≪存在意義≫中編

Last-modified: 2015-06-14 (日) 13:09:41
469 名前: 1/6 投稿日: 2003/07/24(木) 10:38 [ ygyh1Y8c ]
≪存在意義≫中編


いつもと変わらないこの日、
僕はちびギコを殺した。
この先も変わらない。
そう思っていた。
だけど、
この日から何かが変わり始めていた。

470 名前: 2/6 投稿日: 2003/07/24(木) 10:39 [ ygyh1Y8c ]
あの後、
僕は返り血をごまかすため、
服に絵の具を塗って家に帰った。
家に帰ると、早いうちにふとんへ入った。
いつもはふとんに入るのが嫌いだった。
寝つきが悪いせいなのか、
いつも真っ暗な部屋の中でいろいろと思い出していた。
学校のこと。
家のこと。
自分のこと。
そして、そのたびに泣いた。
けれど、その日はすぐに眠ることができた。

471 名前: 3/6 投稿日: 2003/07/24(木) 10:39 [ ygyh1Y8c ]
アニメや映画では、
人生の変化と言うものは突発的だが、
実際は違う。
とても緩やかに変わっていく。
翌日も、またその翌日も、変わったところは無かった。
ひとつを除いては。
その二日間。
いや、初めの日を含めて三日。
俺はちびギコを殺した。
理由?
そんなものは無かった。
いや、分からなかった。
手に残るいやな感触。
全てが不快だった。
だが、やめることができなかった。

一週間後、母さんが言った。
このごろ自分は明るくなったと言う。
なぜか分からなかった。
このころから、自分に対するいじめが減っていった。
先生も言う明るくなっただの。

472 名前: 4/6 投稿日: 2003/07/24(木) 10:39 [ ygyh1Y8c ]
一ヶ月が経った。

一人、またいつもと同じように帰りの道をとぼとぼと歩いていた
ふと、遠くのほうで見たことのある人たちがいた。
いつも僕をいじめるやつ。
自分の運の悪さを呪った。
道を変えようそう思ったときにはもう遅かった。

…
今僕はちびギコを見下ろしている。
すぐそばではいじめっ子たちがニヤニヤしながら僕を見ていた。
何でこんなことになったのだろう。
僕はゆっくりと記憶を巻き戻した。

たしか、
僕は呼び止められた。
嫌だったがついて行かなければならない。
いじめっ子たちのところに着くとちびギコが居たんだ。
いじめっ子はそのちびギコを取り囲むように立っていた。
何をしていたのかはすぐに分かった。
かわいそうだと思った。
同情はした。
けれど、その程度だった。
そのときだった。
いじめっ子が提案をした。
「こいつにちびギコを〆させようぜ。」
それは、さも僕がちびギコを殺すことができないような腰抜けと言っているようだった。
そして、今に至る。

473 名前: 5/6 投稿日: 2003/07/24(木) 10:40 [ ygyh1Y8c ]
「おい、早くしろよ。」
その声に我に返る。
そうだ、早くちびギコを殺さなければ。
ちびギコをじっと見つめる。
怯えきった目で見つめるそれは、
体の所々は腫れ上がり、
口や鼻からは血がにじみ出ていた。
…
早く終わらせよう。
いつ自分がこうなるものか分かったものではない。
同情よりも、自分の身を優先した。
しゃがみこみ、ちびギコと同じ目の高さになる。
じっと目を見ながら右手はちびギコの頭へ、
左手は肩へ手を伸ばした。
いま自分はどんな顔をしているのだろう。
恐怖に染まっていたちびギコの表情が少しづつ緩んでいくのが分かった。
だが、そうゆっくりしていられない。
覚悟を決める。
その途端、ちびギコの表情が絶望の淵へ落ちていくのが感じ取れた。
それとほぼ同時に、
僕は、ちびギコの肩を左手で抑えながら思いっきり頭を捻った。
コッ! 
硬い音が響く。
ちびギコの首は明らかにあらぬ方向を向いていた。
肩の手を離すとちびギコはそのまま倒れた。
僕はゆっくりと立ち上がった。

474 名前: 6/6 投稿日: 2003/07/24(木) 10:41 [ ygyh1Y8c ]

…
沈黙。
地面に倒れているちびギコを見下ろしていた。
どうしようか考えていた。
このままで終わるはずは無い。
それは、散々いじめられていた僕がよく知っている。
…
とりあえず、いじめっ子のリーダー格の方に向いた。

目が違う。
見下すような。
軽蔑するような。
いつもはそうだ。
けれど、
今は違った。
羨望のまなざしとでも言うのだろうか。
その目はまるでヒーローを見るような目であった。
そして、こう言った。


「すごいじゃん。」


その言葉を聞いたとき、
僕は一瞬ドキッとした。
だって、
人にほめられたのは初めてだったから。


======糸売く======