意識が戻る。体じゅうのシステムが再起動すると、HUD上のエラーを読み取る。
エネルゴン残量:53%
冷却剤残量:50%
状況は悪い。だが、予想の範囲内だ。1つずつメッセージを読み取っていく。
飛行機能:25%破損
回路機能:17%破損
外装耐久度:81%
武器システム:オフライン
通信システム:オフライン
いったん読むのを止め、顔をしかめつつオプティックを起動した。武器や通信がオフラインなのは予想通りだが、近々の状況に大して他が芳しくない。意識を少しずつ表層へと伸ばすと、自身がなめらかな金属の壁に貼り付けられているらしいことがわかった。両腕は横に伸ばされている。試しに体を横にずらそうとしたら、全身に鋭い電流が走ってHDDがバチバチと悲鳴を上げた。まさかと思って横を見ると、手首がステイシス錠で壁に縫い付けられていた。足は動かさなかった。どうせ同じような状況だろうことは想像に難くない。
HUDを切り、部屋を見渡す。照明は無いに等しく、光るのは自分の赤い目と、ドアに取り付けられた小窓から漏れる紫色の光だけだった。
牢屋というわけか。
思わず苦い笑いが漏れた。
傷つき、拘束されて、閉じ込められて。なんだ、昔と同じだ。でもどうして?ここはどこだ?
他にすることもなく、スタースクリームは記憶をさかのぼり、自分がこのような状況に至った経緯を振り返った。
13日前
辺りを見渡しながら医務室に入った。どうやら今のところ患者はいないらしい。ここ最近の出来事からすれば珍しい状況だ。それにアルティヘックス以降からオートボット内の感情の昂りは激しく、興奮のあまりに乱闘騒ぎが起こるほどだったが、ちょうど落ち着く時期に入ったのだろうか。
今思えば静かすぎたのだ。スタースクリームは回想した。普段なら患者がいなくてもラチェットが器材の確認や管理でせかせかと動いているのに、その日は死んだように静まり返っていた。
不安を覚えたが、「またあとで戻ってこよう」とだけ思った。ディセプティコンがクリスタルシティ付近で目撃されたという話がちらほらとあがり、情報を探るべく自分もチームに抜擢された。オプティマス曰く、通常の偵察任務だし、クリスタルシティ周辺について詳しいからという人選だった。アルティヘックスの件もあるので、ディセプティコンがそこにいる目的などの情報がどうしても必要だった。またあのような形で不意を突かれることを誰もが恐れていたのだ。
ミラージュもクリスタルシティ出身で、能力からして哨戒任務は彼が適任であるとも指摘したが、これまでシーカーが関わってきた以上、空中からの援護も必要であると返された。スタースクリームとしてはホイルジャックのプロジェクトに集中したかった(オプティマスの武器開発命令のこともある)ので気は乗らなかったが、言っている意味は理解できた。それに、かつての故郷をひと目みたいという気持ちも少しばかりかあった。悪夢のせいもあるが、やはり、無事な姿を見たい。そうして任務を受諾した。出動は翌日だった。
司令室をで出たあと、ホイルジャックとパーセプターに任務のためにしばらくは武器開発を手伝えないことを伝え、今抱えているプロジェクトをすべてパーセプターに託した。なにせ例の空中殺法コンビがしょっちゅう部屋に侵入してくるので、不在中に大事なものをお荒らされたくなかった。そうして身辺整理をして2人から労いの言葉をもらった痕、メンテナンスのついでに軽い談笑を求めて医務室を訪れたのだ。
残念ながらタイミングが悪かったようで、誰もいなかった。また2時間後くらいに戻ってくれば良いだろうと思ったとき、入り口に知らない仲間が立っていた。
緑とオレンジ色が特徴的な恰幅の良いの機体で、口元をマスクで覆っている。片手にデータパッドを持つ様子から、きっと彼も用事があって訪れて、先客がいたことに驚いたのだろう。
まで本部で見たことのなかったので少し警戒した。できれば事を荒立てることなく帰ろうと思ったが、相手は安堵したように肩を撫で下ろしてしゃべり出した。
「ああ!君がラチェットの言っていたシーカーの仲間だね。検査から逃げようとしなかった患者は君が初めてだとよく言っていたよ。」
少しの棘もない態度は、スタースクリームにとってあまりに久しかった。こんな穏やかな声色を向けてくる者は珍しい。
こういうとき、むやみに失礼な態度は取らない方がいいとわかっている。しかし疑念は隠しきれず、警戒のにじむ声が出てしまった。
「そう、か。他にはなんて?」
気づいてかいないのか、男は変わらず人懐っこい声で答えた。
「いつか君に口喧嘩で勝ってやるってさ!脅迫にも屈さずいつまでも言い返し続けたのは君だけだって。」
彼はそこでようやく、自分が初対面で名乗りすらしていなかったことに気づいたらしい。男は照れくさそうに頭をさすりながら言った。
「自己紹介遅れてごめん、僕はホイスト。ラチェットの助手としてタイガーパックスから派遣されてきたばかりなんだ。君はスタースクリームだね?」
スタースクリームがこくりと頷くと、ホイストは続けた。
「それで、君も医務室に用事があったのかい?」
スタースクリームはまだ不安を感じつつ、慎重に答えた。
「これから任務に出動するから、先にメンテナンスチェックをしてもらいにきたんだ。」
ホイストはうんうんと頷いた。
「なるほどね!それじゃあ、さっそくやっちゃうか!ラチェットはいま機材を取りに行っているから、その間は僕が代わりにやるよ!」
記憶を再生しながら、スタースクリームは闇を見つめていた。メンテナンス結果は良好で、ホイストも手際が良く、ほとんど苦痛に感じなかった。それと、自分がここに来たことをラチェットにも共有してくれると言っていた。スタースクリームは彼に礼を言って医務室を後にした。
翌日、最後の支度を終えてチームのところへ向かった。しかし会議はスムーズに進まなかった。主に、ハウンドという男が意見を始めたことから始まった。
「こいつが来るなんて聞いていないですよ!」
ハウンドはジャズに怒鳴った。
「なんでよりにもよってこいつがいるんですか!?絶対に同じチームに入れないでくれてってさんざんお願いしたのに!」
明朗快活で知られる彼の突然の怒りに、スタースクリームも困惑した。
ハウンドは普段からスタースクリームに対して冷たかった。ホイルジャックから彼は基地内でも温和な性格だと聞いていただけに、当初はショックだった。どういうわけか、彼はいつもスタースクリームのことを避けており、近づけば睨みつけてくる有様で、同じ空間にいることを明らかに嫌がっていた。さすがに傷ついたが、結局彼もシーカーという機種への偏見を持っているんだろうと思って深く考えないようにしていた。
ただ、はっきりとはわからないものの、彼とはどこかで会ったことがある気がした。
騒ぎ立てるハウンドに対して、ジャズの反応はいたって冷淡だった。
「クリスタルシティに詳しいからチームに加えるだけだよ。だから……」
「ならミラージュでいいじゃないですか!」
ハウンドは明らかに言葉を遮った。これに対して、ジャズがバイザーの下で目を細めたのを、スタースクリームは見逃さなかった。そばにいたアイアンハイドも気づいたようで、2人の応酬を注意深く観察した。
返答するジャズの声はいつにも増して冷たかった。
「ミラージュはいま別件で行動中だ。それに、昨今のシーカーによる被害からして、空中援護ができるメンバーが必要であると司令官のご判断だ。」
またしてもハウンドは文句を言おうとしたが、今回はジャズが遮った。
「いつまでもミラージュと一緒にいられると思うなよ、ハウンド。それとも、司令官の命令に歯向かうつもりか?」
今度ばかりはハウンドも黙り込んだ。
「よろしい。さあ、出動だ。どうしても情報を奪取しなければならない。」
それ以上時間も与えず、ジャズはさっさと踵を返して退室した。それから数分間、誰も声を上げようとしなかった。やがてアイアンハイドがやれやれと言わんばかりに首を振り、各人に任務の詳細を説明した。
2時間後、全員が出動した。
ジャズがハウンドに向けた声を思い出し、スタースクリームは苦笑した。他人に嫌味や挑発を込めて喋るのは得意だが、それでもあのジャズに対してそんな口の利き方をする度胸はなかった。ラチェットやホイルジャックやパーセプターから聞いただけでも、それがいかに愚策かが身に染みたのだ。そう考えると、ラチェットがかつてジャズを怒らせてなお手足の1本も失わなかったことが信じられない、だが彼の場合、毅然と立ち向かう度胸があったからこそだろう。もし助かったら、どうやってジャズの怒りを凌いだのかを詳しく聞いてみるのも楽しいかもしれない。
そう、助かればの話だ。ここがどこだかわからないが、誰の仕業かは見当がついた。芳しくない。10年経った今も、シムファーの戦乱で「裏切り者」と呼んできたあのシーカーのことをはっきりと覚えている。あの焼け爛れたようなオレンジ色のシーカー。きっと即座に同胞らに知れ渡ったことだろう。
詰んでるな。どうあがいても。
オートボットに加わった飛行型の末路は入隊後すぐに思い知った。そしてシーカーの大半がディセプティコンについた状況下、敵軍にを選んだたった1人のシーカーとなれば……
考えに顔が歪んだ。再び、違うことを考えようと記憶を掘り返す。
──10日前──
岩だらけの地形を見下ろす。数時間前、クリスタルシティ領域の国境に到着した。往路はつまらないほど順調で、奇襲のひとつもなかった。オプティマスや幹部らの話では近辺にディセプティコンがうろついているとのことだが、その形跡すら見られない。もちろん、この小規模のチームで戦闘となれば悲惨な結末は免れない以上、ないに越したことはない。
情報収集が目的であるこの任務で、戦闘は極力回避したい。それでも違和感は拭いきれない。もし近辺に敵の目撃が報告されたなら、どうして形跡すら見当たらないのか?単に気にしすぎかもしれない。特に議会の態度のことになると熱くなりすぎると、スカイファイアもよく叱っていた。
しかし当時の懸念は正しかった。そうなると──スタースクリームは嫌な予感がして、顔をしかめた。
「おい、そこのシーカー!」
誰かが言ってきた。振り返ると、(たしか)シャープショットという紺色の機体がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。
「暇なら野営の準備を手伝えよ!この穀潰しが。」
すぐに返事はしなかった。もし奴が上の立場になったつもりで喧嘩を売っているのなら、実に無意味だ。いっそ顔面に拳を叩き込んでやるのも愉快だが(前回のクリフジャンパーのことも、できればぶん殴ってやりたかった)、わざわざ合わせてやるまでもない。
だが拳はくれてやらなくても、他のものならくれてやれる。
スタースクリームはニヤリと笑い、冷静な声で返した。
「そうですかぁ。で。何を手伝えと?火をおこす?ディセプティコンを呼び寄せるにはさぞかし有効だろうなぁ。でも任務的にそれはやるべきでないことだよなぁ?なら物資集めとか?」
そう言ってかんがえるように頬を指で叩いた。
「あっそっかぁ!補給ようレーションは自前で持ってくるように言われてたし、緊急時以外は無闇な収集を控えるようにって言われていたなぁ!」
朗々と続けるうち、相手のニヤケヅラが怒りに取って代わり、拳がブルブルと震えるのが見てとれた。
「それじゃあ、あとはシェルターの設置と見張りくらいしかないなぁ。どっちをやってほしいんで?」
シャープショットは文字通り震えていたが、どうやらクリフジャンパーやサイドスワイプよりかは理性的らしい。数回深く息を吸ったと思えば、吐き捨てるように言って去った。
「2刻目の監視はてめえがやれよ、シーカー。」
スタースクリームはくすくすと笑いながら振り返ったが、少し離れたところにハウンドがいることに気づいた。彼がこちらをじっと睨んでいることに気づくと、勝ち誇った笑みも消えてしまった。しかしそれ以上は何もなく、ハウンドは苛立たしげに唸ると、そのまま歩き出した。
しばらくその背中を見つめていた。
なんか、へんな感じ。
だが、彼の態度の理由も、後で知れば良いだろう。やるべき任務があるのだから。
その後起きたことを思い返す。続く6日間も変わらず順調だった。あったのは剥き出しの岩肌の続く道と、たまに現れる野生動物たち──ターボフォックス、サイバーホーク、ペトロラット等々。人は、ディセプティコンも無所属で見当たらず、無人の廃墟や壊滅した集落がある程度だった。やがて足元には紫、金、緑、青と色とりどりのクリスタルが煌めくようになった。大昔にこのクリスタル輝く庭園を散歩したことを思い出し、少しだけそこにとどまりたいと思ったが、ぐっと堪えた。ただ、道中を彩る美しいクリスタルの花々の映像はしっかりと保存し、いずれ時間があったらまた研究したいと心にしまいこんだ。
この行動のなんと愚かなことか。道中の廃墟の存在や、人影のないことをもっと深く考えるべきだった。しかしチーム内の空気は険悪だったし、おそらく他のメンバーもろくに周囲に集中できなかったのだろう。唯一ハウンドだけは最初に通りがかった廃墟で何かに気づいたようだが、なぜか何も言わなかった。
クリスタルシティの青白いドームが見えたとき、自分たちがいかに愚かだったかを思い知ることとなった。
──4日前──
輝く天蓋を遠くから見つめるうち、苦々しい笑みが顔に浮かんだ。最後にクリスタルシティを見たのは、スカイファイアとともに最後の遠征任務に出たときだ。あの時も、今と変わらず美しく輝いていた。こうして1人で戻ってくるとは夢にも思わなかった。ましてやあの逮捕劇があってからは、一生見られないと思っていた。
悪夢と違って堂々とそびえる都市に安堵したが、やはり他に何を感じればいいのかわからなかった。確かにクリスタルシティのことは長年の故郷と思っている。だが実際にそこで受けた仕打ちの数々で、何度立ち去りたいと思ったかもわからない。クリスタルシティ以上に宇宙そのものが故郷と思えるようになったくらいだ。
もちろん良い思い出もある。だがミラージュにも伝えた通り、ひとたび離れた故郷からは心も離れるもので、おそらくこの任務以後は2度と戻りはしないだろう。そう思うと、少し胸が痛んだ。
最初にヴォスが俺を見放した。そして今度はクリスタルシティも。
気持ちのいいことではなかったが、どうしようもない。今の居場所はオートボットだ、サイエンスアカデミーではない。
足音が聞こえて現実に引き戻された。すぐ後ろにハウンドがぼんやりと佇んでいて驚いた。基本的に、地形に関する情報確認などの用事がなければ、他の仲間たち同様に距離を置く彼が、用もなしにこうして近づいてきたことはない。たとえ進展がほとんどないことで多少の口論や軽いどつきあいなどはあっても、談笑すらないほどだ。
気になって聞こうとした途端、急にハウンドが迫ってきて腕を掴まれた。
「聞こえるか?」
「聞こえるって、何を……」
いきなり乱暴に掴まれて腹が立ち、強めの口調で返したが、すぐに違和感に気づいた。
ハウンドは用事がなければ近づいてこない。つまり今、何かが起きている。
スタースクリームはだまり、耳を澄ませた。あるのは静寂だった。
不気味だった。この周辺には多数のターボフォックスが生息する。かつて上流階級民が外に出て獣狩りをしたほどだ。戦争が始まり都市の外へ出る市民も減った今、ターボフォックスの生息数は増加したはずだ。たとえ減っていたとしても、その辺をうろついていれば多少の物音はする。静寂はありえない。
ありえない──惑星探査任務の記憶が脳裏をよぎり、静寂の意味に気づいて背筋が凍った。スカイファイアとともに探検した有機生物の惑星では、近くに脅威があったとき、獣たちは一斉に消えるように静まり返るのだ。もしこの近くにターボフォックスも見当たらないならば、それすなわち──
「ハウンド、みんなに知らせろ。」
スタースクリームは己の鈍感を呪いつつ、すぐに全センサーを研ぎ澄ました。ハウンドがいまだに動かないのをみると、強く体を押して叫んだ。
「急げ!」
突如、風を切るような音が頭上から降ってきて、ようやくハウンドも気がついた。2人はかろうじてトランスフォームして駆け出し、その背後で地面が吹き飛ぶのを感じた。
後頭部を壁に預けた。すっかり油断していた。果たして尾行か、待ち伏せか、はたまた偶然か(それは十中八九ありえない)はわからないが、結果は同じだ。メンバー全員が任務を甘く見ていたし、完全にしてやられた。
続く記憶は、スタースクリームにとって苦痛に満ちたものだった。
粉塵の舞う空で錐揉みした。センサーはほんの数メートル先も完治できず、爆撃がおさまる気配もない地面どころか何も見えず、がむしゃらに射撃もできない。味方の居場所もわからない以上、誤射のリスクがあった。
クソ、どうして見つかった?それに、何が目的だ?
ひとつ言えることは、連中の目的がなんであれ、直撃させる意思は感じられなかった。あくまでもめくらましなのだ。実に嫌感予感がするが、好き勝手にはさせられない。機種を持ち上げ、一気に空へと舞い上がった。
粉塵を抜けた先に、3機のシーカーがいた。緑と灰色、黒と紫、深い青。
罠だ!最初からこれが狙いか!
再び毒づきつつ、緑の期待のレーザーをかろうじて避けた。続いて2機も攻撃を始めた。回避しつつどうにか連中の背後を取ろうとするも、形勢が悪すぎる。再び粉塵に飛び込み、撒いたと思った次の瞬間、轟音が襲いジャイロが乱れた。突然の出来事に一気に高度を失った。
なんだ今のは?
地面に衝突する瞬間、かろうじて受け身を取った。ほぼ同時に紫色の光が正面で弾け、黒紫のシーカーが撃ってきた。スタースクリームも銃を撃ち、相手の翼に当てることに成功した。小さな悲鳴があがったと思うと、相手が唸りながら言ってきた。
「てめえ、あとで泣かす!」
「やってみろよ。」
言い返しながら相手の真下に潜り込み、キャノンを撃ちながら速度をあげた。どうにかしてハウンドたちと合流しなくては。通信回線を開けたが、聞こえてくるのは激しい砂嵐の音だった。
何が起きている!?
考える余裕もなかった。頭上から無数のレーザーが降り注ぎ、スラスターや翼に何発もかすめた。必死に避けながら撃ち返したが、とても3機を振り切れず、ほんのわずかな隙を見つけたと思えばすぐに先回りされてしまう。やがて、自分がクリスタルシティへと誘導されていることに気づいた。
嫌な予感がした。スタースクリームは人並み程度の戦闘ならできるし、そのおかげでシムファーやその後の戦いをいくつも生き延びてきた。しかしこの3機はこちらの戦い方を熟知している。状況は最悪だ。こちらの手札が全て知られている以上、どう逃げようと先手を取られてしまう。今更になって、ナル光線銃の開発をもっと早くからすべきだったと後悔した。手持ちの武装ではどうにもならない。
再び轟音とともに空気が激しく震えたその瞬間、緑と黒の2機が後ろに下がり、青い機体が先頭に出た。ここでようやくスタースクリームは振動の正体に気づいた。
シグマ・アビリティ。ひと握りのシーカーのみが持つ特殊能力。あの黒いやつが紫色の光とともに瞬間移動したのもそういうことだ。よりにもよってシグマ持ち2機に追われるなど、なんと不運なことか。
絶体絶命だとようやく自覚した。シグマ持ちのシーカーは特に強力な戦士で、3機チームである「トライン」を組むにあたってシグマ持ちと組めることは大きな栄誉であるとされた。そしてこのトラインは少なくとも2機がシグマ持ちだ。
もはや意地などはっていられない。自分の負けず嫌いは差し置いて、あの黒いシーカーのシグマを考慮すると脱出は絶望的だが、やるしかない。
聴覚機能を遮断して、スラスターを全力で吹かした。これでなんとか都市を抜けて、どこか安全な場所で仲間と連絡を取るしかない。無鉄砲だがそれしか方法が思いつかないのだ。
しかし、距離を稼ぐ間もなく、突然全身に強烈な音波が叩きつけられた。機体は制御不能に陥った。意識が途絶える直前に見たものは、被せられる紫色のネットと、その向こうに見える緑と紫の集団だった。
最初から罠だったのだあの任務事態、奴らの掌の上だった。ようやくすべての合点がいって、悔しさに歯噛みした。
ディセプティコンはあえて姿を見せて、クリスタルシティの護衛団の気を引いてオートボットを誘い出した。空中偵察要員としてスタースクリームが同行することはほぼ確実だった。つまり連中は、スタースクリームがクリスタルシティ出身であることを知っていたのだ。あらゆる情報が最高機密に指定されたというのにそこまで知られたことには不穏なものを感じずにいられなかった。
だが、もし自分がチームに同行しなかったら、ハウンドたちはどうなっていただろう。殺されたか、無視されたか、捕虜にされたか……。いけ好かない連中だが、それでも無事を祈りたい。全員、逃げ切れただろうか。あの生意気なシャープショットだって無事でいてほしい。
しかし気になったのはあの通信妨害だ。それに、最後に一瞬見えた軍団のこともある。心当たりがないか記憶の中を探ってみる。
絶対にどこかで見たことがある。会ったことはなくても特徴ならわかるはず。そうして見つけ出した情報に、叫び倒したくなった。
コンストラクティコン。クリスタルシティを創造したゲシュタルト。道理であの戦闘の割にダメージが軽いわけだ。
コンストラクティコンは建築や創造に特化したほか、修理なども得意とする。おそらく重篤なダメージは奴らが修理して、その後ディセプティコンに引き渡したのだろう。
彼らが寝返ったということは、クリスタルシティが危ない。それだけは絶対にオプティマスに伝えなければ。
あとはどう脱出するかだが……どこだかもわからない牢屋に閉じ込められ、外に見張りや兵士が何人いるかもわからない。分が悪いが、それでもやらなくてはならない時もある。
すると、牢屋の外から足音がした。ちょうど扉の向こうで音は止まった。
数秒後、扉の光が消えて開き、5機が入ってきた。うち3機は先日奇襲をしかけてきたシーカーだ。黒紫の奴は不機嫌そうなしかめっ面で、緑灰の奴も憎悪に満ちた険しい顔をしていたが、青い奴だけは落ち着いた仏頂面だった。
表情こそ様々だが、3機とも規則正しく翼を広げて立った。権力ある者の前で見せる正式なマナーだ。
続く来訪者に意識が向いた。1人は濃い青色と角ばった姿をしている。顔はマスクと赤いバイザーで隠れて見えず、まるで彫刻のように機械的だ。うまく言い表せないが、とにかく不気味だ。
特筆すべきは最後の1機だ。ほぼ銀一色の屈強な機体。右腕には大きなキャノン砲を取り付けている。頭部は角ばったヘルメット状だ。しかし、最も気を引いたのは見た目じゃなく、牢屋に入るときの仕草だ。堂々とした足取りは確固たる自信と矜持の表れだ。顔からは微かな表情すら読み取れない。
客人の名は聞いていないが、1人だけは間違いない。わからないのは、なぜディセプティコンの頭領がここにいるかだ。殺すためなら、意識を失っている最中にできたはず。それにあの戦いも、虐殺のためではなく、生捕りの罠のようだった。
メガトロンの低い笑い声が思考を遮った。破壊大帝と知られる男の目が背後の3機を向いたとき、それまでの無表情が褒め称えるように笑って見えた。
「よくやったぞ、ストームレーザー。貴様と部下たちは見事任務を果たした。」
ストームレーザーと呼ばれたシーカーは会釈したが、固い表情のまま歯を食いしばったようにスタースクリームには見えた。一方で、黒い方はニヤニヤしており、青い方は静かに首を振った。
メガトロンは背中に腕を組みつつスタースクリームに向き直った。ズシン、ズシンと重々しい音を立てて近づき、目の前に立ち止まると、勝ち誇ったような笑みを見せた。
数秒の沈黙の後、メガトロンは言った。
「ようこそ、スタースクリーム。さっそく話をしようではないか。」