穴掘り妖精さん

Last-modified: 2008-10-16 (木) 19:45:41

穴掘り妖精さん


「すんごいファンシーでフリッフリな衣装着て両手をぐわっと広げて微笑んでた、希望は乳でかいねーちゃんがいいn)`ν゜)・;'??」
「何、馬鹿なこと言ってるんですか」
「漢の願望」
「では、こんなのはいかがですか?」
「「え??」」




奈落……といえば薄暗い穴を思い浮かべる。しかし、ここクレ学演劇部では舞台中央付近にある“せり上がり”をこう呼んでいる。
この奈落は、何故か開くタイミングがまちまちである。しかも誰も操作していないのに突然開くのだ。その先はまさに奈落の底に繋がるような闇に包まれている……。


そして、今日も犠牲者が……。


一宮「……あれ……この辺に落したんじゃないのか……」
練習が終わって皆が引き上げた後、一宮は衣装の飾りが1つかけていることに気付いた。それを探して、部室から講堂までの道を逆に辿ってきたのだが、未だ発見できなかった。
一宮「舞台上で落して、誰か蹴飛ばしたのかなぁ……」
そして舞台中央までやってきた。
一宮「少し暗いなぁ……あ、アレかな?」
目的のものを発見した一宮は、それへ向って駆け出そうとした。


と、その時


一宮「うわっ!!!」
舞台の上から一宮の姿が消えた。


四隣「もう。一宮先輩は何処まで探しに行ったのかな……」
なかなか帰ってこない一宮を探しに、今度は四隣がやってきた。
四隣「あれ?これは先輩の上履きだ。何で舞台の上に?」
そこは丁度、せり上がりの境目だった。
四隣「まさか、この下に居たりして?えっ!!??」


一宮「イテテテ……なんだ?何処だここ??」
??「いらっしゃ~~~い」
一宮「??」
??「あら?こちらのBOY、なかなか可愛いわね~~」
??「アニキ~、抜け駆けはナシですぜ~」
背筋が寒くなった一宮。ナンダ、ココハ?てゆうか、誰?何?アニキ?へ?
妖精さん・甲「ほっほ~~!ようこそ奈落の花園へ!熱烈歓迎するわよ~~~ん」
一宮「!!!!」
それはスキンヘッドのムキムキマッチョな漢だった。しかも背中にファンタジーで出てくる妖精の羽根が“憑いて”いる。更にバラまで背負っている。彼らの口元からこぼれる白い歯が眩しい。
妖精さん・乙「なんや~?ビビっとるのか?わしら何もしてないで~」
また別の漢が出現する。だから、その笑顔は怖いって。
妖精さん・丙「ンん~びゅ~てぃふぉ~~。なかなかのイ・ケ・メ・ンだわ」
ゾゾゾゾーーーーーーー!!!
鳥肌が立つ一宮。いや、誰でもそうなるだろう多分。
妖精さん・甲「さぁ、剥いて差し上げますわよ~~~」
妖精さん・乙「お~ほっほっほっ!!!」
妖精さん・丙「逃げるなゴルァ~~~~」
一宮「ちょ、ま、マテ、イヤーーーーーーー!!!!!」


四隣「痛った……。って、ナンダココは?」
周囲を見回すが暗くて何も見えない。が、段々と慣れてくるとその場所が分かった。
四隣「……奈落に落ちたのか。でも、何で開いたんだろう?」
小道具と大道具、それに機材の操作もする四隣は冷静だった。無理に立ち上がらないで、格好は悪いが四つんばいになって、ゆっくりと出口へ向う。こうすれば、天井が低くなっていても頭をぶつける事は無い。
四隣「あ、出口だ」
四辺から明りが漏れているそこは外に出る扉。四隣は立ち上がって歩き始めた。が、もう少しで出口というところで漏れていた明りが、まるでろうそくの炎を吹き消したかのように無くなってしまう。
四隣「え?え?」
再び闇に包まれる。目が慣れるのには時間が掛かるが、真っ直ぐ歩いていけば出口に辿り着くのは間違いない。四隣は落ち着いて歩き始めたが……
??「あら~~ん。こんな所にも迷子ちゃんがいるわよん」
四隣「え?」
??「あらあらん。大変」
目が慣れてきた。目の前には自分より背が高い……人間??
四隣「キャ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
外見に似合わず(失礼)可愛い悲鳴を上げる四隣。しかし、それは目の前のヒトガタを刺激するだけだった。
妖精さん・松「あら~、可愛い悲鳴。食べちゃいそう」
え?
妖精さん・竹「だめよん。わ・た・し・の・も・の」
え?え?
妖精さん・梅「抜け駆けは、だ・め・よ」
え?え?え?
良く観ると、その姿は人間だが身の丈約2m、筋肉隆々のムキムキマッチョレディ。しかも背中にファンタジーで出てくる妖精の羽根が“憑いて”いる。更にバラまで背負っている。彼女達の口元からこぼれる白い歯が眩しい。
四隣「え?や、ちょっと」
妖精さん・松「さぁ、可愛がってア・ゲ・ル」
四隣「いや~~~~!やめて~~~~~~!!!」


??「…く……ん……」
うーん、誰だ?誰かが呼んでいる……。
??「……ぃ……ゃ……君……」
??「……ぃ……ぉぃ、だい……ヵ……」
うーん……もう少し寝かせて……
湊「こぉらぁ!!いい加減起きろ~~~~!!!」
え?
一宮「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
その声で飛び起きる。あれ、ココハドコ?ワタシハダアレ?
綺咲「やっと起きましたね」
天馬「ここで昼寝して、良い夢でも見れましたか?」
一宮「へ?」
見回すと、講堂の舞台上。丁度せり上がりの真ん中に一宮はお尻をペタンとついて座り込んでいた。
能登川「こっちに四隣君居ますよ~」
四隣はせり上がりに向う、舞台下へ潜る扉前で倒れていた。外傷は無い。
観月「四隣君、四隣君ってば!」
寒河江「本当に気絶しているだけなのかな……」
観月「呼吸しているし、むしろ寝ている方が近いかもよ。四隣君ってば!!」
ゆさゆさ。なんだか気持ち良い揺れだなぁ……。
四隣「……あと5分~むにゃむにゃ……」
寒河江「…………」
観月「…………」
上体を起こしてゆすっていた観月は、ぱっと手を離す。ぐらりと四隣の上半身は後ろへ倒れる。
ゴイン!!
四隣「ぎゃ~~~~~~~~スッ!!!」
後頭部強打。これは痛い。
観月「ほっといて行きましょう」
寒河江「あー、うん……」
四隣「あ、ちょ、待ってくださいよ~」


部室。
湊「……で?ムキムキマッチョが灰を剥いたわけ?」
一宮「いや、剥かれる前に意識が飛んだ……」
天馬「貞操の危機は去ったわけですか?それとも?」
一宮「何にも起きてネェ!!!」
天馬「あら、残念」
そこ、何か違う。
綺咲「でも、その……ぷっ……」
一宮と四隣から話を聞いた一同。しかし、その話を思い出しただけで噴出してしまう。堪えるのに必死だ。
一宮「あーもう。どうせ夢でも見てたんだよ、そーなんだよ」
四隣「でも、2人同時に同じような夢なんか見るんですか?」
問題はそこだった。性別の違いはあれど、殆ど同じなのだ。


妖精の羽根が生えたムキムキボディビルダー。


和泉夜「良く分かりませんね……」
釈迦如来「それって、コレの事?」
声のした方を観る。衣裳部屋のドアが開いたその向こう側。
一宮「あーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
そう。一宮が遭遇したマッチョメンがそこに居た。
黒羽「だから、もういいってば」
桜沢「ジールくん、程々にしておこうよ……」
綺咲「ひぃ!!」
湊「あ、あれって……」
以前、湊が発見して部屋の奥深くに封印したはずのボディビルダー着ぐるみだ。誰が見つけたのか?
湊「ジールがそれ見つけたの?」
天馬「あー、発見したのは俺です」
一宮「なっ!?」
衣装と小道具の整理をしていた時、偶然発掘したものだった。その時一緒に居たのは釈迦如来と能登川。
能登川「元に戻したはずなんですが……」
言いつつ天馬を見る。
天馬「誰が持ち出したんだ?」
その言葉に部室に居る視線が、一人、いや三人に集中する。
湊「キミ達、チョットココに座りなさい」
釈迦如来「え?」
黒羽「お、俺も!?」
桜沢「あー、同罪ですか……」
一宮「お、お、お前らぁぁ~~~!!!」
マッチョマンの着ぐるみを持ち出して、悪戯を思いついたのは釈迦如来だった。後の2人はいわば巻き込まれた形。
釈迦如来「演技の練習だよ」
と、言われれば「なるほど」とも思う……のか?とにかく、この3人、湊他犠牲者2人からこっぴどく怒られたのは言うまでも無い。


湊「よし。これで封印完了っと」
能登川「しかし、誰ですかね?こんなもの持ち込んだのは」
天馬「先代達でしょ。相当な変態揃いだったと聞きますから」
綺咲「で、でも……ぷっ……」
また思い出し笑いを必死に堪える綺咲。
一宮「あー、もういいよ。無理に堪えなくても」
その一言でタガが外れたのか、綺咲は大笑いしている。つられて観月、寒河江、和泉夜にまで伝染している。
観月「お、おか、し……ぶっ!!」
和泉夜「バラ……バラがぁ……あははははは~~~」
寒河江「そ、そんなに、わ、らった、た……はははははは!!!」
湊「はいはい。そのくらいにしてあげようか。さて、実行犯3人は罰として部室掃除1週間」
釈迦如来「えーー!!」
黒羽「ジールのせいだぞ」
桜沢「……まぁ、仕方ないよね」
観念した3人は早速、掃除を始めた。


一週間後。
湊「はい、今日はココまで。お疲れ様」
釈迦如来「今日で掃除当番終わりー!」
一宮「だからって手抜きするなよ」
黒羽「分かってるってー」
四隣「では、お先です」
荷物を纏めて部員が去った後、掃除を始める3人。夕日が沈み切ろうとしたところでやっと終わる。
桜沢「終わったー」
釈迦如来「解放されたぞ~」
黒羽「誰のせいだか……」
桜沢「まぁまぁ。それより、もう帰ろうよ」
黒羽「そうだな」
釈迦如来「商店街寄っていこうよ。いつもの店で今日から新メニューあるみたいだよ」
黒羽「マジで?行ってみようぜ」
??「ほ~~~ほっほっほっほっ!!」
どこからともなく笑い声がした。
??「好き嫌いしていないか?べいべー」
??「牛乳飲んでいるか?」
??「体鍛えているかい?」
振り向く3人。そう、衣裳部屋のドアが開いている。その先には、ムキムキマッチョ妖精が3人、黒光りするボディでポーズをとっていた。


「「「い、いや~~~~~~~~~!!!!!」」」


(2008/10/05)仮END
(2008/10/16)