- TV「今日は五年に一回しか見れないという、流星群が見れる日です」
- ノイズ混じりの音を吐き出すTVが今日の天気を知らせている。
- 話によると今日は流星群が通るらしい。
- 肝心の天気は聞きそびれた、雨が降らなければいいが……。
- TV「好きな人が居るあなたっ。願い事をしてみましょう」
- 男「……余計な事を……」
- つい声に出してしまった。
- あいつがこれを見ていたらどうする。
- 俺は一瞬いつも五月蝿いあいつの顔を思い浮かべたがすぐに振り払った。
- どうせ嫌でも会うんだ。
- 俺がそんな事を思っていると
- 女「男ぉぉぉぉぉ!!迎えにきたぞぉぉぉぉ!!」
- 噂をしたらなんとやらというが何にしても早すぎだろ。
- くわばらくわばら……どうやらさっきのTVは見ていないようだ。
- 俺はゆっくりと安堵の息を吐く。
- 女「まだかぁぁ!?男ぉぉぉぉぉ!!」準備するのが遅いためか、しびれをきらせて叫んでくる。
- ったく。近所迷惑だろうが……。
- 男「今出るから少し待て」
- 俺は適当に返事をして。
- TVを消し、あいつの下へと歩いた。
- あぁ、今日も賑やかな一日になりそうだ。
- 女「遅かったなぁぁ!!!何かあったのか!?」
- 多分、遅かったとはさっきの事を言ってるんだろう。
- いつもはうるさくて騒がしいだけの奴だがこういう事があると急に可愛く見えるから不思議だ。
- まぁ、それを言うのは癪だし、恥ずかしいので口には出さないが……。
- 男「別に、少し寝坊しただけだ。心配する程の事じゃない」
- 女「そうかぁぁ!!それならいいな」
- 女は俺の隣でわっはっはと太平楽に笑っている。
- 女の子の笑い方ではないな。どう考えても。
- そうこう考えてる内に学校が見えてきた。
- 女「おぃ男!私と男の愛の巣が見えてきた!!!」
- 男「……はぁっ」
- 毎度の事だがこいつの楽観的な発言にはため息ばかりつかされる……。
- 女「ため息なんかついてどうした!!悩み事でもあるのか!?」
- 悩み事?強いて言うならお前だよ。と言ってやりたい。
- 俺も鬼じゃない。
- だから流石にここまで酷い事は言わない。
- 代わりに皮肉を言ってみた。
- 男「お前は悩み事無さそうだな……」
- 女「毎日悩んでるぞ!!」
- 男「何をだ」
- 女「男の事でだぁぁぁ!」
- やはり、予想した通りの答えが返ってきた。
- 馬鹿だなぁ。と本気で思う。
- 男「学校に着いたな」
- 女「ああ!!もう教室に行ってしまうのか!?」
- 当然だろ。登校して他に何をする事がある。
- お前は何を言ってるんだ?という言葉は飲み込んでおいた。
- 余計な波風はたてない方が楽だし。
- 男「ああ、そうだ。とりあえずお前とはお別れだな」
- 俺は少し皮肉を言ってみる。
- さて、どんな反応をするだろうか。
- まぁ、叫ぶんだろうが……。
- 女「朝のHRが始まるまで、一緒に居ていいか……?」
- 女は俺より頭一つ分くらいだけ身長が低い。
- そのため俺を見る時は見上げる形になるのだが。
- その上目づかいの破壊力は凄い。
- 大体の健全な日本男子はイチコロだろう。
- だがこいつが上目づかいを使う相手は俺だけ、らしい。
- そう男友は言っていた。
- 男「まぁ、始まるまでならいいけど」
- 女「やったぁぁぁ!!流石男だぁぁ!」そこまで騒ぐ程の事じゃないと思うんだが……。
- とりあえず俺達は教室に入っていった。
- 男友「よぉーう。男ぉ。朝から一緒とはなぁ。正直に言う。俺はお前が憎らしいっ」
- 又五月蝿いのがやってきた。
- コイツは男友。
- 俺の友達だから男友というなんとも安直なネーミングだ。
- 俺も人の事言える名じゃないが。
- 男「五月蝿い馬鹿。脳内妄想はいい加減にしてくれ」
- 男友「事実じゃねぇかよ。一緒に登校だぜ?」
- 女「私は男の事愛してるからなぁぁ!!いつでも一緒に居るんだ!!」
- いきなり何を言い出す。女よ……。
- 男「余計に話がややこしくなるから少し黙ってくれ」
- 女「……!」
- 男友「お前、それは酷いわ……」
- いや、甘い。甘過ぎるぞ男友……。
- コイツはこれくらいでへこたれる奴じゃ……。
- 女「ホラ、少し黙った!!抱きしめてくれ!」
- ……ほらな。
- 男「あ~、はいはい。後でな」
- 女「わかったぁぁ!絶対だぞ!!」
- 約束してしまったが適当に理由つければ大丈夫だろう。
- ところで……
- 男「男友が消えたんだがどこへ消えた?」
- 女も首をかしげている。
- コイツが捕食した訳ではないか。
- 俺はクラスメートの女の子に男友がどこへ行ったか聞いてみる事にした。
- 男「なぁ。男友がどこへ行ったのか知らないか?」
- クラ女「ああ、男友君だったら『くそー!』とか叫びながらどっか行っちゃったよ」
- あいつめ、変な噂でもたてる気か……?殺す……。
- 俺は脳内で男友をボコボコにし始める。
- 脳内で男友を十回ほど殴っていると不意に女から話しかけられた。
- 女「男ぉぉ!男友は探しに行くのかぁぁぁ!?」
- 俺は時計を見た。
- HRが始まるまで後最低でも十分はある。
- 男「そうだな。探しに行くかぁ」
- 女「わかったぁぁぁ!大体はどこだぁぁ!!」
- 多分あいつはーー女友の所だろう。
- 男「行くぞ」
- そうして俺達は生徒達が未だに騒いでいる廊下に出た。
- 男「女友の所へ行こうか。アイツ友達少ないからそこしか行く所無い筈だ」
- 女「女友……。ぇーと、どのクラスだっけ?」
- 男「…………。お前と一緒だろ」
- 女「そうだったぁぁぁっぁ!!」
- お願いだ、廊下で叫ばないでくれ……。周りの奴らからの視線が痛いから。
- 何?アイツラって目で見られてるぞ……。女友も居るし。
- 男「ってぇ!?女友居るんだが」
- 女「ぁ、本当だぁぁぁ!ぅぉーい、女友ぉぉぉぉ!!」
- だから叫ぶなって。
- ぁ、女友が目を逸らした。
- 知り合いだと思われたくないのか、女の言葉を無視してどこかへ行ってしまう。
- 女「……。私、無視されたのか?」
- 男「まぁ、そうなるな」
- 女「なんで……?」
- 男「恥ずかしいからだろ」
- 女は今にも泣きそうな顔になってくる。
- まじで勘弁。
- 俺が悪者になってしまう。
- 男「とりあえず、教室戻ろうか。お前ももう自分の教室もどれ」
- 女「わかった……」
- 女に元気が無い。
- まあ、友達に裏切られたようなもんだからしょうがないか。
- 男「じゃ、じゃぁな。弁当一緒に食うか?」
- 女「!!男から誘ってくるとはぁぁぁぁ!!」
- 立ち直りの早い奴だ。
- そう思いながら俺は教室へ戻っていった。
- でっかい忘れ物がありそうだが。
- 男友「……探してくれよ」
- ――昼休み。
- 午前中のくだらない授業は全て終わり、(男友は結局自主的に帰ってきた。不憫な奴だ)
- 俺は男友と自分の教室でだべっていた。
- 男友の机の近くで話しているのだが、窓際にある為日差しが当たり非常に暑い。
- しょうがなくカーテンをひいた。
- 男友「そろそろ君の愛妻弁当が来るなぁww」
- 男「別につきあってもいないんだが」
- 男友「周りからはそう思われてるけどな」
- それは、しょうがないだろう。
- 登校、弁当、帰宅。他諸々。
- 俺はいつもあいつと一緒なのだ。
- まぁ、付きまとわれているだけだが。
- 男「まぁ、他人が俺の事をどう思おうが関係ないがな」
- 男友「お前らしい意見だ」
- そんなたわいもない話をしていると、たのもぉぉぉぉ!の叫びとともに女と女友がやってきた。
- 女友「朝はごめんねぇ。さすがにあれの中に入るのは恥ずかしかった」
- 男「別にいい。俺だってあの状況だったら他人のフリするだろうからな」
- 女「そんなぁぁぁぁぁ!?」
- 適当に世間話をしながら俺は弁当をついばんでいく。
- ちなみに今日の弁当は女が作ったものだ。
- 中身はまぁ、一言で言うと『バイオ兵器』だ。
- 味は悪くは無いのだが見てくれが悪すぎる。
- 料理を練習し直した方がいいだろう。
- 男友「ところでさ、今日の夜って流星群が来るよな!」
- 男「!?」
- 女「りゅうせいぐん…?」
- 男友は今朝の天気予報を見たようだ。
- いきなり話の流れを変えてくる。
- 女は流星群をいうものを知らないようで、俺は一瞬安堵した。
- が、男友は次々と女に流星群の情報を仕入れる。
- 俺が朝畏怖していたものが現実になるのか――――
- 男友「――と、言う訳で流星群ってのはとにかく流れ星がたくさん降る現象の事だな」
- 女「う、うーーーー」
- 女の頭がオーバーヒートしそうだ。
- しゅーという音と共に煙が出始めている。
- 女友「流れ星ってロマンチックよねぇ。願い事が叶うってさ」
- 女「!?」
- 今の女友の一言で女の瞳が輝きを帯びる。
- ぁぁ、俺が朝回避しようとしていた事が今襲い掛かってくる……。
- こいつら、わかっててわざとやってるんじゃないだろうな。
- 女「願い事が叶うってホントかぁぁぁぁ!?」
- 女友「迷信よ、め・い・し・ん。流れ星が流れきる前に3回願い事を言ったらそれが叶うと言われてるの。
- お願いだ。余計な情報は与えないでくれ……。
- 男友「そうだ!今日の夜皆で集まろうぜ」
- 女友「ぉー、いいねいいね。いつにする?」
- なんだこいつら、勝手に段取りしはじめたぞ……。
- 女「男も来るだろーー?」
- 男「どうだろうな、行かないかもしれない」
- 女「そうなのか…?私は来てほしいな」
- 斜め45℃による女の上目遣い攻撃が俺にHIT!
- もう、逃げられません。
- 男「わかったよ……」
- 女「よっしゃぁぁあぁぁぁぁあぁ!!」
- 夕方、学校が終わった後四人で集まって流星群観察の為の計画を練っていた。
- 俺は基本的に傍観者。
- なんか三人だけでヒートアップしてるから入りにくいし。
- なんだろう、この虚脱感。
- あれ?悲しくないのに涙が出ちゃう。
- ドキドキは止まってるけどな。
- で、結局夜中11時に学校前集合という事におちついたそうだ。
- 帰るとき女が男と星見るなんて、うれしいぞぉぉ!!とか言ってたのが俺にとっては重い。
- そして夜中の11時。
- 学校前に俺達は集まった。
- 皆個人個人で私服な訳だが、一人だけ明らかにおかしい奴が居た。男友だ。
- なぜだろう、どこで買ったのかはしらないが巫女さんの服を着ている。
- こいつのせいで場の空気が非常に悪い。
- 本人はその事に気づいていない様子で学校へと向かっていく。無知って怖いと改めて実感した。
- 学校の屋上で星を見るわけだが、玄関には当然鍵がかかっていた。
- 女「こんな扉ぶち破る!!うぉぉぉぉぉ……がふっ」
- 男「ちょ、黙れ。こんな所で大騒ぎしたら警備員に見つかるだろうが。」
- 女「だって鍵がかかってるんだぞぉぉぉ!」(小声
- 男「多分あいつらがなんとかするだろ」
- と、いうか。なんとかしなければ俺はキレてる。
- あいつらもバカではないし、手段ぐらい用意してるだろう。
- 友男「ちゃんちゃらちゃっちゃっちゃっちゃー」(ドラえもん
- 友女「ピッキング用具ー」
- ドラえもんの音楽には完璧に合わない。夢も希望も零の道具が出てきた。
- というか、どうやって手に入れたんだ?こんなの。
- 後日聞いてみたら、美容師とかいう怪しい奴にもらったそうだ。
- 学校の鍵を友女と友男が手馴れた風に開けていく。こいつら、犯罪だぞ……。
- 俺達は玄関の鍵を順調に開け、(何か可笑しい気がする)やっと目的地の屋上へとたどり着いた。
- 男「今何時何分だ?」
- 女友が携帯を開け、時間を確認する。携帯のバックライトが女友の顔を照らし幽霊みたいになってたのは言わないでおく。
- 女友「えーと、11時30分ね。テレビで言ってた予想時刻は12時30分だからまだまだ時間はあるわよ」
- 女「星はまだなのかぁぁぁぁ!私は早く願いをかなえたい!!」
- 男友「まぁ、まだ時間はあるし。ゆっくり行こうよ女ちゃん」
- 巫女姿の野郎に言われたくない気もするが。
- 女友「じゃーん!こんな事もあろうかと花火持ってきたんだー」
- 男友「ぉぉ、いいねぇ。よし、やろうやろう。女ちゃん何がいい?」
- 女「私はロケット花火だぁぁ!私の男への愛のように燃え上がり、飛んでいくぅ!!」
- 男「俺は……そうだな。とりあえず線香花火でいい」
- 男友「イキナリかよ。」
- 男「好きなんだよ……」
- 女「ねぇ、男ぉぉ!!一緒に花火しよぉぉぉぉ!!」
- そう言いくっついてくる女。胸が俺の腕にフィットしてくる。頭が茹で上がりそうだ。
- 男「わ、わかった。わかったから離れてくれ。花火が危ない!」
- そう言って女を離れさせ、受け取った線香花火に火を点す。そしてその火をずっと俺は眺めていた。
- 女も俺の前に座り、一緒に線香花火の灯火を眺めている。
- その、弱弱しい明かりに照らされた彼女はとても綺麗で。
- とても、儚げだった。
- 束の間の夢の時間。
- その時を壊したのは突然の雨だった。
- 男友「おぃ、雨降ってきたぞ。中入れ!」
- 女「星は!?星はどうなるんだ!?」
- 男友「このままだと、見れないかもな。」
- 女「……ぅぅ」
- 俺は雨から逃げず、ずっと、屋上に立ち尽くしていた。
- 何故だろう、このとき俺は何がしたかったのだろう。
- 何故か動かなかった――否、動けなかった。
- 男友「おぃ、男!何してるんだ!風引くぞ、早く入って来い」
- 男友が何か言っているようだが、俺の耳には届いていない。
- その俺に、女は駆け寄ってきた。
- 女「男は何かを感じてるんだ。邪魔しないでおこう」
- そうか、俺は感じていたんだ――星の予兆を。
- 男友と女友は俺の尋常じゃない様子と女の言葉に息を呑んでいる。
- 俺はというと、何も考えられない。指先一つさえ動かせない。
- そうして10分が過ぎた頃。
- 雨が止み、雲の間を縫うように月の光が差し込んできた。
- 雲が流れ、消えていく。
- そうした先に俺達が見たものは――――
- 女「……綺麗」
- 男友「ぉぉ!」
- 女友「凄い……」
- 無数の流れ星だった。
- 放物線を描いて堕ちる光。闇を塗りつぶす光の筆。
- その場にいた四人全員が感嘆する。
- いつの間にか俺も動けるようになっていた。
- 女「男、綺麗だね……」
- 男「ぁぁ。そうだな……」
- その後のことはよく覚えていない。
- 次に気が付いたら星のダンスは閉幕していた。
- 男友「皆、願い事はちゃんと願ったか?」
- 女友「まぁね。当然よ」
- 女「私もだ!!」
- 男友「男はどうだ?」
- 男「俺も、願ったよ」
- 男友「そうか……何を願ったかは皆の胸の中にしまっておこうぜ」
- 女友「なんで?」
- 男友「そっちの方がロマンチックじゃん」
- 女友「なによその理由は。でも、いいかもね」
- 俺はゆっくりと皆を見渡し言った。
- 男「ありがとう……」
- 俺の発した突然の言葉に男友と女友は驚いていた。
- 女はというとさも当然のように
- 女「どう、いたしまして」
- と言った。
- 男友「うし、雨も止んだし花火の続きと行きますか?」
- 男「そうだな……」
- 女「男ぉぉぉぉ!好きだぁぁぁぁぁぁ!!」
- 突然会話に割ってはいる絶叫。
- 俺も含め全員が驚く。
- 驚いた俺を見て、女は今日見たどんな光よりも眩しい笑顔になっていた。
- 完