スターリー
廣井「前もって言ってくれてたらプレゼント用意したのに~」
PA「おや? 廣井さんがですか?」
廣井「あっひどい! 私だってプレゼントぐらい用意できるし!」
廣井「PAさんには時々お世話になってるし、志麻からお金借りたりすれば……」
PA「ふふっ、すみません。冗談ですよ~、お気遣いなく」
廣井「そうだ! 営業開始までまだ時間あるし、何なら今からひとっ走りポケットティッシュ集めて……!」
PA「いえいえ本当に大丈夫ですから」
廣井「でもさ~折角の年に一度のイベントなのに」
PA「廣井さんの気持ちは嬉しいですが……正直そこまで祝われたい日でもないので~」
廣井「えっ? もしかしてPAさん、誕生日に何か嫌な思い出でもあるの?」
PA「そこまでのことはないですよ? 単純に大人になったってことです」
廣井「大人って、別に大人になっても誕生日は嬉しいものじゃない?」
廣井「ご飯奢ってもらえたりするし~、プレゼントだって!」
PA「まあ万年金欠の廣井さんからするとそうかもですが」
PA「ただ私はそこまでお金に困ってるわけでもないので~、二十代も後半になってくると」
廣井「そうかなー?」
PA「まず単純に、子供の頃みたいに大人になりたいって気持ちがなくなるじゃないですか」
PA「大人にだけ許されてることも一通り体験しちゃいましたから」
廣井「あ~、早くお酒が飲めるようになりたーい! 的な?」
PA「もうどんな味がするのかまで知ってますからねぇ」
PA「お酒以外にも、ゲームセンターで時間を気にせず遊びたいとか、漫画喫茶に泊まってみたいとか」
PA「そういう解禁事項はもうこの歳になるとなくなりますし」
廣井「うーん……でもそれだけで……?」
PA「というかむしろ、大人になると権利だけじゃなく義務もついてきますから」
PA「納税だのなんだの。時期もあって正直憂鬱というか」
廣井「あれ? 年末ってなんかあったっけ?」
PA「年が明けたらもう年度末なんてすぐじゃないですか。確定申告があるでしょう?」
PA「最近は体の調子も悪くなってきてるので、そういう作業もより面倒といいますか」
廣井「ええ? またまたー、PAさんはまだ若いでしょ! 肌だって綺麗だし!」
PA「確かに一歳だけとはいえ廣井さんと比べれば若いですけど」
PA「でも喜多さんとか十代の肌と比べると正直ツヤもハリも……」
PA「一晩寝れば取れていた疲れが持ち越されたり、筋肉痛も遅れてくるようになったりしてますし」
廣井「あー……そういう風に言われると私も否定しづらいかも」
PA「そういうのを体験していくと『あ~もう歳を取りたくないな~』って思っちゃって」
廣井「だから誕生日も嬉しくないってこと?」
PA「まああと、親からの圧も年々強くなってきますし。誰かいい人いないのかって」
廣井「それっていわゆる、孫の顔が見たい的な……?」
PA「うーん、というよりは生活を心配されている感じですかねぇ」
PA「お恥ずかしい話、一人だと自堕落な方向に流されやすいですし」
廣井「確かに一人暮らしだとそうなるよね~。注意してくれる相手とかもいないし」
PA「実際朝起きれなくてゴミ出し損ねることとかよくあるので……」
廣井「あはは、そういえばPAさん朝弱いって言ってたっけ」
PA「そうなんですよ。だから早くお尻を叩いてくれる人見つけろって親がうるさくて」
廣井「なるほどね~」
PA「まあそういうわけで、この歳になると誕生日が嬉しいってことはないですねぇ」
PA「むしろ逆に迎えると気が重いというか。とくに今年はいよいよアラサーになりますし……」
廣井「おっけー! そういうことなら私も無理にお祝いは……うわっ!?」
PA「えっ? どうしたんですか廣井さん突然……きゃっ、てっ店長!?」
星歌「……ん、ああ悪い。驚かせたか」
PA「いっいえ、確かにいつの間にか背後にぬるっと立ってたのには驚きましたけど……」
廣井「あの、それより先輩、その格好は」
星歌「格好? 何のことだ? 別に私はいつも通りだが」
廣井「いや全然いつも通りじゃないですよ!? 星形のサングラスかけて! パーティー帽子まで!」
PA「しかもその手に持ったクラッカー……もしかしなくても店長」
星歌「何だ? 別に私はサプライズなんかこれっぽっちも計画してないぞ」
廣井「いや完全にPAさんのお誕生日祝い計画してるじゃないですか!?」
星歌「バカなこと言うな。そんなことするわけないだろ」
星歌「自分がいくつになっても誕生日のお祝いされるのが嬉しいから、同じことをやってやろうなんて」
ガチャ
喜多「店長さん! 頼まれてたろうそく買ってきまし……えっちょっ何で追い出し……!?」
バタン
星歌「そんなガキみたいなこと企んでるわけないだろ」
廣井「いや絶対企んでたじゃん!」
PA「今喜多さんが買ってきてたろうそく、ケーキに立てるやつですよね!?」
星歌「違うぞ。あれはほら、その……停電したとき使う非常用ろうそくだ。備蓄が切れてな」
廣井「台風来る予定もないのに!?」
PA「そもそもそんなものお店に常備してたことなんて一回もないですよね!?」
星歌「しつこいな……だからお前が誕生日だったとしても関係ないっての」
星歌「店長の立場を利用して、従業員の誕生日をこっそり把握するとかそんな真似」
ガチャ
リョウ「店長、頼んでたケータリングのピザとか届いたけ……ん、店長? どうして扉を閉め」
バタン
星歌「……そんな職権乱用するわけないだろ。個人情報だぞ」
PA「してるじゃないですか!? いや別にそれぐらいいいですけど!」
廣井「してなかったら山田ちゃんが持ってたチキンの説明つかないでしょ!?」
星歌「あれはその……ほらあれだ。喜多にでも貢がせたんだろ。うん」
星歌「あいつはよく自分のファンに飯奢らせてるからな。チキンもきっとそれだ」
星歌「とにかく私は誕生日パーティーなんて企画してない。そんなのは気のせいだ」
星歌「大体、女はクリスマスケーキと同じ。25過ぎたら売れ残りなんて言葉もあるぐらいだぞ?」
星歌「そんな微妙な時期の年齢を大々的に祝うデリカシーのない行い、いい大人がするわけ」
ガチャ
虹夏「お姉ちゃん、ケーキも最初から並べていいんだよね? 食後じゃなくて……はっ? ちょっ、ねえ」
バタン
星歌「するわけないだろ。まったく」
廣井「いやもう無理だって誤魔化すの!」
PA「というか今どきそんな言葉聞きませんし! 言われてたのいつの時代ですか!?」
星歌「ええい、うるさい! 黙れ!」
廣井「先輩……諦めてもう認めましょうよ~。外で妹ちゃんたちだって待ってますよ?」
星歌「お前はタダ飯食いたいだけだろ」
廣井「いやこれは別に私がおこぼれにありつきたくて言ってるわけじゃなくて……」
廣井「まあ引っ込みがつかなくなったのはわかりますけど。いつから聞いてたんです?」
星歌「……だから違うって言ってるだろ」
PA「ふむ……ではもしかして、私に気遣ってパーティーを中止しようと?」
廣井「へっ?」
PA「ですから、店長はさっき私が言ってたことを誤解して受け取ってるのかな~と」
星歌「誤解ってなんだよ。私はちゃんと聞いてたぞ」
星歌「廣井が開店前にやってきて『え~PAさん今日誕生日だったの~!?』って言ってるとこから」
廣井「いやそれ最初からじゃん!」
星歌「だからお前が誕生日を祝われたくないってこともしっかりと……」
PA「ふふっ、それが誤解だって言ってるんです」
PA「確かに大人になって、もう誕生日が嬉しいって歳でもなくなりましたけど」
PA「でも店長に……自分の慕ってる人にお祝いされるなら、嬉しくないわけないじゃないですか?」
星歌「……」
廣井「なるほどね~、ようは誰に祝われるかが大事ってことだ!」
PA「はい。なので気を遣っていただけるのはありがたいですが……」
PA「私のことを考えるなら、どうかお祝いして欲しいなぁ~と」
星歌「……はぁ」
ガチャ
ぼっち「あっあの店長さん、パーティーの余興にしてもメイド服着るなら私より適任がいるかと……!」
星歌「さあ開店まで時間もないしさっさとパーティー始めるぞ! お前ら入ってこい!」
廣井「いや最悪のタイミング!」
PA「店長!? ここでそれは後藤さんのメイド服見たさに手の平返ししたようにしか見えませんよ!?」
星歌「何のことだ? 別にメイド服ぼっちちゃんはこれっぽっちも関係ないぞ。当たり前だろ」
ぼっち「えっ、あっえっ?」
PA「日頃の言動から素直に信じられないんですよ! まったくもって!」
虹夏「あっもう話終わった? よーしじゃあパーティーを始めよー!」
リョウ「ようやくケーキ食べれる」
喜多「PAさん、お誕生日おめでとうございまーす!」
PA「あ~もう! ありがとうございま~す!」
ぼっち「唐揚げを二倍にする薬……?」