Skywinder氏作/Pariah/Chapter17

Last-modified: 2025-04-28 (月) 20:15:01

33日後
オートボット本部 トレーニングルーム

「よう、ハイド。」

アイアンハイドは肩越しに相手を見て、片眉をあげた。
「ジャズ。こんなところでどうした。」

ジャズは普段、この時間にトレーニングルームを訪れない。それに、来るときは最低1人の部下、主にミラージュやバンブルビーを連れてくる。

ジャズは部屋を見渡すと、射撃場にいる人影に注目した。そちらから目を離さないまま、アイアンハイドに近づく。その視線を追ってみえたものに、口を一字につぐんだ。

「あいつ、3時間もあそこにいやがる。」
重い声で言った。

「知ってる。退院から5時間後にはここにきたと、ミラージュから聞いた。シフトを終えると、必ずここで4時間は過ごすと。」

知っていて当然かと、アイアンハイドは首を振った。改めてスタースクリームを見ると、その表情は不気味なくらいに無表情で、無心に的を撃っていた。
「射撃をやめたと思えば、シミュレーターに入ってホログラムに同じくらいひたすら撃ち続けるか、接近戦の訓練を倒れるまで続けている。」

説明しながらジャズを見下ろした。
「俺からも何度か休憩を取るように言ったんだが、こっちをひと目見るだけでそのまま続けやがる。別にアイツのことは好きじゃないが、さすがに見過ごせたもんじゃない。」

「無理もないさ、ハイド。アンタも、俺とミラージュが連れ帰ってすぐにアイツの姿を見ただろ?ラチェットが言っていたぜ。」

アイアンハイドは記憶に顔を顰めた。

正直、ハウンドの報告を聞いたとき、とうとうヤツも音を上げて逃亡したものだと思った。だがその3日後、肩の支柱の歪みを治してもらおうと治療室に入り、たまたま緊急治療室に駆け込むホイストを見かけた。

後を追って見たものは、ズタズタの金属の塊と見紛うような、重傷患者の姿だった。

何が起きたか察するまで時間は掛からなかった。単なる捕虜があのような姿になるはずがない。たとえどういう手段でつけられた傷かを知らなくても、拷問によるものということは明白だった。実際に敵の基地を占拠して、似たような姿の捕虜を見たことは何度もあった。
もちろんスタースクリームはいけ好かないが、だからと言ってあれはむごい。生きていたのが不思議なくらいだった。

バレないように主要医務室に戻ったところで、不機嫌顔のラチェットと鉢合わせになった。その後何も聴かずに肩の処置をしてもらい、それを終えてから話を聞こうとしたところ、矢継ぎ早に予後説明や指示をされてさっさと追い出されてしまった。その様子からあまり詮索しない方が良いとわかったし、スタースクリームがラチェットの「懇切丁寧」な治療を受けたあとに復帰したあとも聞き出せていない。

それからは特に話を聞いていない。ジャズの報告は聞いたし、会議でラチェットがヤツを治療していると報告をした。その後はジャズの話す顛末とみんなの意見の連続だった。多くの者は作りばないだと思ったし、アイアンハイドも同じだったが、根拠はまったく違った。

おそらくあのシーカー自身、救助されるとは思わなかっただろう。あの傷の様子からしてもまともな歓迎をされなかっただろう。それにしてはジャズの話はあまりに単純だった。そもそもジャズ自らが首をつっこむ事態が単純だったことはない。

それでも詳しくは聞けなかった。どうせ話してくれないだろうし、真実の共有を受ける者がいるとすれば精神科医のラングだけだろう。それに、信じてもらわなくても、ジャズには関係のない話だった。

目撃から23日後、ラチェットが幹部会議で明かしたことで「クソシーカー」の話題が復活した。しかし会議から11日後、トレーニングルームで腕に見知らぬ武器を装着したスタースクリームの姿があった。いつもの連中から受ける罵詈雑言も無視して、ただ射撃場に直行して撃ち始めたのだ。

それから21日経ってもずっと同じで、スタースクリームはシフトを終えるとトレーニングルームに直行し、最低でも4時間は居座る。射撃訓練に、シミュレーション上の接近戦訓練。その間、ずっと死んだように無表情なのだ。

芳しいとは思えなかった。拷問被害者の事例は過去に幾度も見てきて、ほとんどが破滅的な末路を辿った。大半は加害者への強烈な復讐心に囚われるが、多くは結果的に自滅するか、発狂して戦いに溺れる。確かに積極的な戦士は求められるが、そのために発狂されては困る。

「責めやしないさ。ただ、拷問被害者の末路はわかるだろ、ジャズ。気持ちのいいもんじゃねえ。」
ようやく声に出して答え、また首を振った。

ジャズも固い表情でうなずいた。少し間を置くと、落ち着いた声で話してきた。
「何があったか話したっけ?」

アイアンハイドはちらりと見た。
「いや、ないな。」
報告書を直に受け取った司令官はおそらく知っている。そして、ラチェット、ホイスト、ミラージュ、それと科学班の2人は知っているだろうが、誰も話さない。もちろん、本人も。

ジャズはすぐに返さなかったが、やがていつもの声色で答えた。
「アイツ、壁に拘束された状態でメガトロンに啖呵を切ったんだ。それで撃たれて、腕を翼を失った。それから地面に縛り付けられて、ストームレーザーに死ぬ寸前まで鞭打たれた。同族らの面前でだ。」
そう言ってアイアンハイドを見上げた。
「しばらくまともに眠れていないらしい。だが、考えてもみろよ。公衆の面前、同族全員に裏切り者と罵声を浴びせられながら殺されかけて、その後元気になったら何を望む?」

アイアンハイドは顔をしかめた。どんな気持ちになるか、おおよその見当がつく。
「全員ぶっ殺したいって思うな。」

「ならわかるだろ。」
「ああ。しかしアイツ、そのことを誰にも言わない。そこが問題なんだ。そうやって抱え込むヤツほど、キレたときがやばい。」

ジャズは何も言わず、スタースクリームがまた的を撃ち抜くのを眺めた。2人はしばらく黙ってその様子を観察した。
「あの武器、どこから?」
ジャズが尋ねた。

「射手の1人が聞いたところ、自作モンだと。試運転中らしい。ナル光線銃というそうだ。成績からして、案外悪くはなさそうだが。」

ジャズは額に手を当てると、「なるほど」と漏らした。
ややあって言った。
「心配の必要はなさそうだぜ、ハイド。」

「お前、話を聞いてなかったのか!?」

「そうだな。そして懸念はもっともだ。普通なら深刻だ。」

「普通なら?」

「あいつが捕虜にされる前はあんな武器を持っていなかったことは間違いない。任務出撃の日もあんなものがなかったことはお前さんも知っているだろう?以前から個人的なプロジェクトの産物だろう。そして、意識を取り戻してからも進めていて、退院後しばらく見かけなかったのはあれに取り組んでいたからだろう。」

「あのなあ、ジャズ。」

呆れたように言おうとしたが、ジャズはまっすぐと見上げてきた。普段の明るい目とは違う、暗く真剣な視線だ。
「俺が言いたいのは、アイツの芯が通っているということだ。間違いなくキレているが、あの武器が完成するのを待ってからここを訪れている。そして、訓練中も他の利用者に迷惑をかけた話を、アンタ自身からも聞いていない。」

そう言ってスタースクリームを一瞥し、またアイアンハイドに向き直った。
「さぞかしお怒りなのには違いないが、アイツを死の寸前まで追いやったのは俺たちじゃない。アイツがそれを念頭に置いている限り、心配するようなキレ方はしないはずだ。」

それでもアイアンハイドは信じられなかった。
「言い切るじゃねえか。」

ジャズはニッコリと笑って背を向けた。
「見てればわかる。」
ひらひらと後ろ手を振って、その場を後にした。

いまいち納得せず、アイアンハイドはまた首を振ってからトレーニングルームを見渡した。そしてやはりスタースクリームに視線が止まる。どうやら射撃訓練を終えたようで、今度はシミュレーターに直行した。ジャズが何と言おうと、やはり彼の精神状態は看過できたものではない。

だがジャズはまるで確信したように語るし、こういうときの彼の想定が誤っていたときを思い出せない。

今回も正しいと祈るばかりだ。


8日後
タイガーパックス

背後をつけるシーカーが撃ってきたところで、スタースクリームは身を翻して攻撃を避けた。

やらせねえよ。

勢いよく左に切り、まっすぐ機首をあげると、急旋回して追尾者の後ろについた。そのタイミングで、相手のすらスターに撃ち込んだ。

墜落する機体を見向きもせず、次なる相手に移った。敵が死のうが生き用が関係ない。
追い、撃ち、避ける。空にいくつもの煙があがり、地上から怒号や悲鳴が聞こえてくるが、どこの誰のものかも確認せずに飛び続けた。

今はやるべきことがある。

それから数分間は同じことの繰り返しだった。強烈な復讐心をもって敵を撃ち落とす。空から落ちる姿のその後などどうでもいい。ヴォスのシーカーらが殺意を向けてくるのなら、こちらも返すまで。

お互い様なのだ。

その時、左翼を撃ち抜かれた。

舌打ちし、墜落しつつも撃ち続けた。地面に落ちる前にトランスフォームし、受け身を取ったが強い衝撃を受けた。

途中で撃った結果、追加で2体のディセプティコンを倒した。

一瞥もくれず、あらゆる敵に備えて周囲を見渡し、聴覚を研ぎ澄ました。

すると、誰かの叫び声がして、そちらへまっすぐ駆け出した。音源に辿り着く前に、痛々しい打撃音と低い唸り声がした。角を曲がったところで目を見開いた。

アイアンハイドが朦朧として横たわり、その横に戦車型の男が立っていた。大きなキャノンが足元の機体にまっすぐ向いていた。
光景に身がすくむ。

真っ暗な洞穴から、閃光が勢いよく迫ってきて──

振り払うように首を振った。悪夢に取りつかれなどしない。ここでは、決して。

目を細める。

訓練中にアイアンハイドのしてきた嫌がらせの記憶が蘇る。監獄で出会った時から浴びせられたいくつもの罵倒を思い出す。

そんなやつ、捨て置いてしまえばいいじゃないか。

違う、俺は人殺しじゃない、俺は──!

スタースクリームは拳を握り締め、一瞬顔を逸らした。

「もちろん、嫌いな奴は山ほどいる。それでも俺がオートボットとして戦い続けるのは、オプティマスプライムやひと握りの友らのためだ。都合がいいからってだけで誓いを破ったりしない。そんなことをしたら、アイツらに二度と顔向けできなくなる。」

覚悟を決めて一切の表情を消し、スタースクリームは目の前の2機に向き直った。ゆっくりと銃口をあげると、引き金を引いた。


3日後
オートボット本部 トレーニングルーム

「おい、スタースクリーム。」

射撃訓練中、声をかけられて顔をあげた。
アイアンハイドが、いつもの険しい表情でこちらを見下ろしていた。

「なんか用ですか、サー。」
嫌味を込めて言った。彼とはあまり話したくない。

「口を慎め。無礼な態度に付き合う暇はない。」
いつものキツイ語調で言われた。いつものように黙って睨み返した。

アイアンハイドも黙って視線を返すだけだったが、やがて落ち着いた声で言った。
「ラチェットから報告を聞いた。」

「そうですか。」

「ああ。あえて聞くが、何故だ?」

スタースクリームはぶっきらぼうな態度を崩さずに相手を見据えた。
「言ったところでどうせ信じないでしょうに。」

「言ってみろ。」
腕を組み、いっそう目を細めた。

するとスタースクリームも腕を組み、視線を外して考え込む様子を見せた。ようやく視線が戻ったとき、その目からは、アイアンハイドにも読み解ききれないような感情が入り混じっていた。

「理由なんてひとつですよ、アイアンハイド隊長。」
棘のない、落ち着き、しかし明瞭な声だ。
「俺があのディセプティコンを撃ったのは、味方を見捨てるような真似ができないからです。……日頃の恨みのために、嫌いな奴を見殺しにできるほど、俺も『できて』ません。」
最後のひと言のときだけ、ぐっと目が細まった。

アイアンハイドは何も言わず、目を伏せると、うんとうなずいた。
「訓練に戻れ。ただ、無理だけはするなよ、シーカー。」
そう言って、またいつもの立ち位置へ戻った。

なんだったんだろう。スタースクリームは不思議に思ったが、深く考えないことにして射撃訓練を再開した。
あとでホイルジャックとパーシーにも聞いてみよう。そう思いながら、的の中央に狙いを定め、意識を研ぎ澄ませて引き金を引いた。


「な?」
戻ってきたアイアンハイドに、ジャズは得意げな顔をして言った。

「だな。」
アイアンハイドはこくりとうなずいた。

「アイツのことなら心配ないさ。」

アイアンハイドは、また射撃訓練に戻ったシーカーの背中をじっと見つめた。あたかも自分が銃口を突きつけられているかのような必死の形相だ。
「かもな。引き続き様子見だ。」

ジャズはバイザーの下の目を丸くした。
「同意してくれたんじゃなかったのかい?」

「俺たちにキレることはないってだけだ、ジャズ。だが、コンズ相手ならどうだかな。」

ジャズは眉を寄せた。タイガーパックスの戦いでのスタースクリームは、ずいぶんと容赦のない戦いぶりだったと聞く。
「なるほどね。」
ついでに、ミラージュが今もスタースクリームとの友情を育みたいかを確認するのも良いだろう。その方が道を踏み外すリスクを軽減できる。あとはパーセプター、ホイルジャック、ラチェットらにもスタースクリームの様子に気をつけてもらおう。

「わかった。ま、あとは心配ないだろう。」
そう言ってジャズは、いつの間にかいなくなっていた。アイアンハイドは再びスタースクリームに視線を戻した。

「俺があのディセプティコンを撃ったのは、味方を見捨てるような真似ができないからです。……日頃の恨みのために、嫌いな奴を見殺しにできるほど、俺も『できて』ません。」

あの落ち着き払った声を思い出し、首を振った。

プライマスよ、どうか誰もやつの怒りを買うことがありませんよう。
密かに願ったあと、ほくそ笑んだ。
もちろんコンズを除いてな。

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