1.OP~暗転

Last-modified: 2009-11-14 (土) 06:46:34

【OP】
 
「ど、どうしよう…」
 
理事長像を前に、呆然と立ち尽くす、一人の生徒。
彼の後ろには、やはり呆然とした表情で理事長像を見つめる数人の生徒の姿があった。
彼らは皆、演劇部員。
次の公演に向けての準備を進めていたのだが――…。
 
「…どうしよう…」
 
最初に声を発した生徒が、もう一度、小さく呟いた。
しかしそれに応える者はなく、無言のままその場に立ち尽くす彼らの視線を一身に受けた理事長像は、
ダンディな笑みを浮かべた顔の部分に、大きなヒビが、入っていた…。
 
 
【回想】
 
――数時間前。
 
釈迦如来
「みんなー、理事長の許可が取れたよー」
 
にこやかな表情で部室に入って来たのは部長の釈迦如来ジール。
手には、理事長のサインが入った一枚の書類が握られていた。
 
黒羽
「理事長の許可…って、あれか? 例の「ハリボテを作る」ってやつ」
釈迦如来
「そうだよ」
シルク
「それにしても、すごいこと考えますよね。公演で使う胸像のハリボテを作るのに、
 まさか、型を取るところから始めるなんて」
釈迦如来
「その方が、よりリアルな物を作れるからね」
シルク
「さすがはクレ学演劇部!って感じですね」
釈迦如来
「うん。本当に凄いよね」
 
どこか他人事のような口調で、冗談めかして笑う釈迦如来に、他の部員達も笑い出す。
 
次回公演の演目を決めた際、大道具として銅像を用意しなくてはならないという話になり、
それならばいっそ、本物から型を取ろうという話になったのが、数日前。
しかし、型を取れるような胸像がどこにあるのか…と話していたところ、
誰かが「理事長像は?」と言い出したことから、顧問である白雪先生を通して
「胸像の型を取らせてほしい」と、理事長に許可を求めていたのだ。
 
柿崎
「けど、良かったですね。無事に許可が取れて」
釈迦如来
「うん。白雪先生の話じゃ、快諾してくれたらしいよ。さすが理事長だよね!」
黒羽
「あぁ。さすが理事長だよな!んじゃ、早速型を取りに行くか!」
 
そうして、必要なものを揃えて理事長像の前へとやってきた部員達。
一番簡単な方法ということで、粘土で型を取ることにした彼らは、
早速、大量の粘土で理事長像を覆ってしまうと、
それが乾くまでの間、簡単な打ち合わせなどをして時間を潰した。
 
そして、充分に粘土が乾いた頃に、いよいよそれを外しにかかった。
 
葉月
「…そう言えば、これ、どうやって外すんですか?」
 
しっかりと乾いて硬くなった粘土は、少し触ったくらいではびくともしない。
 
黒羽 
「金槌で軽く叩くんだよ。そうやって、いくつかのパーツに分けて外すの。
 ただし、あんまり力を入れ過ぎるなよ。粉々になっちまうから」
葉月 
「了解です!」
 
黒羽の指示に従い、少しずつ粘土を取り外していく部員達。
そして、顔の部分の粘土を外そうとした時に、それは起こった。
 
柿崎
「…あれ。なかなか外れない…」
 
――ガンッ!!
 
柿崎
「あ…っ」
 
なかなか外れない顔の粘土に、少し強めに金槌を振るった瞬間、ほんの僅かに手元が狂ってしまった。
 
柿崎
「……!!」
黒羽 
「なんだ!?今の音!!」
 
衝撃で外れた粘土の下――、ダンディな笑みを浮かべた理事長像の顔の部分に、大きなヒビが、入っていた…。
 
 
【回想終了】
 
 
葉月
「ど、どうしましょう、部長!?」
釈迦如来
「え!?そんな、僕に振られても…!」
葉月
「だって、部長が責任者じゃないですか…!」
柿崎
「…ご、ごめんなさい! でも、そんなに力は入れてないのに…?」
シルク
「当たり所が悪かったんでしょうか?」
葉月
「こんな時にずいぶんと冷静だね…!あぁ、もう、どうするんですか、部長!!」
 
思わぬ事態に、部員達は、ほぼパニック状態になっていた。
本来ならば、皆を纏める立場にある釈迦如来も、あまりのことに頭が働かないのか、
ただ、おろおろとするばかりだ。
 
釈迦如来
「ど、どうにかして修復できないかな…」
葉月
「どうにか、って…。あ、粘土で埋めてみるとか!」
シルク
「すぐにバレると思いますけど…」
葉月
「じゃあ、いっそ、このまま逃げるとか!!」
黒羽
「逃げて、その後どうするんだよ」
 
壊れた胸像の修復方法など、そう簡単に思い浮かぶはずもなく、半ば自棄で叫んだ葉月。
 
黒羽
「とにかく!!みんないったん落ち着け!!」
 
黒羽は、混乱する部員達の意識を引き寄せるように、大きく声を張り上げた。
そして、自分の考えを話し始めた。
 
黒羽
「いいか。理事長の胸像にヒビが入っちまったのは、事実だ。
でも、それをどうすると騒いだところで、どうかなる問題じゃないだろう。
だったら、俺達が、今するべきことは一つだ」
 
冷静に言葉を紡ぐ黒羽に、パニック状態に陥っていた部員達も、徐々に落ち着きを取り戻す。
自分に集まるみんなの視線に、パニックが治まったことを確認した黒羽は、
まるでイタズラを思いついた子供のように、ニヤリ、と口の端を持ち上げた。
 
黒羽
「胸像を、偽物とすり替える」
全員
「ええぇっ!?」
黒羽 
「幸い、俺達の手元には、理事長像の型がある。これを使えば、胸像の偽物くらい、すぐに作れるだろ」
釈迦如来
「そりゃあ、作れるだろうけど…。でも、すり替えて、どうするのさ?」
黒羽
「本物を修理に出すんだよ。で、戻ってきたら、また偽物とすり替えればいい」
釈迦如来
「確かに、それが一番かもね」
シルク
「けど、偽物なんて、すぐにバレません?」
黒羽
「だから、バレないように作るんだよ」
釈迦如来
「大道具にしろ、小道具にしろ、いかに本物っぽく作れるかが、裏方の腕の見せ所だからね」
 
頼もしい笑みを浮かべて話を纏めた釈迦如来と黒羽。
そうと決まれば早速行動、と、彼らが動き出そうとした時、
それまで後ろの方にいた柿崎が、小走りに前へと進み出た。
 

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【ここから先は付けるか付けないか保留】
 
柿崎
「あの…っ!」
釈迦如来
「うん? どうしたの?」
柿崎
「あの…、本当にすみません! 俺のせいで、こんな…」
 
深々と頭を下げる柿崎に、釈迦如来と黒羽が一瞬顔を見合わせる。
 
黒羽
「別に柿崎だけのせいじゃないよ。だからそんなに気にすんなって」
釈迦如来
「そうだよー。こういうのは連帯責任なんだから、気にしちゃダメだよ」
柿崎 
「でも…」
黒羽
「アレは作業中の事故なんだから、壊したのは『演劇部』。
 柿崎にも部員の一人としての責任はあるけど、それ以上のものは何もないよ」
 
優しく諭すような黒羽の言葉に、泣きそうな表情を浮かべた柿崎は、もう一度ペコリと頭を下げた。
 
柿崎
「…はい。…ありがとう、ございます…」
黒羽
「寧ろこの場合、ジールに部長としての責任が…」
ジール
「えぇ!?僕!?」
黒羽 
「だってそうだろ。部長なんだから」
釈迦如来
「総司、ひどいー」
黒羽
「ひどくない」
 
いつの間にか、それぞれの行動を開始しながら軽口の応酬を始める黒羽と釈迦如来。
そんな二人の姿を見た部員達の間に、自然と笑いが広がり、演劇部は少しずつ、
いつもの雰囲気を取り戻していった…。
 
(暗転)