FrontPage/Midium of Crime 第五章

Last-modified: 2010-05-16 (日) 00:24:15

同時刻
電子音の中
「大隊長!転移先が割り出せました!」
瞑想に落ちていた自分に声がかかる
「どこだ」
「っは! 未開世界の模様です! 座標は割り出せました!」
未開世界に落ちるとは運が悪かった。
まだ付き合いのある世界ならば簡単だったものの
「状態は」
「そ、それが」
言葉を急に濁す
「なんだ」
「・・・何者かと合一してしまった模様です。」
さすがにその報告には目を見開いた
数々のウィザードに渡ってきたアレがまさか未開世界で主を見つけるとは
「その判断材料は」
「は! レーダーからの反応、ならびに発信機の消失です。また最後に観測された魔力波が異常な
 高まりも見せておりまして」
数瞬の沈黙
「・・・それだけでは確定ではない。ただ単に入れ物から落ちただけの可能性もある
引き続き調査を進めろ。正確な位置がつかめ次第急行する」
「了解!」
再び電子音に部屋は満ちる。
再び瞑想に落ちていった

彩華津[正午]

目が覚めてしまった。いつもの夢うつつな寝起きじゃない。
この瞬間から頭は冷たいほどに冴えている。
脳裏に過ぎるのは夢の片鱗。 まるで拒絶反応のように頭が痛くなる
彩華津「なんなんだよ、くそっ!」
毒づかずにはいられない。途方もない痛みと血が下がり、目の前が真っ暗になる感覚
全身が浅くしびれ、右腕からは管が伸びている
彩華津「ぁ? 昨日はこんなのなかったはず」
管を目で追っていくとその先には血の入ったパック
・・・輸血?
彩華津「な、なんでいきなりこんなのついてるんだよ。俺なにかやったか?」
思いつかない。 ? いや、思いつかないじゃないだろう。今朝方夜空にいじめられたからだ
どうやらまだ寝ている部分もあるらしい
ふと傷の開いた腹部を見てみると
彩華津「うぁ治ってる」
そこに横一線にぱっくりいっていた腹はキレイにふさがっている。
彩華津「夜空が治してくれたのか?まぁさすがに殺しはしてくれないか」
そういえばあの時に世切を使ったんだった。さっきの夢はそのせいかもしれない・・・根拠はないが
ふと気になって耳を澄ましてみる。
聞こえてくるのは様々な音。人の気配
彩華津「ほんとに戻ってるんだな。大事っぽくないって事は本当にあんなのが気づかれてないんだなぁ」
改めて魔法という現象を実感した。
今までは本当にあるなんて思いもしなかった魔法。様々な本や神話などに出てくる力。
確かにずっとおかしいと思ってたんだ。もしこの世界に魔法がないならどうして神話などの物語は
在るのだろうかと、ずっと気になっていた。妄想と言われればそこまでだが知識にない事を思い浮かべるのは
不可能だ。ならこの世界にも魔法使いは確かにいたということ。彼らは精霊とか神だとかと崇められたのだろう。
なにしろ簡単に山を抉り飛ばす光とか一瞬で傷口を塞ぐ力とか、そんなのを見た今では72柱の魔王とか
本当にいたっておかしくないと思える。悪魔とか幽霊とかも皆魔法に連なるものなのではないかとも思えてしまう。
彩華津「現実に肯定される非現実、か」
うまいこと言ったものだと思う。
「霧生さん~お昼ご飯をお持ちしましたよ~」
彩華津「あ、どうも」
一緒に薬も渡される。
看護師だか看護婦だったかが部屋から出て行くと食事の匂いが立ち込める。
病院の食事はまずい。だが朝を食えなかった身としては喜ぶべきだ
彩華津「って朝飯食ってなかったりいきなり輸血されてたりしてるのに何も不自然に思われてないんだな。
     これも矛盾許容ってやつなのか」
ふと思い浮かぶのは甘美な誘惑。なにしろ閉鎖結界を使っていれば普通の人間には何も不自然に
思われない。物を盗むも好きに出来てしまう。
こんな魔法があってよく世界は乱れないものだ。
彩華津「そこらへんも含めて夜空に聞いてみるか。そもそもたった一回世切を使っただけで
     腹から血が溢れたんだ。夜空の真似なんかしたらお陀仏だろうしな」
だが今は昼。早朝に来たから今度は霊花を連れて夕方頃か?
彩華津「それまでに復習とイメージの整理だな。魔法はイメージだって言ってたし無駄にはならないだろ」
そうして俺は瞑想に落ちていく
世切の記憶を引き出すなんて事は無理だ。俺のキャパシティを裕に超えている。
なら俺自身を小型の端末に見立てて覗いてみよう。
集中。他者との精神混合は下手すれば廃人になる。
世切はもう俺の一部。けれどまだ体は慣れていないみたいだ。
深呼吸をしつつ、体内の脈動に意識を寄せていく
異世界の文字、異世界の言語が流れてくる理解など出来ないただ必要なことだけを覗くだけ
自分を見失わないように、深い深い瞑想へ

夜空[15時半]

汗が頬を伝う。どうしてだろう。おかしいな
ここは総合運動場。レンタルの胴着を借りて柔道場の一角で霊花と対峙している。
完全な無音。心臓の音だけが嫌にうるさい。呼吸なんてできない。
僕はずっと勘違いをしてたみたいだ。霊花やお兄さんの過去を知っておきながらどうして
勘違いなんてしてたんだろう。少し考えれば至極当然の結果。
体が軋む。ここに来るまで余裕所の話ではなかった。
自分で言うことじゃないけれど、僕はそこそこ強い部類のはずだ。
物心付いたときから形意拳に通じ、今ではその全ての型を心得ている。
両親は生粋の武人。それに習って徒手空拳、剣道、弓道様々なものを習っていた。
少なくともここ数年は負け知らずだったし、ここまでの緊張なんて忘れていた。
だから今日は霊花に様々な型と動きを見せようと思っていた。
だが、そんなのは無理だ。
なぜなら、今の僕は魔力で体を強化している。普通ならこんな事はしない。
なのに、強化していてもなお苦戦
霊花は異常に強かった
夜空「っは!」
持てる中での最速の動きで霊花に一歩で近づき半回転、背後から得意技の一つ、崩拳を撃つ
ボッ
はずした。コレだけでも信じがたい。魔法によって強化された(力は抑えてはあるが)動きを読まれている。
常人ならば今ので気絶させられたはず
霊花「はぁぁっ」
完全な死角からの突き。かろうじて避ける
ズッ
頬をかする殺人の拳
全世界束ねてたった二人しか使い手のいない戦闘術、亜千維法
霧生の旧姓は亜千維だそうで、つまりは家に代々伝わる戦闘術らしい。
そして今僕が身をもって知った事実は
霊花「ぁぁぁ」
霊花から見て右前に立つ僕に右腕の突きを放ちその踏み込みを使って体を左に急回転
左腕の横薙ぎが首を襲う
夜空「っ」
今の霊花には魔力がのっている。
僕の強化と同位の魔力
魔法使いじゃないはずの霊花が魔力をのせているのはきっと無意識
魔法使いじゃないのに魔力が無意識でのっているのはお兄さんと同じ
異常なまでに高い適正。
軽口も叩けない。しゃがんでかわし、足払いをかける。的確にひざを狙った「膝拉ぎ」
強化されたそれは当たれば木製バットだって折れる。そして肉眼ではほぼ捉えきれないその速度は
通常避けられない。しかし霊花は足に目を向けることなく後ろに飛ぶ。
異常な反射神経。その動き全てが反射のように思わせる。
後ろに飛んだ霊花はそのまま畳(本物の畳ではない)を踏みしめこっちに襲い掛かってくる。
両腕の連撃。っと思わせて利き腕の右をフェイントにして左を下に軌道をずらしフックをかけてくる
避けられない。左足で上段を払う。と先ほどのフェイントで後ろに抜けた右腕を棒のように振り
背中を襲われる。直撃。脊髄に軽い痺れが入る。強化がなかったら信号を持っていかれただろう
夜空「っく!」
すぐさま右腕を取り、右の脇に挟み込み、腕を折る姿勢に
普通はこれから来る痛みに何らかの反応を起こすのだが
霊花「っはあ!」
スライディング。両足を持っていかれて二人で転ぶ。
すぐに首を狙われるも柔道の固め技を放つ
帰ったらすぐに彼らの血筋を調べてみよう。絶対に普通じゃないレベルなのだから。
霊花「ぁ」
取った。
夜空「よっし、降参?」
霊花はしばらく色々な動きを試すも脱出できないとわかると
霊花「はぁ。降参よ」
良かった。ここで返されたらもう手がなかった
夜空「よかったぁぁぁあ~w」
仰向けに寝転ぶ。
夜空「霊花強すぎるよw」
霊花も寝転ぶ
霊花「夜空の方が強いでしょ~私は投げ技とか固め技とか絞めわざとか苦手で」
それはそうだろう。これで絞め返されたら誰も勝てない
夜空「その動きってお母さんとお父さんに教わったんだよね?どれだけ強かったんだろう・・」
霊花「あの人たちは化け物だったわ。掠ると血が噴出すもの。」
それってどんだけだと思う。しかし、もし自分の血を知り、魔力の制御もできていればありえる話だ
夜空「でも受け継いだわけじゃないんだよね。それで。それを作った人はどんな人だったんだろうねw」
霊花「私は継承はできなかったわ。そもそもまだ会得してない技も型もたくさんあるし・・・」
夜空「うわぁ。正式継承者はお兄さんだっけ」
霊花「そうよ。書類上はね。母さんと父さんが死んでから一度も使ってないみたいだから
    もう忘れてるでしょうけどね。」
夜空「え?なんで?継承者だったら霊花もお兄さんに教わればいいんじゃ」
霊花「兄さんは亜千維総戦流っていう殺人術は振るいたくないんだって。
    理由は相手がいなくなっちゃうからだそうよ」
夜空「それは、相手を殺しちゃうからってこと?」
霊花「そ。亜千維法は根っからの殺人術。槍、弓、剣、拳、脚、棍、ありとあらゆる武器を
    殺すという概念のみで扱う戦闘術。試合で使えばそれは決闘になってしまう。
    だから兄さんは剣道を習ったのよ。すぐやめちゃったけどね」
夜空「へぇ~。そういえばどうしてお兄さんは剣道やめちゃったの?」
霊花「殺人術を小さい頃から教え込まれてきたんだもの。打つだけで止める剣道は
    気持ち悪かったんだって。」
話を聞いて納得できた。病院での攻撃は魔法使いになっての感覚じゃなかったんだ。
根っからの殺人術の使い手の感覚。霊花も同じものを持ってるってことか
霊花「試合も何も教えてくれるくらいいいじゃないって言ったら
    妹に殺しの手法なんて教えたくないって」
夜空「あはは。お兄さんは優しいからね~。じゃぁお兄さんはもう亜千維法は捨てちゃってるんだ。
    もったいないなぁ。殺しを抑えれば使いようはあるかもしれないのに」
霊花「いいえ。捨てたわけじゃないわ。今でも凄く機嫌の悪いときは出ちゃうことあるし、」
衝撃の事実
夜空「えぇ!? じゃぁお兄さんが怒る度に死人が出るじゃないか!」
霊花「前に知り合いの肩を砕いちゃってね。それから兄さんに喧嘩を売る人はいないらしいわ」
うわぁぁ。相当恐ろしいね。この二人は
霊花「それに、本気になることがあったら使うらしいわ。」
夜空「本気?」
霊花「よくわからないけど、本人はそう言ってるわね」
ということはお兄さんは今まで本気を出したことがないってこと?ご両親が亡くなって以来。
じゃぁ病院での動きも本気じゃない・・・。確かに感覚の割には動きが直線的だった。
アレはわざと自分の力をおさえてるっていうことなのかな
夜空「あ、それじゃぁお兄さんは余程の事がない限り使わないんでしょ?霊花はいいの?
    さっきまで普通に使ってたみたいだけど」
霊花「普通なわけないわよ。一人で動きを見直すことはあるけど、人に使うのは久々よ?
    それも夜空だから使えたんだから。この年で犯罪者にはなりたくないしね」
夜空「うわぁ僕が死んじゃったらどうするつもりなのさ」
霊花「夜空は死なないでしょう?このくらいじゃ」
買いかぶりすぎだ
夜空「僕も人なんだけどなぁ。じゃぁお兄さんに止められたりはしないの?
    霊花に殺しは教えたくないんでしょ?」
霊花「教えたくはないけど、いざというときのために鍛えたほうがいいって。
    だったら教えてくれればいいのに」
夜空「あはは。まぁ戦えるに越したことはないからね~」
ぐぅ~
夜空「////」
霊花「・・・はぁ。何か買って兄さんの所に行きましょうか?」
夜空「ハンバーグがいいなぁ」
霊花「じゃあコンビニにでも寄りましょ」
更衣室に向かう。
ほのぼのとした会話のなか、考えるのは一つ
     一体霊花達は何者なんだ?
これだけの異常適正がありながら魔法使いとして覚醒していないのは
きっと、とても強い封印のせい。なら霊花やお兄さんの親はわざとその力を封じたということ
きっと数百年以上前の術式のはずなのに気配も感じさせずに的確に効果をとどめている。
旧アルケイディスの、楽園の住民の血筋。それが一番近いかもしれない。
なぜ未開の世界で過ごしていたのか。調べないといけない。

霊花

今までコレを使った相手には必ず勝ってきた。両親を除いて。
けれども夜空は互角以上に戦ってきた。
両親や兄さんの話では亜千維法は殺しの理だそうだ。いくら修めたわけではないとはいえ常人に
使えるものではない。もう最後に兄さんと手合わせしたのは5、6年も前だけど、
なぜか夜空からは他の戦闘術にはないはずの、亜千維法の気配があった気がする。
身にまとう気の力とでも言うものが確かに宿っていた。けれど亜千維法ではない。
霊花「つまり、格闘術に宿る気配じゃないってこと?だけど他の人から感じたことはないし」
達人のみが扱うならなんとなくわかるけれど、まだ修めていない私が使えているのではそれはないはず。
霊花「後で家の物置でもあさってみようかしら。日記でもなんでも、なにかあるといいのだけれど・・・
    あ、でも開かないんだっけ?こういう時こそ夜空に扉壊してもらおうかしら」
鍵はあるのに開かないから不思議だ。そういえばあの物置からも同じ気配がしていた気がする。
霊花「動きに宿るものじゃない、か。コレばかりは兄さんに聞かないと」
着替えながらの独り言。病院に行ったら聞いてみよう。
流派の違う夜空に聞くよりは同門の兄さんに聞いたほうがいいと思うし、それでもわからなかったら
夜空に聞きましょう。
夜空「霊花~早く行こうよ~お腹減っちゃったよ~ハンバーグはんば~ぐ~。」
霊花「はいはい。今行くからちょっと待って」
ぅぅ~ とうなり声が聞こえる。倒れられても困るし周りからの視線が痛いので早く出ることにしよう。
そういえば
霊花「病院の売店で買ったほうが安くない?」
夜空「断固として却下する!病院のご飯はまずいんだよ!」
霊花「そんなにまずいのかしら・・・」
兄さんもそんな事を言っていた気がする。私は入院したことがないからわからないのだけれど
病人にそんなまずい食事を出すのだろうか。
疑問は残るも、これ以上待たせると食べられそうなので、コンビニを目指す。