はじめに

Last-modified: 2016-07-26 (火) 01:49:38

声優の仕事とはいったいなんだとおもいますか?
与えられた原稿をよどみなく読むことでしょうか?
綺麗な発声で聴きやすい音を出すことでしょうか?
画面に合わせて声をキャラクターに吹き込むことでしょうか?

 

どれも正解ですが、どれも間違いだといえます。

 

確かに原稿はつかえずに読めた方が良いにこしたことはありません。
綺麗な音で喋った方が聞き取りやすいのは間違いありません。
口パクに声がぴったりと合っていたほうがいいのはそのとおりです。

 

ですがこれは視聴者やスタッフに対する配慮、わかりやすい表現の技術です。
画面に合わせて声をキャラクターに吹き込むのも確かに大事な事ですが、そもそも画面の無い仕事…
ラジオドラマやゲームの仕事なども声優には多数求められます。

 

では、あらためて声優の仕事とは何なのかと考えた時にまずひとつの答えが思いうかびます

 

「きちんと芝居をする」ということです。

 

声優と俳優とはほとんど同じ業種であると、私は考えます。
たまたま表現の手法が身体を使うか、声のみを使うかの差異だけだからです。
しかし驚くべきことに声優になりたいという方の大半は俳優修行に興味がないというのです。
これはおそろしい現象です。芝居とは何か、演じるとは何かを知らない人間が今後業界に増えていく可能性があるのですから。
呼吸ひとつとっても身体の使いかたを知らないで発声した呼吸は嘘になります。
身体が感じているもの、役が体験しているものを再現できなくては本当の意味で芝居をしているとは言えません。

 

ただマイク前に立ち、台本を手に科白を口にすればそれで声優の仕事をしているとは言わないのです。
50年以上歴史のある声の仕事ですが、年々こうした未熟な役者が増えているのは残念なことです。

 

また、声優は個人事業者という側面を持っているためでしょうか
成熟した技術はなかなか後世に継承されないまま世代が交代している気がします。

 

せっかく培った技術を埋れさせないようにするために、脈々と続いている歴史を途絶えさせないためにも、ひとりひとりがキチンと芝居をすること。芝居を仕事としてではなくライフスタイルとして身につけることが今後求められるのではないでしょうか?

 

芝居は自分ひとりで完結するものではありません。
多くの声優が確かな技術を持って良い作品を作るために尽力すること、そうすることで藝は受け継がれていくのです。

 

藝とは植物に似ています。スターのような人目を引く花があり、支える幹のような練達の脇役がおり、その周りにはすぐに消えていく名もなき雑草がいます。
あなたの目指すものは何ですか?毎年枯れては新しい実をつける花か、ブレることなく大地に根をはり何十年枯れる事ない幹か、注目される事もなく人しれず枯れ養分となるだけの雑草か…あなたがどのような声優になりたいか、どのような声優になるかは今、この時点で決まります。
何になりたいかによって求められるものも、あなたが身につけなければならない技能も変わってくるからです。

 

私たちに教えられる事は芝居です。
スターへのなりかたは残念ながら教えることができません、しっかりとした芝居の基礎を伝えることで、長く業界で活躍できる。
そうした人材を一人でも多く世に送り出す事、それこそが私はたちの目標です。

2012 soulevolution 育成教材*1より


*1 soulevolutionでは、毎年教材を更新しより習熟できるよう心がけている。文字通り魂を進化させるためである