Kiss

Last-modified: 2008-01-29 (火) 02:11:45

819 名前:名無し募集中。。。:2007/07/28(土) 03:25:51.83 0


 

「―――みっきー先輩ッッ!!」

 
 

 半ば叫ぶような私の声で呼び止められ、前を歩いていた黒い学ランの背中が振り返った。
「よーう桃子(ももこ)チャン。何や、どうしたん?」
 そんな言葉と共に向けられる、ニッコリとした素敵な笑顔。
「わざわざお別れの言葉でも言いに来てくれたんかー?」
「いや、あの、えっと……!!」
 ――確かに。今日は1つ上の先輩方の卒業式。
『お別れの言葉』とか云う以前に、まずは「本日はおめでとうございます」くらい、言うべきだろう。
 だが、胸中に“一大決心”を抱いた今の私のアタマの中では、そんな当然のジョーシキなどは、存在していなかった。
「先輩にっ、お願いがあるんですッッ!!」
 立ち止まってくれた先輩の前までこけつまろびつのイキオイでもって駆け寄った私は、その場で急停止するや否や、まるで噛み付くかの如く、そう、言っていた――というより、もはや“叫んで”いた。

 
 
 

「みっきー先輩の“第2ボタン”っ…! 私に、下さいッッ!!」

 
 

「ああ、ええよ」

 
 

「―――はいっ…?」

 
 

 あまりにアッサリと返されたその返答に……勢い余ってボーゼンと呆(ほう)けてマヌケ面で立ち尽くす、そんな私の目の前で。
 先輩は、胸の第2ボタンをホントにいともアッサリと学ランから引き千切り、「ホレ」と、握りこぶしごと差し出してくれる。
「なんや、いらへんの?」
 そのボタンを受け取ることも出来ないくらいに相変わらず呆けたカオで立ち尽くすだけの私に向かい、軽く首を傾げつつ、先輩が訊く。不思議そうな表情(カオ)をして。
 まるで、私が何でこんなにも呆けているのか…それが全ッッ然、解っていないみたいな……そんな表情。
「あ…あの、先輩……?」
 そのキョトンとした表情を見上げて……恐る恐る、私は問うた。
「私が言った言葉のイミ……ちゃんと、わかってます……?」
「だから、オレのボタンが欲しいんやろ?」
「『先輩のこと好きです』って、言ってるんですが……」
「ああ、ホンマ? なら、付き合おかー?」
「―――はいぃーッ……!?」

 
 

「――…それが今、こうやって一緒にいるんだよねー先輩と私……」
 なァんか運命って不思議ー…と軽くタメ息を吐(つ)いた私の隣で、「何も『不思議ー』なことなんて無いやんか」と、みっきー先輩が笑う。
「すべては桃子チャンの執念のタマモノやで?」
「――『執念』、言うな!!」
 確かに…確かにねっ、しつこかったとは思う。それは自覚してるわよ!! そうよ、半分ホトンド『執念』だったわよッ!!
 だって、みっきー先輩ってば、あの日ああやってニッコリ笑って『付き合おかー?』とか言ってくれたくせにっ…! ――まるっきり私のこと、“カノジョ”扱い、してくれなかったんだもん!!
『桃子チャンみたいに可愛い後輩がいて、オレは幸せやなー』とか何とか言っては私のこと必要以上に子供扱いしやがってくれた中学時代のみっきー先輩は、卒業しても全ッッ然! それに変わりが無くて。
 まるで、そのニコニコした人当たりの良いステキな笑顔で無言のうちに「“カノジョ”にして欲しいのやったら、オレのこと本気にさせてみー?」とか言われてるよーな気分になる。――そんなのっ…、『執念』だって燃やしたくもなるってモンでしょうっ……!?
 だから燃やしたわよ! 先輩たちの卒業式の日からこっち、絶対に振り向かせてやるって決めて『執念』燃やして、先輩の好みの可愛いオンナノコになろうと必要以上に頑張ってきたつもり。
 学校が別…しかも、コッチは中学アチラは高校、っていうハンデがあったって、何かというと出来る限り先輩にくっついてまとわりついては、一緒に居たくって頑張って追っかけ回してたし。
 私にとっては明らかにムチャなレベルだった先輩の高校にだって、頑張って勉強して、何とかどうにか、合格だって出来たし。
 ――でも……、

 
 

「もう、先輩…! 今日は私の“お祝い”に来てくれたの? それとも、ただ単に私のことバカにしに来たの?」

 
 

 そんな私の“初恋”と“一世一代の告白”がマヌケなくらいアッサリとカタチだけは実を結んだ、あの日から……今日でちょうど丸1年。
 今日は、――私の〈卒業式〉の日。

 
 

 ワザトらしく大ゲサに呆れたようなタメ息を深々と吐いてみせた私を見下ろしながら、「まあまあ、そう拗ねなさんな」と、そんな私のアタマに手を載せ、撫でるようにポンポンッと軽く叩いてみせた先輩。――拗ねてないもん…。
「もちろん、ほかならぬ桃子チャンのためや、“卒業オメデトウ”のお祝いに来たに、決まってるやんかー」
「――ニッコリ笑っていけしゃーしゃーとウソ吐くからなあ先輩は……」
「おや? 今日はオヒメサマ、ご機嫌ナナメやな?」
「べっつにー? そんなことないもんっ! からかったりしないで、ちゃーんと先輩がマジメに私のことお祝いしてくれたら、桃花はいつも“ご機嫌”だよーっだ!」
 やっぱり相変わらずの子供扱いに、脹れてみせた私は思わず唇を尖らせて、「ふーんだッ!」と先輩から顔を背けてみせる。
 すると、膨らませた頬の向こう側で聞こえる、先輩の押し殺したような忍び笑い。――だから、笑うなよソコでー!!
 ますます脹れてしまった私を……だがそこで突然、先輩が肩ごと抱くようにして腕を回した。
 そして囁く。――私の耳の後ろから。

 
 

「残念……せっかく今日は、桃子に“告白”しようと思って来たのに……」
「えっ……!?」
 思わず、脹れていたことも忘れ、反射的に振り返ってしまった。
(いま、『告白』って言った……?)
 じゃあ、私のことをどう思ってくれているのか……それを告げてくれるっていうの……?
 見開いたまんまるまなこの私の瞳に映るのは、優しくにこやかな先輩の笑み。
「せっかくの〈卒業式〉、だもんな。去年、桃子がオレに言ってくれたように……オレも言わなアカン、って思ってな」
「――先輩……!!」
 私の表情が……見えなくても解る。きっと期待で満ち満ちてキラキラ輝いているハズ。
「これだけは、言っておきたかったんや。――桃子、“お願い”があんねん」
「ハイ……!!」
 そして私は、彼が口を開くのを…そこから降ってくる言葉を、どきどきウズウズしながら、じっと、待つ……―――。

 
 

「桃子チャンの“第2ボタン”…、オレに、ちょーだいッ?」

 
 

「――――……あッ…、あってたまるか、そんなモノぉおおお―――ッッ!!」

 
 

なまじ期待ムンムンで待ってしまっていただけに……そりゃあもう、私の爆発っぷりったら、スサマジかった。
 思わず涙まで出そうになったくらいよ。…ええ過言では無くッ!
「なによなによ何なのよッ、ヒトのこと無駄に期待させといてぇえええッ!! 先輩の底無しイジワルぅうううッッ!!」
「なんやねん、1年前に桃子がやったのと同じことやでー?」
「ふざけんなー!! ドコが同じよ!? 私のこのセーラー服のドコに、ボタンなんてものが付いてるっつーのよっ!!」
「ほな、ボタン代わりに、そのセーラー服くれるんでもええで?」
「もう先輩! だから、今日は私のお祝いに来たの!? それとも私の制服、ひん剥きに来たの!?」
「イヤ、お祝いついでに制服ひん剥かせてくれるんなら、オレ的にはそれが一番嬉しいんやけどな」
 そこでハタ…と、我に返ったように自分の失言に気付いて私は。
 ピタリと、そのままその場で、硬直してしまった。
「―――せ…せせせ、せんぱいッ……!?」
(いまナニゲにえっちなこと、言いませんでしたっ……!?)
 今までずっと、子供扱いされよーが何されよーが“みっきー先輩ヒトスジ!”を貫いてきた私だから……他のオトコノコなんてまるっきり“アウト・オブ・眼中”だったし、ぶっちゃけ、そういうことには全く免疫が付いてないのだ。
「い…いいい、イキナリそんなこと言われてもッ……!!」
 なので結局、真っ赤になって手足をバタバタさせながらワタワタと慌てるくらいしか出来ない。
 そんな私を面白そうに見下ろしていた先輩が……堪え切れなくなったのだろう、そこでプッと吹き出した。
「わーってるって! 桃子チャンがオコチャマなのは、オレかて充分に理解してるつもりやでー?」
「…………!!」
 相変わらず子供扱いしてぇ…! とは、即座に思ったものの。――コレに関してはあまりにも“その通り!”なので……何も、言えないし……。
(く…悔しいッ……!!)

 

途端、ジワリと目に涙が滲んだ。
 だってこの1年間ずっと、もっと先輩に近付けるように…先輩に釣り合う女の子になれるようにって、自分なりにすっごく頑張ってきたつもりなのに……!! 
それなのに、私は所詮、先輩にとっては“単なる後輩”で、“オコチャマ”でしかないんだと思うと……悔しいどころじゃないじゃない……!! それ通り越してむしろ哀しいわよ!! 哀し過ぎるわよ!!
 なんで私は、先輩にとって後輩なんだろう? なんで子供でしかないんだろう?
 せっかくの晴れ舞台――〈卒業式〉だっていうのに……! 晴れて、先輩と同じ“高校生”になれる、っていう、今日は記念の日なのに……!
(こんなことなら、今日、会うんじゃなかったよ……!!)
 だって、今日は私の……―――!

 
 

「ヒドいよ先輩……!! 今日は私の“お祝い”に来てくれるって、言ったクセに……!!」

 
 

 思わず涙声で言い、俯いてしまった私の頬に……「ばぁか」と、そこで優しく、先輩の大きな手が触れた。
「〈卒業式〉だから……今日、ひとつオトナになるんやろ?」
「え……?」
「だから“お祝い”や」
 反射的に先輩を見上げてしまった私の目の前には、思いのほか間近に、先輩の優しくてキレイな笑顔が、あって……、

 
 

 ―――そして唇に降ってきた……やわらかな、ぬくもり………。

 
 

「お誕生日おめでとう、桃子」

 

 唇が離れてから……それを言った先輩のその言葉で。
 突然のキスに、やはりボーッと呆けているしかできなかった私は、そこで我に返り、余韻も何もあったモンじゃないってくらい反射的に「ええッ!?」とハシタナく大声を上げてしまっていた。
「先輩、知ってたの!?」
「そりゃモチロン。カノジョの誕生日くらいは当然やろ?」
「『カノジョ』って、先輩……!!」
(そんなこと、一度も言ってくれたことなんて無かったくせに……!!)
 だが、驚いて絶句する私の胸中を知ってか知らずか、「おやぁ?」と、先輩はニヤニヤしながら私のオデコを小突く。
「桃子はオレのこと、カレシだとは思っててくれてなかったんかー? そうかぁ……所詮オレのことなんて、カレシにしたくはないんやー桃子は……」
「なっ…!? そっ、そんなことないもんッ!! 私、ずっと先輩がカレシだったら…って思ってたよ!! むしろカレシになってくれるのは先輩じゃなきゃ
イヤだよ!!」
「じゃ、ええやんかそれで」
「――――!!」
 そうニッコリ言われてしまうと……グッと言葉を詰まらせたまま、何も言えなくなってしまう。

 
 
 

「でも……私は、まだ先輩に『好き』って言ってもらったこと、無いもん……!」

 
 

 それでも……これだけは訊きたいと思った。これだけは言わなくちゃって思った。
 ボヤくように拗ねたように…呟いて、それを告げた私を見下ろした視線を受け止めてから、静かに続ける。
「『好き』だとも言ってもらえないカノジョなんて……“カノジョ”って、呼べるのかなぁ……?」
 その言葉を聞いて先輩は、そこで「あれ?」とでも言いたそうな表情を顔に浮かべた。
 そして言う。アッサリと。

 
 

「言ったやんか、さっき」
「…………」
 ――だからどーして、そんなにもアッサリなのよッッ……!!

 
 

 いけしゃーしゃーと、やっぱりこのヒトってば、ニッコリ笑ってウソを吐く。
「先輩、その冗談は笑えないっ……!」
「冗談やないって。ちゃーんと“告白”したやんか。去年の桃花と同(お)ンなじように」
「は……?」
 その言葉で……何かとてつもなく嫌ぁーな考えに、思い当たってしまった。
(もしや、それって……)
 恐る恐る、尋ねてみる。
「―――マサカとは思うけど……あの『第2ボタンちょーだい?』が、ソレ……?」
「そう、ソレ」
「…………」
 呼吸、一拍分。――の後、即座に噴火させそうになった私の怒りを。
「だって言うたやんか、桃花が自分で」
「え……?」
 噴火する前になだめてくれでもするかのように……先輩がにこやかに言いながら、ふいに私の頬に手を伸ばす。

 

「桃子の言葉で『第2ボタン下さい』は、イコール『好きです』ってイミなんやろ?」

 
 

(―――あ…!!)

 
 

『私が言った言葉のイミ……ちゃんと、わかってます……?』
『「先輩のこと好きです」って、言ってるんですが……』

 
 

 ――そう…、それは去年の私の“告白”。

 
 

「ホント、わかってないんやからなー桃子は」
 思わず真っ赤になってしまった私を見下ろして、先輩が笑う。とても楽しそうに。
「ち…ちっがうもん! 私がわかってないんじゃなくて、先輩のリアクションがわかりにくいだけじゃんかッ……!!」
 真っ赤になったままで慌てふためきながら反論するも、「いーや!」と、即座に投げかけられるニッコリ笑顔には敵わない。
「どー考えても、ニブいのは桃子やで?」
「ひっど…! そんなニッコリ満面笑顔で、そこまで言うっ……!?」
「だって、ずっと気付かんかったやろ?」
「何っ……」
「オレが、ずっと桃子にこうしたいって…思ってたってコト」
「え……?」
 ――そして再び降ってきた、先輩の優しいキス。

 
 

「一生懸命なクセに、どう仕様も無くオコチャマで。――ま、そこが可愛いんやけどな」

 
 

 目を開いた私のほっぺたをムニッとつまみながら、そう言って微笑む先輩。
「ホント、目が放せんわー。オマエと居ると飽きんねホンマに」
 頬を摘まんでいた指が、優しく肌の上を滑り……そして唇に辿り着く。――途端、ぼろぼろっと、堪え切れず、目から涙があふれ出てきてしまった。
「うわっ!? 何や、何で泣くんや!?」
「だ…だってーッ……!!」
(だって、すっごく嬉しいんだもんッ……!!)
 返事を返す代わりに、そのまま先輩の胸の中に飛び込んだ。
 先輩の背中にしがみつくように腕を回して抱き付きながら、私は子供みたいにわんわん泣いた。泣いてしまった。――こりゃ当分“オコチャマ”ってバカにされても仕方ないわ…っていうくらいに。
「うわーん!! 私、先輩のこと好きでいてホントに良かったよーッ!! ありがと先輩ー!! もう、ちょー大好きーッッ!!」
「ああ、ハイハイ、そうかい。なら、オレの胸の中でいくらでも泣きー」
 そんな呆れたような言葉と共に、私の肩をその温かい両腕がふうわりと包んでくれる。
「先輩、もう『今のはウソや~ん』とか、言っちゃヤダからねー!?」
「言うかい、んなこと! ――まったく、桃子の中でオレはそこまでウソツキかい……」
「ちっがうもん! だって、そもそも先輩の日頃の行いが悪いからなんだもん!」
「何やソレは? オレほど日頃から桃子のことを考えてるヤツはいないってゆーのに……」
「ウソだー!! 日頃から『桃子で遊(・)ん(・)で(・)る(・)』の、間違いでしょー!?」
 そんな私の涙ながらの言い草に、そこで一瞬だけ絶句すると先輩は。
「まったくヒトのこと何やと…」と小さくボヤきつつ、深々としたタメ息を吐いてみせた。
 そして思い出したように、ようやく涙をふきふき顔を上げた私を見下ろす。

 
 

「一生懸命なクセに、どう仕様も無くオコチャマで。――ま、そこが可愛いんやけどな」

 
 

 目を開いた私のほっぺたをムニッとつまみながら、そう言って微笑む先輩。
「ホント、目が放せんわー。オマエと居ると飽きんねホンマに」
 頬を摘まんでいた指が、優しく肌の上を滑り……そして唇に辿り着く。――途端、ぼろぼろっと、堪え切れず、目から涙があふれ出てきてしまった。
「うわっ!? 何や、何で泣くんや!?」
「だ…だってーッ……!!」
(だって、すっごく嬉しいんだもんッ……!!)
 返事を返す代わりに、そのまま先輩の胸の中に飛び込んだ。
 先輩の背中にしがみつくように腕を回して抱き付きながら、私は子供みたいにわんわん泣いた。泣いてしまった。――こりゃ当分“オコチャマ”ってバカにされても仕方ないわ…っていうくらいに。
「うわーん!! 私、先輩のこと好きでいてホントに良かったよーッ!! ありがと先輩ー!! もう、ちょー大好きーッッ!!」
「ああ、ハイハイ、そうかい。なら、オレの胸の中でいくらでも泣きー」
 そんな呆れたような言葉と共に、私の肩をその温かい両腕がふうわりと包んでくれる。
「先輩、もう『今のはウソや~ん』とか、言っちゃヤダからねー!?」
「言うかい、んなこと! ――まったく、桃子の中でオレはそこまでウソツキかい……」
「ちっがうもん! だって、そもそも先輩の日頃の行いが悪いからなんだもん!」
「何やソレは? オレほど日頃から桃子のことを考えてるヤツはいないってゆーのに……」
「ウソだー!! 日頃から『桃子で遊んでる』の、間違いでしょー!?」
 そんな私の涙ながらの言い草に、そこで一瞬だけ絶句すると先輩は。
「まったくヒトのこと何やと…」と小さくボヤきつつ、深々としたタメ息を吐いてみせた。
 そして思い出したように、ようやく涙をふきふき顔を上げた私を見下ろす。

 
 

「…てゆーか、いつまで桃子はオレのこと『先輩』呼ぶ気や?」

 
 

 何を言われたのかが、まず、わからなくて……「え?」と言ったまま私は、ボーッと先輩のその整ったカオを見つめてしまった。
 まじまじとした私の視線を受けて、先輩は少し照れたように表情(カオ)をしかめてみせる。――うわビックリ、照れてる先輩なんて初めて見たかも……!!
「桃子は、何だかんだとヒトのこと『先輩』呼ぶクセが抜けへんなぁ……」
「先輩だって……関東にきてもう何年にもなるのに、全然関西弁が抜けないじゃん」
「オレのは生まれつきや! クセごときと一緒にせんで欲しいわ。――って、だから、どうでもいいんやってオレのことは!」
「…………?」
 なんだか、可愛いくらいにその言葉が“照れ隠し”に思えてきたし……つまり先輩が何を言いたいのかが、全然、見えない。
「だから桃子…」と、脱力したように呟くと先輩は、そこで私の頭の上にポンッと軽く手を載せた。
「今日でもう中学は卒業したやろ? いい加減、『みっきー先輩』はやめて、名前で呼んでくれん?」
「………『三樹本(みきもと)先輩』?」
「イヤ、そんなんでなくて……だからオレには『慎之介(しんのすけ)』という名前が、あるんやけど……?」
「それは知ってるけど……じゃあ先輩は、苗字じゃない名前で呼ばれたいの?」
「うん…まあ、平たく言えば……そういうこと」
「んーっと…じゃあ、『慎之介先輩』……?」
「だから桃子……なんでオマエは『先輩』から離れられんねん……」
「だって…『先輩』は『先輩』だもん?」
「…………」
 そこで、はーッと深くタメ息を吐くや否や黙りこくってしまった先輩は。