症候・病態

Last-modified: 2023-10-06 (金) 21:23:42

発熱

  • 炎症によって白血球が活性化し、IL-1などのサイトカインを放出し、視床下部の体温調節中枢に働きかけることによって引き起こされる。
    感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍(特に血液腫瘍)が主な原因。不明熱の場合は特にがんに注意が必要。
    そのほかの例としては、体温調節中枢が障害される熱射病(重い熱中症)、筋活動が亢進することによる悪性高熱といったものがある。
  • 熱型を観察することが診断の助けになる。
    • 稽留熱(けいりゅう)
      1日の体温差が1℃以内で、高熱が持続する熱。
      リウマチ熱など。
    • 弛張熱
      1日の体温差が1℃以上だが、低いときでも37℃以上を維持する熱。
      試験においては基本的に弛張熱≒Still病
    • 間欠熱
      1日の体温差が1℃以上で、低いときには平熱になる熱。
    • 液状熱
      有熱期と無熱期がランダムに繰り返される熱。
      ホジキンリンパ腫のPel-Ebstein型など。
  • 治療には苦痛を取るための解熱薬を使いつつ、根本的治療も行う。
    ただし熱型を把握する必要がある場合には、解熱薬の使用は避ける。

全身倦怠感

  • 英語ではGeneral malaiseまたはfatigue
  • あらゆる疾患の初期の自覚症状になりうるので、非特異的かつ病的意義の無い場合も多い。
    そのため話を十分に聞いて、他の症状に焦点を当てないと鑑別診断は困難。
    以下のようなパターンがある
    • 慢性摩耗性疾患
      感染症(特に結核やHIVなど経過の長いもの)、膠原病、悪性腫瘍など
    • 体力低下
      各種の臓器障害や内分泌疾患
    • 精神的要素
      うつ病

食欲不振、食思不振

  • 英語ではappetite loss
  • 以下のパターンがあり、全身倦怠感と共通するものも多い
    • 中枢の障害
      脳腫瘍や脳血管障害により、摂食中枢や満腹中枢のバランスが乱れる
    • 消化器疾患
      ほぼ全ての消化器疾患
    • 心理的要因
      神経性食欲不振症、うつ病など
    • 全身性の衰弱
      感染症、悪性腫瘍、膠原病など
  • 頻度は高いが基本的に緊急性には乏しい。とはいえ高度の体重減少をきたしているとまずいので、体重変化を確認する。
    器質的な疾患の場合は消化器疾患の場合が多いため、上部消化管内視鏡検査で見つかることが多い。
    ただし心理的なものに関しても、神経性食欲不振症は致命的になる場合もあるため、特徴的な病歴や症状に注意を払う。
    まずは器質的な疾患だと想定して内科的検査を行い、他のパターンが排除できたら心理的なものと判断する。

体重変化

  • BMIが25以上で肥満、18.5以下でやせと扱われる。
    • 単純に食べ過ぎや運動不足によるものが単純性肥満
      内分泌異常(クッシング症候群、糖尿病、甲状腺機能低下症)や染色体・遺伝子異常によって引き起こされるのが二次性肥満
    • やせの原因には摂取エネルギーの減少、エネルギー消費の増大、同化の障害がある。
      食欲不振は当然摂取エネルギーの減少に繋がる。アルコール中毒などでも減少する。
      エネルギー消費が増大する原因としては、運動量の増加、感染症、悪性腫瘍、代謝の亢進(甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫)といったものがある。
      同化障害としては、肝硬変、糖尿病、Sheehan症候群、Addison病などがある。
      • 病的なやせをるいそう(羸痩)という。標準体重を20%以上下回っている場合か、6か月以内に10%以上の体重減少があった場合にるいそうと診断される。
  • 比較的急速な体重変化は病的意義があることが多い。
    特にクッシング症候群は体幹だけ太くなって四肢は細いという中心性肥満が特徴的。
  • ほとんどは単純性の肥満・やせである。検査の際には器質的疾患による二次性のものを除外していく。
    単純性肥満の場合でも、各種生活習慣病に繋がりやすいのでそちらの検査も同時に行う。
  • Ⅰ型糖尿病はやせに繋がり、Ⅱ型糖尿病は肥満に繋がる。

ショック

  • 急性かつ全身性の循環不全を原因として、組織への酸素供給が不十分になっている状態のこと。
    • 循環血液量減少性ショック(≒出血性ショック)
      出血や脱水によって循環血液量が低下するもの。
      外傷による大量出血、消化管出血、熱傷などによる。
    • 心原性ショック
      心機能が低下することで、十分な心拍出が行えないもの。
      心筋梗塞、心不全、高度の不整脈などによる。
    • 閉塞性ショック
      心臓が外部から圧迫されたり流出路が閉鎖したりすることで拍出が阻害されるもの。
      心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓など。
    • 敗血症性ショック
      細菌感染によって種々のサイトカインが放出され、血管透過性が亢進して血管内の血液量(血管内ボリューム)が減少するもの。
    • アナフィラキシーショック
      Ⅰ型アレルギーによって血管透過性が亢進して血管内ボリュームが減少するもの。
    • 神経原性ショック
      血圧や心拍出量を調整している自律神経が障害されることで循環が維持できなくなるもの。
      脊髄損傷による。
  • 血圧低下、脈拍減弱、皮膚蒼白が一般的な症状。
    更に、代償的に交感神経が亢進して頻脈、発汗、末梢血管収縮による末梢冷感を引き起こす。
    ショック状態が続くと、呼吸や意識にも障害が出て致死的になる。
    • 顔面蒼白(Pallor)、虚脱(Prostration)、冷汗(Perspiration)、呼吸不全(Pulmonary insufficiency)、脈拍触知不能(Pulseless)がショックの5徴である5Pと呼ばれる。
      呼吸数が20回/分以上だとショックを疑う。
    • ただし、ショックの種類によっては一部の症状が出ない場合がある。
      敗血症性・アナフィラキシー・神経原性では末梢血管が逆に拡張するため末梢冷感を伴いにくい。特に敗血症性は心拍出量も増加するため、warm shockと呼ばれる。
      神経原性は交感神経が障害されるため、代償的な交感神経亢進が起こらない。
    • 検査では動脈血ガス分析を行う。重症化すると虚血によって乳酸が蓄積し、代謝性アシドーシスとなる。
  • ショックは緊急性が高いため、直ちに治療を開始する。
    バイタルサインを確認・維持しつつ、原因を検索してそれに対して治療を行う。
    出血性:出血源の同定と止血
    心原性:原疾患の治療、補助循環の使用
    閉塞性:原因疾患各々の治療
    敗血症性:速やかな抗菌薬投与
    アナフィラキシー:アドレナリンの筋注
    神経原性:丸1~2日で自然回復

心停止

  • 心臓が有効な心拍出量を保てない状態のこと。
    心室細動、無脈性心室頻拍、心静止、無脈性電気活動に分類される。
  • 診断基準は色々ある。英語に直すとHやTから始まるものばかり(HはHyper(高)やHypo(低)が語頭にきがち)
    循環血液量減少、低酸素、アシドーシス、高/低カリウム血症、低体温、低血糖、中毒、心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症、外傷など。
    特にカリウムは高くても低くても心疾患を引き起こすため怖い。

意識障害・失神

  • 意識障害は種々の原因によって大脳皮質や脳幹網様体が障害され、意識レベルの低下をきたすもの。
    一方、失神は脳血流の全体的かつ一時的な低下による一過性の意識消失のことを指す。局所的な脳血流の低下では失神はきたしにくい(一過性脳虚血発作など)。
  • 意識障害の原因は大きく脳原発のものと全身性疾患によるものに分類でき、具体的な原因は多岐にわたる。
    前者は脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった脳血管障害、脳腫瘍、脳膿瘍、硬膜下血腫、硬膜外血種、脳挫傷、脳炎、髄膜炎など。
    後者はショック、薬物、アルコール、低酸素、低血糖/高血糖、体温異常、肝性脳症、腎不全、ビタミンB1欠乏、内分泌異常、電解質異常、心因性など。
  • 失神の原因は心原性、血管原性、その他に分けられる。
    • 心原性のものは更に心臓の器質的異常によるものと、刺激伝導系の異常によるものとに分けられる。
      前者は大動脈弁や僧帽弁の狭窄症、肺高血圧症、心筋梗塞、肥大型心筋症など。
      後者は洞不全症候群、Ⅱ度・Ⅲ度房室ブロック、発作性上室性頻拍、心室頻拍、心室細動など。
    • 神経原性のものは大動脈解離、大動脈瘤破裂、肺塞栓症など。
    • その他のものは脱水、ショック、血管迷走神経反射、起立性低血圧、てんかん、解離性障害など。
  • 意識障害の診断では、まず簡便に調べられる血糖測定と動脈血ガス分析を行って血糖異常や低酸素を調べる。
    次いで脳原発のものを否定しきれない場合には頭部CTを撮影し、場合によってMRIや髄液検査を追加する。
    評価にはJCSやGCSを使う。
  • 失神の診断では心電図や心エコーを行う。
    心電図は不整脈による失神の鑑別に必要で、発作時の波形をとらえるためにはHolter心電図を使用する。
    心エコーは心臓の器質的異常の診断に役立つ。
  • 意識障害の場合はバイタルサインの確認・維持を行いつつ、原因を検索して原疾患に対する治療を速やかに行う。
    低血糖が疑われる場合にはグルコース、Wernicke脳症が疑われる場合にはビタミンB1を投与する。
  • 失神は一過性の意識障害なのですぐに戻るため、ショックや低酸素といった他の重篤な症状がないならば焦る必要はない。
    ただし心原性の失神は予後不良なので、放置はせずにちゃんと原因を検索して検査や治療を行うこと。

けいれん

  • 不随意的な筋肉の激しい収縮をさす。
    全身性の痙攣は、脳細胞の異常な興奮によって起こる。
    原因としてはてんかんと全身性疾患がある。
    • てんかんとしては特発性てんかんの強直間代発作、Lennox-Gastaut症候群、West症候群、症候性てんかんの脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍、脳膿瘍、髄膜炎、脳炎など。
    • 全身性疾患としては水や電解質の異常(脱水、低カルシウム血症など)、低血糖、低酸素、薬物中毒、発熱による熱性けいれん(通常、両側性強直間代発作となる)など。
  • 診断では発作のタイプ(どんな痙攣か)がヒントとなる。
    意識障害と同様、まず簡便に調べられる血糖測定と動脈血ガス分析を行って血糖異常や低酸素を調べる。
    症候性てんかんが疑われた場合には頭部CTを撮影し、場合によってMRIや髄液検査を追加する。
    特発性てんかんの場合は脳波の所見による鑑別を行う。
  • 痙攣発作は緊急性が高い。
    呼吸筋を上手く動かせなくなるため、まずは気道の確保が必要。
    次いでジアゼパムを投与して痙攣を止め、原因の検索と原疾患の治療を速やかに行う。

めまい

  • 内耳の障害による末梢性めまいと、中枢の障害による中枢性めまいがある。
    • 末梢性めまいは半規管・前庭・前庭神経が障害されることによる平衡感覚異常。
      良性発作性頭位眩暈症の場合、蝸牛や蝸牛神経は障害されないため難聴は伴わない。
      聴神経腫瘍、Meniere病、突発性難聴の場合、蝸牛や蝸牛神経まで障害されることで難聴も合併する。
    • 中枢性めまいは末梢からの情報を統合する脳幹、小脳、視床が障害されるもの。
      脳幹部の脳梗塞(Wallenberg症候群など)、脳出血、小脳腫瘍、小脳出血、脊髄小脳変性症など。
  • めまいの症状は回転性、浮動性、失神性の3パターンに分かれる。
  • めまいの出現時には眼振を認めることが多いので、眼振検査を行う。
    特に良性発作性頭位眩暈症では、頭位変換眼振検査で著名な眼振が誘発される。
    中枢性めまいが疑われる場合には頭部CTやMRIを撮影し、必要なら心電図を取る場合もある。

脱水

  • 原因は水の摂取不足と過剰喪失に分けられる。
    • 摂取不足になるのは、経口摂取困難や過少輸液。
    • 過剰喪失になる場合、水分の喪失経路としては発汗・嘔吐・尿・便がある。
      • 発汗
        発熱、熱中症
      • 嘔吐
        食中毒、周期性嘔吐、肥厚性幽門狭窄症など
      • 尿
        糖尿病、尿崩症
      • 便
        重症下痢
  • 水と電解質(主にナトリウム)のどちらが多く失われたかによって、低張性脱水と高張性脱水に分類できる。
    • 低張性脱水ではカルシウムの方が多く失われる。
      その分細胞外液が薄くなり、細胞外液から細胞内液に向かって水分が移動するために細胞外液の減少が著明となる。
      ツルゴール(皮膚の張り)の低下や血圧の低下が見られる。
    • 高張性脱水では水の方が多く失われる。
      その分細胞外液の濃さが上がり、細胞内液から細胞外液に向かって水分が移動するために細胞内液の減少が著明となる。
      興奮(神経症状)や著名な口渇が見られる。
  • 高齢者や小児は水分摂取が不足しやすく、脱水状態になりやすい。
    また、小児は体重あたりの水分率が大きい、体表面積が大きいため不感蒸泄(何もしていない時の水分蒸発)が多い、臓器が未熟で水の利用効率が悪い、といった点も脱水になりやすい理由となる。
  • 治療には適切な量と適切な成分を補充するのが原則。
    • 適切な量は体重減少量を目安として失われた水分量を計算し、それに1日必要量などを足して算出する。
    • 高張性脱水の場合は細胞内脱水なので、細胞内に水を入れるために5%ブドウ糖液、
      低張性脱水の場合は細胞外脱水なので、血管内に水を入れるために生食や乳酸リンゲル液を輸液する。
      初期輸液は基本的にカリウムを含まないもので行うが、肥厚性幽門狭窄症は例外的に最初からカリウムを含んでいても良い。

浮腫

  • 原因としては浸透圧の異常、血流・リンパ流の異常、血管透過性亢進の3つに分けられる。
    • 浸透圧の異常は血管内外の浸透圧バランスが乱れるもので、更に血漿膠質浸透圧が低下するもの(低アルブミン血症)と組織膠質浸透圧が上昇するものに分けられる。
      前者は肝硬変、ネフローゼ症候群、低栄養、後者は甲状腺機能低下症が該当する。
    • 血流・リンパ流の異常は、うっ滞や閉塞によって組織内に水分が漏出するものである。
      右心不全、深部静脈血栓症、静脈瘤、上大静脈症候群、リンパ浮腫が該当する。
    • 血管浸透圧が亢進すると、組織間に水分が漏出する。
      敗血症、Ⅰ型アレルギー、急性膵炎が該当する。
  • 浮腫は全身性の場合も限局性の場合もある。
    特定の場所にしか認められない場合は限局性浮腫として血流うっ滞を疑う。
    また、圧痕を残す浮腫と残さない浮腫があり、甲状腺機能低下症は圧痕を残さない浮腫が特徴。
  • いずれも原疾患の治療が原則。
    艇アルブミン血症には対症的にアルブミン製剤を投与することもある。
    静脈瘤には対症的に弾性ストッキングや安静も有効。

発疹

  • 病態によって紅斑・紫斑・色素斑・水疱・膨疹といった種類がある。
    • 紅斑は炎症による皮膚拡張によるもので、赤く平坦。
      ほぼ全ての皮膚疾患に見られるが、特にウイルス性発疹症(麻疹や伝染性紅斑)、薬疹、膠原病(SLEや皮膚筋炎)などで見られやすい。
    • 紫斑は血管外への出血が起こったことで紫色に見えているもの。血管炎の場合は浸潤を触れることがある。
      紫斑病性腎炎、DIC、免疫性/血栓性血小板減少性紫斑病(ITP/TTP)など。
    • 色素班はメラニンが沈着したもので、部位によって色調が異なるが黒、茶、青色など。
      悪性黒色腫や神経線維腫症Ⅰ型(von Recklinghausen病)で見られ、特に悪性黒色腫では大きく、隆起したり辺縁や色調が不整といった特徴がある。
    • 水疱は破ると水が出てくる水膨れ。形成位置によって破れやすさが異なる。
      ヘルペスウイルス感染症、水痘、帯状疱疹、尋常性天疱瘡(弛緩性水疱)、水疱性類天疱瘡(緊満性水疱)など。
    • 膨疹は蕁麻疹のことで、ヒスタミンによる真皮の浮腫である。地図状に隆起した赤い病変で、数時間で消える。必ずかゆみを伴う。
  • 皮疹の性状をよく観察して診断する。かゆみがあるかも重要。
    紅斑と紫斑の鑑別には硝子圧法が使われる。紅斑の場合は皮疹が消退するが、紫斑では消退しない。
    水疱症の鑑別にはツァンク(Tzanck)試験が行われる。これは多核巨細胞であるツァンク細胞を探す試験で、水疱が出る疾患によくみられる細胞となる。
    悪性黒色腫を疑った際には、色素性母斑と鑑別するためにダーモスコピー試験を行う。
    なお、悪性黒色腫では生検は転移を助長する恐れがあるとされており、禁忌扱いされる場合もある。一方、根拠が明らかではなく、診断のために生検が必要だとする意見もある。

咳・痰

  • 咳は肺の持続的刺激や、分泌物や異物による刺激によって、気管・喉頭・呼吸筋の反射的運動が誘発されるものである。
    痰は気道の杯細胞や分泌腺から粘液が多量に分泌され、口から出てくるものである。
    • 痰を含まない咳を乾性咳嗽、含むものを湿性咳嗽という。
      乾性咳嗽はマイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、間質性肺炎、夏型過敏性肺炎などで見られる。
      湿性咳嗽や痰は細胞性肺炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺水腫、肺化膿症などで見られる。
  • 乾性か湿性かで疑う疾患は異なる。
    また、喀痰の見た目も診断のヒントとなり、細菌感染症では膿性痰が特徴(特に肺炎球菌では鉄さび状の喀痰と言われる)。肺水腫ではピンク色泡沫状喀痰がみられる。
    喀痰検査としては、培養したりグラム染色したり細胞診したりする。

血痰・喀血

  • 気道、肺、肺血管のいずれかからの出血によってみられる。
    気道からの出血は、気管支炎、気管支拡張症、肺癌、気道異物など。
    肺からの出血は、肺癌、肺炎、Goodpasture症候群、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)、結核など。
    肺血管からの出血は、心不全、肺塞栓など。
  • 気管支鏡で検査し、出血源の同定や止血を行う。生検や気管支肺胞洗浄(BAL)も可能。

呼吸困難

  • 原因は呼吸器疾患、心疾患、全身性疾患、その他がある。
    • 呼吸器疾患は十分な換気が行えないことにより息苦しさを感じるもので、肺の器質的疾患と気道の物理的閉塞に分けられる。
      前者は全ての肺疾患。肺塞栓、気胸、気管支喘息などなど。
      後者は気道異物やアナフィラキシーショックによる。
    • 心疾患では心機能が低下し、全身への酸素供給が低下する。
      心筋梗塞、心不全、大動脈解離など。
    • 全身性疾患では酸素需要が上昇し、過換気が求められる場合がある。
      運動、発熱、甲状腺機能亢進症など。
    • その他の疾患の例としては、胸郭の拡張不全や精神的な要因がある。
      筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ボツリヌス中毒、過換気症候群など。
  • 呼吸状態の分類として、Hugh-Jones分類があり、Ⅰ~Ⅴ度に分類される。
    • Ⅰ度
      労作や階段昇降も問題なく可能
    • Ⅱ度
      歩行は問題ないが、坂道や階段は健常人並みにはできない
    • Ⅲ度
      平地の歩行でも健常人並みにはできないが、自分のペースであれば1.6km以上歩ける
    • Ⅳ度
      休み休みでないと50mも歩けない
    • Ⅴ度
      会話や着替えですら息切れがし、外出も困難
  • 静脈血ガス分析を行い、呼吸不全を伴うかどうかを判断する
    呼吸不全を伴う場合は速やかな治療が必要だが、そうでないなら緊急性は低い場合が多い。
    過換気症候群は呼吸困難の程度は強いが、呼吸不全は呈さない。
    また、肺の器質的疾患の有無や大動脈解離による縦隔拡大などを確認するために胸部X線検査も行う。気道異物は右側気管支に多く、患側の無気肺やHolzknecht徴候が認められる。
  • 治療の基本は原疾患の検索とその治療
    呼吸不全を伴っていて緊急性が高い場合、まず気道を確保し、酸素投与を行う。酸素投与をしても酸素化が改善しない場合には人工呼吸管理を行う。
    また、CO2ナルコーシスをきたしている場合にも人工呼吸管理を行う。動脈血ガス分析でⅡ型呼吸不全(PaCO2≧45Torr)と診断された場合、大量の酸素を流すとCO2ナルコーシスが悪化するので注意が必要。

胸痛

  • 原因は様々であり、胸部に存在する全ての臓器の障害や炎症により呈する。
    各臓器が化学的・物理的な刺激を受けることで、知覚神経を介して大脳皮質に痛覚が伝わる。
    • 心疾患
      虚血性心疾患である狭心症・心筋梗塞や、大動脈弁狭窄症、心筋炎
    • 血管疾患
      胸部大動脈瘤破裂、大動脈解離
    • 漿膜炎
      胸膜炎、心膜炎
    • 呼吸器疾患
      肺塞栓、気胸、肺癌、肺炎、肺化膿症、膿胸
    • 消化器疾患
      胃食道逆流症(逆流性食道炎)
    • その他
      肋骨骨折、帯状疱疹、肋間神経痛
  • 診断の際には問診で性状を確認し、鑑別する。
    漿膜炎の場合、呼吸によって症状が変動する。
    動脈解離による胸痛は、背部に移動する。
    虚血性心疾患による胸痛は、締め付けられるような痛みとなり左肩や上肢に放散する。
  • 検査ではとりあえず簡便な胸部X線で情報を得る。気胸などはこれだけで診断可能。
    胸部CTでは各種肺病変や、造影CTにすることで大動脈解離、肺塞栓も診断できる。
    虚血性心疾患の診断には12誘導心電図を使用する。
  • 以下の疾患は緊急性が高いため、初期治療を行う
    • 急性心筋梗塞
      モルヒネ、酸素、ヘパリン、硝酸薬、アスピリンを投与しつつ、心カテーテル検査を行う。
    • 動脈解離
      上行大動脈に及んでいるStanford A型なら緊急手術、及んでいないB型なら降圧を行う。
    • 肺塞栓症
      抗凝固療法や血栓溶解療法を行う。

動悸

  • 原因は不整脈と全身性疾患に大別される。
    • 不整脈は刺激伝導系の異常で、徐脈性でも頻脈性でも動悸の原因になりうる。
      発作性の動悸であることが多い。
      心房細動、発作性上室性頻拍、心室頻拍、心室性期外収縮、洞不全症候群、房室ブロックなど
    • 全身性疾患の病態は以下がある
      慢性または持続性の動悸であることが多い。
      • 1回拍出量が低下し、代償的に頻脈になるもの
        心不全
      • 心拍出量が増大し、頻脈が起こるもの
        甲状腺機能亢進症、貧血
      • 交感神経の過緊張
        褐色細胞腫、精神的な緊張や興奮
  • 心電図で検査し、洞性/非洞性か、RR間隔、QRS幅などを確認する。
    WPW症候群では、非発作時にも心電図異常(δ波)がみられる。

胸水

  • 漏出性胸水と滲出(しんしゅつ)性胸水に分けられる。
    • 漏出性は膠質浸透圧の低下や血液うっ滞によって、胸腔内に水が漏れだすもの。
      心不全、肝硬変、低栄養、腎不全など。
    • 滲出性は炎症によって胸腔内に滲出液貯留が起こるもの。
      呼吸器感染症、悪性腫瘍、胸膜炎といったものでみられる。
      肺炎や結核、原発性肺癌、胸膜中皮腫、転移性腫瘍による癌性胸膜炎、SLEや関節リウマチなど。
  • 漏出性か滲出性かを確認するためには胸腔穿刺が必要。
    胸壁から針を刺して胸水を採取するが、気胸に注意。
    悪性腫瘍の場合は癌細胞、胸膜中皮腫ではヒアルロン酸の上昇、結核ではアデノシンデアミナーゼ(ADA)活性の上昇がみられる。

嚥下困難・嚥下障害

  • 嚥下に関係する神経や筋の障害によって嚥下機構に問題が生じる場合と、口腔・咽頭・食道が閉塞している場合に分けられる。
    • 前者は脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、神経疾患(脊髄小脳変性症、多発性硬化症、ALS)、筋疾患(筋ジストロフィー、多発性筋炎、重力筋無力症)、膠原病(全身性硬化症(強皮症)、混合性結合組織病(MCTD)、多発性筋炎)といったものが原因となる。
    • 後者は食道癌、食道異物、胸部大動脈瘤など
  • 消化管閉塞が疑われる場合、上部消化管造影や内視鏡で原因を検索する。
    胸部大動脈瘤が疑われる場合は造影CTも行う。

腹痛

  • 胸痛と同様、腹部の臓器の障害や炎症なら大概腹痛を呈する。
    胃・十二指腸疾患(急性胃粘膜病変、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌)、小腸や大腸の疾患(虫垂炎、潰瘍性大腸炎、大腸癌、腸閉塞、クローン病、憩室炎、腸重積)、肝胆膵疾患(胆嚢炎、胆管炎、胆石症、肝腫瘍、肝細胞癌、膵炎、膵癌)、心血管疾患(腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離)、腎・泌尿器科疾患(尿路結石、腎盂腎炎)、婦人科疾患(異所性妊娠、切迫流産、常位胎盤早期剝離、陣痛)など。
  • 消化管の進展や収縮などによって発生する、局在のはっきりしない痛みを内臓痛という。
    壁側腹膜に炎症が波及した際に生じる、局所的な鋭い痛みを体性痛という。
  • 痛みの部位や性状を確認して診断する。
    胆嚢炎の場合は右季肋部が痛む
    虫垂炎の場合は心窩部のじわじわした痛みから右下腹部の鋭い痛みに変化する
    膵炎、大動脈解離、腎・泌尿器科疾患(後腹膜臓器の疾患)では背部痛にもなりうる。
  • 女性の場合はとりあえず妊娠を疑って検査する。
    あととりあえずエコーする。簡便に行え、特に胆石の検出にはCT以上に効果がある。
    もちろんX線やCTも有用。CTはほぼすべての器質的疾患の診断に使え、腸閉塞はX線だけでも診断できる。
  • 腹部の激痛をきたす疾患を急性膜症といい、緊急に治療が必要となる。
    消化器疾患としては虫垂炎、腸閉塞、腸管穿孔
    肝胆膵疾患としては胆嚢炎、胆石症、胆管炎、膵炎
    心血管疾患としては腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症
    腎・泌尿器科疾患としては尿路結石
    婦人科疾患としては異所性妊娠、常位胎盤早期剝離
    といったものが該当する。

悪心・嘔吐

  • 心疾患、消化器疾患、平衡感覚障害、脳圧亢進、その他といった原因がある。
    • 心疾患は心筋梗塞、心筋炎、狭心症など
    • 消化器疾患では消化管壁が障害されたり内圧が上昇することで、消化管の化学受容器が刺激を受けて嘔吐中枢が刺激される。
      消化管通過障害である肥厚性幽門狭窄症・腸閉塞・大腸癌や、食中毒、胃炎、胃潰瘍、胃癌、虫垂炎など。
    • 平衡感覚障害では、内耳半規管からの入力によって嘔吐中枢が刺激される。
      Meniere病、良性発作性頭位眩暈症など
    • 脳圧が亢進すると、嘔吐中枢が刺激される。
      脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍など。
    • その他の原因としては精神的な不安や咽頭の機械刺激など。
      神経性食欲不振症、高カルシウム血症、片頭痛、緑内障、薬物や放射線の副作用など。
  • 原因として多いのは消化器疾患や神経疾患だが、あらゆる疾患で悪心・嘔吐はきたしうるので、それ以外の症状にも着目して診断する。特に心疾患の見落としは致命的。
  • 脳圧が亢進している場合、眼底検査でうっ血乳頭を認める。
    神経疾患が疑われる場合は頭部CTをとる。
    心疾患が疑われる場合は心電図やトロポニンT検査を行う。
    腹部の疾患が疑われるなら腹部X線やCTをとる。

吐血・下血

  • いずれも消化管出血が原因。
    上部消化管からの出血では吐血や黒色便・タール便といった下血、下部消化管からの出血では血便がみられる。
    • 上部消化管からの出血をきたすのは、食道癌、食道静脈瘤破裂、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など。
    • 下部消化管からの出血をきたすのは、クローン病、潰瘍性大腸炎、細菌・ウイルス感染、薬剤性腸炎、大腸癌、感染性腸炎、メッケル憩室、腸重積、内痔核など。
  • 下血の場合、便の色調が出血点同定のヒントとなる。
    上部消化管なら黒色、下部消化管なら赤色になるが、特に直腸や肛門周囲の場合は鮮紅色を呈する。
    Mallory-Weiss症候群は嘔吐に伴って起こる。
    食道静脈瘤破裂は門脈圧が亢進している患者にみられ、大量出血となりやすい。
  • 直腸からの出血が疑われる場合、直腸指診が最も簡便。
    それ以外なら疑われる方の消化管の内視鏡検査を行う。
  • 出血量によっては出血性ショックになりうるので、まずはバイタルサインを確認し、ショック状態なら緊急性が高いため直ちに治療する。
    補液や輸血を行い、内視鏡で出血源を同定し止血処理をする。
    ただし、意識障害や血圧不安定の時には内視鏡は禁忌。

便秘・下痢

  • 便秘の原因は消化管の閉塞や消化管運動の低下
    • 前者は器質性腸閉塞、鎖肛、大腸癌など
    • 後者は機能性腸閉塞、腹部炎症、Hirschsprung病、過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能低下症など
  • 下痢の原因は消化管粘膜の障害や消化管運動の亢進
    • 前者はクローン病、潰瘍性大腸炎、細菌/ウイルス感染、薬剤性腸炎など
    • 後者は過敏性腸症候群、甲状腺機能亢進症など
  • 下痢の場合は性状を確認する。
    ロタウイルス感染症では白色下痢便が特徴。
    潰瘍性大腸炎など粘膜障害の強い疾患の場合は粘血便となる。
  • 腹部X線で腸管内ガスの貯留像から消化管運動や腸閉塞の有無を確認できる。
    下部消化管内視鏡では大腸粘膜の観察や大腸癌の有無の確認ができる。

黄疸

  • 血中のビリルビン上昇に伴って、組織にビリルビンが沈着して黄染すること。
    直接ビリルビン優位の場合と間接ビリルビン優位の場合がある。
    • 直接ビリルビン優位になるのは、肝細胞障害によって胆汁中へのビリルビン排泄が障害されている場合や、胆道閉塞により胆汁を腸管に排泄できない状態になっている場合。
      前者は急性肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、アルコール性肝炎、薬剤性肝障害など。
      後者は原発性硬化性/胆汁性胆管炎、総胆管結石、胆管癌、乳頭部癌、膵頭部癌など。
    • 間接ビリルビン優位になるのは大量に生産された間接ビリルビンが処理しきれずに蓄積する場合で、溶血性貧血が該当する。
  • 黄疸では眼球結膜の黄染や皮膚のかゆみを呈する。
    閉塞性黄疸では脂溶性ビタミンの欠乏を合併し得る。
  • 血液検査で直接優位か間接優位かを確認する。
    また、尿検査では直接優位の場合ビリルビン陽性、間接優位の場合は陰性となる(間接ビリルビンは糸球体を通過しないため)。
    尿中ウロビリノゲンは通常どちらでも上昇する。ただし、閉塞性黄疸では胆汁が腸管に排泄されないため陰性となる。
    閉塞性黄疸の場合、腹部超音波やMRCPで肝内胆管の拡張を確認できる。
  • 原疾患の治療で対処し、閉塞性黄疸が著明な場合には対症的にドレナージも行う。

腹部膨隆・腫瘍

  • 腹水は胸水と同様、漏出性と滲出性に分けられる。
    腹腔内に水が漏れだす漏出性が起こるのはネフローゼ症候群、心不全、肝硬変など。
    炎症によって滲出液貯留が起こるのが癌性腹膜炎、細菌性腹膜炎など。
  • 腸閉塞や便秘で腸管内ガスが貯留することでも腹部膨隆が起こる。
  • 腹部大動脈瘤、卵巣腫瘍、ヘルニアなどが腫瘤の原因となる。
  • 腹部大動脈瘤による膨隆では雑音(bruit)が聴取され、拍動を触知する。
  • 膨隆が腹水貯留によるものなのか、腸管内ガス貯留によるものなのかは診察でも推測できる。
    腹水の場合は打診上濁音が聞かれ、体位によって変化する。
    腸管内ガスの場合は打診上鼓音が聞かれ、体位によって変化しない。
    確定診断するならエコー・X線・CTあたりを使う。

貧血

  • Ht/RBC×10で算出されるMCVの値によって、小球性、正球性、大球性に分類される。
    • MCV<80の小球性は鉄不足で、鉄欠乏性貧血が該当する。
    • 80≦MCV≦100の正球性は、産生の低下と破壊の亢進の2パターンがある。
      産生が低下するのは再生不良性貧血、白血病、腎性貧血、悪性リンパ腫など
      破壊が亢進するのは自己免疫性溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症、発作性夜間ヘモグロビン尿症など
    • MCV>100の大球性貧血は、ビタミンB12や葉酸が欠乏することでDNA合成が障害されている。
      巨赤芽球性貧血が該当する。
  • 貧血全体の症状として、息切れ、易疲労感、収縮期雑音、高心拍出性心不全など。
    鉄欠乏貧血の場合はさじ状爪、異食症、Plummer-Vinson症候群を合併する。
    ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血では、Hunter舌炎や亜急性連合性脊髄変性症を合併する。
  • 血液検査を行い、MCVを算出して鉄動態・エリスロポエチン・網赤血球数なども測定する。
    網赤血球は破壊の亢進では上昇し、産生の低下では低下する。
    血液塗抹標本検査では、鉄欠乏貧血では菲薄赤血球、遺伝性球状赤血球症では球状赤血球が見られる。
    再生不良性貧血の場合、骨髄生検で骨髄の低形成がみられる。

リンパ節腫脹

  • 炎症や悪性腫瘍で腫脹する。
    • 炎症の原因疾患としては各種細菌・ウイルス感染症、および自己免疫疾患やその類似疾患としてSLE、シェーグレン症候群、関節リウマチ、成人Still病、混合性結合組織病(MCTD)、川崎病、サルコイドーシスなど
    • 腫脹する悪性腫瘍としては、造血器の悪性疾患(悪性リンパ腫、白血病)、転移性腫瘍(固形癌のリンパ節転移)など
  • 感染症で出現する場合、比較的急速に出現して、圧痛を伴い、可動性が良好
    悪性腫瘍で出現する場合、緩徐に出現して、圧痛は無く、可動性は不要
  • ホジキンリンパ腫では頸部リンパ節に初発する。
    胃癌のVirchowリンパ節転移では左鎖骨上リンパ節に転移が見られる。
    サルコイドーシスでは両側肺門リンパ節が腫脹する。
  • リンパ節生検で検査する。特に悪性腫瘍が疑われる場合の悪性リンパ腫の確定診断に必要。

尿量・排尿異常

  • 1日あたりの尿量が2500mL以上の場合が多尿。
    水分摂取が多い(心因性多飲)、尿濃縮力が低下している(早期腎不全)、利尿が亢進している(尿崩症、糖尿病)といった原因がある。
  • 1日あたりの尿量が400mL以下の場合を乏尿といい、特に100mLだと無尿とも言われる。
    脱水(脱水症、ショック)、腎機能障害(腎不全)が原因疾患。
  • 内分泌異常による尿量変化を疑う場合はホルモン測定を行う。
    特に尿崩症なのか心因性多飲なのかの鑑別として、水制限試験や高張食塩水負荷試験などを行う。
  • 排尿の異常としては排尿時痛、頻尿、尿失禁といったものがある。
    排尿時痛は尿路系臓器の炎症によって起こり、いずれも頻尿を合併しうる。膀胱炎や前立腺炎。
    頻尿は尿路系臓器の炎症時の他に閉塞したときにもみられ、前立腺肥大症が該当する。
    尿失禁は排尿を支配する神経の異常(糖尿病、多発性硬化症、脊髄損傷)や認知機能の低下(正常圧水頭症、アルツハイマー型認知症)で見られる。
  • 高齢男性の排尿障害の原因で最も多いのは前立腺肥大であり、直腸指診や尿流測定、エコーなどが行われる。
    尿路感染の有無の確認のためには尿検査が行われる。

血尿・蛋白尿

  • 血尿は糸球体の障害による糸球体性血尿と、腎後性の障害による泌尿器科的血尿に分けられる。
    • 糸球体性血尿が起こる疾患は、急性糸球体腎炎、IgA腎症、急性進行性糸球体腎炎、ループス腎炎、グッドパスチャー症候群など
    • 泌尿器科的血尿が起こる疾患は、尿路の悪性腫瘍(腎細胞癌、腎盂尿管癌、膀胱癌)、尿路感染症(腎盂腎炎、前立腺炎、膀胱炎、尿道炎)、尿路結石など
  • 蛋白尿は以下の4パターンある
    • 糸球体の障害によるもの
      糸球体での濾過が障害され、尿中にタンパク質が流出する。
      糸球体性血尿の疾患と、微小変化群、糖尿病腎症、アミロイド腎症、膜性腎症といったものが該当する。
    • 尿細管の障害によるもの
      尿細管におけるタンパク質の再吸収が障害されるもの。
      間質性腎炎、Fanconi症候群などが該当する。
    • 腎前性蛋白尿
      糸球体を通過するタンパク質が多すぎるもの。
      多発性骨髄腫など。
    • 腎後性蛋白尿
      正常な尿が尿路を通過している間にタンパク質が混ざるもの。
      尿路結石、尿路腫瘍、膀胱炎、尿道炎など。
  • 血尿は肉眼的か顕微鏡的か、症候性か無症候性かを確認する。
    特に無症候性の場合は尿路系の悪性腫瘍を疑う。
    糸球体性血尿を疑った場合には腎生検を行う。
  • 蛋白尿は血尿を伴うか否かを確認する。
    糸球体腎炎のうち、膜性腎症やアミロイド腎症は血尿を呈しにくく、微小変化群や糖尿病腎症は基本的に呈さない。
    糸球体性や尿細管性の蛋白尿が疑われる場合には腎生検を行う。

月経異常

  • 月経周期に関わるホルモンに異常がある場合と、月経が行われる子宮に異常がある場合がある。
    • ホルモン異常は更に細分化され、視床下部の異常である視床下部性無月経(神経性食欲不振症)、下垂体の異常である下垂体性無月経(下垂体腺腫、Sheehan症候群)、卵巣の異常である卵巣性無月経(Turner症候群)、高プロラクチン血症(下垂体腺腫、甲状腺機能低下症、薬の副作用)といったものがある。
    • 子宮の異常は、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮奇形、避妊具の挿入といったものが原因となる。
  • 下垂体腺腫の場合、両耳側半盲の視野異常を伴う。
  • 検査ではホルモンであるGnRH、LH、FSH、エストロゲンの数値を確認する。
    また、無月経にはプロゲステロンだけ投与すれば月経が起こる第1度と、プロゲステロンに加えてエストロゲンも投与しないと起こらない第2度がある。
    子宮の器質的異常を疑った場合は、双合診、腹部エコー、骨盤部MRIを行う。

不安・抑うつ

  • 神経伝達物質であるセロトニンの欠乏がうつ病に関係している、という仮説がある。これをセロトニン仮説という。
  • 身体疾患を持つ患者はうつ病の有病率が高い。身体疾患とうつ病は相互に予後を悪化させる関係性。
    うつ病や躁うつ病(双極性障害)は家族間で同じ疾患の発症が多い(家族歴が関係する)
    ストレスが危険因子。
  • うつ病などの精神疾患の診断にはDSM-5という診断マニュアルが使われる。
    抑うつ気分、喜び・興味の減衰、死についての反復思考、集中力の低下、不適切な自己評価、睡眠障害、体重変化、精神運動焦燥/制止、疲労感といったものが基準にある。
  • うつ病は基本的に抗うつ薬を投与する薬物療法で治療する。
    抗うつ薬は色々あり、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といったものがある。
    治療抵抗性のうつ病の場合、電気けいれん療法が適応となる。
  • 躁うつ病の治療では、維持療法として炭酸リチウムを使う(炭酸リチウムは躁病相でもうつ病相でも有効)。
    躁病相に対してはそれに加えて非定型抗精神病薬を使用する。うつ病相に対してはクエチアピン、オランザピン、ラモトリギンといったものを追加使用する。

もの忘れ

  • 加齢による生理的なものと、疾患に伴う二次性のものがある。
  • 二次性の物忘れを誘発する疾患は以下のようなものがある。
    脳梗塞、脳腫瘍、認知症、パーキンソン病、慢性硬膜下血腫、てんかん、甲状腺機能低下症、うつ病、感染症に伴う脳神経障害(神経梅毒、HIV脳症など)
  • 治療可能な認知症を見落とさないことが重要。

頭痛

  • 二次性のものではない慢性的な頭痛を機能性頭痛と言い、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が該当する。
  • 二次性の頭痛は器質的頭痛と言い、腹痛や共通と同じく頭部の全ての臓器の障害や炎症で呈しうる。
    急性硬膜下/硬膜外血種、くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、髄膜炎、脳炎、脳腫瘍、急性緑内障発作、褐色細胞腫など
  • 性状についてよく聴取して、神経障害の合併があるなら器質性頭痛を疑う。
    突発した激しい痛みはくも膜下出血を疑う。
    閃輝暗点などの前兆や悪心・嘔吐を伴う拍動性頭痛なら片頭痛
    頭の痛みや硬さの訴えがあるなら、項部硬直を考えて髄膜炎を疑う。
  • 器質性頭痛の診断にはまず初めに頭部CTを行う。

運動麻痺、筋力低下

  • 原因としては神経の障害、筋肉の障害、神経筋接合部の障害がある。
    • 運動神経が障害されると筋力が低下する。
      脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症では上位運動ニューロンが障害される。
      絞扼性末梢神経障害(手根管症候群など)、遺伝性ニューロパチー、ギランバレー症候群などでは下位運動ニューロンが障害される。
      脊髄空洞症、脊髄腫瘍、脊髄損傷、ALSなどでは両方とも障害される。
    • 筋肉そのものが障害されるものとしては、筋ジストロフィー、多発性筋炎、周期性四肢麻痺、ミトコンドリア脳筋症といったものがある。
    • 神経筋接合部のシナプス伝達が障害されるものとしては重力筋無力症がある。
  • 症状が弛緩性麻痺なのか痙性麻痺なのか、日内変動があるかといったものが診断に有用。
    重力筋無力症は夕方に増悪する。
  • 神経原性変化と筋原性変化の鑑別のため、針筋電図を行う。
    重力筋無力症では、誘発筋電図で低頻度刺激でも高頻度刺激でもwaningが認められる。

腰背部痛

  • 整形外科的疾患(腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離すべり症、転移性脊椎腫瘍)、後腹膜臓器疾患(膵炎、尿路結石、腎盂腎炎、大動脈解離、大動脈瘤破裂)といったものが原因となる。
  • 尿路結石や腎盂腎炎では肋骨脊柱角部(CVA)の打診で叩打痛を認める。
    徒手筋力テストや腱反射といった整形外科的診察は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の神経高位の診断に重要。
    腰部X線やMRIは整形外科的疾患の診断に有用で、特にMRIは確定診断にもなる。

関節痛・関節腫脹

  • 整形外科的疾患、悪性腫瘍、全身性疾患が原因となる。
    • 整形外科的疾患は関節に対する物理的ストレスになるもの(変形性関節症、脱臼・亜脱臼、捻挫、靱帯損傷)、関節への感染症(化膿性関節炎)がある。
    • 関節周囲に発生する悪性腫瘍としては骨肉腫がある。
    • 全身性疾患は膠原病により関節に炎症が起こるもの(関節リウマチ、SLE、混合性結合組織病(MCTD))と代謝産物が関節に沈着するもの(痛風)がある。
  • 関節炎には好発部位が存在するものがあるため、どこの関節が障害されているのかが診断に使える。
    関節リウマチではDIP関節は障害されづらい。
    痛風は第一中足趾節関節に多い。
  • X線では関節の変形や周辺骨の変化を評価できる。骨肉腫では骨膜反応を認める。
    関節穿刺で関節液の採取を検査できる。関節リウマチでは混濁、粘性低下、補体低下が見られる。

外傷・熱傷

  • 外傷による早期の死亡の原因は、中枢神経障害か大量出血が多い。
    致命的になるような中枢神経障害に初期診療で対応することは困難だが、呼吸・循環を維持することで二次的な障害は回避可能。
  • とにかく生命の安全が最優先。そのうえで損傷の検索を行う。
  • 救急患者の外傷に対する診療アプローチとして、ABCDEアプローチが存在し、その順に評価していく。
    • A:Airway
      気道確保、および頸椎保護
    • B:Breathing
      呼吸の確保。致命的な胸部外傷の処置も含む。
    • C:Circulation
      循環の確保。止血も含む。
    • D:Dysfunction of CNS
      中枢神経障害の評価(意識)
    • E:Exposure・Environmental control
      脱衣による全身観察(皮膚所見)、および体温管理