≪存在意義≫前編

Last-modified: 2015-06-13 (土) 21:32:33
400 名前: 1/4 投稿日: 2003/06/25(水) 21:55 [ bOxfDXqQ ]

≪存在意義≫前編


世界で一番嫌いな人は?と聞かれたら、
迷わず自分といっていただろう。
昔から嫌いだった。
勉強ができない自分が。
運動もできない自分が。
人と馴れ合うこともできず、
一人でいた自分が。
そして、そのせいでいじめられても、
何もいえず、何もできなかった自分が嫌いだった。

401 名前: 2/4 投稿日: 2003/06/25(水) 21:55 [ bOxfDXqQ ]

ある日、
夕日のさす道を一人とぼとぼと歩いていると、
一匹のちびギコが前から歩いてきた。
それを確認すると、僕は俯いたままぶつからない様に道の端に寄った。
けれど、ちびギコは歩くコースを変えてわざとぶつかって来た。
「あっ、ごめんなさい。」
僕は反射的に謝ってしまった。
だが、ちびギコは僕の話を聞いておらず、
ただ「いたいでち」とか叫びながらじたばたと暴れていた。
それから僕は何度も謝った。
傍から見ればいじめにも見えるだろう。
それが怖かった。
僕がちびギコをいじめているといううわさが広がれば、
それをネタにしてよけいクラスでいじめられる。
必死な僕をよそに、
ちびギコはいつの間にか涼しい顔になっていた。
最初から痛いとは微塵とも思っていなかったようだ。
だが気づいたときには遅かった。
立場は完全に逆転していた。
必死で謝る僕を見て、
ちびギコは頭に乗ったのか今度は金を要求してきた。
そのとき手持ちはいじめっ子に取られてもうなかった。
だから無いと言った。
そうしたらちびギコは烈火のごとく怒り出した。
だけどないものは無いと僕は言うと、
ちびギコは僕のわき腹を殴ってきた。
わき腹の辺りに鈍い痛みが広がった。
でも、痛み以上に悲しくなってきた。
こんな小さいやつにも勝てないなんて。
こんな小さいやつに必死に頭を下げて。
とても、とても悔しかった。
涙が出そうになってきた。
ぎゅっと目を閉じた。
けれども、わずかな隙間から涙がぽろぽろと出てきた。

悔しかった。

402 名前: 3/4 投稿日: 2003/06/25(水) 21:56 [ bOxfDXqQ ]

ちびギコは、僕の涙を見たとたん思いっきり笑い始めた。腹を抱えて。
地面を転げながら、「よわっちぃ」、「泣き虫」と罵倒してきた。
やめてくれ!
心の中で何度も怒鳴った。
口に出すほんの少しの勇気も出てこなかった。
涙を出して、プルプル震えている僕を見て散々笑った後、
ちびギコは「友達に話してくる」とその場を後にしようとした。
やめてくれ!
また心の中で叫んだ。
でも、また口まで届かなかった。
勇気を出して、目を開けた。
涙で景色はぼやけていた。
けれどはっきりとわかった。
ちびギコが背を向けて悠々と歩いているのを。
「やめろぉぉぉぉぉ!」
自分の口から出たのかわからない。
ただ、それと似たようなことを叫びながらちびギコに向かって飛び掛っていた。
ちびギコが振り向いた。
手を力の限りに握ってちびギコの顔めがけて腕を伸ばした。
めは、なぜか目を瞑っていた。
手に鈍い痛みを感じた。
目を開けると、ちびギコが2~3メートルほど離れたところに倒れていた。
ぼくは、そのちびギコに向けて歩いていった。
ちびギコは途中でほほに手を当てながら後ろへ後ずさりし始めた。
腰が抜けているのかちびギコの足は空を切るだけだった。
「やめろ」とか、そんなことを言っていた気がする。
けれど僕は聞いていなかった。
ただ、ぶつぶつと自分の考えていることを唱えていた。
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ…」

403 名前: 4/4 投稿日: 2003/06/25(水) 21:56 [ bOxfDXqQ ]

ちびギコの上に馬乗りになると、
僕は殴った。
殴った。
殴った。
殴った。
どれくらい殴ったかは僕は覚えていない。
断片的な記憶の中。
どんどん赤に染まっていくちびギコ。
ちびギコの悲鳴のなかで、なぜか自分は、

笑っていた


ちびギコを殴り続ける中、
つぶやき続けていた言葉。
「やめろ」
これがいつの間にかちびギコへから、
自分に向けていっているように思えた。

気がついたときには目の前のちびギコの顔はぐちゃぐちゃになっていた。
そして、自分の服が返り血で真っ赤になっているのに気がついた。
どうしようと思った。
けれどそのときは、大変なことをしたとは思っていなかった。



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