SS1 二学期の始まり(仮)

Last-modified: 2013-08-14 (水) 19:53:48

九月一日。長い長い夏休みが終わり、二学期が始まった。

生徒の大多数は、まだ夏休みが終わったという実感が沸いていない。
なぜなら始業式の翌日は土曜日。つまり夏休みは実質まだ終わってないと言える。
もちろん、この人物も夏休み気分はまだ取れないわけで。

女「男おおおお!!! 週末どこかへ行かないか!!?」
男「断る」
女「な、なぜだああああ!!?」
男「どっかのバカが遊び呆けすぎてほとんど宿題を終わらせて無いから」

男の視線と言葉が女にピンポイントで突き刺さる。

女「ぐっ・・・!! で、でも遊び呆けていたのは男もだろ!!?」
男「だが俺はきちんと宿題をやっている」
女「それなら話は早い、宿題を見せt 男「断る」

男は、矢継ぎ早に女をまくし立てる。

男「俺は貴重な勉強時間を割いた。それでも最低限、宿題をする時間は作れた。
  この夏、俺と行動していたお前に同じ事が出来なかったはずが無い」
女「う、うう・・・。夏休み最後の思い出を作ろうと思ったのに・・・」

しょんぼりする女に、男はため息をついた。

男「まあ俺も鬼じゃない。明日までに宿題を終わらせたなら日曜日はどこへでも行こう」

周りから見れば十分鬼である。
が、女は燃えていた。この夏、最後のデートのために。

男「で、マジで終わらせたわけだ」

九月二日。時刻は、午後十時を過ぎたあたり。
男の部屋のテーブルに並べられているのは、女の夏の宿題。その全てがやり遂げられていた。

女「どうだ!!! 男への愛が私を動かしてくれたぞおおおお!!!!」
男「・・・学校が終わってからすぐ取り掛かったのか?」
女「そうだ!!! 30時間以上、寝ずにやった!!!」
男「お前は・・・」

どうしてそれを夏休みの初めのうちにできない、と男は言いたくなった。

男「まあ、約束は約束だからな。どこへ行きたい?」
女「あ、ああ、えーと・・・」

女は宿題を終えることに必死で、その後の事を考えていなかった。
ふと、男のベッドの近くにあったある雑誌に目が行った。

女「ここに行きたい!!!」

女はおもむろにその雑誌の表紙を男に見せた。
表紙は、ジェットコースターの写真だった。

男「遊園地か・・・。わかった、じゃあ集合は――」

待ち合わせ時間や場所を決めた後、女は名残惜しそうに男の部屋を離れた。
だが、翌日は男とのデートだ。
女はワクワクしながら布団に潜り込んだ。

九月三日。夏休みの本当の最終日とあって、まだ午前中だというのに遊園地は大混雑だった。

女「人がゴミのようd 男「うるさい」

女の早速の暴走を颯爽とツッコんだ男は、女のあるところに気が付いた。

男「お前、目の下。クマが出来てる」
女「あ、こ、これはだな!!! ワクワクしすぎて寝られなかったんだあああ!!!」
男「お前はどこの小学生だ」
女「男おおおお!!! 早く行くぞおおおおお!!!」

男があきれ返る間も無く、女は手を引っ張って園内へと向かった。

女「今日は人が多いな!!!」
男「まあ考えてる事はみんな一緒って事だな」
女「ってことは私と男も、考えている事は一緒d 男「それは違う」
女「(´・ω・`)」
男「で、まずはどこに行くんだ?」
女「お、おう!!! あれだ!!!」

女が指差した先は、メリーゴーランドが。

女「私が馬車に乗って、後ろから男扮する王子様が白馬に乗って追いかけてきてくれる!!!
  そして私たち二人の愛はさらに深まり・・・、って、男おおおお!!!?どこだあああ!!!?」

五分後、女が迷子というアナウンスが園内に響き渡った。

無難にアトラクションに乗り(メリーゴーランドは男が最後まで頑なに拒んだ)、お昼時になった。

女「今日は男のために弁当を作ってきたぞおおおおお!!!」
男「本当に弁当と呼べるのはいつになるやら」
女「気にしなああああい!!!今日は三時間も費やした最高傑作だ!!!」
男「時間に比例して弁当がとんでもない事になるわけですね」
女「う~、これを見てもそんな事が言えるのかああああ!!!?」

女が弁当の蓋を開けると、見た目から壊滅的な、夏休み前までの弁当の姿は無かった。
それどころか、市販の弁当よりも綺麗で豪勢だった。

男「お、うまそう」
女「私だってやる時はやるのだ!!! さあ、食え!!!!」

男はちゃんと焼けている卵焼きに箸を伸ばした。
だが口に入れる前に、男はあることを思い出した。

一学期のある日の事。
これほどではないが、きちんと形になっている弁当を女から渡された。
いつものより見てくれが良かったので、男はついついその弁当を口に運んでしまった。
だが、相変わらず兵器並みの味だった。
その日、男が体調不良になり早退したのは言うまでも無い。

その事を思い出し、卵焼きと睨み合う男。
その横では、嬉々とした表情で見つめる女。

男は何かを覚悟して、卵焼きを口に入れた。

男「・・・あれ、食える味だ」

美味とまでは行かないが、料理としてきちんと成り立っている。

女「やったああああ!!!特訓した成果が出た!!!!!」
男「お前まさか俺が宿題やってた時に・・・」
女「男に喜んでもらえるように特訓した!!! 今日はその集大成だ!!!」
男「集大成ってことは今後はまた元に戻るのか」
女「いや、そんな事は無い!!! ・・・と思う」
男「自信ないのかよ。でも、まあサンキュ」

男から料理で初めて及第点が出た。女は喜びを爆発させた。

女「男はもう私の虜だああああああ!!!」

女の歓喜は園内のアナウンスよりも広く響き渡った。
その声に反応した周りの人々が、男たちの方を見ている。

男「・・・お前、この周囲からの視線の落とし前をどうつける気だ」
女「気にしなければいい!!!」
男「もう少し気にしてくれ。そして俺はお前の虜では無い」

多少の問題はあったものの、今までで一番平和な昼食の時間は終わった。

男は昼食の件もあり、更にテンションを上げた女に振り回された。

女「次はジェットコースターだ!!!」

女「次は逆バンジーに行くぞ!!!!」

女「次は急流すべり!!!!」

女「次はコーヒーカップ・・・と見せかけてまたジェットコースター!!!」

振り回され続けて数時間、太陽は西に傾きはじめた。
4度目のジェットコースターを乗り終えた男は、近くのベンチにへたるように座った。

男「ちょ、ちょっと休憩させてくれ」
女「男!!! だらしないぞ!!!」
男「俺はお前ほど頑丈に出来てない」
女「なんだとおおおお!!? ・・・ってあらら?」

女が多少ふらついた。男が少し笑う。

男「なんだ、お前も疲れてんじゃん」
女「い、いや、違う!!! はしゃぎすぎただけだ!!!」
男「まあいいや。もういい時間だしあと少ししたら帰るか」

女はメリーゴーランドを提案したが、男がお化け屋敷に行く事を条件に出してきたので断念した。
そして代わりに、観覧車に乗ることにした。

男「ま、締めとしてはベタだな」
女「ふふふ、密室で男と二人きり・・・!!!」
男「周りから丸見えだということをお忘れなく」

男の一抹の不安は拭えないまま、観覧車は密室を作り上げている。

女「おおお、上にあがっていくぞ!!!」
男「まあ観覧車だからな」
女「人がゴミのようだ!!!」
男「ん、そうか」

男はぶっきらぼうな返事をして外を眺めている。
いくらいつも二人でいるとはいえ、慣れない狭い空間だ。
男と女は向かい合って座ったまま少し沈黙が続いた。
その沈黙を破り、女が口を開いた。

女「・・・ずっと夢だったんだ」
男「ん?」
女「好きな人が出来たら、一緒に観覧車に乗るのが夢だった」
男「いきなりどうした?」
女「だから今日、男と一緒に観覧車に乗れて本当に嬉しかっ・・・」
男「お、おい・・・!!」

女は男の方へ力なく倒れた。

男「おい、どうした!?」

女の体を揺する男。反応は無い。
観覧車はようやく頂上を過ぎたばかりだ。

男「おい、しっかりしろ!!! 女!!!」

観覧車のモーター音だけが聞こえる。
が、次第に他の音が混じって聞こえてきた。

・・・ぐー・・・ぐー。

男「・・・ぐー?」

女の顔を覗き込む男。
男の腕の中で気持ちよさそうに眠る女。
女は二日間の徹夜のせいで疲れがピークに達し、観覧車の中で眠りだしたのだった。

男「お前は・・・どこまで俺を困らせる気だ」

男はため息をつきながら、幸せそうに眠る女の頬をつねった。

女「すー、すー。おふぉこぉぉぉぉ・・・好ひだぁぁぁぁ・・・!!」

女が目を覚ましたのは、男の背中の上だった。
辺りはすっかり暗くなっていた。

女「あれ? 確か男と観覧車乗ってたはずだが!?」
男「やっと起きたか。そこでお前が爆睡し始めた」
女「じゃあ男が私に愛の告白をしたのは夢だったのかあああああ!!!?」
男「それは未来永劫夢だな。ってか目が覚めたんなら降りろ」
女「む~、断る!!!」

結局、男が折れておんぶ状態は続いた。

女「男ぉ・・・」
男「どうした?」
女「・・・迷惑かけてごめん」
男「ったく、謝るんなら今度から徹夜なんかせずに宿題は早く終わらせろ」
女「・・・ごめんなさい」
男「明日から学校始まるんだ。お前がいないと調子狂うから帰ったら早く寝ろ」
女「男ぉ・・・!!!」
男「まあ、今日はなんだかんだで楽しかったしな」
女「本当か!!? 男は優しいやつだあああ!!!」
男「おい、やめ、首が絞まる」

この夏、最後の思い出の1ページが刻まれた。

九月四日。午前中の授業が終わり、昼食の時間。

女「男おおおおおお!!! 弁当だあああああ!!!」
男「今学期もやはり来たか」
女「さあ、食え!!!」
男「どれどれ・・・」

男が弁当箱の蓋を開けると、昨日と作った人が同じとは思えない、いや、弁当とは思えない『もの』があった。

女「今日は寝すぎて遅刻しそうだったから10分しか費やせなかった!!!」
男「・・・おーい、男友。食堂行こうぜ」
女「な、なぜだ!!!? 愛情が足りなかったのかああああ!!!?」
男「やっぱり昨日のが集大成だったんだな」
女「男おおおお!!! ま、待ってくれええええ!!!」

こうして、男と女の暑い熱い二学期は始まった。

舞台は、夏から秋へと変わる。

― おしまい ―