麻弥イヴ

Last-modified: 2024-04-26 (金) 01:04:03

ある日。pastel *palettesの5人は収録後に珍しく時間があるということでメンバーの1人,イヴの出演する映画を見に行った。その映画は所謂ホラー映画で,特に彩は見たくないであろうものだった…の、だがメンバーの映画なので見なくてはと頑張ることにしたのだった。
「うう…怖いよ…」
「彩ちゃんったらホントに大袈裟だなぁ、だいじょーぶ,へーきだって」
「大袈裟じゃないし,ちっとも平気じゃないよ…。しかももう外も暗いんだよ?」
「どうしてもなら,別に帰っても大丈夫よ?」
本気で怖がっている様子の彩に,千聖は見兼ねて提案する。
「ううん,イヴちゃんの映画だもん,頑張る!」
「お気持ちは嬉しいですが,アヤさんが辛いのは嫌です。構いませんよ?」
「大丈夫だよ!皆がいるし!」
「あ,そろそろ入場始まるみたいですよ」
麻弥に言われ,4人はサッと動き出した。そして入場券を提示してシアターに入る。
「おぉ,ほぼ満席じゃないですか!」
「本当ですね…!嬉しい限りです…!」
言葉通り、シアターはほぼ満席。それを見たイヴは感激している。
「流石,イヴちゃんの単独映画初出演は注目されているし、他のキャストの方も豪華だわ。当然ね」
「うう…。私も感動で泣けてきちゃったよ…」
「全く、彩ちゃんの涙脆さも流石だね~」
そんなやりとりをしているうちに,遂に映画が始まった。緊張しているようで,彩は両隣の千聖と日菜の手を握る。2人はいつも通りだなぁとその手を握り返したのだった。
映画はまず1人目の被害者が怪奇現象に襲われるところから始まる。突然部屋の明かりが消え,被害者が戸惑う…。そして悲鳴と共に場面が切り替わった。
彩は既に涙目。そして実は千聖も(流石、顔には出ていないが)怖がっている。日菜はそれを感じて悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
一方、麻弥は困っていた。別段ホラーに耐性があるわけでもないので怖いことには怖い。…が、そんなことよりイヴが自分の腕に抱きつくような格好になっていることの方に意識が行っていた。
ー何だか,ドキドキする。
嫌な訳では無い。それは全力で否定できる。そして勿論映画が怖いという意味でのドキドキでもない。分からない,知らない感覚。感情。それに麻弥は名前をつけられずにいた。
そしてイヴの方は,ただただ映画が怖いということで頭が一杯でそんな麻弥に気づかない。
ーー麻弥にとって、かなり困った状況となっていたのである。
「____っ!」
そんな横では彩か悲鳴を堪えていた。映画の音を邪魔しないよう小声でその両隣の2人は話しかけた。
(大丈夫~?)
(う、うう…。イヴちゃんだっては、分かってるけど…。怖いよぉ…)
(気持ちは、分かるわ…)
そう、この映画…。敵、というかお化け役がイヴなのである。曰く、その容姿がその役のイメージにピッタリだと監督のお墨付きだったらしい。その結果、彼女に白羽の矢が立ったのだという。いつもの雰囲気とはまるで違う、儚さと不気味さが合わさった演技に見ていた面々は(主に2人)結構本気で怖がっていたのだった。
「こ、怖かったぁ…。凄く本格的だったし…」
「結構、面白かったと思うよ?あの3人目の被害者がやられるとことか」
「それは日菜さんだからでは…」
「アヤさん、大丈夫です!私も怖かったですから!」
「怖かったのね…」
何だかんだで映画も終わり、5人は帰路についた。
________
翌日。事務所には麻弥とイヴの2人がいた。
「昨日の映画、どうでしたか?」
イヴからの問いに、麻弥は言葉に詰まる。無理もない、上映中はそれどころでは無かったのだから。
「…面白くなかった、ですか?」
答えない麻弥に、不安気に言う。
「いやそんなことないです!」
「でも、マヤさん、黙ってました…」
「あ、あの!これは!」
必死で麻弥は弁解する。だがイヴはそれをフォローと受け取ってしまったらしく、視線を落とした。
「…」
「い、イヴさん…。そうじゃないんです」
「いえ!フォローは要りません!悪い所も理解して受け入れるのがブシです!」
「その、ジブン…。恥ずかしながら、映画の内容が入ってこなくて…」
「どういうことですか?」
「イヴさん、映画の上映中、ずっとジブンの腕に抱きついてたじゃないですか」
心当たりがないらしく、イヴは首を傾げた。
「無意識だったのかもしれないですが、ずっとそうでした」
「えぇ!?き、記憶にありませんでした…。でも、どうしてそれで内容が入ってこないんですか?」
「そ、それは…。理由は分からないんですが、ドキドキしてしまって…。その…」
その時、言い淀む麻弥の手を、突然イヴがしっかりと握った。
「今も、ドキドキ、しますか?」
「え⁉︎えぇっと…」
正直言うと、していた。でも何だか恥ずかしい。
「どうですか?」
「…して、ます」
そう言うと、もっと予想外の展開になった。
「それって、私が好きだからですか?」
「!」
好きだから。自分のドキドキの理由は,それだ。納得が行った。昨日の夜からのもやもやとした胸のつかえが消えていくような気がした。
ーー自分は、目の前の、彼女が好きなのだ。友達としてでなく、恋愛として。
「マヤさん」
イヴは真剣な眼差しで麻弥を見て、話し出した。
「私、マヤさんが好きなんです。その…恋愛対象として。アイドルとして相応しくないだとか、凄く悩んで、でも自分らしく頑張っているマヤさんが、大好きなんです」
「イヴさん…」
「…すみません。勝手、ですけど今言ったことは忘れて下さい。変、ですよね…」
そう言うとイヴはその場を立ち去ろうとする。そんな彼女を麻弥は咄嗟に呼び止めた。
「イヴさんッ‼︎」
自分でも驚くような必死な声。イヴはその声に立ち止まった。
「マヤ、さん…?」
振り返った彼女はとても驚いた顔をしていた。
「ジブンも…。ジブンもイヴさんのことが、そういう意味で好きです!だから、今のことを忘れるなんて、できません」
「本当、ですか?」
「こんな時に嘘なんて吐けませんよ」
思いが通じた2人は、幸せそうに笑い合ったのだった。
「もー、入れないなぁ」
「うう、感動で涙が止まらないよぉ…」
「本当に相変わらずね、彩ちゃんは。…そういう所、好感を持てるけれど」
「千聖ちゃん?今…」
「な、何でもないわ…!」
「ホントに皆って、いつでもるんっ♪てさせてくれるよねぇ…。あたしもおねーちゃんに会いたくなっちゃったなぁ」
外にいる3人に麻弥とイヴか気づくまで、あと数秒。