私たちはそれから数日部長を待ち続けた。
エニアックの賢明な頭脳を生かして捕まえるための作戦を決め、
部室にホームアローンのような仕掛けを作ったりもした。
そして毎日活動時間には部室に息を潜めて待っていた。
作戦始動から2週間経ったある日のこと。
警戒するがあまり習慣的に抜き足でそろそろと部屋に入る私達の前に彼女は現れた。
虚空を見つめるような無感情で冷たい瞳を向けられた途端、死の淵に追いやられた絶望感を感じた。
逃げられない、殺される。
根拠の無い恐怖が私たちを襲った。
このときのために用意しておいた仕掛けに慌てふためいた自分たちが掛かってしまい、
理科室から拝借したガスバーナーの炎が脳天に降り注ぎ、消化のために向かった水道からは
塩酸が勢い良く流れ出た。
その後もエニアック作の仕掛けの全てをもろに体感した私たちは部長のことをすっかり忘れていた。
しかし辺りに立ち込めた謎の粉のせいで現実に引き戻された。
そこで見たものは不思議かつ神秘的なものだった。
美術室全体を無数の蛾(←が)が舞っている。
自らの羽から鱗粉を撒き散らしている。
不思議なことに赤、黒、紫、様々な色が入り乱れていた。
蛾たちが列を成して飛んだときにはまるでオーロラのように美しい光景も現れた。
しばらくそれに見とれていた私は頬に血が飛んできたことに気が付かなかった。
いつの間にか量を増した鱗粉が私とエニアックの間に濃霧のような壁を作っていた。
その壁の向こうで、エニアックは部長と対面していた。
彼女の左手には彼の血がべっとりと付いている。
無表情を崩さずに久々の自分の指定席へと戻って行く部長を、
首に深い切り込みを入れられたエニアックはただ傍観するしかなかった。
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