道楽者の村人がいた。
村人は道端で財布を拾う。
しめしめと中を確認しようとするが、突然その財布が喋り出す。
「おいお前、この中には確かに大金が入っているが、こんな泡銭などに頼っていないで真面目に稼ぐ努力をしろ」
口うるさい財布だが中に大金が詰まっていることを知ってしまった村人は財布の助言に従い職探しを始める。
隙を見て中身の金を取り出してやろうと目論見ながら・・・
しばらく後。
村人は働き始めて最初の給料をもらうことができた。
それまで道楽に生き、働くことを知らなかった村人は、自分の手で稼いだ金を持って家に帰る。
財布は言う。
「どうだ、自分の力が認められるのはうれしいだろう」
村人は頷き、これもすべて財布のおかげだと感謝する。
そこで財布は自分の役目は終わったのだ、と切り出す。
「お前はもう一人でも大丈夫だ。自分は次の奴のところへ行かなければならない」
村人は嫌がるが、財布の説得によってついに折れ、最後に今夜一晩語り明かすことを条件に財布を手放す決意をする。
一晩中他愛も無いことを語り合い、ついに東の空が白んで来たころ。
「短い間だったが、お前と一緒にいて楽しかったよ」
お互いにそんなことを言いながら、村人は自分が財布を拾った時と同じように、財布を道端に置いて別れる。
村人は夜明けの空を見上げながら、もう一度感謝と別れの言葉を呟いて涙を流すのだった・・・