●09ミニ劇シナリオ

Last-modified: 2009-07-27 (月) 23:46:18

とうとう、今年の夏合宿で作り上げた作品の発表当日となった。
演劇部のみんなは一箇所に集まると、部長の声に合わせて円陣を組んだ。
 
 
「よーしっ皆気合い入れて行くぞーっ!」
「おーっ!!!!!!」
 
 
今回の合宿に参加した部員の中には初めて合宿に参加した人も少なくない。
この合宿中にランニングで体力作りをしたり、発声練習をしながら笑いあったり、いろんなことがあった。
そして今日、その成果を形にして発表するのだ。
 
バタバタとみんなで大道具や小道具、そして入念に台本のチェックなどをして時が来るのを待つ。
 
部長や先輩達も笑ってはいるものの緊張しているようだった。
それはもちろん他の部員も同じで。
みんなドキドキしながら待機する中、公演開始の時間を迎えた。
 
 
 
 
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【演劇部ミニ劇 クマのサーカス団】
 
 
 
ここはクマのサーカス団。
クマ達は日本中を旅しながら回っているのです。
今日も朝早くからサーカスの団員達は大忙しです。
 
 
 
クロ「おーい、そっちの紐引っ張ってくれ!」
ノトガー「ん?これ?いくぞー!」
チークマ「この台重いー…」
シルックマ「団長ー、これはここに置けばいいっすか?」
団長リリョックマ「おう、そこに置いておいてくれ」
 
 
 
クマ達は今日の朝、この町に辿り着きました。
今はサーカスを行うための準備の真っ最中。
一番あわただしくなる時です。
 
 
 
道具の入った箱がそこら中に山積みになっていたり、
物が散乱したりと、あたりは足の踏みもないような状態です。
そんな中、箱の横に小さな人影が…。
あれは一体なんでしょう?
 
 
 
箱の横からひょこっと顔を出したのは小さな女の子でした。
この町に住んでいる子供でしょうか。
女の子は周りをキョロキョロ見渡しながら、サーカスの中を覗いています。
 
 
 
ジル子「サーカスなんて見たの初めて!中はどうなっているのかなぁ。」
 
 
 
本当は勝手に入っちゃいけないことは分かっています。
でも女の子は知りたくて知りたくて、つい中に入ってしまいました。
中に入ると、そこにはナイフやボール、カラフルな箱など、サーカスで使われるものが置いてありました。
 
 
 
ジル子「これはサーカスで使う小道具ってやつ?どうやって使うんだろう…」
 
 
 
本当は勝手に使っちゃいけないことは分かっています。
でも女の子は知りたくて知りたくて、つい使ってみようとした…その時です。
 
 
 
クロ「はー疲れた。休もうとしたら次は練習してこいだなんて…団長の奴俺達を殺す気かねー。」
チークマ「それだけ僕達に期待してるってことだよ。」
ノトガー「ちょっと練習したら向こうで休憩しないかー?さすがに休まないと辛いし」
クロ「そうだな」
 
 
 
先ほどのクマ達が戻ってきました。
女の子はとっさにカラフルな箱の中に隠れたので見つかりはしませんでした。
女の子は箱から目だけを覗かせて、外をうかがいます。
 
 
 
クロ「俺のナイフ~。とりゃ!!ていやっ!!」
ノトガー「よっと…。ちょっと椅子取って!…ほっ!」
チークマ「あれ、僕のボールはどこいった?あーあったあった」
 
 
 
一匹のクマが、的に向かって次々とナイフを投げていきます。
ナイフは全て的の真ん中に命中!!
一寸の狂いもありません。
二匹目のクマは、ボールの上で上手にバランスを取っています。
さらにボールの上に椅子を乗せてその上で逆立ちをし始めました。
すごいバランス能力です。
そして三匹目のクマは、たくさんのボールを使ってジャグリングを始めました。
さらにボールからナイフへと変り、難易度はアップ!!
見ているだけですごいです。
 
 
 
シルックマ「みんなー!!そろそろ休憩したら?向こうにハチミツレモンを用意したよ-」
クロ「気がきくなぁ。んじゃちょっと休憩するか。」
チークマ「そうだね」
ノトガー「んーっ、疲れた!」
 
 
 
おもいおもいの話をしながら、クマ達は休憩するためテントの外へ出て行きました。
しばらくして、女の子は箱の中からチョロッと顔を出すと、
周りにクマ達がいないのを確認し、ゆっくりと出てきました。
 
 
 
ジル子「ビックリした…。怒られたら怖いし、もう帰ろう…」
 
 
 
女の子はテントから出るべく、入り口の方へと歩き始めます。
すると、先ほどクマ達が使っていたナイフや大小のボールが置いてあるではありませんか。
女の子はそれから目が離せません。
 
 
 
ジル子「さっきのクマさん達、カッコよかったなぁ。私にもできるかなぁ!」
 
 
 
本当は勝手に使っちゃいけないことは分かっています。
でも女の子はやってみたくてやってみたくて、つい大きなボールの上に乗ろうとしてしまいました。
 
 
 
ジル子「よいしょ…っと。うわっ、うわわわっ、っと…あぁっ!!キャァ!!」
 
 
 
【ズドーン!!!!】
 
 
 
ジル子「イタァい…」
 
 
 
女の子はバランスを崩してしまい、派手にお尻から落ちてしまいました。
やはり、そう簡単にはいかないみたいです。
 
 
 
ジル子「これはもういいや!次はこれをやってみよう!!」
 
 
 
本当は勝手に使っちゃいけないことは分かっています。
でも女の子はやってみたくてやってみたくて、つい小さな玉を手に持ってしまいました。
 
 
 
ジル子「どうやってたっけ…。えいっ!えいっ!あぁ飛んでっちゃった。えー?こんがらがっちゃう~。」
 
 
 
どうやらうまくできないようで、女の子は悪戦苦闘しています。
 
 
 
ジル子「今度こそ…。えいっ!えいっ!…イタッ!!」
 
 
 
女の子は失敗してしまい、上から落ちて来たボールに頭をぶつけてしまいました。
やはり、そう簡単にはいかないみたいです。
 
 
 
ジル子「痛いのはもうイヤ!!次はこれをやってみよう!!」
 
 
 
本当は勝手に使っちゃいけないことは分かっています。
でも女の子はやってみたくてやってみたくて、ついナイフを手にしてしまいました。
お母さんからも『刃物は危ないから勝手に持ってはいけないよ』と言われていたのに。
 
 
 
ジル子「あの的に投げればいいのね。えいっ!!」
 
 
 
子供には少し重みのあるナイフ。
投げるのだけで精一杯…そんな感じだと思いきや、なんとナイフは的に命中しました。
 
 
 
ジル子「当たった!!!すごーい!!!おもしろーい!!!」
 
 
 
 
女の子は大喜びです。
女の子はおもしろくてつい、次から次へとナイフを投げ始めました。
おもしろいようにナイフは的へと吸い込まれていきます。
まさに百発百中です。
 
 
 
女の子がまたもう1本投げようとした…その時!!!
 
 
 
クロ「誰だ!俺のナイフを投げているのは!!」
ジル子「えっ!?」
 
 
 
休憩から戻ってきたクロが、女の子の後ろで仁王立になり睨みつけていました。
後ろにはのとクマ、チークマもいます。
クマ達は一斉に注意し始めました。
 
 
 
ノトガー「君、町の子?勝手にテントの中に潜り込んじゃダメじゃないか!」
チークマ「しかも小道具を勝手に使ったね?危ないから勝手に使っちゃダメだよ!」
クロ「俺のナイフは特にそうだ!!子供の使うもんじゃねぇよ!!!」
 
ジル子「ゴメンなさい…どうしても中が知りたかったんだもん…。やってみたかったんだもん…。ふぇっ…」
 
クロ「あぁ泣くな!!泣かれるとどうしたらいいか分からないじゃないか!!」
ノトガー「もー。君が怒鳴るから怖くて泣くんだよ」
クロ「あぁそっか」
チークマ「ねぇ君。僕達もう怒ったりしないから泣かないで。…サーカスの中は楽しかった?」
 
 
 
泣き始めてしまった女の子を見たチークマは、優しく話しかけました。
すると女の子は泣きながらもチークマの言葉にコクコクと頷きます。
 
 
 
チークマ「そう。それはよかった。それじゃ、使ってみた道具の中で、どれが一番楽しかったの?」
 
ジル子「ナイフ…」
 
クロ「さすが俺のナイフ!子供をも魅了してしまうんだな!まぁ、子供にはまだまだ扱えないだろう…が…な………はっ!?」
ノトガー「どうした?…?……!!!」
クロ「なんだと!?なんでこんな子供に全部命中できるってんだ!?なぜだ!?」
ノトガー「分からないよ!!でもすごいや!!」
チークマ「才能…ってやつかな」
クロ「才能…」
 
 
 
目を凝らしてよく見ると、的にはナイフが刺さっているではありませんか。
ナイフの数は10本。
的に刺さっている本数も10本。
全て命中しているのです。
クマ達は驚きを隠せません。
女の子の投げたナイフを目を疑うように見ています。
しかし女の子には何がなんだかサッパリ分かりません。
 
 
 
(なんだかいけないことをしてしまったのかな)
女の子はそう思い、ずっと下を向いて呟くように謝っています。
 
 
 
ジル子「ゴメンなさい、ゴメンなさい…」
クロ「おい、一回このナイフを投げてみてくれないか?」
ジル子「え?」
クロ「俺が許す。だから投げてみてくれ」
 
 
 
ずっと謝っていた女の子に、クロは言います。
女の子はよく分からないけど、とりあえずそのナイフを受け取り、的に向かって思いっきり投げました。
またもや的の真ん中に命中です。
 
 
 
クロ「マジかよ。……なぁ、ちょっといいか?」
ジル子「…何?」
クロ「俺と一緒にナイフの腕を磨かないか!?お前には才能がある!!俺が開花させてやる!!」
ジル子「えぇぇ!?」
 
 
 
女の子は驚きを隠せませんでした。
 
 
 
ジル子「私なんかでいいの?私、何もできないよ?」
ノトガー「大丈夫だよ!クロが認めたんだ、きっとサーカスのスターになれるって!」
ジル子「スター…?」
チークマ「サーカスは楽しいよ!!」
 
 
 
女の子はビックリです。
まさか自分にそんな才能があろうとは。
でも、このクマさん達は自分を必要としてくれている。
それだけでもなんだか嬉しい、そんな気分になりました。
そしてクマ達の言葉を聞いた女の子は決めました。
 
 
 
ジル子「………よし。私、やる!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
ここはクマのサーカス団。
クマ達は日本中を旅しながら回っているのです。
今日も朝早くから団員達は大忙しです。そして団員の中に女の子の姿が。
あの女の子も今では立派なサーカス団の一員、紅一点です。
クロにナイフの腕を磨かれ、めきめき上達していました。
 
 
 
ノトガー「誰か!!俺のボール知らない?もうすぐ公演始まるってのにー!!」
シルックマ「あぁ!!衣装が裏表逆だ!!」
チークマ「そこにある帽子とってよー」
クロ「おい、俺のナイフ取ってくれ」
ジル子「はい!」
 
団長リリョックマ「さぁみんな!!今日の公演も頑張って盛り上げてくれよー!!」
クマ達「はい!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
ここはクマのサーカス団。
今日も朝早くから、団員達は大忙しです。
 
 
 
 
 
 
 
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公演が終わった。
 
 
みんなは緊張の糸が切れたのか泣いたり笑ったり騒いだり。
部長は公演が無事に終わったことでほっと安堵していた。
 
 
練習と違って本番はいろんなハプニングがあるもの。
部員達はまだ興奮が納まっていないようで、口々に今回の公演のことを口にしだした。
 
『「この台重いー・・・」って所で、練習ではなんとも思わなかったのに台が重く感じたよ』
 
『俺はナイフがちゃんと命中して思わず「よしっ!」ってガッツポーズしちまったよ』
 
『ナイフ投げの練習の成果があったんだね』
 
『バランスを崩して尻もちつく所、はりきってやったから、涙でた!今も痛いっ』
 
『少女役でナイフ投げたけど刃物持つなって良く言われる。家庭科の調理実習でも、握らせてもらえないし!』
 
『そういえば部長、女役多いですよね。すっかり女装が板についてきましたし!何だかちょっと誇らしげに見えました!!』
 
『部長は演技はうまいけどアクションは苦手だよなぁー』
 
『でも嘘泣きうまかったですよっ!』
 
『ああ、あれは特技だから♪』
 
部長は得意そうに笑った。
それを見た他の部員達も大きな声で笑う。
 
この合宿で僕たちはいろんなことを学んだ。
そしてみんなで過ごした時間はとても楽しかった。
 
公演後に残ったのはやり終えた後のみんなの笑顔だった。
 
 
 
END