「魄を。そしてその先に」

Last-modified: 2019-09-12 (木) 07:10:19

……少し聴いてくれるか?
……いやなに、決して邪魔しようとしてる訳じゃない。警告だ。
あぁ、姿が見えないのか。……うっすら?
なるほど、警戒するのも仕方ない。呪いをかけてしまうかも知れないからな。
……まぁまあ、とにかく、私が死んで、死にまくって、この世界をさ迷うようになったところから、話すとするか。


闇夜。そんな言葉が最高に似合う夜だった。
私はいくら松明を並べても打ち消されない闇に薄気味悪さを感じた。
その時だ。何か、言い様のない気配をまとった男が現れた。
「やあやぁ。俺はタナトス。とある依頼を受けて来た。」
(タナトス……?確かそういうボカロ曲があった気がするな)
……笑わないでくれ。本当に純粋にそう思ったんだ。
「ふむ。そこのプレイヤー?ちょっとこっち来い」
私は怪しいと思いながらもタナトスと名乗った男に近寄ってしまった。
「……よし。お前は今まで38回死んでいる。」
「急に何だ」
「そうだな、あと12回死んで来てくれ。」
「……はぁ?」
その時私は頭の中の知識を照らし合わせた方がよかったかも知れない。
だが、
「とある物好きから依頼されてね。俺の力を使えば、50回死んだ時、あるものが作れるんだ。」
あるもの、と聞いて、私の血が騒いだ。
「……死に方はどうでも良いのか?」
「あぁ、全然。……じゃ、まずは俺の能力で付与をする。それからはどうとでも動け」
タナトスが腕を私の胸にかざしたと思った時。
私の心臓が謎の跳ね方をした。思わず片手で心臓がある部分を押さえる。
「よし、成功した。じゃあな。死んでこい」
そこから先は記憶が混線している。
気がつけば、高い崖の上に立っていた。
当時私はプランテラ討伐をするかというところの装備とライフだった。それでも悠々死ねるだろうという高さだ。
ノーマルモード最序盤に数回落下死した思い出の場所だ。
そこで私は翼を外し、身を投げた。


……何が起こったか、解るか?
…………ふむ。まぁ……悪くないが、……あぁ、思い出すのも痛い。
……ん?あぁ、すまない。気を抜くとこれだ。
さて、話の続きだ。


ぐちゃ、と。
私は潰れた。一瞬の灼熱のような爆痛と、また一瞬だけ見えた血の海と共に、消えた。

そして、いつものように私は復活した。ただ2つ、
私が常にない恐怖で脅かされていたこと、
私に謎の__おそらく現実と変わらない痛覚、それに死ぬ時のリアルさを与えたタナトスへの怒りが渦巻いていたことが違った。
さらに、
「39」
とタナトスがニヤニヤしながら言ってきた。
その瞬間私は切れた。トゥルーナイトエッジを振り回しながらタナトスに斬りかかる。
一瞬の数百分の1。
そんな時間で、私はまず四肢を切り取られ、残った胴体は輪切りにされた。
______どんなにあっという間に殺されても、復活まで数秒間耐えなければならない。
……もはや痛みは限界に達した。むしろ痛くなく、灼熱を感じるだけだ。
そして復活した。その場所には、
「40」と言って笑うタナトスと、
首から下を輪切りにされた私と思わしき__いや、「私だったもの」がいた。
あっという間に私は瞳の炎に水をかけた。


さぁ。このあと私はどうなった?
あぁ、そうだ。ご覧の通り幽霊のようなものだ。
だが……本来、魄も残らないはず、なのだ、あれは。


落下。「41」
毒。「42」
熔岩。「43」
モンスター。「44」「45」
溺死。「46」
窒息。「47」
モンスター。「48」「49」

あの日、私は何も感じずに生きていた。
その日、私は意識の外に追い払った男の数字以外の声を聞いた。
この日、私は落下死した。

「50。じゃあ、楽にしてあげよう」

遠くから声がした。
魄が体から抜ける感覚。
その感覚で、私は再起動した。
(う……おおおっ)
振り返れば、倒れている私。
その傍らには、布切れが落ちていて____
そこから先は、良く覚えていない。


というわけだ。
すまない、怨み話に付き合ってもらって。
……はぁ。

_______________________________
気がつけば。
そこで一人話しかけてきた男性の影は消えていた。
そのあとには、
天井から吊り下げられそうな布が落ちていた。
話を聞いていた青年は少し迷った末、その布を持ち帰って行った。

感想

  • できたああああああ -- アイズ 2019-09-09 (月) 08:16:50
  • 2時間クオリティ(掲示板のコメントから6時間、その途中寝てたり朝食を食べたりしたため) -- アイズ 2019-09-09 (月) 08:33:02
  • まじで作ってくれたのか。感謝…!(含みのある話でとても)うん!おいしい! -- Chogos tusks 2019-09-10 (火) 00:01:00
  • 僕みたいな人(とは?)には理解不能な内容だったから考えさせられた気がする -- fire 2019-09-12 (木) 07:08:57
    • けっこう悩んだけどまだきついか -- アイズ 2019-09-12 (木) 07:10:19