1
IFヒート
以前女友に聞いた、パラレルワールド
世界は本当はいくつもいくつもあって、ほんの少し違ったり、すごく違ったりしているらしい
世界の数は可能性の数と同じだけあり、そのいずれもが近いようで遠い、遠いようで近いと言われた
聞いたときにはさっぱりわからなかった
世界というものは私にとってひとつしか感じられないし、考えられなかった
何かを決断したときに、「もし違うほうを選択していたら」そんな風に思ったことはもちろんある
でも、その「もし」の可能性を選択した世界があるなんて、ぴんとこなかった
ただそれを聞いたときにふと、「全部の世界に共通すること」ってないのか、そんな疑問を感じた
その答えを私は今、この瞬間に知った
世界は可能性の数、星よりももっと数多の数があって、そのどれもがどこかしら違う
その世界では私は妹や妹かもしれない、娘や母かもしれない
学校の先輩、後輩、幼馴染かもしれないし、私が男の子ということもあるだろう
数限りない可能性と、相違点
共通することは多いようで、でも全てに共通することはほとんどないのかもしれない
でも、どんな世界でも、この事だけは絶対に共通していると、何故かわかった
私はどんな世界でも、この人と出会い
そして、絶対に恋に落ちる
それをこの世界の私は、今、理解した
さあ、もう次にすることは決まっている
恋に落ち、愛をうったえよう
女「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
数多の世界の私がそうであるように、全ての可能性の私がそうするように
IFヒート 様々な世界と一つの… はじまり
2
ボタンをひとつ掛け違うように、ひとつ間違えただけで、あるいは私と私の世界は…
IFヒート 不良
ああ、まただ。また、聞きたくないのに、知りたくなかったのに、気づいてしまった…
女子「(ヒソヒソ)ほら、あれ…。まだ来てるんだ」「ああ、あれが噂の…。へ~、確かにそれっぽいかも…」
わかっている。ここで何も言わなければ、聞こえなかったと思えれば…
私と私の世界はここまで歪んだりはしなかったんだろう
女「おい!私に言いたいことがあるなら面と向かってはっきり言え!!」
女子「(ビクッ!)ご、ごめんなさい、別に、そんなんじゃ…」
女「っ!なんだよ!!言いたいことがあるなら言えよ!!言ってみろよ!!隠さず、素直に言えば良いだろ!!」
そんな、いつもの繰り返しだと思った時に、その人に出会った
男「お前が皆が言っていた「不良」か、確かにうるさい奴だな」
女「?!な…っ!お前ぇ!」
男「何だ?お前が言えって言ったんだろ?大体な、人に言え、言えって言うけど、お前はどうなんだよ」
女「私はいつも言ってる!言いたいことがあるなら、面と向かって言えって…!思っていることを素直に…!」
男「お前の言いたいことって本当にそれか?面と向かって言われりゃ良いのか?”もう聞こえてるのに?”」
女「!あ…!それは、でも…!」
そう、私は聞こえていた。だから、こそこそと言うのではなく、面と向かって…
男「お前、言って欲しいんじゃなくて、聞いて欲しかったんじゃないのか?自分がどういう人間か、知ってほしいんじゃないのか?」
そうなのだろうか?私は自分の気持ちに素直だったつもりで、でも、自分の気持ちを、勘違いしていたのだろうか
そう、かも知れない
◇
IFヒート 元不良
その日から、私の世界は少し変わった
がらりと変わったわけじゃない
今でも時々、ひそひそ話は聞こえる事があるし、その度にむっとなることはある
でも、今までと変わった所は…
女「おい!何を言ってるかよく聞こえなかったんだけどな!私は「不良」じゃないからな!!」
自分の気持ちを間違えなくなったこと
素直に伝えたい気持ちを、見誤らなくなったと思う
「間違っているかもしれない」
その可能性に気がついたせいか、時々無性に不安になる
自分をきちんと見ることが出来ているだろうかと、思うことがある
けれど、この気持ちはきっと間違いじゃない!勘違いなんかじゃない!!
間違いに気がつかせてくれた感謝の気持ちもある
間違っているんじゃないかと人に言えることへの尊敬の気持ちもある
でも、でもそれだけじゃない!決してそれだけじゃ…!!
私は自分の気持ちに素直であろうとして、その気持ちを取り違えていた
そしてそれに気がつかせてくれた人に、今、間違いない気持ちを感じている
だから、以前のように素直に、ただし以前とは違い間違いのない気持ちを、言おうと、思った
女「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
掛け違ったボタンは、きちんと正せました
私の服(気持ち)は、似合って(届いて)いますか?
3
恋愛は競技じゃない。だから、スタートから差がつく事も…
IFヒート 横恋慕
陸上は勝負だ。常に勝ちと負けを決める
その相手は隣を走る人でも、自分よりはやい誰かでもなく、いつだって以前の自分だ
だから、勝っても負けても、傷つくのは自分だけですむ
女「(ダッ!)は、は、は!(スゥ!)はー…!」
先生「すごいな女!またしても自己ベスト更新だ!!」
女「もっともっと!またまだです!走り込み行って来ます!!!(タッタッタッ!)」
先生「あまり無理するなよー!」
女友「お疲れ~、って、おーい、女~?」
女「っとっと!女友、お疲れ!女友はもうあがりか!」
女友「まあね~wこの後ちょっと、ね♪」
女「…そうか!うん、じゃあ、また明日な!!(ダッ!)」
走りながら、ちらりと女友の向かう先を見る
そこに、女友を待つあの人がいた
女友「お待たせ!じゃ、いこっか♪」
男「ああ、さっさと用事を済ませて帰るとしよう」
女友『女、紹介するね。これが私の幼馴染で、一応彼氏の男w』
男『一応そういうことらしい、男です。よろしく、女さん』
気がつけば私は、親友の恋人に心を奪われていた
決して言えない、伝えてはいけないと思った
でも、他でもない彼女が言ってくれた
女友『私と女は親友。だからこそ、真剣に勝負したい。相手を傷つけたくないなんて、逃げはせずに、自分よりも手強い相手として、勝負したいと思う』
それは陸上の話かもしれないし、そうじゃないかもしれない
ただ私は、彼女がそう言ってくれたから、逃げずに、勝負しようと決めることが出来た
◇
IFヒート 恋敵(ライバル)
陸上協議会の日、私と、女友が真剣に、ひたすらに、ゴールを目指して勝負する日
女友「…絶対負けないからね!絶対に私が、勝つ!!」
女「私だって絶対に負けない!!女友に勝って!…女友と、勝負、する!!」
女友「…女が親友で、本当に良かった」
スターター「On Your Mark!Ready!!」
Go!!
スタートを知らせるピストルが鳴ってからの数秒間、その間に流れる時間の密度は、きっと普段と違う
とても短い時間のはずなのたったの十数秒が、とても、とても長く感じるから
陸上は常に勝ちと負けを決め、本来その相手は自分だけのはず
でも、そうじゃなくなることがある
ともに認め合い、切磋琢磨し、上り詰めていく事ができる相手と走るときだけは、一人じゃない
そう、ライバルがいるときだけは
女「女友!待って、待ってくれ!!まだ、その…!!」
女友「良いからさっさとする!私だってね、いつ気が変わってもおかしくないんだからね?!勝負、するんでしょ!!(ドン!)」
背中を押されたその先に、その人は居てくれた
女「あ!あの!!来てくれて、ありがとう!!実は、その…!!」
On Your Mark!
Lady!Go!!!
女「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
手強い恋敵(ライバル)よりスタートは遅れたけど、絶対に負けない
脚の(想いの)速さ(強さ)には自信があるから
4
生まれの性別もひとつの可能性の結果でしかないのだから、あるいは…
IFヒート 男と女
人は誰しも心に種を持っている
いつの日か芽を出し、葉を茂らせ、想いの花を、咲かせる種を
ある映画でその台詞を聞いたとき、どんな花なのだろうと、思った
男「男です。趣味は読書です。よろしくお願いします」
女「(ガタンッ!)ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
先生「?!ななななななんだ、お前!暴力か?!初日から暴力なのか!?学級閉鎖ktkr?!?!」
女友「あー、先生。これ、こういう生き物なんで…。てか、女!なにほえてんだよ!座れって!おい!!」
ちょっと驚いたのか、目を大きく開いてこちらを見る彼女は、とても魅力的だった
女「好きです!!!付き合ってください!!!!」
だから気がついたときには、そう言っていた
男「だが断る」
そして、芽生えたばかりの想いはあっさり断られた…
男「ふぅ…。いい加減にして欲しいものだ」
男友「そんなに嫌かー?付き合ってみればいーじゃん、案外上手く行くかもよー」
男「そういう訳にいくものか。…というかさっきから何してるんだ?」
男友「にひひひひw実は向こうの窓のカーテンの隙間から隣組の女子の着替えが…www」
男「…お前、女だろ。この変体犯罪者め」
女「(ガラガラッ!)男さん!!お昼ご一緒にいかがですか!!」
男「先約がありますので。ほら、男友」
男友「え~、もっと見てたいのにな~。それに今日は隣組の乙女ちゃんとラブランチを…」
男「いいから、こい!(ゴッ!)…それじゃあ、失礼します」
女「つれないなぁぁぁぁぁぁ!!でも、そんな所も好きさぁぁぁぁぁ!!」
女友「…懲りないやつだなぁ」
種は、芽を出した
なら、それが枯れない限り、諦めたりなんてできないんだと思う
男「いい加減にしてくれませんか?正直、迷惑なんです」
女「あ…!その、すまない!!でもな!」
男友「男さーん、それくらいにしといたほうが良いですよ。この子結構まじで怒ってますから」
男「そのとおりです。大体、一目ぼれなんて人を馬鹿にしている行為だとは思いませんか?」
女「ば、馬鹿に何てしてないぞ!!俺は本当に一目見たときから君が好きなんだ!!」
男「…つまりあなたは、私の見た目や声のみで私の価値を決めたということですね。私がどういう人間かも知らないのに」
こちらを睨みつけ、苛立ちの理由をぶつけてくる彼女は、何故だろうか
泣いているように、みえて、それが何だかとても悲しかった
女「そうじゃない!!いや、初めはそうだった!でも、今は違う!!!」
だから!想いを伝えなくてはいけない!!
女「誰よりも早く学校に来て、花に水をまいてるのを見ました!頼み事をされたら、冷たい態度を返しつつも手伝うことを知ってます!!
猫が好きなことも!放課後読書しながらうたた寝することがあることも!男友さんへの容赦のなさも!!」
男「言わなくて言いことまで言ってると思いますよ」
女「想いの種は、ほんのちょっとのきっかけで芽を出し、毎日毎日、育ってきました!
あなたという人間を知る度に、水を与えられ、日を浴び、葉を茂らせ、つぼみをつけました!後は、花を咲かせるだけです!!」
女友「あー…、どんんまいな?ほら、あれだ!嫌よ嫌よもって奴かもしれないし!!何つったっけ、ツデレン…?」」
男『…だが、断る』
芽生えたときと同様に、つぼみになった想いも断られた
でも、やっぱり枯れたりはしなかった
女「例え断られても!それでも、それでも好きなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!諦めてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
どうやら想いの花というものは、意外と丈夫なものらしい
とても強く、熱い風や地面をえぐるほどの強い雨を受けても、決してくじけず上を向く、向日葵(ひまわり)の花のように
女「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
向日葵の花はとても小さな花がたくさん、たくさん集まって、ひとつの大きな花となる
だからこそ、その花(想い)は、とても大きく、力強い