≪存在意義≫後編

Last-modified: 2015-06-17 (水) 02:51:13
591 名前: 1/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:04 [ lcjLAHUU ]
前編>>400-403
中編>>469-474
≪存在意義≫後編



何度も考えたことがあった。
ふとんの中。
電気を消して、
何も聞こえない。
何も見えない闇の中で、
何度も考えた。

なぜ、不快感しか感じないのに虐殺を繰り返すのだろう。

いったい、なぜ自分は存在するのだろう。

何度も、何度も考えた。
だけど、
その答えを見出すことは無かった。

592 名前: 2/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:04 [ lcjLAHUU ]

長い月日が経った。
あの日以来、
あのいじめっ子たちとは友人の中になった。
本当は、彼らの輪の中に入るのは嫌だった。
だけど、拒否するわけにはいかない。
だが、彼らの輪の中に入れば安全だった。
少なくとも自分は。
そして、高校も何とか卒業し新しい生活に入った。
就職も一応した。
職業は何かというと、

キャメラマンだぜ。

どこと無くこの台詞に失敗感はあるが…。
まあいい。
因みにジャンルは虐殺だ。
個人的にはあまり好きじゃない。
だが、いつの間にかこの職になっていた。

人生というのは平凡だ。
小説やゲームの世界とは違い波は少ない。
あったとしてもそう大して大きなものでもない。
このままの生活が続くと思っていた。
そのうちこの仕事も気に入るだろうとも思っていた。
何も変わらないだろうと思っていた。

593 名前: 3/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:04 [ lcjLAHUU ]

父が死んだ。
白と黒の世界。
涙を流す人々。
緩やかに流れる時間。
そんな葬式の会場で、
自分だけは取り残されていた。
涙は出なかった。
悲しみも生まれなかった。
なぜなら、

実感が湧かなかった。

もう親父の顔を見ることも、
声を聞くことも、
金をせびることも、
全てができない。
そのことが分かり、
父の死が実感できたのは、
葬式が終わった後だった。
一時間くらい自室で泣いた。

いくら身内が死んだからといって、
仕事を長い間休むわけにはいかない。

2~3日ぶりに俺は仕事に出た。
いつも通りちびギコを虐待し、
耳をもぎ、
歯がなくなるまで殴り、
腹を割き、
惨たらしく殺す。
いつも通り…。

できなかった。

この自分の腕はちびギコの腕を折ることも、
この自分の脚はちびギコの顔を蹴ることも、
何もかもができなかった。

俺は仕事を中止して足早に家に帰った。
自室に篭った。

594 名前: 4/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:05 [ lcjLAHUU ]

私が、
それを理解したときには、
もう、
遅すぎた。

被虐生物も俺たちと同じように生き物であること。
俺たちと同じように飯を食い、
笑い、悲しみ、さまざまなものを見て感じ、
生きてきた人生がある。
『生』を受けた者だということが。

だけど、
遠すぎた。
ちびギコやしぃでは、
生を感じるのも、
死を感じるのも。

そして、それを実感させたのが、
身近のものの死だという事に皮肉を感じた。

罪の意識を感。
それはあまりにも大きすぎた。
俺一人では背負いきれないほど大きな罪。
それに気づいたときには、
もう遅かった。

俺の心は、
その重い罪により押しつぶされそうだった。

595 名前: 5/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:05 [ lcjLAHUU ]

餓え。
そうとした形容できない感覚を覚えた。
なんだこれは。
とりあえず、近くにあったパンに手を伸ばす。

だが、口に入れる気が起きない。
しばしパンを眺める。
パサパサに乾燥したパンは今の俺にとっては、
とても不味そうなものに見えた。

腹はすいていない。
ではいったい…。




血


血だ。

ははははははははは。
もう、笑いしか出なかった。
何でだろう。
この期に及んでまだ欲しがるのか。
もう分からない。
自分が分からない。
自分が存在する意義が分からない。
分からないことだらけだ。
もう、嫌だ。
ここで俺は思考を停止した。

いったいどれほどの時間がたっていたのだろうか。
丸一日篭っていたといわれればそうだと感じる。
だが、まだ一分も経っていないようにも感じる。
そんな中、
いつの間にかぬるま湯につかるような感覚を覚えた。
そして、水の中にもぐるかのように、
意識を失っていった。

596 名前: 6/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:05 [ lcjLAHUU ]

突然光を感じ、
俺はゆっくりと目を開けた。

草原。

草原に立っている。
意識が朦朧とする。
何で俺はここにいるんだ。

「ああ、いいよ。」
突然後ろで子供の声がした。
振り返ってみる。
さっき見たときには何も無かったのに、
なぜかそこには何かを取り囲むようにいる少年たちが現れていた。
そのうちの一人が輪の中心へと移動していく。
ひざまで伸びた草のせいで、
中心に何があるのか確認できない。
まあ、それほど大きなものではないだろうが。

少年が中心に達する。
すると、少年はしゃがみこみ、
中心にあった『何か』を抱きかかえた。

ちびギコ

少年に抱え上げられたのは紛れも無くちびギコだった。
少年がちびギコに向けて何かつぶやいた。
それを聞いたちびギコは、
恐る恐るといった様子で、
腕を前に伸ばした。
少年はゆっくりとまるで愛撫するかのように、
自分の指をちびギコの脇から指先へとなぞっていく。
指先に到達すると、
今度は、その存在を確かめるかのように、
ちびギコの指と自分の指を絡めていく。

597 名前: 6/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:06 [ lcjLAHUU ]

「ヒギャァァァァァァァァァァ。」
突然、悲鳴が聞こえた。
その悲鳴の主はすぐに分かった。
ちびギコだ。
少年は絡めていた指が奇妙な動きをする。
そのたびにちびギコは悲鳴を上げる。
そして、ちびギコに指が血で赤くそまっていく。
指を折っているのか?
いや、それなら血は出ないはずだ。
そうなると…。

爪だ。
爪を剥いているんだ。
一枚。
また一枚。

全ての爪を剥き終えたようだ。
「爪の下ってとても敏感なんだよね。」
少年が周りにいる仲間に聞こえるようにつぶやく。
そして、
「ギャァァァァァ。」
ちびギコも指先をぎゅっとつかむ。
さらに、
爪を立てたり、
指の付け根でころころと転がしていく。

やがて、
指を弄るのにもあきたのか、
ちびギコの指から手が離れた。
ゆっくりとまた、
ちびギコの体をなぞっていく。

胸。
首。
顔。

手が顔で止まった。
また、その存在を確かめるように顔を撫でる。
指がちびギコの下まぶたに指を合わせる。

598 名前: 8/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:06 [ lcjLAHUU ]

ニュルッ。

そんな擬音が聞こえた気がした。
なぜなら、
ちびギコの目がいとも簡単に飛び出したからだ。

神経もまだつながっているようだ。
少年はそれをぶんぶんと振ってみた。
神経だけが目をつなぎとめている。
切れないのだろうか。
いや、切れないように加減をしているのだろう。

唐突に目を振るのをやめた。
そして、今度はちびギコの目を向かい合わせた。
「チビタンノオメメガァ…」
弱々しくちびギコがつぶやく。
どうやらまだ見えているようだ。
すると少年は片方の目をクニクニと圧迫し始めた。
「イギャァァァ ヤメテデチ ヤメテデチィィィィ!
 チビタンノ オメメガァ オメメカ ゙ツブレル デチィィィィ。」
激しい悲鳴。
だが、当然少年はやめようとしない。
そして、

ぐちゅ。

「…ァァァァァァァァァァァァァァァ!」
声にならない悲鳴。
見せ付けるかのように、
ちびギコの目がつぶれた。

そんなちびギコとは違い、
少年は自分の手を眺めていた。
彼の手は、
糸を引く目の中身だったべとべとの液と
血でべっとりとぬれていた。

やがて、
もう一度
ぐちゅという音がした。

そのとき俺は、
圧倒されるような存在感と、
そして、どこと鳴く感じる懐かしさ。
そのようなものを感じ、
いつの間にか繰り広げられる虐待をまるで魅入られるかのように見ていた。

599 名前: 9/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:07 [ lcjLAHUU ]

ドサリと、
草の上にに何かが落ちる音がした。

すでに少年の腕の中にいたちびギコはいない。
その少年の下。
草の上に、
赤黒いちびギコだったものが落ちていた。

終わった。

ぱちぱちぱち

周りから拍手が聞こえる。

少年を取り囲んでいた少年の仲間たちが、
少年に拍手を送る。
俺もそいつらに合わせて拍手を送る。
だが、その拍手も、
どこか懐かしさを感じた。

デジャヴ

それが一番しっくり来る。
俺はどこかでこの光景を見たことがる。
ゆっくりと自分の位置に帰る少年。
それと入れ替わるように輪の中心に移動した。

体中が赤いちびギコだったもの。
それを俺は見下ろしていた。
過去の光景が頭の中でフラッシュバックしていく。

俺はこのちびギコを見下ろしていた。
次々と思い出される記憶の断片。

風が変わった。
後ろを振り返る。

最初に見たときは一面の草原だった。
次に見たときは少年たちがちびギコを取り囲んでいた。
そして今回は、

建築物。
建物ができている。
いや、それだけでではない。
建物のほかにも林までできていた。

ぱっと見町のはずれといったとだろうか。
俺は確かに来たことがある。

分からない。
混乱というのが適当だろうか。
脳裏によぎる過去の記憶。
自分が外で見ていたこと。
その矛盾が思考を混乱させていた。


「すごいな○○。」

今なんていった?
○○は俺の名前だ。
ゆっくりと振り返る。

少年たちに取り囲まれて、
照れ笑いを浮かべる少年。

ここでやっと記憶がつながった。
どうりで見たことのあるはずだ。
あの少年は、

俺だ。

600 名前: 10/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:07 [ lcjLAHUU ]

急に目が覚める。
ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、…。
時計のハリが無機質な音を響かせる。
カーテンをしっかりと閉めた薄暗い部屋。
自分の部屋だった。

「…はぁ。」

ため息をつき、自分を落ち着かせる。
「さっきのは・・夢・・・・・・・・・・か。」
また、ふとんの上に横になる。
夢の内容を思い出していく。

「は・・はは・・・・・ははははははははは…。」

笑うしかなかった。
夢の意味を考えるまでも無かった。
あれだけで全てを知らせるには十分だった。
やっと、
全てを理解することができた。

気持ちがどことなくさっぱりする。
風呂に入り、
体の汚れを落とす。
軽い食事をとると、
仕事の用意をして、
そのまま仕事に向かった。

外は昼を過ぎたころだろうか。
いつもなら気に障る蝉の鳴き声も、
これからは許せそうな気がする。
それこそが蝉の『存在する意義』だから。

601 名前: 11/11 投稿日: 2003/08/10(日) 04:08 [ lcjLAHUU ]

勉強もできない。
運動もできない。
性格もよくない。
当然友達もいない。
そのころの俺は実質存在していなかった。

意味もない存在。
それにどれほどの価値があるだろうか。

そんな俺に、
存在する意味をくれたのが、
紛れもなく、

虐殺だった。


夢で見た光景。
あの草原。
悪友に囲まれていたあのとき、

 俺 は 確 か に 存 在 し て い た 。 


虫も、魚も、鳥も、人も、
それぞれ存在する意義がある。
その中には残酷とも言われるものもある。
だが、
それは仕方がない。
存在する意義をやめさせることは、
その存在を消滅させるのと同意だ。

だから俺も、
その存在する意義を全うする。
たとえ、
虐殺ブームが終わろうとも。



======糸冬 了 ======

拙い文章ですが、
最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
そして、すみませんでした。
非常に長くて(時間の意味で)本当にすみませんでした。
それと、>>597は7/11の間違いです。
いろいろ迷惑をおかけしました。