女「さぁ!上がれ!」
男「お邪魔します…」
説明しよう。
聞きたくないかもしれないが、改めて自分の置かれた状況を確認するためにも説明させてもらう。
―事の発端は今日の昼休みに遡る。
女「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
男「何だ?」
女「今日は!!!何の日気になる日!!!」
男「………………………」
女「私とお前が出会った日だよ!!!!!!!!!」
男「お前そんなことまで覚えてるのか!?」
女「当たり前だ!!!!」
男「……で?」
女「今日は家に来てくれ!!!両親に紹介したい!!!」
男「( ゚Д゚)!?」
両親。
この女を育て、養い、愛する二人の男女。
俺は今まで女の両親に会ったことがなかった。
正直怖い。
子は親の背中を見て育つ。
もしかしたら……女以上に熱い二人かもしれない。
耳栓を用意せねば……
とかなんとか考えていると、女がいきなり俺の肩をつかんでガクガクと揺さぶり始めた。
女「聞いているのか!?」
男「スイマセン、キイテマセンデシタ」
女「何ぃぃぃぃぃ!!?」
男「ちょっと考え事をな。」
心配事…と言うべきかな。
人は一つでも心配事があるとそのことばかりに気を取られてしまう。
女「せっかくだから今夜は手料理をご馳走するって話をしていたんだ!!!」
訂正、二つだな。
まぁ、そんなこんなで俺は女の家へ向かうことになった。
……不思議と全くワクワクしないのは何故だろうな…
そして現在に至る。
俺は笑いそうになる膝を必死で制御しながら女の家へ入った。
家に入ると猫が駆け寄ってきた。人なつこい猫だな。
などと油断していたので、猫の突撃をかわせなかった。
普段から女の突撃を受けている俺に今更猫の突撃など効くワケがない。
猫「にゃあああああああああああああ!!」
女「どうだ!?」
いやなにが「どうだ!?」なんだ?
俺はこの疑問を心の奥にしまいこみ、猫を床に下ろした。
ふさふさしててかわいい。チンチラゴールデンだ。長毛種も捨てたもんじゃないな。
俺が猫ののどを撫でていると案の定女が「私も撫でてくれ!!!!」と言い出した。
話をそらしてみよう。
男「この猫の名前は?」
女「一応名前はタマということになっているんだが、チンチラゴールデンだから私はキン
俺は女に案内され、居間に向かった。
女の両親が待つ居間へと。
…言いたい事はいろいろある。それを言えるかどうかはわからないが。
女「ヤマダミツヨシみたいに頼む!!!!」
男「無理だ」
誰だそれ。
女「じゃあ私が呼んだら入ってくれ。」
男「あぁ。わかった。」
女「期待しているぞ!!!!!」
何をだ。
―そして待つ事数十秒、女が俺を呼んだ。
「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!」
耳栓用意するのを忘れていたな。
俺はドアノブを握りしめた。
なかなか開けられない。正直不安だった。
両親は俺を認めてくれるだろうか……ってあれ?ちょっと待て。
何で俺がそんな心配をしなければならない!
俺は適度な勢いでドアを開けた。
4人用のテーブルに女とその両親が座っている。
母「はじめまして。女の母です。」
父「父です。」
女「どうだ!?カッコいいだろう!?」
女はテーブルに手をついて引っ越したばかりのメイのように跳ねている。
母「いつもうちの娘がお世話になっております。」
男「…い……いえ…」
母「本当にご迷惑ばかりおかけしているみたいで……」
女「そ…そんなことはない!!!」
衝 撃 の フ ァ ー ス ト ブ リ ッ ト を 受 け た 。
衝撃なんてものじゃない。
この親からこの娘が産まれるなんて信じられん。
俺の脳裏には米澤先生親子と「マルバツマルマルメンデルのアホー」と叫ぶ榊先生が浮かんでいた。
父親は優しそうではあったが、厳格なオーラが滲み出ていた。
その目には俺が映っているのだろう。
混乱した俺の姿が。
母「…どうなさいました?」
男「い…いえ…少し驚いただけです。」
母「そうよねぇ……いきなりじゃあねぇ…」
いきなりでなくても驚くな、俺は。
女「さぁ!自己紹介を頼む!」
女に言われるまま、俺は自己紹介を始めた。
自己紹介が一通り終わると、女が意味不明な振りをしてきた。
女「ブクロで頭張ってんだよな?」
……はい?
勿論そんなことは断じてない。
だが、不運にも父親が食いついてきた。
父「頭?」
女「キングって呼ばれてるんだ。」
父「チーマーって奴なのか?」
女「アレはダサいッスよ。アレを成敗してる感じなんで。アレと一緒にされちゃこっちとしちゃダメッスね。」
……何の話だろうか?
女「な!」
男「今のは全部ウソですから」
父「そうか。」
女「さすがだ男!!!そのノリの悪さにも惹かれるぅっ!!!」
……わからない……
俺はどうすればいいんだ?
父「…ところで君は…うちの娘をどう思っているんだ?」
俺 死 ぬ ん じ ゃ ね ?
この質問自体は想定していたが両親の性格があまりに想定外だったのでいざ聞かれると困る。
女が物凄く輝いた瞳でこちらを見ている。
不可能がないだろう。
俺は同じ質問を女に何度もされてきたがその度に適当にあしらってきた。
だが今回は逃げられない。
…自分の気持ちから逃げるわけにもいかない。
俺は覚悟を決めて口を開いた。
「毎日大声で俺を呼ぶのを始めは迷惑に思っていました。
毎日作ってくれる弁当も、最初は鬱陶しく思っていました。」
だが―
「女が学校を休んだ時に……初めて自分の気持ちに気づきました。俺は女を愛しています。」
女が顔を赤らめるのが視界の端に映った。
「俺は……何度骨を砕かれようとも女を愛しています。これは…この気持ちはウソじゃありません。」
俺は言い終わると女の方を見た。
顔を真っ赤にし、自分の肩を抱いて震えている。
その姿がとても愛しく思えた。
父「……君になら安心して娘を任せられそうだな。」
男「へ?」
父「これからも娘をよろしく頼む。」
男「……はい…」
すると女はいつの間に復活したのか、包丁を振り回しながら叫んでいる。
女「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!男のために!魂を込めてご馳走を作るぞぉぉ!!!!!」
両親が俯いた。
父「君…料理はできるかね?」
男「はい?」
父「できないと……大変だぞ?」
男「……わかってます…」
その夜―
俺は…どんなにマズい飯を食うことになっても…何本骨が折れることになっても…女と一緒に歩いていくと誓った。
―終―