人生には何が起こるから分からない。だから、おもしろい。
学校で読んだ国語の教科書に書かれた一節が、カフェラテを飲む果林の頭にふと浮かぶ。読モの撮影会を終えて、近くの喫茶店でゆっくり過ごすのが彼女の楽しみの1つだ。(最初は道に迷ってたまたま入店しただけ)
「ふぅ…今日もたくさん写真撮れたわね」
スクールアイドルをしてからは今まで以上にファンが増えては、SNSでもコメントをもらえて充実した日々を送っている。その分、今まで以上にダンスはもちろん、この高校生離れした抜群のスタイルを維持しなければならない。
大変だが、ここの喫茶店はそんな身体に不思議と癒される。路地裏でひっそりと営業して、静かなジャズのbgmとおしゃれなインテリア。カフェラテも美味しく、ここは果林にとって癒しの場所となっている。
「セクシー系スクールアイドル」の肩書があるよう、B88・W57・H89と本当に女子高校生なのかと思われることもあるが、自分以上にこのスタイルの上を行くスクールアイドルはいるのかと考えるときもある。
カフェラテを飲み終え、寮まで帰る途中。ある女性が近づいてきた。
「朝香果林さんですよね!?スクールアイドルの!私、ファンなんです!サイン頂いてもいいですか!?」
まるでせつ菜のように大声でサインを求められた。果林は彼女がくれた紙に自分のサインをサラサラと書く。書き終えたサインを貰い女性は嬉しくなり、ハイテンションのままお礼を伝えてその場を去った。
その時だ。果林は女性が落とした物を拾う。
「何かしらこれ?」
拾うと自分の写真集だった。それ程自分の事が好きなファンだと思い、適当にページをめくると驚きを隠せなかった。そのページには朝香果林と朝香果林がペアになっており、自分同士でキスをしていたのだ。
「な、何よこれ…」
なぜ、自分が2人いる?なぜ、自分同士でキスしている?こんなの撮った覚えはないはず。他のページも読んでみると、自分同士で胸を押し付けたり、自分同士で抱きしめ合ったりと、こんな事した覚えがないのにページをめくる度に2人の自分が淫らな行為をして恐怖を感じた。
「何なのよコレ…」」
セクシーを売りにしている果林だがここまで淫らな事はしたことがない上に、初めて見る自分同士の姿に興奮して顔を紅くしていた。
そして、ふと自分の声がハモっているのに違和感を感じて横を見ると、そこには鏡があった。いや、正確には朝香果林の隣に朝香果林がおり、第三者から見れば朝香果林が2人いる光景だ。
「「きゃああっ‼あ、あなた誰よっ⁉」」
目の前には自分と同じ姿をした人間がいる。見た目はもちろん、声のトーン、制服、バッグ、靴まで全く同じなのだから余計に恐怖を感じていた。
「わ、私は朝香果林よ…あなたは誰なのよ?」
「変な事言わないでちょうだい…朝香果林は私よ」
「違うわよ!私が朝香果林よ。偽者さん?は黙ってもらえるかしら?」
「偽者?違うわよ。私が本物の朝香果林よ。あなたが偽者でしょ?」
「違うわよ。私が!」
「私が!」
互いに自分が本物で、目の前にいる人物が偽者だと思い込んでいるが、それは目の前の人物も同じことを言っているのだ。
しかし、ここだと他の人達から異様な目で見られ、この偽者から離れたいと考えたのでその場を後にする。しかし、もう1人の果林も同じ方向へと歩き始めたので互いに相手を牽制する。
「ついてこないでもらえるかしら?」
「それはこっちの台詞よ」
果林が右へ曲がれば、もう1人の果林も右へ曲がり、果林が左へ曲がれば、もう1人の果林も左へ曲がる。どこまでもついてくる偽者に果林は怒りを感じた。
「「ついてこないで!」」
逃げても逃げてもついて来る偽者。この人物は一体何なのか。なぜ、自分と同じ姿をして、自分を追いかけてくるのか。考えれば考えるほどわからなくなり、果林と果林はずっと同じ動きをする。
このままだと埒が明かないと考えた果林はとんでもない事を思いつく。
(いくら偽者でも、私のボディまでは再現できないはず。ならば…)
覚悟を決めた果林と果林はとあるホテルの前に立ち止まった。ホテル言えど、高級ホテルやビジネスホテルとは違う雰囲気。ラブホテル。ここでこの偽者と勝負することにした。
「「ここで決着をつけましょう?」」
そして、適当に部屋を選び2人はシャワーも浴びずに制服を脱ぎ下着姿になる。豊満な胸を支える紺色のブラジャー。秘部を隠すレースパンツ。さすがにここまでは一緒のはずではないと考えていたが、なんと下着姿までもが完全に一致しているのだ。
「「うそでしょ…なんで…?」」
ここまで一緒なんて誰が想像できたのだろうか。果林は頭を回転させて何か偽者に勝つアイデアを考えた。自分はセクシーを武器にしている。ならば、より刺激的なポージングをしてやれば相手も悩殺できるはずと考えた。
「「もしかして、私の魅力に勝てると思う?」」
余裕の笑みを浮かべてさっそく勝負に入る。両腕を上げて胸を揺らしてみる。豊満な胸がプリンのように小刻みに揺れるシーンは誰もが興奮するはず。しかし、相手の全く同じポージングをしてきた。
「「…っ‼」」
次に腕を組んで胸を押し寄せて前かがみになる。バレーボールのようにむにゅっと形を変える胸だが、やはりここでも同じポーズをする。
「「いい加減私の魅力に負けたら?」」
それでも、2人の果林は負けたくない一心で更にポージングを変える。今度は桃みたいにつるんとしたお尻を揺らして魅惑のポーズをする。後ろ向きで相手を見るが、相手も全く同じ動きをする。
更に足を大きく開いてもはや大事な部分でも見せてあげるように、レースパンツの上から指を動かしてアピールしてきた。しかし、それも相手は同じ動きをしてきた。
その後も様々なポージングしても一寸の乱れ無く全く同じ動作をしてくる偽者。ここまでくると恐怖を感じる。まるで鏡の自分を見ているような感じだが、本物は自分。自分と同じ動きをする偽者に対して怒りも込み上げてきた。
((この娘…いつまで私の真似をするのかしらっ!?))
しかし、果林自身にも心境が揺らぎ始める。相手は自分の偽者とはいえ、大胆なポージングを見せられて少しだけ興奮している。鏡で見るのとは違い、リアルで、別視点で刺激的なポージングされたら興奮するはずがない。
果林はこのままでは自分が負ける。偽者になんか負けないと怒り、抱きしめて言葉責めをしてきた。さすがにこれで負けるはずはない。果林は偽者にありったけの言葉を相手の耳元に囁いた。
「ほぅら♡偽者さん♡私の真似なんかしなくてもいいのよ♡」
「あら?私が本物よ。さっきから息が少し荒いわよ?私の魅力に気づいた?」
「まさか?あなたこそ、私の身体を見て少し顔を紅くしてるわよ♡お子様ねぇ♡そんなに私のボディに見惚れた?」
「うふふ♡私の身体の方が刺激的よ♡あなたなんか私の足元にも及ばない変態さんでしょ?」
「変態はそっちじゃない?私の真似して…」
残念だが、果林はそこまで頭の回転が早くなく、かつ、成績もよろしくないので語彙力もよろしくない。相手を言葉責めする程の言葉が無いのだ。
「「…」」
しかし、抱きしめているので身体が密着している。そこで何か身体に違いが無いかと互いに身体に触れてみる。ついにはブラジャーとレースパンツも脱いで、瓜二つの女性が身体を密着させている構図ができた。
そのまま身体の感触など確かめる為に互いの胸を触れてみる。柔らかくても、ずっしり重いボリュームある胸。
「「んっ♡」」
胸の感度、感触、ハリ、自分自身で何度も触れているからある程度は分かるが、相手の胸も自分と一緒のようだ。しかも、触り形までも一緒。
香り
((何よ…こんなにえっちな触り方するなんて…♡))
胸を揉み終えた2人はお尻やお腹にも手を伸ばして触る。スベスベとした感触でくすぐったい。思わず2人は色っぽい声を出していた。
「「あぁん♡んっ♡変な触り方やめてよ…♡んっ♡」」
偽者とは互いの身体を見て興奮しており感じやすくなっている。そして身体を密着しているので匂いも果林の鼻腔内にすぅっと入る。今日は爽やか系の香水をつけていたが、それすらも同じである。
「ちょっと、いつまで私の匂い嗅いでいるのよ?」
「こ、これは、私の香りと違うのか確かめていたのよ!」
さすがにやりすぎた感があり、一旦2人は離れる。
でも、このままじゃ埒が明かない。果林はいい加減にしてほしいと怒り、ついには罵倒し始めた。
「「いい加減にしてよ。この変態女」」
「私が本物の朝香果林よ。同じ真似しないでよ」
「それはこっちの台詞よ。私はそんなに淫乱な女じゃないわ」
「淫乱?私と同じ顔して淫乱ですって?あなたの方が淫乱で変態だわ」
「私と同じ顔する変態さんはあなたでしょ?」
「「私と同じ真似しないで、ムカついてきたわ…」」
そこでピンときた。偽者は淫乱だとすれば、きっとキスしたくなる。ならば、誘惑してキスしたら偽者と確定する。果林は偽者に提案したら、もう1人の果林も同じ考えをしていたらしく、さっそく果林と果林は偽者を誘惑してきた。
「「ふふっ♡ふぅ~♡♡」」
唇をギリギリまで近づけては、誕生日ケーキのローソクを消すようにふぅ~と息を吹きかける。暖かくも、カフェラテの甘みのある息。
((なんか…興奮してきた…))
ヘビが獲物を捕らえるように脚を絡ませ、腕も相手の背中に回しながら至近距離でキスの誘惑。ここまでは良かったが、あまりにも身体を動かすのだからうっかりキスをしてしまった。
((…!?))
ぷっくりとした感触が一瞬で脳内に伝わる。海外だと軽いキスは挨拶みたいなものだが、今の果林は濃厚なキスをしてしまう。一瞬ならいいが、キスの快感が心地よいのか、いつの間にか深くキスしながら全身を更に密着させる。
ふと我に返り、身体を離す。
(い、今…キスした?)
(私同士…い、いや、私からキスしたの?それとも偽者さんからしてきた?)
((あれ?どっちかしら?))
「「あなたがキスしてきたのかしら?」」
「違うわよ。あなたがキスしたでしょ?」
「何言ってるの?あなたがキスしてきたでしょ?」
「違うわよ!私じゃなくてあなたが!」
「私じゃないわっ!あなたが!」
再び身体を密着して胸同士がくっつく。キスしたくてたまらない偽者なんだと考えて、今度は自分からキスする。偽者は自我を忘れてキスをたくさんしたくなる。自分は本物だから、キスなんかしたくない。そう考えた果林は更に誘惑するようにキスを要求する。
「「はむ…んじゅる…ちゅるる…んんふぅ…」」
いつの間にか果林は舌を絡ませてキスしている。舌を上下左右に動かしては、相手の果林の舌を追いかけてキスする。にゅるりとした感触を楽しむように、ひたすら舌と唇を重ね合わせしてくる。
「「ふぅ…ふぅ…んふぅ…」」
「「ぷはぁ…自分同士のキスなんて最悪だわ…」」
ここまで自分を狂わせられる事と自分同士のキスなんて最悪と思い、相手の果林を睨みつける。でも、本当は自分同士、朝香果林のキスの快楽に酔っていた。
((わたし…わたし…わたしのキス…さいこう♡))
「「ん~~♡んっ♡んんっ!んふぅ♡♡じゅる♡♡」」
「ふふ♡私のキスの方が気持ちよかった?」
「何言ってるのよ。私のキスの方が魅力的だわ♡」
「「じゃあ、もう1度…んん♡ちゅう♡んれろぉ…♡んふぅ…♡」」
1度身体を離すが身体が相手を求めている。身体を絡ませて、2人はもっとキスしたくなり、何度も何度もキスする。もはや、偽者なんかどうでもよくなっており、果林はもう1人の果林のキスを求めていた。
「「果林…果林♡♡もっとぉ♡♡」」
唇だけでなく、首や肩にまでキスする。もう逃さないように。
何度も。何度も。ずっと。ずっと。ずっと。
キスして、キスされて。
気づいた時は既に夜の21時。果林たちは全身汗だくになりながらも、まだキスをしていた。
「果林ちゃん!何しているの!?」
そこに、帰りが遅い果林を捜しにエマが現れた。スマホのGPS機能を使いようやく見つけた果林。しかし、そこには全裸の果林と果林がいて、エマはこの状況を理解できなかった。
「「あらぁ♡エマ♡」」
「か、果林ちゃん…一体…」
「ねぇ?エマ。私が本物の朝香果林よね?」
「違うわよ。私が本物の朝香果林だわ♡」
エマに自分が本物だとアピールするためキスを見せつけた。
「「んん♡んん♡んっ♡♡」」
「かーりーんーちゃーん!」
散々探した挙げ句、自分同士でキスする果林を見てエマの怒りは頂点に。
たださえ巨大な山脈を持つエマは火山のように怒りが湧き、2人を押し倒した。
「怒った!だから、私が反省させるまで連続でイカせてあげるからね!」
「「えっ…」」