「焔戦姫」

レベッカ：
ふぅ…
ベラ：
酒場に入り浸ってるって噂、
本当だったんだね。
レベッカ：
…何の用よ。
ベラ：
いつまでもあんたらしくないんじゃない？
レアフ様の命に別状はなかったんだし。
レベッカ：
それは結果的にそうなっただけ。
あんたの斬撃を受けてレアフ様が生きてたのは、
単に運が良かっただけよ。
レベッカ：
あたしは…
守るべき主君を守れなかったのよ。
ベラ：
…あたしのこと恨んでる？
レベッカ：
戦場で敵同士になるなんてよくあることじゃない。
まったく気にしてないわけじゃないけど、
こればっかりはしょうがないわ。
ベラ：
…そっか。
レベッカ：
もう気は済んだ？
…だったら一人にしてくれないかしら。
レベッカ：
今は誰かと話すのも面倒なのよ…
ベラ：
レベッカ…
ガーネット：
おお、いたねロイヤルガード様。
レベッカ：
ガーネットお姉様…
ガーネット：
今日も覇気がないねえ。
ベラ：
あの、
あなたはレベッカの知り合いですか？
ガーネット：
あたしゃこの酒場のオーナーのガーネットだよ。
レベッカとは古い付き合いさ。
ガーネット：
あんたはミュラー侯爵んとこの騎士だろ？
名前は…ベラだったかい？
ベラ：
ど、どうしてあたしの名前を？
ガーネット：
あたしんところにゃ色々情報が集まってくるからね。
で、今日も気になる情報が入って来たんだが、
ベラ：
気になる情報、ですか？
ガーネット：
あんたはグリゴリ族の使ってる刀を見たことあるかい？
あれを持ってる奴はそれなりに腕の立つ奴が多いんだが、
ガーネット：
そいつを持ったローブの連中がさ、
ヴェルナー侯爵の城の付近をうろついてるっていうんだ。
ガーネット：
で、あたしもそいつを見たんだよね。
ありゃはどう見ても観光客じゃない。
しかも、相当腕の立つ奴だよ。
ガーネット：
そんなやつが侯爵様の城の回りをうろついてるなんて、
物騒な話だろう？
ベラ：
それはそうですけど、
だったら（軍師）様に報告すれば、
ガーネット：
あいつは最近忙しいみたいだからねえ。
で、腕の立つ奴があたしの酒場にいるのを思い出してさ。
【夜の市街】
レベッカ：
…まだ何か用なの、ベラ。
ベラ：
あんた、今戦えるの？
レベッカ：
問題ないわ。
ちょうど少し身体を動かそうと思ってたところだしね。
ベラ：
…ならいいけど。
ヴェート：
…
ベラ：
今の見た、レベッカ？
レベッカ：
ええ…
ベラ、あなたは戻りなさい。
ベラ：
…はぁ。
ベラ：
もう、わかったわよ。
じゃあ健闘を祈ってるわ、レベッカ。
レベッカ：
…
盗賊：
ようやく一人になったか。
レベッカ：
あら、そんな人数であたしの相手をするつもりなの？
盗賊：
ああ？
てめえ一人で俺たちを相手にできると思ってんのか？
レベッカ：
今のあたしは最高に気分が悪いの。
…すぐに片づけてあげるわ。

レベッカ：
あれは…
ルーミエ族の女？
アーヴェント：
こんな夜分遅くにどんな御用なのでしょう。
ヴェート：
聖剣侯爵アーヴェント様。
いささか不躾ではありますが、
私たちと共に来ていただきます。
アーヴェント：
まあ…
私、先ほどまで温泉に入ってきたばかりで
汗をかきたくありませんの。
アーヴェント：
申し訳ないのですけれど、
お引き取り願えないでしょうか？
ヴェート：
…その申し出に応じることはいたしかねます。
アーヴェント：
では、仕方ありません。
アーヴェント：
言うことを聞かない悪い子には
お姉さんがお仕置きしてあげましょう。
アーヴェント：
…と言いたいところですが、
あなたの相手は少し骨が折れそうですね。
ヴェート：
どうでしょう、
やはり退いてはいただけませんか？
ヴェート：
そういうわけには参りません。
レベッカ：
こんな時間に何をしているのかしら？
アーヴェント：
あら、あなたは…
レベッカ：
ガーネットお姉様からの依頼じゃなきゃ、
こんな厄介事なんかに
関わりたくなかったけど…
レベッカ：
今はあんたに手を貸すわ。
アーヴェント：
助かりますわ、ええと…
レベッカ：
レベッカよ。
アーヴェント：
レベッカさん、
私はアーヴェントと申します。
アーヴェント：
あの子にはお気をつけてください。
彼女は相当な手練れですわ。
ヴェート：
そうね、
酔い覚ましにはちょうど良さそうな相手だわ！
レベッカ：
あなたに私の相手が務まるでしょうか？

レベッカ：
（くそ、身体がなまっているのを
差し引いてもこいつ相当強い！）
ヴェート：
調子が悪そうですね。
威勢がいいのは口先だけでしょうか。
レベッカ：
この、なめるな！
アーヴェント：
レベッカさん、気をつけて！
ヴェート：
私の勝ちです…
ベラ：
レベッカ！
ベラ：
ぐぁ！
ヴェート：
…やはり仲間がいたのですね。
レベッカ：
ベラ！
どうしてあんたが…
ヴェート：
この方は私たちが預からせていただきます。
アーヴェント：
お待ちなさい！
あなたの目的は私ではないのですか！
ヴェート：
…少々騒ぎすぎたようです。
私たちは南門を出てすぐの森の廃屋でお待ちしております。
ヴェート：
アーヴェント様お一人でいらしてください。
…それともこのファメルの女は見捨てますか？
ヴェート：
それでは…
アーヴェント：
逃げられると思っているのですか？
アーヴェント：
これは…？
見たことのない魔法ね…
レベッカ：
ベラ…
あのバカ、なんであたしを庇ったの…
アーヴェント：
レベッカさん…
全ては私のせいです。
アーヴェント：
彼女は私が必ず救出して参ります。
あなたは…ヴェルナー侯爵のお城で
お待ちいただけないでしょうか？
アーヴェント：
私の名前を伝えれば、
おそらく城内に入れていただけるはずです。
レベッカ：
それは無理。
アーヴェント：
あの子の目的は私です。
それにあなたがついて来てしまえば、
ベラさんが危険な目に遭ってしまいます。
レベッカ：
あなたが一人で行って
ベラが無事に戻ってくる保証もないわ。
アーヴェント：
それは…
レベッカ：
それに、あのバカは
一発殴ってやらなきゃあたしの気が済まない！
レベッカ：
アーヴェントさんだったわね。
あたしも一緒に行くわ。
アーヴェント：
…止めても無駄なようですね。
アーヴェント：
わかりました。
ですが保険は掛けておきましょう。

【森の廃屋付近】
アーヴェント：
いるのでしょう？！
約束通りやって参りましたわ！
ヴェート：
一人で来たのですね、感心です。
アーヴェント：
あなたがそう言ったのでしょう？
アーヴェント：
さあ、彼女を返してもらいましょうか。
ヴェート：
…あなたは聖剣侯爵、
なぜファメルの女一人のために来たのです？
アーヴェント：
あなたが一人で来いと言ったのでしょう？
ヴェート：
それはそうですが…
あなたは聖王様の姉君。
ヴェート：
もっとご自身の立ち場を
理解されたほうがよいのではないでしょうか？
アーヴェント：
余計なお世話です。
さあ、早く彼女を。
ヴェート：
…わかりました。
彼女を連れてきなさい。
ルーミエ兵士：
ハッ。
アーヴェント：
あなたは一体誰の命令で動いているのです？
ヴェート：
…アストナシアに戻ればおわかりになるでしょう。
ルーミエ兵士：
ぐわっ！
レベッカ：
アーヴェント！
ベラは確保したわ！
ヴェート：
…ふう。
やはりこうなりますか。
ヴェート：
では仕方ありません。
ルーミエ兵士：
…
ルーミエ兵士：
…
アーヴェント：
先ほど私たちの前から姿を眩ました術ですか…
レベッカ：
随分と大所帯で不法侵入してたのね！
ヴェート：
今は停戦協定がありますからね。
出入りは簡単なのですよ。
ヴェート：
さて、少し手荒になりますが、
アーヴェント様が抵抗できない程度に力を奪います。
ヴェート：
それと、ファメル族の女二人は殺して構いません。
レベッカ：
（百人以上はいるか…
何とかベラだけでも…）
ルーミエ兵士：
アーヴェント様、覚悟！
アーヴェント：
く…
数が多すぎますわ！
ヴェート：
先ほどよりもよい動きですね。
これが本来のあなたの実力…
でしょうか？
レベッカ：
まだまだ！
こんなもんじゃないわ！
ヴェート：
こんなに気持ちが昂ぶるのは久しぶりです。
レベッカ：
それは結構なことね！
ヴェート：
…少し本気を出します。
私を、愉しませてください。
軍師：
レベッカ、アーヴェント！
レベッカ：
（軍師）、遅いですわ！
ヴェート：
援軍…ですか？
いささか早すぎますね。
レベッカ：
いいタイミングで来てくれたわね。
じゃあ私も少し本気で行くわ。
簡単にやられちゃったりしたらダメよ？

ベラ：
う…
（軍師）様？
軍師：
大丈夫か、ベラ？
ベラ：
あたしは…
そうだ、レベッカ！
軍師：
治療魔法で応急処理をしてもらったが、
君はまだ動くんじゃない。
軍師：
私がレベッカたちに加勢してくる。
ベラ：
いえ、あたしなら大丈夫です。
あたしも戦います！
軍師：
だが、
ベラ：
止めないでください！
軍師：
わ、わかった…
軍師：
では私がアーヴェントを、
ベラはレベッカを頼む。
ベラ：
はい！
アーヴェント：
待ちくたびれましたわ。
軍師：
すまない。
これでも急いで来たんだ。
アーヴェント：
まあ間にあったのですし、よしとしますわ。
あとでガーネットさんにはお礼をしなければいけませんね。
アーヴェント：
ところで、（軍師）。
ベラの傷は浅くありませんよ。
アーヴェント：
私よりも彼女の手助けをしてあげてください。
軍師：
ですが、
アーヴェント：
あの刀の子は強敵です、早く！
軍師：
わ、わかりました…
ヴェート：
いいですね、
もっと私を愉しませてください！
レベッカ：
あなたこそ！
私を失望させるんじゃないわよ！
ベラ：
レベッカ、あたしも手伝うよ！
ヴェート：
あなたの傷は浅くありません。
無理はしないほうがよいですよ。
レベッカ：
ベラ、あんたは下がってなさい！
ベラ：
嫌よ！
あんたの言うことなんて聞く義理はないわ！
レベッカ：
あんたねえ…
このあたしが心配してやってるのに！
ヴェート：
随分と仲がいいのですね…
レベッカ：
誰が！
ベラ：
こんな奴と！
ヴェート：
…少し分が悪いようですね。
レベッカ：
あら、もう諦めたの？
ヴェート：
いいえ、『少し』ではなく、
『本気』であなたたちの相手をさせていただきます。
ヴェート：
狂い咲け、焔桜姫…
ベラ：
…レベッカ、あとはあんたに任せるわ。
レベッカ：
ちょっと、あんた魔法が使えるんでしょ！
あんたが何とかしなさいよ！
軍師：
レベッカ、ベラ！
レベッカ：
（軍師）？
あんたは邪魔だから引っ込んでて！
ベラ：
（軍師）様、下がっててください。
あたしとレベッカで何とかします！
軍師：
……
焔戦姫ヴェート：
十全の力で行きます…

焔戦姫ヴェート：
まだ終わりではありません！
ベラ：
く、速い？！
レベッカ：
ベラ！
焔戦姫ヴェート：
何？！
軍師：
ベラはやらせない！
レベッカ：
ナイスよ、（軍師）！
レベッカ：
これで、終わりよ！！
ヴェート：
ぐ…
ここまで、ですか…
レベッカ：
ようやく倒れたわね…
死ぬかと思ったわ…
ベラ：
（軍師）様…
ありがとうございました！
軍師：
あ、ああ…
軍師：
（見せ場が出来てよかった…）
アーヴェント：
本当に見事でしたよ（軍師）。
アーヴェント：
レベッカさんとベラさん。
本当にご迷惑をお掛けしましたわ。
レベッカ：
ベラ、あんた傷は大丈夫なの？
ベラ：
傷？
ああ、そういえば…
軍師：
ベ、ベラ！
レベッカ：
…気を失うまで無理するなんて、
本当に馬鹿ね。
（軍師）、ベラのこと頼んだわよ。
軍師：
レベッカ？
アーヴェント：
レベッカさん、あなたのおかげで助かりました。
お礼をさせていただけないでしょうか。
レベッカ：
礼なんていいわ。
軍師：
どこへ行くんだ？
レベッカ：
どこだっていいでしょ。
レベッカ：
まあ、また会うこともあるかもね。
その時はよろしく頼むわ。
レベッカ：
じゃあね、（軍師）。
【客室】
アーヴェント：
ベラさん、お怪我の具合はどうでしょうか。
ベラ：
おかげ様で大分よくなりました！
軍師：
それはよかった。
君に何かあったらミュラー公爵に申し訳が立たない。
ベラ：
そうですよ、
あたしにはエリス様を守るっていう役目があるんですから、
簡単に死んだりしません！
アーヴェント：
あなたはミュラー公爵のことを
本当に慕っているのですね。
ベラ：
はい！！
でも（軍師）様もカッコよかったですよ。
ベラ：
もしエリス様より先に（軍師）様に出会っていたら…
アーヴェント：
まあ…
（軍師）は本当に女性に好かれますね。
ベラ：
そ、そういうわけじゃありません！
ベラ：
そういえば、レベッカは…？
軍師：
彼女ならもう大丈夫だ。
軍師：
ガーネットからの依頼もこれで完了だ。
ベラ：
ガーネットさんから何か頼まれていたんですか？
軍師：
レベッカを何とかしてほしいってね。
どうしたものか悩んでいたが、
君のおかげで何とかなった。
ベラ：
そんな、あたしは何もしていませんよ！
アーヴェント：
気の置けない友人というのはいいものですね…
軍師：
名残惜しいが、傷が治ったら
そろそろミュラー公爵のところに戻らないとな。
ベラ：
そうですね…
あまりお手伝いはできませんでしたが…
軍師：
そんなことはない。
本当に助かったよ、ベラ。
軍師：
それと、温泉に行くにしても、
一人で夜間に出歩くのはやめてください。
アーヴェント。
アーヴェント：
はいはい、わかりましたわ。
じゃあこれからは（軍師）を誘って行くことにします。