通常の魔道機具は機械だから魔力を通さなければ動かないが消えもしない。
しかしルーツは存在自体が魔法だ。具現化している間は下手な魔法よりも魔力を食うし、
強力であるがゆえに肉体面での反動も大きい。大気中のマナを絶え間なく吸い込んではいるものの
それも補助の面を出ない。魔力が切れれば自分の中に溶け込んで消えてしまう。
もちろん消えることはない。壊れようがなんだろうが魔力さえあればすぐに治る。
しかしルーツを具現化させるのに必要な魔力を自分が提供できないと内に戻ってしまうのだ。
そして、あんまり雑に扱っていると機嫌をそこねて出てこなくなる。。困り者だ。
やはり心があるから信頼して、信頼されないと助けてもくれない。(最初は大変だった・・
それでこれは一時的なものだが、激痛が襲う。
合一してから大体一月ほどは全身に刺すような痛みが時折走る。
これはルーツを使うのに必要な魔力を自分で生成できるように体が進化するためだ。
肉体的な物は通常の肉体強化と同じぐらいになり、目に見えない魔力を生成、保存する「器」が
大きくなっていく。つまり、必要な魔力を自分で補えるようになるのだ。マナを吸い込ませるだけでも
具現化はできるし魔法も使える。だが、合一した持ち主の作った魔力の比ではない。
自分で作ったほうが純度が高く、安定性も威力もでる。それにマナを吸い込ませて戦うには
最初の充填時間が倍ほどになってしまう。
要するに、通常の魔道機具は手軽に使えるけど威力は武器の域を出ない。
それに対し、ルーツは高レベルのウィザード並の力を持っているし、強力だが、
かなり疲れるのだ。
無論補えないレベルではない。どこを見てもルーツのがいい。
だが、もともと古の賢者が自分用に作ったものなのだから普通の人間に扱えるものではない。
まともに使えるようになるのに僕は2年ほどかかった。
まぁ、偶然拾ったって部分ではお兄さんと同じなわけだけど・・・
お兄さんは一般市民として生きてきた。けど適正はとてつもなく高い。
なぜそう思うか、理由の一つとしては感。お兄さんがルーツと合一するまで感じ取れなかったけど、
ルーツの力は別としてただものじゃないレベルだと思う。
第二にあの資料を読んだ。
アレは一級の暗号化文章だ。解除しないで読むにはSランクは軽く必要なはず。
普通の人が見ても文字として認識できないレベルだ。
それをお兄さんは合一して数十秒で多少認識できて、今に至ってはすらすら読めてる。
たった一日で。
これは異常なレベルだ。
確か僕は拾われた時にアレと同じレベルの文章を宿題としてレイドに出された。読むのに三ヶ月くらいかかったと思う。
(内容が「時間かかりすぎだな精進しやがれ」で、提出したときに顔を殴り飛ばしてやったんだっけ)
適正が高いと言われた僕でさえ三ヶ月。正直お兄さんのレベルは計れない。
いろいろ考えてる間に寮についてしまった。
霊花は背中で寝ている。さすがに持って来るのは辛かったから背中にしょっている。
玄関の郵便受けには手紙と宿題の山
内容は数ヶ月の休校とその間の学習について
夜空「宿題おお。夏休みを越えてるよぅ。霊花はやってくれそうにないし・・・
明日お兄さんのところに持っていこうかな~。病院は退屈そうだし?」
自分の配慮に関心しながら部屋に行く。
霊花を着替えさせてベッドにIN
(早朝にお兄さんの所に行くとして、それまでは霊花を感じてよう)
抱き枕と動議に抱きかかえる。
胸が高鳴る。それは未来への希望
暖かい寝床とは別に。
暖かい霊花とは別に。
なにか、自分は期待しているようだ