「聞いたか?」
「何を?」
「司令官がサイバトロン星を出るって噂だよ。」
「なんだって?」
「嘘だ!あの人がそう簡単に諦めるはずがないだろ!」
食堂の隅で誰にも気づかれず、スタースクリームはエネルゴンを飲み干してほくそ笑んだ。諦めるどころかますますやる気だぞ、あの男は。
そして改めて思う。この5年間、噂はじわじわと広まっていった。それでオプティマスがディセプティコンに敗北を認めようとしているなどと勘違いする者まで現れた。果たして資源不足問題と紐づけられるほどの理性のある者はいるのか。いたとしても誰も声をあげてはいない。
笑顔を消して、椅子にもたれかかる。アーク設計にあたって例の座標を譲渡した当時は怒りや辟易がないまぜになったが、資源配給量が少しずつ減っていることは、その頃から気づいていた。たしかに兵糧激減の噂は聞いていたが、実際に身をもって知ることとなった。その5年後には航空偵察すらままならないほどエネルギーが不足していたのだ。
今や徒歩以外をオートボット本部から出ることはない。良くない兆候だ。エネルゴン源泉に向かった仲間たちが成果を持って帰ってくる回数が減る一方で、今はむしろ放棄された倉庫や保管庫から残りカスを拾い集める有様だ。近いうち、ひとかけらも見つからなくなるだろう。
これこそ、絶体絶命の状況だ。
例の船の完成が近いことを願うばかりだ。それと、計画が成功に向かっていることも。頓挫の可能性なんて考えたくもない。敵軍側も同様であろうことだけが唯一の救いだ。
「ご相伴にあずかっても?」
声に反応して面を上げると、目の前には誰もいない。しかしスタースクリームはクスリと笑った。
「ようミラージュ、ぜひともどうぞ。」
言いながら、隣の座席を示した。
すると空間から笑い声がして、見慣れた青と白の機体が姿を現して席に座った。少しくつろいで、スタースクリームは尋ねた。
「任務はどうだった?」
こう尋ねるときはジェスチャー以上の答えを期待しない。敵に捕まったあの1件以降は親しい関係になったが、それでも仕事柄、ミラージュは詳しい話を開示しない。別に根掘り葉掘り聞きたいわけでもはないので気にしなかった。それに、工作部隊のことはホイルジャックやパーセプターからさんざん聞かされたし、絶対に敵に回したくないタイプの味方なのだ。
初めてミラージュに接触されたとき強く警戒したが、例の事件後に彼が自分と話したがっているとラチェットから聞いたときは驚いた。次第にお互いに不思議な信頼関係が築かれ、互いの触れるべきでない領域を尊重することも覚えた。だからスタースクリームはミラージュの任務や部隊の事情を詳しく聞かないし、ミラージュもスタースクリームがディセプティコンの捕虜になった時のことを詳しく聞かない。
しかし今日はいつもと違い、ミラージュは鎮痛な面持ちを見せた。
「ミラージュ?」
心配になって尋ねると、ミラージュは周囲を確認した後、顔を近づけて声をひそめた。
「先に聞く。君はアークに搭乗するか?」
聞かれて固まった。実を言うと、考えたことがなかった。残る者がどうなるかはわかる。多くはステイシス状態に置かれ、残りは基地防衛をつとめる。自分がどちら側になるかは考えていなかったが、近く決める必要がある。
「まだ決めていない。周りの心証のこともあるしな……。」
「そうか。僕としては、船に乗ることをおすすめするよ。たぶんその方がいい。」
なんだか妙だ。任務の話は詳しく教えてくれないが、このような言い方をしてくるということは芳しくない状況らしい。
「勘づかれたのか?」
ミラージュはうなずいて返した。
スタースクリームは内心毒付いた。
「……他にいま言えることは?」
「まだジャズ隊長に正式な報告もしていない。」
「だったらなんで俺に言いにくるんだよ。」
今度は少しきつめに囁いた。ジャズだけは敵に回したくない。今のところは悪印象を与えてこなかったが、気に障ることは極力避けたいし、こんな形で機密事項を漏らされたなんてことで巻き添えになるのは勘弁してほしい。
「いっしょに叱られるのだけはゴメンだぜ、俺は。」
ミラージュも申し訳なさそうな顔をした。
「わかってる。だからあくまでも内密にする。」
そして椅子に身を預けて続けた。
「スタースクリーム。おそらく今後、君の経歴が重要になる。」
相手の目が鋭くなったのを見て、ミラージュはさらに続けた。
「単なる戦力としてじゃない。たとえ5000年以上のブランクがあったとしても、今後遭遇するだろう異星生命体との交流方法を知っているのは君だけだ。それは僕たちの誰も……きっとディセプティコンにもない、貴重な知恵だ。」
2人はしんとした。ミラージュが任務で何を見聞きしてきたまでは知らずとも、おおよその見当がついた。
「そういうことか。」
息づくように呟いた。
ミラージュは立ち上がった。
「もう行くね。重ねて言うけど、考えておいてほしい。それだけだ。」
相手の目をまっすぐ見た。あまりその方向では考えたくなかったが……致し方のないことだ。
「考えとく。それしか言えない。」
「ありがとう。またね。それと、ジャズ隊長のことは心配しなくていい。君のことは巻き込まないから。」
そう言って、ミラージュはディスラプターを起動してまた消えた。
それからしばらく、1人で食堂の天井を見つめた。喧騒は相変わらず聞こえるが、それもやがて聞こえなくなるほど考え込んでいた。
結局バレちまったのか。
少なくとも、察しはついている。それと行間を読むならば、連中も同じく星を発つ……おそらくは、追跡のために。
ちくしょうめ。
エネルゴンを啜った。どうすればいいのかわからない。ステイシス状態で待つのだってリスクが伴う──休眠中に保護施設を襲撃されたらひとたまりもない。ずっと起きて帰りを待つのも危険が伴う。何よりも、アークの旅は終わりがあるかも定かでない。
そして果たして自分もいく価値はあるのだろうか。
搭乗者の大半は自分に仲間意識のカケラも見せなかった連中だ。これまでの会話でパーセプターが同行しないことは知っている。ホイルジャックは乗るそうだが……他のみんなはわからない。オプティマスとラチェットの是非もまだ公表されていない。工作部隊の面々も乗らないようだった……彼らはこの手の任務には関わらない方針だろう。
だがもしもディセプティコンも星を離れるつもりならば……
顔を顰めてエネルゴンを飲み干した。どの選択も好ましくない。ミラージュの言葉から察したことも真ならば、思ったよりも時間がなさそうだ。
首を振り、席を立って空の容器を片付けた。これから仕事があるのだから、遅刻ごときでレッドアラートやインフェルのにあれこれ言われるのだけは勘弁だった。
アークのことは、あとで考えることにした。
ミラージュが報告を終えると、ジャズはしばらく指と指を重ね合わせた。
「連中も勘付いたわけか。俺たちが星を発つことを。」
ミラージュは頷いた。
「情報が発表される以前から嗅ぎつけていたようです。」
ジャズは険しい顔をした。これまでさんざんセキュリティを強化してきたが、それでもサウンドウェーブは微かな綻びを見つけた。これにはレッドアラートも頭を痛めることだろう。報告のことを忘れないようにしつつ、ミラージュの話に再び視線を戻した。
「そして、連中も独自の船を建造していると。」
「はい。パンチの情報によると、船の名は『ネメシス』。アーク計画以前から建造を開始していたそうです。」
ジャズの目がすっと細まった。
「まずいな。メガトロンめ、俺たちより先に同じ考えに至っていたわけだ。ついでにあアイコンに襲撃もかけてくるだろう。」
「おそらくはそのつもりでしょうね。残念ながら、パンチも船の設計図までは確保できませんでした。現在は最高機密レベルで保管されており、候補地は複数地点に分散しているようです。」
「場所は?」
「初期のディセプティコン派都市5つ、そしてカリスです。」
ジャズは指を重ねたまま椅子にもたれた。
「こざかしいことだ。おそらく発案したのはストームレーザーだな。セキュリティと建築関係ならサウンドウェーブとショックウェーブだが、多面的に計画を立てるのはアイツの手口だ。そして、中立派のカリスに密偵の派遣が原則禁止されていることも知っているはず。とすれば……」
息をつき、首を振った。
「やってくれるぜ。」
「違う可能性だってあります。」
「ああ、だが詮索する時間はないんだよ、ミラージュ。アークはあと数ヶ月もすれば完成する。それからは誰が乗って、誰が乗らないかの問題だ。俺も他の部下たちに帰投命令を出した。パンチだけが引き戻せない。」
今度はミラージュが不安げに顔を歪めた。そうとすれば、状況はさらに悪化するだろう。
「あなたは行くんですね?」
ジャズは頷いた。
「気は乗らないけどな。個人的な意見としては、幹部をもっと残していくべきだと思う。だが敵さんの幹部の多くもサイバトロンを去るのなら、話は変わる。」
「双方で最低限の人員が残るとなれば、星での戦いは膠着状態となるでしょう。しかし今、『幹部をもっと』と言いましたが、それでは幹部のほとんどは搭乗すると?」
「そう、同じ疑問だった。そして、そのとおりだ。マグナスんとこのレッカーズに入るパーシーと、ステイシスを選んだレッドアラート以外は全員行くことになった。」
「お言葉ですが、隊長。そんなに連れて行くのは英断とは思えません。ましてや同行しない2人をそんな危険に晒すなんて……」
「言っておくがプロールだって同意見だった。だが司令官が譲らなかった。プロールについては、しっかり手綱を握っておきたいんだろうな。ラチェットについては、ホイストになら留守番を任せられるとの判断だ。」
ミラージュは情報を噛み砕いた。
「それらは納得できます。しかしアイアンハイドは?クリフジャンパーと双子が搭乗する話は耳にしました。戦力には困らないでしょうに。」
「司令官も最初は都市防衛のために残して行くつもりだったそうだが、アイアンハイド本人がボディガードとしてついていくと言って聞かなくてな。か弱い異星生命体相手にひけを取るわけがないとレッドアラートも言ったんだがなあ。」
「まあ、務めを果たすことに真剣であれば、それもしょうがないかもしれませんね……」
ミラージュは首を振り、息づいた。
「しかし、やはり残る幹部が少なすぎます。あなたまで同行する理由は?」
「どっかの誰かさんがバカやんないように見張り番。」
「納得です。」
「俺だって乗り気じゃない。だがさっきも言ったように、敵さんも行くなら俺も残るわけにはいかない。」
「同意します。それで、あなたと同行する人員はお決まりで?」
「候補は決めてある。司令官に伝える前に、1人ひとりに声がけするつもりだ。」
話を聞き、光子ディスラプターを持つ自分も同行することになるだろうと、ミラージュは察した。生まれ故郷を離れるのは辛いが、ステイシスであろうがなかろうが待つだけというのは性に合わない。飢えや襲撃に怯えて過ごすなどお断りだ。
何より、ストームレーザーにはクリスタルシティ崩壊の恨みがある。
悪夢の記憶を振り払い、席に深く腰掛けた。
「ひとつ、いいですか。先に言っておくと、彼は何も言いませんでした。」
ジャズはバイザーの裏で眉を上げた。
「それはつまり?」
「ここにくる前、スタースクリームに会いました。一緒にアークに乗らないかと、僕から提案しました。理由を伝えたところ、『考えておく』とのことです。」
ジャズの表情が険しくなるのを見ながら続けた。
「もちろん詳細は伝えていません。それに情報をぼかしたとは言え、彼も乗り気には見えませんでした。彼はあなたのことを知っていますし、あなたが彼に敵意を向けないのも、司令官への忠義によるものとわかっています。」
そこまで聞いて、ジャズはゆっくりとデスクに身を乗り出し、低い声で言った。
「情報漏洩は御法度だと知っているはずだぞ、ミラージュ。そういう話は先に俺を通してもらわないと困る。」
ミラージュは気まずそうに笑った。
「承知の上です、隊長。言い訳をするなら、必要だと判断したからです。」
「それを決めるのは俺だ。そして、なぜ必要だと感じた?」
冷たく笑うジャズを、ミラージュはまっすぐ見つめて語った。
「彼は戦士になる以前、実績ある宇宙探検家でした。このことはあなたもご存知でしょう。彼は複数の有機生命体との干渉もしてきました。つまり、異星生命体との適切な交流方法を知っています。我々には持ち得ない技能です。」
「そうだな。だが、それも司令官が聞けば済む話だろう。司令官も、あいつの嫌がることは強要しない。」
「そうですね。しかし情報だけでは不十分です。何せこれから行く星には、どんな生命体が存在するのかすらわかりません。そういう時に物を言うのが経験です。特にディセプティコンに先手を取られる前に、全住民と友好関係を築く必要があるならなおさらです。」
ミラージュの返答を、ジャズはゆっくりと思案した。
「──理解した。だが決めるのはあいつ本人だ、断られたならそれ終わりだぞ。その場合も、決して無理強いはしないことだ。もしお前が無理に説得しようとしたと俺の耳に入ったなら、その時は俺がお前をステイシスポッドにぶちこんでやるからな。わかったか?」
最後のひと言には重みがあった。結果的にお咎めなしとなっても、ミラージュは決して安堵しなかった。
「承知しました。」
「よろしい。ならば早速行動に移せ。それと、ハウンドを見かけたら、俺のところに来るように伝えておいてくれ。」
ミラージュは静かに会釈し、退室した。その後、ジャズは専用回線コンソールのボタンを押した。
「ジャズより司令官へ。」
間があって、画面上にオプティマスの顔が映し出された。
『やあ、ジャズ。どうした?』
「ミラージュの任務報告を受け取りました。提出のためにそちらへ向かいます。」
画面の顔がコクリと頷いた。
『吉報ではなさそうだな。』
どうやらジャズの真剣そうな顔から察したらしい。
「そんな感じです。ただ、口頭での説明より、直接確認された方が良いかと。」
『そうか。わかった、待っている。』
「早急に向かいます。」
通話を終え、ジャズはしばらく暗い部屋の中に佇んだ。どれも吉報とはいえない。遅かれ早かれ、敵が計画を嗅ぎつけてくるのは必定だったが、まさか同じく船を建造しているとは。それはつまり奴らも資源不足に悩まされているということだ。しかしその目的はおそらく、エネルゴンを探し求めることではなく──新世界の侵略だ。
そしてその事実をこれまで嗅ぎつけられなかったことがおぞましい。ジャズは苦々しく笑った。サウンドウェーブも、モグラの何人かに目をつけていたらしい。仕返しするときは利子をつけるべきだろう。
さらにミラージュが工作部隊の不文律を破り、スタースクリームに情報を匂わせてしまったことも気に食わない。計画のこと自体は、新世界の座標を得るにあたってオプティマスが本人に直接明かしていたし、その時点でスタースクリームに同行の意思がないらしいことは察した。彼の選択を無理に歪めることも禁じていた。このことに異論は一切ない。彼の経歴を考えれば、残りたいと言う気持ちは大いに理解できたし、候補惑星の座標を用意してくれた時点で十分な譲歩だった。
同時にミラージュの言い分も尤もだ。きっとスタースクリームも察して行間を読み取っただろう。彼は賢いし、今後の流れも理解していたはずだ。
いずれにせよ起こったことはどうしようもない。あとはダメージコントロールだ。今後はミラージュも余計なことを言わないだろう。
思案を終え、ジャズは立ち上がり、オプティマスのオフィスへ直行した。
──10日後──
スタースクリームはホイルジャックから受け取ったデータパッドを見つめていた。数分間眺めた後、ようやく顔を上げた。
「で、こんなふうに仕上がったんだ?」
つとめて小声で聞いた。
「そうだよ!」
ホイルジャックはいつもの明るい声で言った。
「もうすぐ完成する。あと数ヶ月もすれば準備も終わるし、エンジンは準備万端だ。どう思う?」
ふたたびデータパッドを見た。当番を終えてすぐホイルジャックと連絡を取ったら、すぐにでも来て欲しいと言われた。そのときは新兵器の開発や実験の相談かと思ったが、まさか船のほぼ完成形を見せられるとは予想外だった。
しかし今思えば、船の出発前にひと目見て欲しいとプライムに伝えたのは自分だった。もしかしたらそれで一部の部下に共有したのかもしれない。
見る限り、初期案から大きく変わっていないようだ。横長の形状は気になるが、乗組員が長期間居住することを考えれば妥当、かもしれない。
ただ1点だけ突っ込まずにはいられなかった。
「いくらなんでもオレンジは派手すぎんだろ。」
これにはホイルジャックのフィンも薄いピンク色に光った。
「まあ、その。そこは吾輩のアイデアじゃなくてね。オレンジ好きのグラップルが言っても聞かなくて。吾輩らも説得したんだけど。」
「お前らの向かう星の住民に色彩感覚がないことを祈るしかねえな。」
スタースクリームは困惑の表情で首を振り、ド派手な配色の設計図を見つめた。
とたん、ホイルジャックの目が見開かれた。
「ちょい待ち。もしかして、来ない気かい?」
驚きを隠せない声色に、スタースクリームは息をついてデータパッドを下げた。
「俺の気持ちはわかるだろ、ホイルジャック。探検の理由はよくわかるし、大いに支持する。でもついていくことはできない。どうせ何もできることはないしな。」
ミラージュは、そう思わないようだが。プライムも。
それを思って顔を顰めたが、結局彼もそれ以上何も言ってこなかった。
「でもそしたら、ほとんどひとりぼっちだよ!?」
「……え?」
きょとんとしてホイルジャックを見つめた。
声をあげたホイルジャックは、気まずそうに頭をさすりながらため息をついた。おそらく、本当は開示してはいけない事項が関わるのだろう。それでも、少し間を置いて教えてくれた。
「吾輩が乗り込むのは前にも言ったとおりだ。それ以外にも司令官やラチェットも来ることになった。パーシーは来ないが、ウルトラマグナスのレッカーズに配属されることになった。ミラージュはちとわからん。ただ司令官は念の為に工作部隊の同行を望んでいたから、きっとジャズと一緒に来ることになる。」
「みんな、行っちまうのか?」
友人と呼べる者が、みな、星を去るということか。
「ホイスト以外、ほぼ全員だ。」
ホイルジャックは申し訳なさそうに俯いた。
「なあスタースクリーム、正直に言うよ。乗組員候補にはアンタにとっても面倒な奴が何人かいる。でも星に残って、ステイシスにもならないんなら、味方がホイストしかいないことになる。風聞を信じてやまない連中がたくさんいる中で新たに信用する相手を探すのは辛いはずだよ。せめて一緒に来てくれるんなら、吾輩らが守れる。」
スタースクリームはぽかんとして、視線を落とした。すぐに返事が出ず、また困ったようにホイルジャックを見つめた。
「考える時間がほしい。」
「わかったよ。」
ホイルジャックはデータパッドを拾い上げた。
「追い詰めるような真似をしてごめん。決して簡単なことじゃないってのはわかってる。ただ……」
言葉を続けるうち、相手がほぼ聞いていない様子と気づいて言葉尻が小さくなった。
「……また、後でな。」
そう締め括って、うつむく翼をそっとさすって離れた。
数分間、スタースクリームはラボの中でひとり悩み続けた。
ホイルジャックが船に乗ることは知っていた。しかしパーセプターの件は寝耳に水だ。彼だけは残ると思っていたのに。オプティマスとラチェットのことも驚いた。星の仲間たちの士気を維持するためにも残るものと思っていたし、今回の任務でラチェットが同伴するほどとも考えなかった。
しかし、先刻ミラージュの言ったことを思えば……
立ち上がり、室内を彷徨いた。
ミラージュが上長報告より先に話していたことからして、おそらくオプティマスもここまでは想定しなかっただろう。しかし計画の機密性がますます増したことを考えると、ある程度の予想はできていたのかもしれない。
どうすれば。
何度も考え、ミラージュと話した後に考えていたことを思い返した。それぞれの選択のメリットやデメリットを汲み取り、比較した。
やがて、足を止め、顔を上げた。
覚悟を決めた。