ペンギンとは……鳥である。
ああ見えて鳥である。
所謂海鳥の一種で飛べない……けど鳥なのである。
でも泳ぎは得意という変わった鳥なのだ。
そんなペンギンなんだけど昔はなぜか好きでぬいぐるみとかグッズ持ってたりペンギンフードのパーカー着てたりしてたっけ。
「マヤちゃんどうしたの? ボーッとしちゃって」
「ん? いや何でもない」
語りかけてきた幼なじみにそう答える,幼なじみの名前はメグ。
おっとり天然系な女の子だけど最近は結構しっかりしてきた。
今私達は2人で学校の帰り道を歩いてる,放課後ナツメとエルにバイト研修をお願いされたんで早めに帰ろうと思ってるところ。
……いや,ナツメはお願いと言う割になんか睨んでたな。
それは兎も角最近思うことがあって。
何かと言うとメグと2人一緒に帰るこの時間のこと。
少し前まではここにチノが居て3人いつも一緒だった、それが再び私達2人だけの時間が増えた。
……メグとは昔からの,物心ついた時からの付き合いで。
それがあまりにも当たり前過ぎて,幼なじみがいつも隣に居てくれることの大切さを忘れてたんじゃないかって思いはじめた。
──2人だけの時間
「マヤちゃん。空ってなんで青いんだろう?」
と考えているとそんなことを尋ねてくる。
えっと、ここは真面目に答えるべきか、ボケるべきか。
よし、ボケ返してみるか。なんて思ってたらメグが話を続ける。
「でも日が暮れると赤く染まっていったりする……」
「えっと、そうだなー。そういえばさ,以前紫色の空を見たことあったよ」
ボケるはずがメグの言葉に対して,真面目に過去の思い出話をする私。
「紫色か……私もある! 不思議な光景だよね」
「そうそう、紫色ってなんか神秘的だよね」
「神秘的といえば、以前エルが自分の瞳をメグに褒められたって喜んでたな神秘的だって」
「そうだったんだ~エルちゃんナツメちゃん、宝石みたいな目をしてるよね」
神秘的……そういや私は不思議な体験をしたことがあった。
ココアと2人でゲームセンターで遊んだものの後日そのゲームセンターはどこにもなかったのだ。
……思えばこの街って時々不思議なことが起こるような?
「まだまだこの街を探検しつくしてないな私は」
と言うとメグは少し首を傾げて
「どうしたの急に?」
と少し微笑んで、更にこう続ける。
「また昔みたいに2人で街の探検する?」
なんとなくメグも私の気持ちに気づいたのか、そっと肩を私に寄せてくる。
いつの間にか身長も差がついちゃったね。
でも肩越しにくる温もりと癖っ毛は昔と変わらないな。
メグの匂いも。その笑顔も。
「いいね、宝探ししようか。ブラバ組にこの街のことをもっと教えたいしなー」
ふと空を見上げる、雲一つない青い空が私達をまるで包むかのような不思議な気持ちになる。
空か、空から街を見下ろしたらまだまだ知らないこの街の一面を知れるかな。
「……空を飛べたらなあ」
と思わず呟くとメグは
「さっきからなんか変だよマヤちゃん」
とか言うので
「たまにはペンギンの気持ちになるのもいいでしょ?」
とワザとテキトーな返事をする。
だってなんだかメグの自分の気持ちを伝えるのムズムズするんだもん。
「ペンギンか~マヤちゃんペンギン好きだったもんね」
そう言ってメグは髪をさり気なくかきあげる。
確かにふわふわな癖っ毛は今も昔も変わらないのだけど、でもどこか雰囲気は大人びた感じで。
「うん、私は……今も昔も変わらない」
私はそう呟く、するとメグから意外な言葉を貰う。
「そうだね~今も昔もマヤちゃんは私の隣に居てくれるもんね」
「……ね、メグ? 私は……その、もっとかっこいい方がいいかな」
その私の言葉に少し驚いたのか、目を少し大きく見開いて。
「マヤちゃんは、今のままでいい!」
そう真っ直ぐ私を見て言うメグ。
「メグだって、変わらないで欲しいんだけど」
「えっ……私なんか変わってる?」
するとメグはクルッと一回転してみせる。
スカートのプリーツを少しはためかせて、ちょっとかわいいと思ってしまう私。
「いや、やっぱり変わってないよね。ずっとそのままでいてよ」
そう言い返すとすかさずメグは
「うーん、でもマヤちゃんに釣り合う為にはもっと大人っぽくなった方がいいかなとか思ってた」
「……私に? 私が大人っぽく見えるってこと?」
「マヤちゃんは自分のこと気づいてないんだろうけど、色んなことに気遣えられる所。かっこいいと思ってるからね?」
「いきなり褒めないでよ、照れるじゃん」
メグとは普段気の置けない仲というか自然とやり取りしてる仲なんだけど、最近そんなやり取りの中で心が弾んだり、ワクワクしたりすることが増えてきた気がする。
昔はただただ2人一緒だったけど、チノとも仲良くなって、その結果ココア達とも知り合って。
逆にチノとは学校が別々になったけど。
──そっか。だからこそ大切な人と一緒にいることの重要さ、そんなことを知れたんだな。
昔はずっと私の後ろをついてきてたのに今は私の横に並んで歩いているその人。
自分では気づいていないんだろうけど、私にはわかるんだ。綺麗に、魅力的になってるって。
だって幼なじみだから。
私はメグにとってたった1人の。
でも幼なじみってだけで満足してていいのだろうか。
メグを縛り付けるのではなく、メグから私の隣にいたいって思えるような大人になりたい。
「最近マヤちゃん物思いに耽る時あるよね」
「えっ、あーそうかな……?」
「昔は考えずに行動するマヤちゃんだったけど、やっぱり変化してるんだね」
そう言うメグ。微笑んではいるけどどこか寂しそうな雰囲気もあって。
それは私がただ大人っぽくなっているのが寂しいとか、きっとそんな理由じゃない。
「メグはさ、よく私を見てるよね」
「だってマヤちゃん、目を離すとどこか……」
「なんだよー、やっぱり落ち着きない奴と思っているな?」
メグは静かに首を横に振って
「ううん、置いていかれないようにって」
メグは私をジッと見つめてそんなことを言う。
メグから感じる寂しそうな雰囲気の正体。
それはきっと私がメグに対して思っている感情と同じ。
「置いていかない! 一緒に同じペースで歩くって約束したじゃんか」
「そう! 約束!!」
私もメグを見つめる。その赤い情熱的な瞳を私はジッと。
そしていつしか私は唇をメグの、大切な幼なじみの唇に重ねていた。
柔らかくて熱い感触はいやらしさより懐かしさがこみ上げていく。
ずっとずっと小さな頃から思い出という宝物を2人で見つけて集めていた。
そして一番の宝物は何よりも今目の前にいる人だと最近になって気づいたんだ。
──静かに唇を離すとメグは自分の髪を指先で遊ぶ。
そして照れながらも私に向かって、少し荒い息のままその思いを伝えてくれる。
「大人になるのも、なってからも一緒だよねきっと」
「勿論、メグを大人のレディーにするのは私の役目だからね」
強がって言ってみせたけど、多分私の顔は真っ赤。
メグと同じように……ね。
「ならマヤちゃんをかっこいいスーパーマヤちゃんにするのは私の役目だね、頑張らないと!」
「な、なんだよそれ?!」
「マヤちゃんウォッチャーとしてこれからも突き進むよ~えっへん!」
「いやいやそんな観察対象みたいに……」
そんなやり取りをしつつ私達は一緒に深呼吸なんてして。
そしてまた一緒のペースで歩く。
ナツメとエルに落ち着いた大人な雰囲気でコーチしてやらないといけないからね。
「なんだか毎日楽しいよね、新しい発見があるというか」
とメグが言う、確かにメグといると色んな発見がある気がする。
2人で見る景色は自分だけで見るよりも色々な見方が出来るんだね。
いや、景色だけでなく自分のことさえも──
「発見か……そうだなー。やっぱり持つべきはメグだな」
「なにそれーどういう意味~?」
私は敢えて答えず心の中で『宝物ってこと』と呟いた。