衣装室のマネキン

Last-modified: 2008-10-14 (火) 03:18:21

*衣装室のマネキン


部活時間が終わり、皆が帰ったはずの演劇部部室に人影があった。

湊「あったー。やっぱり置き忘れてたか……」

湊は帰り途中で、役者にとって命より大事な台本を忘れたことに気付き慌てて戻った。
こんな時は部長をやっててよかったと思う。
部室の鍵はしっかりと持っているからだ。
予想していたところで見つけて、今度は忘れずに鞄にしまう。

コトン。

湊「ん?」

何か音がした気がしたが……きっと気のせいだろう。
湊は先生に見つからないように、こっそり下校した。



翌日。
部室に入ると、衣装室に置いてあるはずのマネキンが部室のホワイトボードの前にあった。

湊「あれ?灰ーマネキンがこっちにあるんだけど、使った?」
一宮「使わないよ、マッチョなんて」
湊「だよなー。昨日戻った時もなかったし……」
一宮「誰かの悪戯か?」
湊「まさかジール!?でも鍵は僕しか持ってないしなぁ」
一宮「だよな。…とりあえず片づけておこうか」

皆が来る前にマネキンを衣装室へ運ぶ。
衣装室に入るには扉を開けなければいけないし、それなりの重さがあるので一人で運ぶのは困難だ。
それなのに……誰が動かしたのだろう。


黒羽「こんち……わっ!?」
天馬「?どうしたん……え?」
マネキンが動いている、と思ったら移動させているだけ。一瞬驚いた2人だがそのマネキンが……。
黒羽「ボディービルダー?」
天馬「兄貴ですか……また変態的アイテムが……」
湊「やぁ。ちょっと、手伝って」
一宮「意外と重たいんだよな、これ!」
パッと見た目だけでも重そうだ。全身こんがり日焼けした肌にスキンヘッド、目を細めて笑っている。口元からこぼれる白い歯が眩しい。
黒羽「で?これ、何、に、使っ、ていた、んだ?」
3人がかりでやっと移動させる。
湊「僕、も、知り、た、い、よ。お、重い~~~」
一宮「こん、な、手、の凝っ、た悪、戯、ジー、ルしか、居ネェ!!!」
ガラガラ。
天馬「コレに乗せましょう」
ベニヤ板に車輪が4つ付いた簡単な台車を天馬が転がしてきた。
一宮「流石、小道具担当」
湊「そこまで気が回らなかったよ」
天馬「まぁ、楽する方法考えただけです」
その台車にマネキンを乗せ、倒れないようにガラガラと押していき、衣装室の所定の位置で降ろす。
黒羽「ココでいいのか?」
一宮「オッケー」
練習の前に、ちょっとした運動になったか?いや、無駄な体力を消費しただけか?
黒羽「なんで、こんなもの持ち出すかな……」
湊「一人で持ち出すのは一苦労だよ」
確かに。今の様に台車を使うにしても、その台車に乗せるのが大変だ。
天馬「出来無いことも無いですけど」
そう言うと、降ろしたマネキンを上手く傾けて足で固定した台車に再び乗せてみせる。
一宮「そ、そんなやり方があるのか!?」
天馬「上手くやらないと、マネキンが抱きついてきますけどね」
それは勘弁して欲しい。再びマネキンを元に戻す。
黒羽「でも、その台車あれば運べるんだよな?」
確かに。しかし。
天馬「昨日修理したばかりですけどね、コレ」
湊「それで、残っていたのか」
昨日、湊が帰る前まで残っていたのは天馬だけだった。
一宮「そうすると、使用不可能か……」
謎は残るが、他の部員達も集まり始めたのでとりあえず、練習を始めた。



練習後。

一宮「俺、ちょっと残ってもいいかな?神村と」
湊「いいけど……どうかした?」
一宮「衣装を少しやっておこうと思ってさ」
湊「僕も手伝うって言いたいところだけど、今日はちょっと用事があるからダメなんだ。鍵預けるから任せた」
一宮「了解ー」
皆が帰って行く中、衣装担当の一宮と神村は衣装室に入る。
一宮「ぎゃーーっ!!」
神村「先輩っ。大丈夫っすか?」
そこへ一宮の悲鳴が響く。
まだ残っていた部員は「どうした?」と衣装室へ向かう。
一宮「マネキンが……助けて」
見ると、一宮はマッチョなマネキンに潰されていた。
倒れ掛かって来たようだが。
黒羽と四隣でマネキンを持ち上げて、神村が一宮を引っ張る
黒羽「大丈夫か?」
一宮「ぜーはーぜーはー。何とか」
黒羽「このマネキンって奥の定位置に置いたよな?何でここにあるんだ?」
一宮「そんなの俺が知りたいよ」
四隣「タイヤとかリモコンとか付いてませんよね?」
そう言って四隣は調べ始める。
四隣「おかしなスイッチもなさそうですねー」
神村「あっ、もしかしたら一宮先輩が”マッチョなマネキンは使えねー”って言ったから怒ったんじゃないですか?」
一宮「ちょっ……そんな恐ろしいこと言うなよ」
神村「ひとまずコレ、戻しませんか?」
神村が倒れたままのマネキンを指して言う。
一宮「そうだな」
黒羽「さっきも思ったけど、これ、重すぎないか!?」
神村「中に誰か入ってたり……」
一宮「どうやって入るんだよ?」
確かに、どこから見ても人の入る余地などない。見栄えはおかしいが、ただのマネキンである。
不思議に思いながらも再び定位置に納める。
一宮「ふぅ~、何か疲れた……今日はもう帰るか」
神村「そうっすね」

マネキンのせいで無駄な時間を過ごしてしまった。



次の日の朝。
一宮は授業が始まる前に部室に来ていた。
昨日何もできなかったので、少しでも衣装をやる為だ。
ガラッ。
勢いよく部室の扉を開ける。
一宮「……よし、奴はいないな」
またマネキンがあったらと思っていたが、さすがにありえないようだ。
ほっとしつつ、衣装室の扉を開ける。
一宮「うわっ!!」
そこには衣装を適当に身につけたマッチョなマネキンが妙なポーズで立っていた。
湊「えっ……灰?ごめん、驚かせちゃったな」
マネキンの横から顔を出したのは湊だった。
一宮「え…どうして?」
湊「思い出したことがあってさ。鍵預けたままだったから、先生の合鍵借りて」
一宮「何やってたんだ?」
湊「このマネキン、異常に重かっただろ?これ、リモコンで動くんだよ」
一宮「昨日、四隣が見た時は気付かなかったのに…」
何年か前の卒業生の贈り物らしい。
湊はそれを聞いていたのを思い出し調べに来ていた。
どこかにリモコンがあったはずだと、衣装をかき分けていたら、たまたまマネキンが身につけてるみたいになったようだ。
湊「ほら、これで」
湊がリモコンで動かす。
確かに腕と足が動くようだ。そのまま収納する。
一宮「何か……いやだな」
湊「念の為、リモコンは部室の鍵のかかる棚にしまっておくよ。処分するわけにもいかないからね」

キーン、コーン。
予鈴が鳴った。

一宮「あっ、また何もできなかった……」
湊「衣装?昼休みに手伝うよ」
一宮「よろしくー」
そうして二人は部室を後にする。
そして演劇部はいつもの練習風景に戻ることになる。
その後、誰が動かしたのか究明されることはなく、マッチョのマネキンが使われることはなかった。





(ありがとー。一応完成。何かあれば手直しして下さい)