Present for…

Last-modified: 2010-04-02 (金) 11:26:37

48 名前:Present for・・・:2006/03/06(月) 21:01:58.55 O

 

僕は公園へ向かい走っていた。プレゼントをポケットの中に、好きっていう気持ちを心に詰め込んで。あの子のもとへと届けるために…
「嗣永。」
息を切らしながら公園に着くとそこにはもう嗣永がいて、笑顔で俺を迎えてくれた。
「○○くん。」
僕は乱れた呼吸と高鳴る心臓の音を落ち着かせながら嗣永のもとへゆっくりと近づいていく。
「話って何?」
「あっ、えっと…きょ、今日、嗣永誕生日だろ?だからプレゼントを…と思って。」
「ほんとにぃ?ももうれしい!なになに?」
嗣永は本当に嬉しそうな顔をして目を輝かせながら僕のことを見つめた。期待に満ちたその顔にプレゼントを取り出そうとする手が震える。
(こんなんで喜んでもらえるかな?)
「えっと、実は…」
僕がかすかな不安を抱きながらポケットからプレゼントを取り出そうとした時
「ももちゃん!」
と嗣永を呼ぶ声が聞こえてきて聞き覚えのあるその声に嗣永の目はさらにキラキラと輝きを増していった。

 

「まいはっち!」
声のする方へ顔を向けるとそこには転校してしまったはずの石村がいた。
「プレゼントってもしかして…呼んでくれたの?」
声を弾ませながら僕に聞く嗣永に僕はつい
「あっ、ああ。い、いつも、寂しそうにしてたからさ…。」
と嘘をついて慌ててポケットに入れた手を引き抜いた。
「ありがとう!一番嬉しいプレゼントだよぉ!まいはっちー!」
そう言って嗣永は石村の方へと駆け寄る。
「ああ、うん…。」
僕は力なく返事をした後駆けていく嗣永を見ながらまたポケットに手を入れ、届けるはずだったプレゼントと一緒に伝えたかった僕の気持ちを手に握りしめた。

 

(石村さえ来なければ…)んなことを考えながら力なく恨めしそうに二人のほうを見ると、僕の気持ちも存在も忘れ去られてしまったかのように楽しそうに話をしている。
そしてそんな二人を見ているうちいつのまにか僕も微笑んでいた。
気持ちは伝えられなかった…プレゼントも渡せなかった。けれど目の前で好きな人が心から楽しそうに笑っている。それは多分今まで僕がみた中で一番の笑顔。僕があげたものではないけれど、特別な人の特別な日に特別な笑顔が見られた。
気持ちなんて伝えようと思えばいつだって勇気を出せば伝えられる。けれどこんなに嬉しそうな嗣永の笑顔はなかなか見ることは出来ない。
プレゼントをあげるつもりがなんだか僕が嗣永にプレゼントをもらったような気になって僕はただ二人を見つめていた。

 

いつか自分の力でその笑顔を僕に向かせられる日が来ることを夢見ながら。

 

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