FrontPage/Midium of Crime 第六章

Last-modified: 2010-05-16 (日) 00:33:00

彩華津[16時]

もどかしい。ひどく焦らされている気がする。
目を瞑り、集中すると瞼の裏側に映るようにして見える世切の知識、過去。
けれど少しでも眼球を動かせばそれは消えてしまう。故に視界の中心で捕らえることが出来ないのだ。
人は視界の端に近づけば近づくほどその動きに敏感になれる。どこかの国では収容所の監視や国境警備の
兵はわざわざ確認する場所を視界の端に置くようにして監視させていたそうだ。
けれど、敏感になれる反面、端を見れる視力はとても弱い。実際の視力の四分の一にも満たないそうだ。
故に文字を読みとったりすることは難しい。ただ動きがあるかないかを見るだけの監視法。
だから、正直今は役に立っていない。この世切の知識や記憶は自分が当事者であるように記憶に
入り込むことも出来る様だが、それは外に向けている全ての感覚を内に向けることで可能となるものだ。
だから夢の中では鮮明に記憶を知ることが出来る。けれど夢は自由に見るものを変えたりは出来ない。
だから文字を視界の端で読むしかないのだが、それに加えて異界の文字である。
集中しなければ意味も読み取れない。しかも意味を読み取るだけだから単語と単語の繋ぎなどが
わからくて文が成立しない。つまりは途方もない集中をしなくてはならないのだ。
そして本当に集中している時と言うのは感覚がとても鋭利になる。
病院の廊下を歩く足音布の擦れる音鳥の鳴き声風の音患者の声機械の電子音子供の泣き声
心臓の音気配血管に血が流れている音髪の音関節の擦れる音虫の足音人の声物が落ちた音
また、その全ての気配がもつ感情
五月蝿い五月蠅い煩いうるさいウルサイウルサイurusaiURUSAI
それが、感じ取れる全ての感覚が煩くて頭の中はうるさいという言葉でいっぱいになってしまう。
もう何も見えない。こんなに苛々していたら余計見えないだけだ。落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
彩華津「ぐぁあぁああああああああ!!!!」
全ての気配が消えるように、本能的に左腕を抜き放った。
おかしい。どうしてこんなにキレてるんだ
ガッシャーン ガラガラガラ
輸血の袋は倒れてそれを支えていたスタンドは倒れて折れたスタンドは鋭利な先端を見せつけ
ながら床に転がりそれは血に濡れている。血がどんどん広がって行く。金具が飛んだのか硝子も割れている。
そこにも血の跡が。壁にも布団にも血が跳ねていて
何より自分の手が血に濡れていた
彩華津「はぁはぁはぁはぁ」
確かに短気だと言われる事はある。けれどそれでもこんなじゃない。どうして止まらないんだ
体がおかしい。そういえば体がすごい熱い熱い熱い熱い
体の中の脈動が異常な速度で鳴っている。脈動?心臓じゃない
これは、魔導機具からの拒絶反応なのか?まだ俺は世切を物としたわけではなかったのか
臨兵闘者戒陣烈在前。祓え戸の大神達、諸々の禍事、罪、穢れ有らんをば、祓え給い、清め給えと
必死の思いで九字を切る。布団の上に座禅を組み頭の中を空っぽにして・・・
ドッゴオォッッッ

霊華「ちょ、ちょっと兄さん!?コレどうしたのよ!」
夜空「お兄さん大丈夫!?」
頭の中を空っぽに、空っぽにしないとまた体が暴れだす
二人が駆け寄ってくる。おかしい。
気配の一つが高ぶり俺の感情を抑えようとする。
体がゆすられる。触るな。
気配の一つが高ぶり俺の自由を奪おうとする。
声が高い。耳に響く。
血が沸騰するように。頭の中を空っぽに。
煩わしいものは全て壊してしまえと体が叫ぶ
ドクン ドクン ドクン ドクン
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ
ドドドドドドドド
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
彩華津「ぁぁぁああああああああああ!!!」
無理だ。俺の力じゃ世切には敵わない。だったら、力を上書きするだけ。俺の得意技で
精神集中。瞑想を向けるのはあくまで自分。体を走る破壊衝動と電気信号を確認
自己暗示。自分は何も壊したくない。脳からの電気信号をすべて停止の命令へと変える。
ダメだ。この破壊は脳からの命令じゃない。それもそうだ。脳が把握されていたら意識もないだろう。
周りに人がいなければ勝手に停止するのを待つけど、二人を傷つけるわけにはいかない
この動きがすべて反射なら、
電気信号なんてものじゃない。からだがしびれるほどの電流を筋肉に直接流し、反射させる
右腕に強い熱が走った。世切の命令を弾くほどの強い信号
一瞬制御が戻る、近くに転がっていた折れたスタンドを無造作に掴み、熱を開放。肘が最速で曲がる
バチリッ
ズッ  ゴポッ
思い切り突き刺した
霊花「ぇ、に、兄さん?」
夜空「な、」
腹から血が溢れる。それよりはマシだ
意識が薄れる。アレよりはマシだ
口から血が溢れる。失うよりはマシだ
体内の鼓動が薄れていく
霊花と夜空が無事な事を確認して
俺は瞼を閉じた。

夜空[16時]

気配がおかしい。尋常じゃない気配が垂れ流しになっている。
それに当てられたのかどうも周囲の人の顔も暗い。
全てを否定するかのようなその気配はとても鋭く、今この瞬間も刺されている気がする。
ある種の結界。内の出来事を全て把握し、内の物の破壊と死の運命を決める式もいらない結界
極度に神経を磨き一定の空間を完全に自分の意識で制圧することによって発動する常人には
知識があっても使えない。逆に素質があれば知識がなくても使える暴虐の結界
式を必要としないソレは魔法ではなく気法に数えられる
夜空「全知崩壊気術マカハーラ!一体どうしてこんなものが!」
コレは戦場で極度の恐怖を凄腕のウィザードが感じることによって発動することが多い。
発動すれば自我を忘れる事から大半が精神汚染による事故とされる。
過去にはSS級のウィザードが仲間に裏切られた時にこの状態になり自軍敵軍双方に大きな被害をもたらした。
日本では「剣気」と呼ばれる物に近い。当てたものを尽く打つ気法
霊花「! 兄さん!」
突然霊花が駆け出す
夜空「な、霊花!?ちょっと待って!危ないよ!」
突如全身の緊張が少し抜けるような感覚が襲う
夜空「な、どういう」
集中してみるとソレは霊花から放たれる気の様だ。
崩壊気術と正反対の気。言うならば柔らかい気が崩壊気術をやんわりと抑えている。
マカハーラとは破壊神シヴァの別名でシヴァの破壊神、死の神の半面だけを強調した名前だ。
(神話などは様々な世界においてもある程度が共通している。多少のズレはあるが少しだけ

 本当に神の存在が確認されている世界は少ないが、共通神話の神は大抵が楽園の住民の事だと推定されている)

当たり前だが神の名を持つ気法や魔法は例外なく強力なものだ。
崩壊気術などに置いては完全な概念精製とまでは行かないが「破壊」と「把握」の劣化概念と呼べる
物を自分の精神の及ぶ範囲で作り出す。劣化とはいえ概念に違いはなく概念とは世界を作る絶対な力
故に防ぐ手立てはほとんどない。だから大抵概念を抑えるときは真逆の概念で抑えるのが
一般的な対応策だ。(概念を扱えるのは本当に少数しかいないため机上の理論とされている)
今の霊花の気は概念には及ばないものの「優しさ」の意思で幅広く崩壊気術を抑えている。
止めるまでは至っていないが足止め程度にはなっているようだ。
信じがたいが霊花の崩壊気術に対する対応は適格だ。
無意識なのか、以前にも経験があるのか迷いはない。
夜空「にしても、大きすぎてよくわからなかったけどこの気配って・・・」
さっき霊花が「兄さん」と叫んでいたことも考えればコレは間違いなくお兄さんだ。
しかし、どうして?魔法は一人では使わないようにと言ってある。お兄さん自身も危険性を知っているはず。
それにこれは魔法ではない。理由として考えられるのは精神の混濁。自我喪失。
夜空「それか、根源(ルーツ)魔導機具による反発か」
彼らには意思がある。それを害されれば反攻もしてくる。また、前例全てにおいて、ルーツを納得させる様な
戦いをするまでは、意思疎通が出来るようになるまでは、彼らは記憶を覗かれることをよしとしない。
僕も経験がある。もしコレがルーツによる反攻なら、お兄さんを責める事はできない。
出来ることはお兄さんが自分で解決できるように少しでも力を抑えることだけ
僕のルーツは、緑神弓は手元にない。現在は、運悪く整備中だ。(整備というよりは解析や記録などの研究に関する
事が多い。)明後日あたりには送られてくる予定だけど、ソレまでは相棒なしでやらなきゃいけない。
ブゥン
淡い緑色の光が全身を包み、徐々に周りに広がっていく。
「制圧」の魔法。自身の属性と同じ領域を展開し、自分の力が通りやすく、相手の力が通りにくくする
魔法。ウィザードの戦いはいかに自身の領域内での戦闘に持ち込めるかが大切だ。
抑えられない。ルーツがない制圧程度では破壊神の意思なんて抑えられない。
夜空「せめて「聖域」が使えれば・・・」
愚痴ってもしかたない。急いでお兄さんの病室へ走る。気術とは魔法とは違う。魔法は魔力と知識さえあれば
誰でも強力な魔法が使える。(概念生成など一部を除いて)しかし、気術とは素質がなければ、どんなに
魔力と知識があっても使えない。そして威力も一定ではなく、発動者の能力に影響を受ける。
お兄さんの力はとても強い。急いで止めないとどうなるか
霊花がお兄さんの病室の前に立っている。
夜空「どうしたの!?霊花!早くお兄さんの所に行かないと!」
霊花「あ、夜空!ドアが開かないの!」
なるほど、ドアはまるで中から押されているかのように湾曲に変形している。膨大な気の力が物理干渉を
始めたという事だ。
夜空「どいてて!」
霊花を後ろに下がらせるとドアの前に立つ。靴の跡が付いてるあたり、霊花も蹴っ飛ばしたんだろう。
亜千維を使う霊花が蹴破れなかったなら強化での蹴り程度じゃ破れない。
精神を集中させる。本当ならば周りに被害が出ないように閉鎖結界を張らないといけないけれど、
他者の領域に侵されている空間を掌握するのは大変難しい。
体を包む緑色の光が右手のひらに集まる。 イメージは純粋な破壊
最もマイナーな魔法の一つ。魔弾。自分の魔力を拳大に凝縮して相手に放つ初歩の攻撃魔法。
けれどそんな物じゃコレは破れない。
通常の魔弾の数倍の輝きと力。空間を歪ませる程に破壊を詰め込まれたソレは自分にしか使えない自己流魔法
夜空「我は世界を統べる意思が一つ。
    我が思いしは悪。
    我が思いしは罪。
    我はここに輝緑をもって裁きを下す!Anfing Le jugement vert short!(輝緑の裁き)」

ドッゴオォッッッ

扉が抉れ天井が抉れ床が抉れ壁が抉れる。
それは意思によって形を変える。三種の効果を併せ持つ魔法。「攻撃」「防御」「支援」の三種がコレ
一つで済む。
本来なら病院が崩壊するような力を籠めたけれど、この程度。周囲から圧迫を受けているからだ。
けれど病室への侵入はコレで果たせる。
夜空「霊花!行くよ!」
ボーゼン そういえば霊花の前で魔法を使ってしまった。どうしよう。
考えたって仕方ない。お兄さんが協力してくれる話になってるから遠からず話す時が来た事だろう。
霊花「ぇ、ぇと、」
夜空「事情は後で説明するから!早くお兄さんを抑えないと!」
霊花「え、えぇ!」
二人で駆け込んだ。